四月の莫迦
タイトル通り四月莫迦、エイプリルに上げようとして公式の熱意に負けて断念してた阿呆SS2本をひっそり今頃アップ。いつも以上に莫迦全開だよ、そしてCP色琴線上で色々読む人を選ぶかも知れないよ。①【セイングレンド馬日記】文字通り、馬から見た妖精郷のクー・フーリンとちょこっとエミヤの日記。神話の神馬さまゴメンなさい。②そんなばかな!?にほんむかしばなし風味←。エミヤさんにょたなので気をつけて下さい、書いてる輩も誰が誰何だかよくわかりません(おい)。よし、解った。何時もの莫迦話だな、OK無問題!という豪儀な方でお願いします。
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『セイングレンドの馬日記』
我が名は黒のセイングレンド。灰色のマハと対となる神馬である。
これから記すのは、ヒトの児なしたる日記というものらしいが日々の些末な記録である。
我と我等は光の御子の戦車を引くもの、として認識されている。
御子とは誰だと不粋なことを問うものは誰だ、エリンに名を勲し光の御子、かの光神ルーの御血を継ぎしアルスターのクー・フーリンを知らぬとは言わせぬ。
鼻息が荒くなってすまない、とかくそういうことだ。
我が出自においては、御子と同じ折に生まれたとか、妖精郷からさまよい出たところを御子の手によって捕まえられてより従った、などと各種様々に書かれておるところだが、我は御子と同じ時間に生まれた出生を取りたい。とれるものならば。
何故ならば御子と我等は人間で云うところの、乳兄弟のように育ったものでも在るのだから。まぁ、同じ乳母の乳を飲むことは到底叶わないため、心意気としてであるが。
御子は幼き頃から名の如く光り輝くように魂の根底から美しい存在だった。
時に、軍馬としての我等の生活は長い。軍馬は競走馬と同じく寿命が短いことが多い中、我等は幼き頃より槍を手にした主に従い、長き時を戦にかけた。
だが我とマハにとって、それは誉れでこそあれ苦痛である筈がなかった。何よりも、御子の戦車をひく役目を他の者に譲る気などは最初から選択肢としてなかったのである。
今でこそ人界を離れ、妖精郷に身を置く存在となりて思うことであるが、あの血生臭い日々は我等にとって同時に輝ける日々でもあったのだと。
御子の属する赤枝騎士の習いとして、剣と槍と盾、そして戦車は武人の持ち物として必須であった。特に騎士として成人の儀を成してよりはなおのこと、その身に名だたる名品を集めることはステータスであるのだと、ヒトの児はおもうものらしい。馬は身ひとつゆえ、特段、轡や戦車の扱いに不満があるとかその程度のものだが。
まぁその中で我等ほど群を抜く馬を繋ぐだけの戦車を御子は王から譲り受けていた。御子が踏み抜いても毀れない程度に丈夫である、と云うことが既に賛嘆に値する。しかも王の持ち物であったという過去に耐えうる調度と気品を備えていた。
馬に審美眼、とかもの申した輩、前へ出ろ、前だ。
ドルイドの宣旨通りに御子が幼年組を脱し、赤枝の騎士として一人前になった折の話をしよう。それは哀しくも勇猛な物語、これからの御子の短く鮮烈な生の在り方を定めるものだった。だが、問題は其処ではない。馬的に!
そう馬的に何より問題なのは我等が引く戦車の馭者の役目を御子が他者に預けたことだ!如何なる戦士も戦いながら戦車を引くことは出来ない、知っているそんなことは!
だが我等マハとセイングレンドの手綱を、御子以外の誰の手に預けようというのか!
そんじゃそこらの輩に預けようものなら、如何に御子の決定とて逆らう気満々の我等だったことは言うまでもない。だが神子が選んだのは、ひとりの親友だった。
黄金色混じり赤茶色の馬の鬣のような毛髪、穏やかな人柄そのままでいながら芯の強い面差し。だが着衣の身なりから、アレは慥かヒトとして位の有るとかないとか云う話ではなかったろうか。そう、マハは彼がこの国の貴族という輩のひとりだと話していた。それがどういうことか詳細は判じかねるが、周囲が驚いたことから異例のことであったのだろう。そも人の上に立つものに名を連ねるならば、他人の馭者を務める前に己が武器を持って戦うだろう。それが武人の心意気だ。
だが彼は他の馬からもたいそう受けが良いように、心根のひたすらに優しい生き物だった。鍛錬を怠ってなど居ないとしても、武器を取るにはやさしすぎたろう。どんな暴れ馬もきかん気の強い雄馬も出産を控えて気の立った雌馬でさえ、彼には心開いた。かくいう、我等もヒトの児を案ずるように我等に対等に話しかける彼という男は嫌いではなかった。
だが断るだろう、残念なことに。御子以外ならば、彼の手ならば手綱を預けても良いと思えたのだが、致し方在るまい。そう想ったのは一瞬のこと。
彼は喜んで御子の申し出を受けた。周囲も我等も驚いたが、本人達は当然の顔をして笑い合っていた。よろしい、ならばこの手綱は貴殿に任せよう。彼は信頼に足る男だ。
マハは最初から解っていたようで、涼しい顔をしていた。解せぬことだ。
だが御子の伝承の最後まで、我等と我等の御子と運命を共にしたのもその男だった。今も我等と時折遊び戯れに訪れる彼に、我は心密かにたいそう感謝しているのだ。
さて、前置きはこのくらいでいいだろうか。
我等という存在と、我等の意義をおおよそ把握していただけたことかと思う。
そも我が日記をつけようと思ったのは、そう遠い日のことではない。
最近だ、つい最近。ついさっきというな、問題は其処ではない!
御子が 我等に まったく 全然 かまけなくなったのだ!!
妖精郷に時間の概念はほぼない、ないがヒトの児の時間をして一月は経過しようか。
嘆く我等に何の非が在ろう!むしろ、何か粗相をしてしまったろうか!御子よ!
隣で涼しい顔をしているマハがまた、我の憤りを煽る。多少は気にせぬか、マハ。
嗚呼、そうして悲嘆に沈み嘆きに煩悶していたのは先程までのこと。
我は知ってしまったのだ!御子の元に我等の見知らぬ御仁が訪れていると!
そして近隣の妖精を捕まえて訊けば、何と言うことか!かの御仁がここを訪れた折と、御子が我等と気軽に遊び戯れ遠駆けに狩りにと誘わなくなった時が一致しているのだ。
これはゆゆしき問題である。 我等の存在意義は、御子と共に!
マハ、其処で欠伸をするな!緊張感が削がれる!それはさておき!!
一度気になれば、御子の傍にその赫い衣の御仁がちらちらちらちらと見え隠れする。
その御仁と遊ぶのに夢中で我等と遊んでくれないのですか、御子よ!嗚呼、何たる悲哀。
草の葉影で心の涙を流していると、親切な精霊が草の露を結んでいってくれた。
空気を詠んでくれたことに感謝する。舐めた雫は水だった、当然のことだが哀しい。
そのまましゃららんっしゃららんっと空気を揺らして精霊達が行き交い、時折水の雫を散らすに任せて草の上に座り込んでみる。緑と水の匂いが心地よい。
思えば、生在る時。さいごに求めたのは、御子の姿と、赤く染まるその姿を注ぐ清きひとしずくの水であったことを思い起こす。
嗚呼、そうだ。彼の時の絶望に比べれば、何と心穏やかなことか。
もういっそ、微睡んでしまおうか。
悲哀と激情と戯るに疲れ果て、ふとそんなコトを考えた時だった。
『セイングレンド!マハ!』
御子の声がきこえた。
幻聴かと疑いながらも顔を上げれば、遠方にいたはずの相棒が跳ねる勢いで駆けてくる。その姿を睛に映し、今の声が真の呼び声であったことに気がついた。
そうとなれば眠気などは何処吹く風である。
喜び勇んで精霊に謝辞を告げて、草の葉影から躍り出る。
何処にあっても光の満ちる、あの御方の姿をこの眼が見失うことはない。
『御子!』
重なり合うように声を上げて同時に駆けつけると、真白いローブが露に濡れることも厭わず我等の首を抱いて鬣を撫でてくれた。とても優しい手が嬉しいと感じる。
思わずマハと共に懐くように鼻面を肩先にぐいぐいと押し付ければ、けらけらと輝くように微笑った。御子、光の御子。空より青く貴い、我等の御子。
嗚呼、だが我等の歓喜も僅かの時に霧散する。
ふっと我等から腕を放して彼の人が背後を振り返ると、其処には此処しばらくの我等が悩みの元凶たる紅き御仁が控えていた。
「エミヤ、紹介しよう。此奴等が俺のセイングレンドとマハ、どっちがどっちかは説明するまでもねぇよな?」
そう、我等は御子のもの。御身のみの神馬だ。
だが説明するまでもないとはどういうことか。
はや彼は我等の既知である、と云う可能性は棄却する。我の記憶庫にはない。
ので、問いかける代わりに尻尾のように一房長い髪を軽く噛んで引っ張り寄せると、ぼふんっと我等の間に御子が転がってきた。無論、我等で受けとめるので問題はない。
「……ちょ、まて。お前等、出会い頭そうそう悪戯が過ぎ……何か、機嫌悪くないか?」
今更気付かれたか、御子。常ならば顔を見れば互いに即座にそうと気付いたものを。
否、御子殿がうかれておられるのは我等からしてみれば一目瞭然であるがな。
「んー?何で機嫌悪いんだ?最近、遠駆けとかしてなかったからストレスか?」
わかっておられるではないか。
ぱっと髪を離してつーんとそっぽをむけば、二頭揃ってよしよしと首を撫でられた。それくらいで懐柔される我等と努々お思い下さらぬように。
だが、とちらと無言の内に此方を視つめている赤の御仁に視線を遣る。先程からひどく熱心に我等を眺めているのだが、何かあるのだろうか。
「そうか彼らが、いや君たちが彼の伝承のさいごまで共に在った二頭か……綺麗だな」
ぴくんっと耳が跳ねた。
見ればマハも反応している。
今、彼は私達を褒めたか?褒めたろう?褒めたな。
互いに顔を見合わせてアイコンタクトを取る。
「……その、差し障りなければ……だが、私も触れさせてもらっても?」
良いだろうか?
何処からどう見てもまごうことなく見事な武人が、恥じらう乙女のように頬を染めて躊躇いがちに口にする科白だったろうか。やはりまた再び我等は顔を見合わせる。
「や、やはり、私では無理だろうか……」
いや、いっかな無理な注文などではない。そんなことはないぞ。うん。問題ない。
よし、我等の機嫌はなおったぞ御子よ。だからあの御仁に触れてもいいと告げてもよい。
ふんふんと鼻を鳴らして今度はもたれかかっていた背を押せば、マハも同じようにしている。そんな我等を視遣って、御子が溜め息をついた。
「お前等、褒められたからって調子よすぎねぇか?」
いやだとて、御子。あのように夢見るように熱っぽい視線で懇願されて、断ったとあっては神馬の名折れであろう。しかも彼の者は御子と御子の伝承を知り、かつ我等に敬意を払った。その対価として触れるなど容易すぎる要求だ、彼になら背を貸してもいい。
言葉として通じているのかは定かではないが、意思疎通としては問題ないらしい。
傍らを見れば勿論、マハも我と同じ見解のようでしきりに頷いている。
「……ったく、もう。ヒトたらしだけじゃなく妖精も精霊もお前等もかよ。末恐ろしいね、まったく」
ひとりごちるように呟いた御子の言葉に内心で首を傾げる。はて、我等の他にも彼に同様の敬意を払った者がいるというのか。ならば、さもあらん。
この妖精郷において御子の傍らに立つものを尊ばぬ謂われはない。
何、先程までとは態度が違う?そんな過去のことは忘れたな。
「おーい、エミヤ。触れてもいいし、何なら背中に乗っけて走ってくれるってよ」
「な、なに!?それは本当か!?」
「嘘いってどうするよ?エミヤ、いっとくけど其奴等言葉通じてるからな。お前等も、何も知らないと思って其奴を脅かすなよ?」
む、それは心外だ。御子。我等は敬意を払うものには敬意を返す礼儀は備えている。タチの悪い邪妖精とは一緒にしないでいただきたい。
そう不平を訴えると、我等の意思表示を威嚇ととらえたのだろうか。一瞬だけ伸ばされた手が宙を彷徨って止まってしまう。疵だらけの武人の腕だが、何とも謙虚なことだ。
傍らをもう一度仰ぐと、マハも此方を視ていた。よし、心持ちは同じとみた。では親愛表現といこう。
ようこそ、妖精郷へ。御子のお膝元たる我等が郷へ。
戸惑うように蹈鞴を踏んで固まってしまった長身の武人の両脇から近寄って、そっと双方から擦り寄るように鼻先を肩口に押し付けた。ふんふんと匂いを嗅ぐと優しい匂いがする。すりすりと懐いていれば、恐る恐るといった表現の相応しい大きな手のひらが、そうっと細心の注意を払って我等の鬣を撫でてくれた。それは御子の掌と同じように優しく。
我等はいたく満足した。この御仁ならば御子の傍らにあって赦せる存在だ。
そう確信して、慣れぬ日記の頁を閉じたいと思う。
後日談として、追記。
件の邪妖精をも他の精霊達とまったく変わらない様子でじゃらしていた姿を視たのは、御子には告げず心の中だけに留めておきたいと心底から思う。御子の苦労が忍ばれる。