肚
Twitterに投下した、クー・フーリン×弓のお話。
話の流れは、
狂王弓→狂王弓話の前日譚的、術+槍の話→狂王弓話の後、狂王+術+槍×弓
となっています。
最後の話はクー族について明記してないので、お好きなクー族で想像して貰えたら楽しいかと思います。
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「肚は出来たか?」
深い宵闇の色の、手袋をした手が黒い礼装の上から腹を撫でる。
その手からは労りしか感じられず、エミヤは瞠目するしか無かった。そもそも、何を言われているか理解が出来ない。はら、とは何だ。
「何のことかね?狂王」
逆に問い掛けたのだが、目の前の男は何を言われたのか理解出来ないと、凶悪を具現化したかのような姿に似合わず純粋に、不思議そうに首を傾いで見せる。それでもエミヤの腹を優しく、やさしく、撫でるのだ。
「キャスターの俺と、ランサーの俺が施しているだろう?」
「……?何をだね?」
「ココに、ルーンを」
また、エミヤの腹をゆるりと大きな手が撫でる。擽ったい、と思うのだが言い様の知れない不安が沸き起こるには何故だろうか。
狂王ーーオルタ化したクー・フーリンが言うには、同じ存在であるキャスターとランサーのクー・フーリンが腹にルーンを施しているらしい。エミヤには覚えの無い事だ。ランサーに関しては顔を合わせれば言い争いになる事が多く、キャスターに関しては多少、穏やかに話す機会があるが、どちらにしても腹に何かをされるような接触をされてはいない。しかし狂王は、エミヤの腹にルーンが刻まれているのを知っている。分かっている。
腹を撫でる、掌が温かい。ーー温かい?
勢い良く下げた視線の先には、魔力が仄かに光り腹を撫でる男の手がある。腹から伝わる魔力に、膝が抜けそうになるのを辛うじて堪えて男から距離取った。両手に投影する愛用の剣。
それすら見ても、男は驚く様子すら見せず。ーー寧ろ、その暗赤色の瞳を細め歯を剥き出して嗤った。
「なあ、エミヤ」
名を、呼ばれる事がこんな恐ろしい事だと、知るなんて。
「肚は出来たな」
ーー俺達の、『クー・フーリン』の子を成す為の。
踵の高い、靴が床を叩く。身体が動かないのは恐怖からか、それとも。
少しだけ見上げる事になった男の瞳に、背中を走る冷たい何かを感じ。両手で頬を挟まれた感覚に、力無く、エミヤは瞼を下ろした。