「現地に行って、見て、平和を考えて」一風変わったスタディーツアーを行う旅行社4代目社長が重きを置く創業理念

2024年5月7日 12時00分 有料会員限定記事
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<その先へ 憲法とともに⑦>
 「基地をなくして中国が攻めてきたらどうするんだ」「どんなツアーを企画しているんだ」
 2015年12月の土曜。富士国際旅行社の4代目社長・太田正一さん(55)が休日出勤で東京都新宿区にあった会社に上がると、電話は鳴り続け、抗議のファクスが山のように届いていた。

「自分で見て、聞いて、何かを感じてもらう。現場に行かないと分からない」とツアーを企画する意味を話す太田正一さん=横浜市中区で

 同社は1978年から続ける沖縄ツアーで、太平洋戦争の戦跡や米軍基地を巡ったり、自衛隊配備が進む南西諸島の住民から話を直接聞いたりする企画をしてきた。2015年のツアーでは、米軍の基地建設が進む名護市辺野古の抗議現場の見学を盛り込んでいた。その見学で旅行客に立ち入り禁止区域での座り込みを促しているなどとして、違法行為のあっせんを禁じる旅行業法に抵触する可能性があると取り沙汰されたのだ。
 「座り込みの強制なんて断じてしていない。私たちは旅行者を現場にお連れするだけ。どのように判断して行動するかは各自の自由だ。何より、旅行客に考えてもらう機会を提供するのが役割だと思っている」。太田さんは休日明け、観光庁に出向いて説明。同庁から行政処分されることはなかったという。
 「旅行業務を通じ、平和な世界、民主的な社会の実現に貢献する」「戦争のない、地球環境や弱者の生命や権利が守られる世界をめざす」。富士国際旅行社が掲げる経営理念だ。「取引先から『憲法みたいですね』ってよく言われる。確かにその通りで、社員は私の指示ではなく、経営理念に従って仕事をしている」

◆玉音放送を担当したNHK報道副部長が後悔を元に

 海外旅行が自由化された1964年に設立され、資本系列を持たない専門旅行会社だが、一風変わっているのがツアー内容だ。前述の沖縄ツアーのように、通り一遍の観光地巡りではなく、現地で体験学習したり、地元住民と交流を図ったりして社会の現実を知る「スタディーツアー」に重きを置いている。77年には、戦争終結から間もないベトナムに日本では初めてツアーを企画し、旅行客を送り出した。

富士国際旅行社は1977年、日本で初めてベトナムへのツアーを企画した=同社提供

 昨年の高知県を巡るツアーでは、米国の太平洋ビキニ環礁での水爆実験の被災者から話を聞き、社会主義者の幸徳秋水の墓を巡った。サイパンツアーでは、第1次世界大戦後に事実上の日本の植民地となった歴史を地元住民から聞く機会を設けた。太田さんは「自分で見て、聞いて、何かを感じてもらう。現場に行かないと分からない。創業当時から引き継ぐ会社の精神」と胸を張る。
 同社を創業したのは2007年に98歳で亡くなった柳沢恭雄さん。NHKで報道部副部長を務め、1945年8月の玉音放送を担当した。戦時中、直接取材をせずに、大本営発表を国民に報じていたことを悔いていたという。
 国民に正しい情報が伝わっていなかった結果、悲惨な戦争が起きた―と。柳沢さんは終戦後、記者の現場取材の重要性を説く一方で「国民が自分の目で見て、真実を知ることが大切」との思いで、NHK退職後に旅行社を設立したという。
 柳沢さんと直接の面識はないという太田さんだが、「柳沢は国民全員が考える機会を持ってほしいと願っていた。人権や平和、自然について、それぞれが考える力を養うことが民主主義を成り立たせる」と創業者の思いを理解する。

◆初めて添乗した沖縄のガマで衝撃を受けて

 埼玉県で生まれ育った太田さんは1993年、富士国際旅行社に入社した。「広い世界を見てみたい」との漠然とした思いだった。スタディーツアーを企画していることはもちろん、経営理念も知らなかった。だが同年8月、初めて添乗した沖縄ツアーで衝撃を受けた。
 沖縄戦で負傷兵で埋め尽くされたという洞窟の糸数アブチラガマ。入ってみると中は全く見えず「真っ暗」の怖さを知った。本島中部にある米空軍の嘉手納基地の広さ、戦闘機が空を通るときの「ゴー」という体に響くほどの音に、沖縄で日々暮らす人々の気持ちを考え、本土に対して抱える思いを理解できた。
 「親から話を聞いたり、本を読んだりして分かったつもりになっていた」。身をもって現場に行くことの大切さを知り、ツアーの企画作りにも熱が入った。毎年20〜30個の企画を作りながら、添乗にも積極的に取り組み、社内で最も多い年100日ほど旅行客に同行した。「さまざまな人と出会い、...

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