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体は綿で出来ている/Novel by 凍護@コメント嬉しい

体は綿で出来ている

5,172 character(s)10 mins

FGO時空で槍弓、ワンサーぬいぐるみになってしまったランサーとそれを知らないアーチャー

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しくじった
苦々しく胸中で呟いたランサーは、らしくなくなぜあのようなことをしてしまったのか…と後悔の念に占められていた。
動かない体をどこか他人事のように認識して、どうしようもならない現実を憂いがこもった瞳で傍観するしかない。空を仰ぐことも出来ず、ただやっちまった…と呟くだけの自分を情けないと嘲笑う側面も今は大人しい、それだけクーフーリンという大英霊は窮地に陥っていた。
深い、それはもう深いため息をついた末、誰の部屋ともしれない場所に放置されたランサーは『ぬいぐるみ』の体で声高に叫んだ。
(誰か助けてくれ!!!)


きっかけはなんだったろうか、思い出せないほど些細なことだったのは間違いない。煽って煽ってふざけすぎた末にマスターからの一日に一画回復するお手軽令呪の制裁によって、ランサーはぬいぐるみの体になるという罰を受けていたのだった。
自分もノリ過ぎてしまったと反省しているので制裁に関して怒りはないのだが、それにしても怒ったマスターの手によって動くことはおろか声も発せられない体にされた上、そのまま首根っこを掴まれてどこかの部屋に放置されてしまったのはいただけない。
戻ったら一言文句言ってやると決意を新たに、ランサーは縮んでしまった自身の体を見下ろした。
ランサーの姿は犬をモデルにしたぬいぐるみに変えられたようで、厳密に言うとすっと通った鼻面から狼の雰囲気も併せ持っている。
首筋あたりは青色のふわふわとした毛皮が特徴的で、そして体は普段の武装に近い青色の服を着せられていた。目元には暗めの青のフェルトで目隠しをされたデザインだが、不思議と視界は変わらず、首は動かせなくとも現状の把握だけはできた。
すっかり様変わりした体はいつ戻るのかわからない、何の意思表示もできない今の状態ではどんな二次災害を呼ぶかはわからないため、ランサーはまず何を置いても元の姿に戻ることを考えていた。
(マスターが反省して来てくれりゃ話は早いんだが…それかせめてキャスタークラスの奴が来ればどうにかなるだろ…!特にキャスターの俺なら把握も早いはずだ!爆笑されてもいい!来い!俺!)
来てくれ!というランサーの念が通じたのか、それからしばらくもしない内にランサーの真正面に見えるカルデアの電子式の扉がシュンと小さな稼働音を立てて開く。

そして現れたのはアーチャー、エミヤだった。
(幸運Eのバカヤロウ!!!)
どうやら置かれた部屋はエミヤの自室だったようで、本日の家事を終えたアーチャーが肩の力を抜きふぅと息をついている。そしてふと入口の正面に置かれているベッドの上に置かれているぬいぐるみに気づき、首をかしげた。
「誰の忘れ物だ?見覚えがないが…」
ひょいと持ち上げたぬいぐるみはエミヤの上半身と同じくらいに大きく、幼い子ならようやく抱えられるくらいだろう。
くるくると回してためつすがめつ見たエミヤは犬の前足をデフォルメした手を指先でふにふにといじり、意外と柔らかくさわり心地のいいそれへふっと笑う。
「君はどこから迷い込んだのかな?まぁいい、とりあえず置いておくか」
一旦ベッドにぬいぐるみを置いて赤の武装を解除し、無造作に髪を下ろして休む体制になったエミヤは、隣に置いた妙に大きいぬいぐるみの存在感から手持ち無沙汰の手で頭を撫でた。
そしてランサーはというと部屋のチョイスをしたマスターへひとしきり呪詛を叫び終えて、もう仕方のない幸運値に諦めるしかなかった。
バーサーカーなど開幕で引き裂かれる可能性は去っただけ良しとしよう、アーチャーならば身の危険はないはずだ。それにしてもなんともこそばゆいことになってしまったのか…。

感覚は引き継がれているため手を握られたことも、なでなでと撫でられている今もすべてランサー自身がされているように感じられる。頭を撫でてから首筋の毛皮を指先でもふもふといじるエミヤの指先に、頭を振りたくなるがそれすらもできない。
くすぐったい感触にランサーが耐えていると、不意に体を持ち上げられて膝の上に載せられた。
(これですぐに戻れるチャンスはおじゃんだな。ぬいぐるみ体験ならいっそ巨乳の女の部屋が…)
なすがままになるしかない以上、まだ興味を失ってくれないエミヤに肩をすくめた。
付き合いの長い方だと思っていたが、ぬいぐるみなんて意外なものに戯れるやつだとは思わなかった。
あのエミヤが微笑みながらぬいぐるみをさわっているところを真正面から見れて、なんとも言えない気恥ずかしさやどこか嬉しいような気持ちがもたげてきていることから目をそらし、ランサーは誤魔化すようによこしまな考えをしていた。
懸命に頭をそらしていたためにランサーは、これからさらに待ち受ける受難の嵐の第1歩に何の構えも取れなかった。

ぬいぐるみのやわらかさで遊んでいたエミヤは、じっとぬいぐるみを見つめていたかと思うとおもむろにぎゅうっと抱きしめた。
(おっおおおおおお!!!!????)
感覚が残っているが故にアーチャーに抱きしめられる感覚はランサーをダイレクトに包む。
しっかりと抱きしめられて至近距離に迫る緩んだ顔や滅多に見れない積極的な恋人、そしてなによりむぎゅっと押しつけられた胸の柔らかさはランサーの頭から一切合切吹き飛ばすには十分すぎる威力を持っていた。
「ふむ、気持ちいいじゃないか。かなり質の良さそうなものだが、本当に誰の物なのか…だがもう消灯時間だからな、君の持ち主を探してやりたいところだが今日は我慢してくれ」
(おまっお前男だよな!?やめろおおおいややめないでください!!!)
ぎゅうぎゅう抱きしめられる度に、愛しい恋人の体がランサーの体へ余すとこなく密着される。ぬいぐるみの縮んだ体に圧縮されるような体感は、普段なら許されない夢と希望とすべての人を包み込む万能の願望機たるエミヤの胸の固くも柔らかくムチっとした胸の感触を贅沢に伝えてくる。
一瞬で頭がオーバーヒートしたランサーを抱えて部屋の電気を消したアーチャーは、ぬいぐるみを枕元に置こうとして止まった。
そして少し迷った末にいつもの枕を端に寄せ、そこにぬいぐるみを置くと腹部に頭を載せて力を抜いた。
腹に加減なく乗っかるエミヤの頭の重さに、ぐぇっとカエルが潰れたような声を出したランサーは、その痛みもそこそこに眼前に広がる天国へ目を剥く。
予想通り枕よりもふかふかなぬいぐるみは気持ちよかったようで、いつもの険しい顔が欠片も残っていないオフのエミヤの微笑みが至近距離でこちらへ向けられている。犬の鼻面のラインを滑る手はそのままランサーの頬を撫でており、何気なくすりすりと犬の鼻の先と自身のをすり合わせるエミヤに頭の沸騰は限界点を超えた。
成人男性の自分でもしっかりと枕として受け止めてくれる大きなぬいぐるみへ密かにテンションの上がっているエミヤは、童心を思い出してくすくすと笑っている。
子供のように擦り付けられる鼻はくすぐったく、今にもふれそうな唇は頭から強烈に発せられる目の前の可愛い生き物の口を今すぐにでも塞ぎ、でろでろに甘やかしたいという叫びにわなわなと震えている。
無邪気にぬいぐるみと戯れているエミヤはその正体がランサーであるとは夢にも思わず、足の間へ首を入れ再度頭を体に載せるとふっかり重さを受け止めてくれるぬいぐるみの体、主に腹と股間部分に頬擦りをした。
(股間やめてクダサイ!!!)
顔にすりすりと頬ずりされるランサーの息子はこの恐ろしく可愛い生き物に刺激されてぐんぐん育っている。
しかし今はぬいぐるみの体、意識のみで反応している自慢の槍♂を慰めることも出来ない。その夜ランサーは、少し視線を下げれば対面するエミヤのどこかあどけない寝顔や自分の腹部を枕にして無防備に預けられた体の重み、すぅすぅと股間にかかる穏やかな寝息への耐久戦を強いられるのだった。


「…よく…寝た……」
(全然寝れなかった……)
翌日、もぞもぞと体を起こしてぼぅ…とした寝ぼけ眼を擦ったアーチャーは締りのない顔でまた1つ欠伸をした。
柔らかさが作用したのか近くにある時計を確認するといつも起床する時間よりも遅い、だらしなさに眉をひそめつつパシンッと顔を両手で叩いて切り替えると一夜を共にしたぬいぐるみを持ち上げた。
「素晴らしい寝心地だった、持ち主が見つからなければもらってしまおうかな。…ふふっ本当に、久しぶりにこんな深くまで寝れた」
質のいい睡眠を取れてスッキリとしたアーチャーに対してランサーはというとご褒美という名の受難のフルコースにぐったりと疲れて、英霊の身ながらクマでも出来ている勢いで疲れていた。
もう生かすも殺すも好きにしてくれと、頭をなでなでとさわるエミヤへ投げやりになっていると、不意に笑の質が変わったアーチャーの顔に、鼓動を止めたはずの胸がドクリと揺れる。
「…君がランサーに、似ているからかな」
(ッ!!!)
それはどこまでも穏やかで、そして抱えるには大きすぎる愛情にとろけた優しい、可愛い笑顔。
きっと誰にも見せたことのないエミヤの表情は、紛れもなく自分がさせている。出会ってから心を重ね、飽きることなく愛を囁いたことでこの不器用で気難しいエミヤという男が滅多に見せない素直な笑顔のその先。

完全に頭がフリーズしてしまったランサーをひとまず脇においてたアーチャーが武装を出現させ、淡々と準備を整えていく。
その背中を見つめながらランサーはきっと赤面しているだろう顔の熱に長い息を吐き、破壊力A+の笑顔のもはや許容できない幸福に天を仰いだ。
が、その時意識下のランサーの体へ光が瞬く。
(…もう、一生ぬいぐるみでもいいかも…っておい、まさか!?)
バシッバシッと弾けるように瞬くそれは魔術の反応を示し、考えたくもないがそれはまさにぬいぐるみに変えられた時ランサーの体を襲ったものそのものだった。
それが発動するということはつまり。
(ここでか!!おいやめてくれ!!頑張れ俺の幸運値!!!)
ランサーの叫びも虚しく瞬きの間隔はどんどん短くなり、願いをかけた幸運は無情にも元の体を返却してきた。
背後で起きていることを知らないアーチャーが、落ちた前髪をセットし準備を終えてにっこりと姿感触ともにお気に入りとなったランサー似のぬいぐるみへ振り向いた。
「今日も一緒に寝ようか、犬さん」
時が止まった。
ベッドの上で座るランサー、前触れもなく現れた相手に小さくえっ…と素の声が出てしまうアーチャー。
きっかり秒針が三つ進んだ瞬間ハッとしたアーチャーが慌てて飛び退き距離をとった。
「なっ!?ランサー!!なぜここに!!」
「落ち着けアーチャー、頼む、これには深いわけが…!」
予想通りの反応をするアーチャーにランサーは努めて優しく、刺激しないように必死に声を通常のトーンにして会話の余地を探る。
急転直下、これまでの経験上脳裏にちらつくバッドエンドにならないように吹き出す汗を拭いもせずにランサーは焦りとは裏腹声を荒らげることなく宥めようとした。
ランサーの見かけは落ち着いた反応につられて、アーチャーは驚きながらも現状を理解していく余裕が生まれてしまった。
突然現れたランサー、開かなかった扉、いなくなったランサー似のぬいぐるみ、いなくなった、ランサー似の、ぬいぐるみ…
「なぜ扉も開けずにここへ…そういえば犬さんが…あ」
察してしまった瞬間アーチャーの顔が火を吹いたように赤くなる。知らずとはいえやってしまったあれやらこれやら、そしてつい数分前に口走ってしまった言葉やらが頭を駆け巡りおもむろに手が胸に行く。
首まで赤くなったアーチャーに、的中してしまった最悪の結果を予期してランサーはなりふり構わずすがりついて許しを乞う。
「話を聞いてくれ!そうじゃねぇんだ!俺も好きであの姿になったんじゃ…!」
「I am the born of my sword」
「アーチャーさん!?だから!マスターのせいなんだよ!じゃねぇと誰が好き好んで男の部屋へわざわざぬいぐるみになって…まぁお前の胸の感触最高だったがよ、今度ちゃんと一緒に寝」
「ッunlimited blade works!!」

ケルトには余計な一言という文化は存在しないのか、限界を超えた羞恥に高速で淀みなく流れるようにされていった詠唱が締めくくられた時、カルデアからランサーの素敵な笑顔は消えた。

Comments

  • July 9, 2022
  • p13
    February 9, 2022
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