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昨日の君に好きだと言えたなら/Novel by 粉雪

昨日の君に好きだと言えたなら

10,704 character(s)21 mins

お久しぶりです。
今回は長編にしたかったロビエミです。
未完結ですがあまりにしんどいし終わりが見えないので1度UPします。
全文完成したらこちらは下げます。
1ヵ所ナーサリーのつもりで書いたところがありますが、呼び方諸々はFGOの知識のみでできております。ご容赦ください🙏
何ならアビーちゃんでもいけるかなと思ったのでお好きな方で……💦
また、若干槍→弓??的な部分もあるのでご注意ください。

タイトルにしているお題は
イトシイヒトヘ(お題bot) (@ZelP_t) twitter/ZelP_t
よりお借りしました。

余りのロビエミの無さに毎回嘆きながらロビエミ生産しているんですがお仲間さん居ませんか…。
私が書くとシリアス方面に突っ走るからはっぴーなロビエミください……。

***
**


始めは多分、アイツからの視線の中の混ざる熱に気付いたところからだったと思う。
男だっていうのに嫌悪はなく自分でも驚いたな。
アイツが何をしてくるかと思って見ていても、ふとした時に視線を向けられるだけだった。
…多分初めから何も期待なんてしてなかったから。
聞いてしまえばアイツは視線すら寄越さなくなるんだろうと。

だから何も言わずに距離だけを縮めた。
クラスのこともあって一緒に居ることは容易だったし、俺も何も嫌ではなかったから。
アイツは触れてこないから俺から触れた。
俺から触れて抱き締めて、共に眠るところまできた。
そんで漸く自分になつかせたのに他の自分に取られるなんて何とも言えない感じだった。
だから、


**
***

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horizontal

昨日の君に好きだと言えたなら。
君は私を、忘れないでいてくれたのだろうか。


****


段々と敵の強くなってきた今、消えない保証など無かったのに。
いや、カルデアのシステム上基本はレイシフト先で消滅してもカルデアに自動で戻るようになっている。
だから、皆無意識に緩んでしまっていたんだろう。
それで彼に会えなくなってしまうなんて、私は微塵も思っていなかったのだから。


この感情は正しく恋だった。
ずっと、気付かないふりをしていたけれど。
逃げ続けてきたけれど。


私は彼に、恋をしていた。
取り返しがつかなくなる前に言ってしまえば良かったのに。
昨日の君に好きだと言えたなら。
言うことができたなら。
君は"私"を忘れないでいてくれたのだろうか。


****

「エミヤ。泣いて、きちんと吐き出して?」
「…一応、彼とのことは誰にも言ってなかったのだが。」
まあ、数人にはバレていたが。
マスターが泣いていいと言っているのだから、少し位はいいだろうか。
これは、私の自業自得なのだけれど。

「…ロビンフッドは、」
どうなったのだろう。
再召喚すると言っていたこのマスターは、無事に再召喚を果たしたと聞いていた。
けれど、彼にカルデアでの記憶が無いとも聞いていた。


先日、レイシフト先でロビンフッドは霊核を砕かれ再起不能となった。
私も一緒にいたレイシフトなだけに、私は感情の整理がついていない。
相手がロビンフッドでなければここまででは無いのだろうな、とぼんやり考える。

確かに恋と呼べる感情だった。
だからこそ感情の整理がついていない。
彼が私をどう思っていたのかは分からない。
お互いに好きだ、とも愛してる、とも言わなかったから。
ただ、抱き合って眠りにつければ幸せだったのだと。
幸福だったのだと。
彼に甘えてしまっていたのだと。
今なら分かるのに。

「…やっぱりカルデアでの記憶は無いみたいで。」
「…そうか。…マスター、暫くは、彼と同じチームに組まないでくれないか?」
難しいとは分かっているけれど。
「いいよ、うん。溜め込んでる分吐き出していいよ。」
「え」
そんなサクッと了承してもらえるとは思っていなかったのだが。逆に怖い。
「え、って何!??ダメって言うと思ったの!??」
「い、いや…そんなサクッと了承されるとは…」
「いいよ。エミヤにはいつも頼ってばっかだもん。それに、1番ツラいのはエミヤだと思うし。」
今は涙腺が緩いから優しくするのは止めて欲しいんだがな。
「っ、君は本当に…」
「ふっふっふ~たまには頼るが良しだよ!」
何なら槍ニキとかイシュタル呼んであげようか?と言われたのは丁重に断っておいた。

****

「前の…彼とのことは彼には言わないでくれ。」
「なんで?」
首を傾げて聞いてくるマスターに怒られそうだな、と思いながら答える。
「私は、彼を諦める。」

そう言うとマスターは目を見開いた。
それからもう1度なんで、と聞いてきた。

「…元々付き合っている訳でもなし、あの関係も偶然だったんだ。」
だから、これは私の思い出にするのだと。
マスターは何も言わなかった。言葉を探しているみたいだった。

****


彼に向かっていた感情が"恋"だったのだと認めて、それはストンと胸に落ちた。
けれど、また育てる気もなく彼のことを極力避けながら彼との関係を消化した。
ゆっくり時間をかけて、時々押さえられない涙を溢して。
緩やかにけれど確かに。この恋心を落ち着けていた。
また、共に闘う仲間で同族嫌悪の対象で。
それでいいのだと。
彼を近くで見ていられれば緩やかになった恋心が少しざわつくくらいで。
穏やかに、静かに彼との元の距離に納まった。

彼が笑っているのを見ると嬉しくなるし、苦しそうだとこちらもツラくなる。
例えばその顔が私に向いていないものだとしても。

****

「お前も物好きだよなぁ、アーチャー。」
「放っておいてくれ。」
"彼"が再召喚されて今日で1ヶ月。
ここぞとばかりに私に構ってくるランサーの相手をするのも飽きてきた。
「で、お前俺のことは無視なのか?」
「女好きで有名な君に口説かれてても君の頭を心配するだけなのだが。」
「俺は結構本気なんだがなぁ。」

彼との関係を清算してからのいつもの会話。
ランサーは私に好きだの愛してるだのことあるごとに言ってくるようになった。
勿論全く信じてはいないが。
「知らないだろうが、私は重いんだ。消化したからと消えるわけじゃない。」
「それは聞き飽きたわ。」
「この大たわけが。」
会話をしながらも私の視線は真っ直ぐ彼に向いていた。
あぁ、良かった。今日も彼は笑っている。
決して私に向けてではないけれど。今日も笑えている。
「おっ前…その顔どうにかしろよ…」
「む、顔をどうにかしろと言われてもな…。私は嬉しいんだぞ今。」
そう言うとランサーは盛大にため息を吐いて私を抱き寄せた。
抱き寄せた…??
「ランっ「んなツラいです、って顔されて嬉しいって言われても信用できねーんだわ。」

特にお前な、アーチャー。と言われて頭が混乱する。
まずランサーの肩口に頭を抱き込まれてるのも分からないし、ランサーの言ったツラそうな顔も分からない。
しかもランサーの力が強すぎて抜けられない。くそ筋力Bめ。
「何なんだ君は…」
「好きな奴のんな顔見たら力づくで奪いたくなるもんだろ。」
「君と一緒にするな野蛮人め。あと、そろそろ離してくれ。」
背中を遠慮なくべちべちと叩くとランサーは渋々といった様子で離してくれた。
「…いつも言っているだろう。君のことは嫌いではない。でも恋じゃない。」
「…知ってるよ、石頭。」
「……ただ、一応私を気遣ってあんなことをしたのだろう?礼を言っておこう。」
そう言うとランサーは少し驚いた顔になって、それから笑った。

ランサーを好きになれればある意味では幸せになれるのだろうな、とぼんやり考えながら。

****

今も考えることがある。
あの時きちんと好きだと言えたなら。
ロビンとの関係は変わらないままだったのかと。
夜、ロビンに抱き締めて貰って眠り、朝自分の好きな人が傍にいる日常がまだ続いていたのかと。
今もまだ、後悔し続けている。
「…ロビン」


「何すか?」
「…は?」
私は今、自室でもないのに彼の名を呼んでいたのか…?
サァッと顔から血の気が引いていく。
呼ぶつもりなんて無かったのに。
もう彼と、必要以上に関わる気なんて無かったのに。
それなのに私の呟きに反応してくれたことが嬉しいなんて、そんなの。
「は?ってオタクが呼んだんでしょーが。聞き間違いじゃあないと思うんですけど?」
「あ、いや…その…だな。」
頭のなかが真っ白だ。ロビンに聞かれても上手い言い訳が思いつかない。
普段よく回るこの口が機能しない。
ロビンが近くに居る、それだけで泣いてしまいそうになっている。
…落ち着けた恋心が、また熱を持ちそうになるほどに。
どうしよう、どうしたらいい。何も分からない。

「エミヤ~ロビン~?…取り込み中…?」
間延びしたような声でマスターが私達を呼んだ。
…呑気なマスターで心底助かった。
いや、実際には周りをよく見ているのだが。とにかく助かった。
「っいや、何かねマスター?」
ロビンに向いていた顔をマスターの方に向ける。
マスターは心配そうな顔をしていたが大丈夫だと言いたかった。
このロビンフッドは彼であり、彼ではないのだから。
だから、大丈夫。
私は、思い出だけで過ごしていける。
詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
またボロの出ることが無いように、しっかり、しなくては。

****

「エミヤ、大丈夫?顔色悪い。」
「問題ない。…無意識に彼を呼んだ自分に血の気が引いただけだ。」
それは大丈夫って言わないからね?とマスターに念を押されて苦笑する。
確かに周りから見れば可笑しな私に見えていただろう。
ロビンフッドにも怪しまれている気がする。

「どうして私の彼に関する記憶は消してくれなかったんだろうな。」
そうすれば、こんなに弱った姿を見せることも無かったのに。
「だって、2人から消えちゃったら無かったことになっちゃうでしょう?エミヤは、それで良かったの?」
この恋心も夜抱き締めて貰う喜びも、朝好きな人が傍にいる嬉しさも切なさも、喪うときの後悔も全て。
その全てが、消えてしまってもいいのかと。

「…それは少し、嫌だなぁ…。」
そう言うとそうでしょ、とマスターは笑った。
「エミヤと一緒に居たロビン、私は好きだったよ。」
「は、」
「凄く息がしやすそうだった、って言うか過ごしやすそうだった?って言うか。とにかく、素のロビンって感じがして。」
「それは、」
そんなの知らない。でも確かに彼はよく私の近くに居た気がする。偶然だと、ずっと思っていたけれど。
「エミヤは知らないだろうし、ロビンも無意識だったんだろうけどね。エミヤを見るロビンの顔が凄く優しくて、穏やかで私はそれが大好きだったよ。」
今は、もう見れないけど。これは言っておきたかったの、と。
「……きっとロビンもエミヤのこと、好きだったよ。」
掘り返してごめんね、とマスターは言う。
掘り返すも何も、先程までの私を気遣ってくれているのだとは思った。
「…うん、…そうか。」
「…エミヤは、今のロビンは嫌?」
どういう意図の質問かは直ぐにわかった。
けれど、
「…嫌な訳ではない。ただ…」
ただ、彼とは偶然そういう関係になっただけで。
だから記憶がないなら巻き込みたくないだけで。
これは、私のわがままなのだろうと。
「…私のわがままに巻き込みたくないだけだ。」
「好きな人と一緒に居たいのがわがままだったら、私もみんなもわがままなんてレベルじゃないんだけどなぁ…」
偶然の関係に延長は望まない。
ただ、それだけなんだよ、と。

****

言葉は、無かった。
霊核を砕かれ、消えていくロビンフッドは私に何も遺しはしなかった。
ただ私が彼の動かなくなった指先に触れただけだった。
彼の吐いた息を、彼の体温を今尚、覚えている。
…好きだと言えなかった、自分の後悔も。


記憶を見た。彼が消えていく記憶を見た。
何度目か分からない、後悔の記憶を見た。
それでも、彼がどんな顔をしていたのかだけは靄がかかったかのように思い出せない。
…笑っていたのだろうか、苦痛を感じていたのだろうか。
体温も息も覚えているのに表情だけがまるで思い出せない。


****
***
**


ぽっかりと、胸に孔が空いているのかと思うことがある。
その正体が何か未だに分からないけれど、俺のままで居たいならこの孔は塞いではいけないものだと本能がいう。
けれど、無くした孔の中身も気になってしまうのが"ヒト"というもので。
いやまあ、今の俺は正式にヒトって訳でもないが。
…話を戻すか。
記憶は、ない。何故だか分からないが記録も、ない。
ここの━━カルデアという場所に関してのみ、俺には何もなかった。
何故だかは分からない。
分からないけれど、ぼんやりと"前の"俺に何かあったんだろうとは把握した。そうでなければ色々可笑しい。
けれどやはり、孔の正体は分からない。
分からないまま1ヶ月が、過ぎる。

****

「…マスター、俺は誰辺りとよく話してたんすか?」
「え?んー…アーチャー勢は割りとみんな話してたと思うし、ランサーとキャスターのクー・フーリンとか、ジェロニモさんとか?」
「…アーチャーって一括りにしても多いでしょうが…」
俺がそう言った時にマスターがぎこちない笑顔を浮かべてるのは知っている。
このマスターは【アーチャー】と単語を出すときぎこちない笑顔を浮かべていると気がついたのは割りと最近だ。
それまでは俺も何だかんだとバタバタしちまって気付けなかった。
…ここのアーチャーに、マスターも気にするような関係だった奴が居るってことなんだろうか。それとも、とぼんやり考える。


「…ロビンにも、気を許せる相手が居たんだよ。覚えて、ないかもしれないけど。」
「…教えてくれるって訳じゃ無さそうっスね?」
「あー…私は、教えちゃえば思い出すかもしれない!って言ってるんだけど。アッチが…その…忘れてるなら思い出させるな!みたいな…?」
あれ、ちょっと違うかな…?と小さく呟いたマスターの声も拾って、俺は考えた。
相手が誰だかは分からないけれど、思い出させるな!まで言われるほど淡白な関係だったのか。それとも単に何かの理由で思い出してほしくないだけか。
「忘れてるなら思い出さずに、自由にしていて欲しい。」
「はい?」
「そう、言ってたの。相手がね。」
自分のことなんてそっちのけなんだよね、あの人は。
その言葉が、耳に刺さって抜けなかった。

****

ふとしたときに何処からともなく視線を感じる。
きっと俺が召喚されてからずっと。
俺が相手を探すと視線はもう外れていて誰から向けられているものなのか未だに把握はできていない。
…大体、と人は絞れてきているのだが。
今日も視線を感じてそちらを向くと、もうこちらに視線は向けられていなかった。これは、いつものことだ。
視線の方向にはいつもあの赤い弓兵が居て、その隣に大体の確率でランサーの神子サマがいる。
神子様が赤いのに向ける視線は一等柔くて、神子様はアイツが好きなんだろうかとぼんやり考えた。
神子様が赤いのを口説いてるのはよく見かけるけど、以前はそんな事は無かったと皆口々に言う。
皆総じて理由を教えてくれはしなかったけれど。


「エミヤ、今日もおいで」
ふと視界の端でマスターと赤いのが居て、マスターがそう言っていた。
赤いのは困ったように笑んで小さく呟いたようだった。
口の動きからして恐らく、「…すまない、」だろうか。
「エミヤは無茶するからおいでって言ってるのに…。まだ、ダメ?」
「生憎と、自分の限界は心得ているさ。」
「…兄貴呼ぼうか?」「…それは勘弁してくれ。」
そう静かに笑い合う二人を見て何とも言えない感じがする。
モヤモヤ?いらいら?どちらも違うけれど、何だか変な感じだった。
「…何なんスかね、これ。」
恐らく、視線を向けてきている相手が赤いのだと気が付いて、それから。
それから、俺のままで居たければアイツに近づくなと本能が叫ぶ。
マスターが隠したのは恐らく…いやほぼ確信があるがあの赤い弓兵との関係だった。
隠したのは、隠そうとしたのはマスターではないかもしれないけれど。
「…忘れてるなら思い出さずに、自由にしていて欲しい、ね。」
あの赤いのならきっとそう言うだろう。
何があって前の俺が赤いのと関係を結んだのかは知らないし、記憶がないのかも分からない。
ただ、孔の正体を知りたいと思った。
アイツが関係している、溢れ落ちてしまっている孔の中身を。
アイツが泣きそうでいて、他の誰に向けるよりも一等柔らかい視線を俺に送ってくる意味を。
その視線に含まれた安堵感を。
知りたいと、思ってしまった。


****

「……ロビン」
誰に言うでもなく、自分でも気付いていないような小さな小さな声で赤いのは俺を呼んだ。
何だか妙にすっぽりと、穴がほんの少しだけど塞がった気がして返事をした。
返事をした、だけのはずだった。
赤いのは本当に無意識だったようで、顔から血の気が引いていく。
…最早、俺とコイツに何かしらの関係があったのだと。
俺は確信しかなかった。
赤いのは何故だか分からないが隠したがっている。いや、きっとコイツにとって理由なんて1つしかなくて。
コイツに問いかければ『君のため』だと返答が来るだろうことは想像に難くなかった。

なら、あの無意識にこちらに向く安堵の顔は。
俺に直接向けられることは無いけれど、遠くから俺を見ている時のあの、穏やかな笑みは。

…そんなことを考えているうちにマスターが声をかけてきてアイツは行ってしまう。
追いかけることは、しなかった。
追いかけたとして、自分が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。
孔。
胸の孔は、多分ずっと埋まらない。
俺が、アイツの知っている俺じゃない今は。
きっと。

****

「ロビン。居る?」
コンコンと控え目に部屋の扉を叩く音がした。
それと同時にかけられた声もあった。
恐らく、先日の件で俺が"気付いてることに気付いた"のだと思う。
「…マスター」
何の用か、なんてことは聞かない。
マスターが今の俺を訪ねてくる用件は赤い弓兵のことただ1つだから。
そう、確信があった。
「…少し、話しても大丈夫?」
「大丈夫っすよ。」
言っていい話なのか、少し躊躇ったのだと思う。
あの赤い弓兵と"俺じゃない俺"のことを。
「あーと…その、どこから話してもいいのか分からないんだけど…。」
「…でしょうねぇ」
1ヶ月。
俺もバタバタしていたとはいえ、隠し通していた(マスターは隠したくなかったようだが)これはどこから話したものかと俺も思う。
1ヶ月分だ。いや、それ以前の話も入れると1ヶ月分なんかじゃ足りない。
それこそどこから、何から話せばいいのか迷うほどには。
「…エミヤはあれでまだ隠せてると思ってるよ。」
「…アイツ案外抜けてるよなぁ…。」
というか一周回ってバカなんじゃないのか。

「ロビンは、何に気付いた?」
「何ってどういうことです?」
何に、とは。
「あー…ごめん変な言い方したね。その、ロビンはエミヤとどんな関係だったか気付いた?というか分かった?」
「どんなって…恋人、か何かじゃないんスか。」
いまいち俺と赤マントが付き合ってる図、というのも思い浮かびはしないけれど。
けれど、だってアイツの視線の意味は。
「うーん……私もよく分かってないからこそ言うの躊躇ってたんだけど。恋人、ではなかったよ2人は。」
私が聞いた話、だけどね。マスターはそう言った。
「でもね、多分お互いにちゃんと好き合ってた…と思うよ。多分、2人が付き合うとかしなかったのは…自分がいつ消えるか分からない英霊だからだったんだと思う。」
というか、エミヤはそう言ってたよ。
きっとロビンフッドもそうだろう。って。
…マスターの話を聞いて、正直既にキャパオーバー気味だ。
「…んじゃそれどういう関係だったんスか…」
「あはは…だよねぇ。正直私も知ったばかりの頃ツッコミ入れたりしたよ、ロビンに。」
「…俺はマスターに何て?」
そんな意味の分からない関係を続けていた"俺"は。
何と言ったのだろうか。
「『これでいいんスよ。』って。でもそう言った時のロビンはエミヤのことを大事なもの見るみたいな顔して見てたよ。」
優しげで幸せそうで愛しいって、そんな顔。
宝物を見るみたいな、そんな。

そんなことを言われても俺は。
そんな記憶も記録もない俺は、どうしたらいいのだろう。
「…多分、だけど。」
ポツとマスターが呟いた。
「…だからエミヤは隠したかったんだと思うよ。」


━━覚えていないなら自由にしていてほしい。


マスターの口からだったが確かに聞いた。
…理由も、今分かってしまった。


****
***
**

2度目を、自然と考えていた自分に愕然とした。
もう1度があるなんて普通はあり得ないことなのに。
それにもう1度あのロビンフッドが呼び出されるとは限らない。
彼は多くのロビンフッドと呼ばれた義賊の中の1人、だったから。
なにより。
私が、2度目を考えたことなど無かった筈だった。
ここに来て随分欲張りになった。我儘になった。
━━━記憶を持った彼と、もう1度出逢いたい、話をしたいだなんて。
……その腕に抱かれて眠りたいだなんて。
分かってしまったからには、すべきことは決まっている。

私の中で答えなどほとんど分かりきっている、小さな賭けをした。
彼が記憶を持ったままで再召喚されれば、私は2度目を口に出そう。告げられなかった後悔も、全て。
逆に彼が記憶を持っていなければ、その時は。
…その時、は。
━━━━━。



━━結果として、私の予想通り彼に記憶は無かった。
良かった、と思った。
私の存在が彼を振り回してしまうこともなく、偶然の関係だった私とは違い今度こそ彼の意識は女性に向かうだろう。
それでいい。
彼は女性が好きなはずだ。
私とのあの関係は彼の良心で同情だ。
…私が、彼に心を向けてしまったから突き放せなかっただけだ。
確かに戦闘はあるしまた霊核を砕かれ座に還ることもあるかもしれない。
けれど、私は彼に穏やかに過ごして欲しかった。
私のことなど何も気にせず、ただ穏やかに笑っていて欲しかった。
だから。
もう彼を見るのは終わりにしよう。
彼は自分に向けられている視線があることに気がついている。
そして恐らく、それが私であることも。
…だから。
今日をこの恋心の命日にしようか。
恋心を葬るために花を1輪用意しようか。
その1輪が、この恋心の弔いと為れば。
「…さようならを、しようか。」
なんの意味も無くなってしまった、持て余すしかできなかった私から彼への恋心を。
彼へも、マスターにもランサーにも誰にも預けること無く。
…終止符を。

…あぁ、けれど。今日で最期ならば少しくらい、我が儘を。
もう、終わらせてしまうのだから。


****

…霊体化をして眠っている彼を見つめていた。
最期ならばと彼の指先にくらい触れたかったが、触れればきっと彼は……ロビンフッドは目を覚ますだろう。
何より触れて熱を感じるのならば霊体化を解かねばならない。
…ロビンフッドの自室。
以前は幾度か入室したこともあったが、何も変わっていない。
部屋は以前と何も変わらずに、彼だけが以前と違う。
決して彼が悪いわけではないと知っている。
誰が消えても可笑しくなかったあの時、偶然に彼が消えてしまった、だけで。
……違う、ロビンフッドは私を庇って負傷したはずだ。
本来ならば私が消えていたはずだ。
私、が…彼を、……………。
…何も遺しはしなかった?違う、彼は遺してくれていた。
私が、思い出さない様に記憶に蓋をしていただけだ。
だって、君が最期に私の頬に触れた感触なんて思い出したら泣き出してしまいそうだったから。
君が最期に遺した言葉なんて思い出したら平静では居られないから。
だから、蓋をしていた。
「……狡いな、君は…。」
思い出したら決意が鈍ってしまうだろう。
思い出したらもう忘れられないだろう。
だってこれは、ロビンフッドが最期に私に遺してくれたものだ。
「……あぁ、私も君が好きだったよ。」
君の消滅を悼むくらいには。
君の消滅を引きずるくらいには。
君の消滅で、記憶に蓋をしてしまうくらいには。
「……今でも、まだ。」
思い出してしまったからには、1度だけでいいから彼に触れたかった。その、指先だけでいい。
彼の体温を感じたかった。
…触れれば彼は目を覚ましてしまうだろう。
何なら彼に攻撃されても可笑しくはない。
けれど、何でも良かった。
なぜ今思い出したのか分からない。
私の恋心からの最期の手向けだろうか。


ロビンフッドを見ながらゆっくりと霊体化を解いていく。
声も掛けず、音を立てぬようにゆっくりと彼のその指先へ触れた。
あんなにも触れてはいけないと思っていたはずなのに。
手を伸ばせば触れられてしまった。
━━━━━━━…ここにいる。触れれば温かい。
当たり前のことなのに消滅する彼を見ていたせいかそればかり確認してしまう。
「━━…やはり、触れなければ良かったな…。」
ポツリと小さく声に出た。
だってこんなにも離れ難くなってしまった。
さようなら、をしに来たはずなのに。
「……君は狡いな。……起きているのだろう、ロビンフッド。」
「……オタクほんとに…」
そこまで言うとロビンは言葉を区切り大きくはぁ…とため息を吐いた。
「…勝手に入った挙げ句に起こしてしまってすまない。……私はもう戻る。」
触れた指先は離れてしまった。
けれど、それで良かった。
でないと何時までもサヨナラできなかっただろう。
「あのなぁ…」
瞬間。
ぐい、とロビンに腕を引かれ彼のベッドへ倒された。
隣に彼が居る。
いや、そんなことよりも。
「…何をしてるんだ君は?」
「何してる、はこっちのセリフっスわ。オタク自分が泣いてるのも分かってなかったわけ?」
彼に言われ、はたと気が付く。
確かにいつの間にか泣いて居たらしい。
涙なんて気が付かなかった。
今日で、彼を見るのは終わりにしようとしたから。
この目に彼を焼き付けていた。ただ、それだけ。


****


━━━━「おじ様?おじ様ならさっきお花を1輪貰ってお礼を言って出ていったわ。でも、おじ様は知っているか分からないけどあのお花は悲しいわ、苦しいわ。ねえ狩人さん、あのお花の花言葉はね━━」


****

誰かが、この部屋に居るのは気が付いていた。
ただ誰かというのは予想ができていたしアイツは特に何もしてこなかった。
だから、アイツに動きも無いまま俺は微睡んでいた。
考えて、考えて考えて考えて。
アイツとの関係を考えて。
未だに答えが出ないのはきっと、記憶のない俺は求められて居ないと知ってしまっているからで。
だから、もうずっとこの出口のない迷路をぐるぐるとしている。


━━━━━━━━…
…突然流れてくる記憶を、見た。
これは間違いなく俺の記憶だ。
全てではないかもしれないけれど、前の俺の記憶だ。
何故今、だとか思うことはある。
けれどもしかしたら、隣で霊体化しているコイツが何かを思い出したのかもしれない。
俺に関係する、コイツの中で大切な何かが。
……傍で赤いのが霊体化を解いていく気配がする。
俺の指先に触れたコイツがあんまりにも震えていて、大切な何かに触れているようだったから。
何かを思い出すかのように、もう1度刻むかのように触れてきたから。
触れたコイツから詰めていた息を吐く音が聞こえた。

Comments

  • 鴉八丸
    November 18, 2022
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