light
The Works "珈琲を飲んだ後で_2" is tagged "Fate" and "槍弓".
珈琲を飲んだ後で_2/Novel by 侑城

珈琲を飲んだ後で_2

6,518 character(s)13 mins

novel/9905952 の続き

小説書いてた時から随分と時間が経っているから書き方が思い出せずに苦悩する日々だけど槍ニキが格好良すぎてそれどころじゃないんだよなあああああ!!!

あ、FGOでは絆上限解放しましたね!!私は迷った挙げ句槍ニキとイチャコラすべく絆上限解放しましたよ!!!迷った相手はキャスニキとオルタニキです!!仕方ないね!!ニキズ好き過ぎるんだもの!!

1
white
horizontal

「アルスター…『Ulster』か」

「そう、アイルランドの歴史地名。出身が其処なものでな、店名に使わせて貰った訳だ」


バーカウンターに案内されたエミヤはダイニング用の椅子とはまた違う高さのある椅子に座りながら男が最初に発した名称を復唱した。

エミヤがこの店の扉を開けて最初に視界に移った男は、カウンター内に戻りながら口許を緩める。

見れば見るほど、見目が麗しいの一言に尽きる男だ。白いワイシャツが覆う身体は細身でありながらしなやかな筋肉が付いているように見受けられ、黒いV字のベストが良く似合う。黒いズボンと腰に巻かれた黒いロングエプロンは足の長さを際立たせているようだ。

上から下まで隙の無い服装であるのに、耳許で揺れる灰とも銀とも付かぬ男がするにしては少し大振りの、円錐にも似たイヤリングが男の雰囲気を砕けたものにしているようだ。

そして何より、背中を流れる何物にも縛られていない深く蒼い髪だ。男のものであれば痛みもあるだろうと思えば、指通りが滑らかでありそうな艶やかな髪だ。

初めて見た時は、その美しさに返事をする事も、中に入ることも忘れて立ち尽くしてしまったものだ。


『……、もしかして、この髪色は気持ち悪い、か?』


何も言わない、ただ呆けたように見つめるだけのエミヤに、男は自身の髪を一房掴んで持ち上げた。眉尻を下げた、笑みだ。


『まさか』


男の声に我に返ったエミヤは首を振る。


『あまりに綺麗な色なものだから、つい見惚れてしまった』


咄嗟に出た言葉は正しく本心ではある。が、些か正直過ぎた感もあり慌てて、いやその、そうではなくて、いやそうではあるのだが、等と恥ずかしさも相成り言い訳をしようとするが、混乱しているが故に上手い言葉が出る訳でも無く。

ついには頭を抱え込んでしまう。

しまった。男に綺麗だと言われても、しかも男に対して綺麗等と言う言葉は嬉しくは無いのではないだろうか。

しかし、そんなエミヤの葛藤を余所に思わずと吹き出す音が聞こえれば、此方に向かってくる男は可笑しげに笑っている。


『そんな慌てなくても良いだろうに。俺としちゃあ、お前さんの言葉は素直に嬉しかったがね』


さ、どうぞ。

右手で持って奥を指すように差し出し、エミヤを入るように促す。

その一連の動作は流れるようでいて美しい。

この男は動作まで美しいのか。音にしてしまえば、またも可笑しいと笑われるだろうと心の中に押し止めて、店の中に足を踏み入れたのはほんの数分前の話だ。
それでいて、話題を変えようと最初に男が発した単語に付いて、店の名前か、と尋ねた後が今の現状である。

カウンター内から男は置いてある深い緋色のメニューを持ち上げると、迷わず開いてエミヤから読めるように差し出した。
開かれているメニューはどうやらアルコールの類いのドリンクメニューである。


「何か飲むか?」


この男は先程の口調からして随分気さくが良いらしい。
かと言って、その砕けた口調が不快を与える訳でもなく、まるで友人と話しているかの気さえ覚えてしまうのだから不思議なものだ。
受け取ったメニューを眺めページを捲り、お目当ての物を見付けるとエミヤは顔を上げる。黒の瞳が此方を見詰めている事に気付いて一瞬たじろいだ。


「…では、珈琲を」

「アルコールじゃないのか?」

「ああ、此処に寄らせてもらったのも、珈琲が飲みたくてね」


こんな時分だ。殆どの人間は店に入れば珈琲よりアルコールを頼むであろう。
けれどエミヤは最初から珈琲目的で店に入っているし、そもそもアルコールはそこまで得意ではない。

ふうん。

納得しているのかしていないのか、注文を受けた返事とは思えない相槌を一つ溢し、男は暫くエミヤを眺めた後、グッと顔を寄せた。
美丈夫、の顔がエミヤの眼前にある。
ひえ、と心中で叫ぶと同時に長い指がエミヤの眉間を軽く押した。

「でもお前さん、調子良くねぇだろ」

顔色が悪い、と男が少し眉根を寄せる。

「珈琲は胃酸分泌を促すから悪いモンではないが、調子が悪い時に飲むモンではねぇな」

ちゃんと飯食ってるのか、と眉間の皺を伸ばすように指先が動かされる。そこまで明るくない店内で、そう指摘されているのだ。自身の顔色は相当なのだろう。
つくり、と胃がまた傷んだ。

「…夕食は食べ損ねて」

「って事は腹は減ってるのか」

「いや、マスターが指摘したように調子が良い訳では無くてな。単純に食べる気が起きなくて」

食べたくない、とは何故か言いづらい。敢えて言葉を濁すと男は漸くと眉間から指先を退けた。
暫しの沈黙。

「……、お前さん、嫌いな食い物は?」

「食べ物…?いや、嫌いな物は特にないが…ああ、でも今は肉類がちょっと…」

「了解、ちょっと待ってな」


取り敢えず水でも飲んでいてくれ。

グラスに入れた水を一つ、エミヤの前に置き、男は足早に店奥へと引っ込んで行く。
注文も何もしていない状況で、一人残されたエミヤは呆気に取られていた。待っていろと言われた手前、待つしかない。
出された水を舐めるように飲めば仄かにレモンの味がする。酸味と爽やかな味は店に入る前までの鬱蒼とした気分を晴らすようだ。

家に居るよりかは良いか。

待つのは苦痛ではない。一人で残されていても不快感も無い。
初めて来たと言うのに何故か落ち着く空間にエミヤは強張っていた肩の力を抜いた。
程好く暖房が効いた空間は暖かく、思い出したようにマフラーとコートを脱ぐ。椅子の背凭れにそれらを掛け居住まいを正すと、タイミング良く奥から男が戻ってきた。
手にはスープカップが一つ。
湯気が立つそれをエミヤの前に置く。


「これは」

「即席なモンで悪いが、無いよりかは良いだろ。卵は平気だったか?」

「平気だが…」


カップの中身は柔らかそうな溶き卵が浮かぶ透き通ったスープだ。到底即席に見えない代物に戸惑い隠せず男とカップを交互に見遣る。


「珈琲よりそっちの方が体調面からしても良いだろ。それはサービスな」


これは唯のお節介だからな、とカップを指差し蓮華を問答無用で渡してくる。咄嗟に受け取ってしまえば返すことも出来ず、エミヤは躊躇いながらスープを掬った。湯気が立つそれに息を吹き掛け、冷ましてから口に含む。


「…美味しい」

「そりゃあ良かった」

紡がれる声音は心底安堵を含んでいて、エミヤは少しばかり驚く。初対面である筈の男から、此処まで心配される動機が無いのだ。それとも、見目が良い上にお人好し、の性格まで申し分無い男なのだろうか。いや、エミヤの体調を案じ、わざわざスープを作ってくれているのだ。この男は優しいのだろう。

「珈琲はまた後日飲みに来な。今飲めなくても珈琲は逃げねぇしよ」

「……何時もこの時間帯に営業しているのか?」

「ん?ああ、基本はな。昼時も営業してる時がある」

気紛れでな。
と、男はカウンター内の棚を開けると何やら取り出し手を動かしていく。ほんの少しの時間の後、その手が差し出して来たのは一枚のメモだ。書かれているのは数桁の文字の羅列。
差し出され、殆んど反射で受けとるも書かれた内容の意図は分からず、思わず首を傾ける。

「スマホのトークアプリ、使ってるか?」

「ああ、それなら」

男が恐らく自身のだろうスマートフォンを手に持ち、今の世で流通しているアプリを指し示す。それ位は入れておけ、と言われてインストールしていたそれだ。

「それ、俺のID。連絡してくれりゃあ、営業しているかどうか教える」

「いや、でも、しかし」

「良いから良いから。此処に来たいと思った時に店が開いて無かったら嫌だろ?」

「それは…まあ、そうなんだが…」

「お前さんの気が向いた時で構わねぇからよ」

常連候補を逃したくも無いしなぁ。などと明るい調子で男は話す。客を逃したくないのも本音であろう。しかし男が、まるで子供に言い聞かせるように頭を軽く撫でて来るものだから、それ以外の意図もあるのだろう。この初対面の男を、随分と心配させてしまっているらしい。

「…すまない」

「何の事かねぇ?ああ、なら名前、教えてくれよ。メッセージが来たときにお前だと分からないから」

ついと謝る言葉もはぐらかされ、思わず口許が緩む。スマートフォンを取り出し、トークアプリを開くとエミヤはメモに書かれた文字を打ち込んだ。友人がプレゼントしてくれたスタンプを一つ、押してみる。
男のスマートフォンのバイブが鳴り、今度は男が指を動かすと、エミヤのスマートフォンがバイブを鳴らした。画面にはエミヤが送った宜しくと挨拶する白い猫のイラストと、男が送ってきた宜しく、と挨拶する狼のスタンプが映る。

「エミヤ、だ」

「俺はクー・フーリン。クーで良いぜ」

「ああ、此処へ伺う時は連絡させて頂こう。宜しく頼む」

「任せな。お前さんが来る時は栄養たっぷりの飯を用意しておこう」

男が朗らかに笑う。思わずとエミヤも笑みを浮かべると男は嬉しげにその黒い瞳を細めた。
何故、男がこんな表情をするのかは分からない。しかし、エミヤが道を歩いていた時までに感じていた疲れはいつの間にか消え、身体に触れる暖かい空気は心地良い。
それは、エミヤにとって久々の感覚であり、酷く心が落ち着いた。


自分の家であるマンションに帰る頃には時計の針は10時を回り11時に近付こうとしていた。
陽が落ちて数時間。辺りは当然のように暗い。郵便受けを開きチラシや封筒をまとめて取り出し、エレベーターに乗り込む。住み家である階を押して暫し、手元のチラシ達を捨てる物とそうでない物を仕分け切ると同時にエレベーターが止まり目的の階に降りた。
鞄を漁り鍵を取り出すと玄関を開き中に身体を滑り込ませる。そこまでして忘れていたかのように漸く息を吐き出し呼吸を始めるとエミヤは靴を脱いでリビングへと向かった。
あの喫茶店を訪れてから既に7日。あれから一度も足を向けられていない。
行きたくない訳で無い。出来るなら行きたいが、あれから体調が良くなる訳では無く、心配をかけたくない故に足が遠退いた。
リビングの明かりを付け、要らぬチラシをゴミ箱に、残った茶封筒をテーブルに放った。意外と重みのある音が響く。
それを視界の端で見遣り一度深く息を吐き出すと、エミヤはコートを脱いだ。本来であればこれから夕飯を用意して風呂に入って、と思う所だが食欲は沸かない。このまま寝てしまおうかと考えていると、スマートフォンのバイブが鳴った。

『エミヤさん、調子悪いだろ。外に出られるなら、明日のお昼、開いてるから。夜でも可』

まるで、どこかからか見ていたかのようだ。タイミングの良いメッセージにエミヤは思わず口元を緩めた。
あの喫茶店のマスターである男は、3日に1度くらいの頻度で、こうしてメッセージをエミヤにくれる。体調はどうだ、から今日は店が暇だ、等の他愛もないものだ。そして最後には、今日は来れそうか、と一言必ず残して。
仕事が長引いて行けそうにない、という言い訳を言葉を変え繰り返していたが、どうやらあの男には気付かれていたようだ。
今回のメッセージはある種強引であり、エミヤを心配したものだ。
これはもう、いい加減誤魔化す事は出来ないな。
小さくぼやきながらも心はどこか安堵している。あの喫茶店は心が安らぐのだ。己の家以上に。

『では明日。昼時に』

トークアプリに指を滑らせ返信すると、直ぐに既読マークが付く。
直後に了解と、狼のスタンプが送られてきた。

『11時に開店してるぜ。お待ちしてまぁす』

人懐っこい声が想像出来る返信である。了解した、と白い猫のスタンプでもって返信をし、スマートフォンをテーブルの置いた。
明日は丁度休みだ。いつもであれば死んだように眠り1週間ぶりの部屋の掃除をして過ごすだけ。それに昼食を喫茶店で食べるイベントを増やしても良いだろう。家に籠るより余程健全だ。

「そうとなれば、風呂だな」

夕飯は食べる気にはならないから、風呂の後は寝てしまおう。どうせ明日の昼には美味しい食事にありつけるだろう。
エミヤは欠伸を一つ溢すと風呂を準備する為に洗面所へと向かった。


いつも通りの朝が来る。目覚まし時計のアラームを鳴る直前に止めて、カーテンを開く。今日は晴天らしい。
エミヤは欠伸を噛み殺し、身支度を始めた。今日は、約束があるのだ。
寝室から出て洗面所へ行くと顔を洗う。次にリビングへ移動して電気ケトルでお湯を沸かしている間に寝室へ引き返し寝間着から着替える。お湯が沸いた音にリビングへと戻りインスタントコーヒーを入れ、テレビを点けて朝のニュースを確かめる。天気は窓から見た通りの晴天。洗濯日和だとのこと。
それでは出掛ける前に洗濯をしてしまおう。
エミヤは溜まっていた洋服を洗濯機に入れるべく立ち上がった。
珈琲を飲んだら掃除機も掛けてしまおう。そうしていれば、家を出る時間にもなる。
洗面所に戻り洗濯機に服を入れ電源を入れる。いつも通りの洗濯機が稼働する音が響く。リビングに戻りインスタントコーヒーをテーブルに置いて暫しの休息。点けたテレビはニュースを流している。何処かで火事が起こった、政治がどうとか、ストーカー被害がどうとか。
いつも通りのありふれた日常だ。それなのに、1つの、唯1つの約束だけで気持ちが弾むのだから随分と単純だと、エミヤは思う。
ストレスの緩和には十分な休息と自分が好きな事をするのが一番である。
インスタントコーヒーを一口飲むと、胃が少し痛む。それでも美味しい、エミヤが嗜好とする1つだ。
あの喫茶店の珈琲を早く飲んでみたいものだ。
恐らく今日も飲めないだろうと確信しながらマグカップに入れたインスタントコーヒーを飲み干すと、掃除機を掛けるべくエミヤは立ち上がった。

そうして一通りの家事を終え家を出たのは10時半過ぎ。家から喫茶店までは15分程度の距離であるからして、早めに出過ぎた感はあった。
男は11時開店だと言っていたから早めに着いても店は勿論開いていないだろう。
どうせなら本屋にでも寄るか、近くの店でも覗いているか。
はたまたそこらを散歩でもしているか。
商店街にまで辿り着いてしまうも時間はまだ11時にはなっていない。商店街の中の店はちらほら開店しているようだ。
久々に商店街を見て回るのも良いか。
台所の洗剤や風呂場の洗剤、新鮮な野菜があったら買うのも良いな、と考えながら足を踏み出すと。

「あっ」

そこまでの声量があった訳ではないのに間違えようもないその声は、明瞭にエミヤの耳に届いた。
少し遠く、喫茶店に向かう小路の前に、鮮やかな蒼色が煌めいている。初めて出会った時と同じ、黒のV字のベストと黒いズボン、黒のロングエプロンを腰に巻いて、違う所は着ている白のワイシャツの袖を、冬なのに捲っている所か。そして、あの長い蒼い髪が金の留め具によって項で1つに纏められている。
エミヤに気付いた男は片手に持った買い物袋の重さを感じさせない軽快さで此方へと近寄ってきた。足取りは、まるでスタッカートでも奏でているかのようだ。纏められた長い髪が尾のように跳ねている。

「久し振りだな、エミヤさん」
「ああ、お久し振りだ、マスター」

人好きのする笑顔は、先程の尾のような長い髪も相まって人懐っこい犬を思わせる。思わず笑みを溢すと男は一瞬黒い目を瞬かせ、再度破顔した。

「早く来すぎてしまったようだ」
「別に構いやしねぇよ」

買い物袋を持っていない左手でエミヤの背を軽く叩き、先を促すように押す。

「いらっしゃい、エミヤさん」

男の声は空と同じように明るいのだな、エミヤはコートの上からでも感じる男の掌の温かさを感じながら、促されるままに喫茶店へと足を進めた。

Comments

There is no comment yet
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags