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触らぬ神に祟りなしとはまさにこの事/Novel by キリン

触らぬ神に祟りなしとはまさにこの事

13,386 character(s)26 mins

ロビンフッドは激怒した。何故己があの赤い弓兵の手を貸さなければならないのかと。ロビンフッドは思う。なぜあの時、己の気まぐれで赤い弓兵に情けをかけてしまったのだろうと。ロビンフッドは思うーーーーー取り敢えずあの青いランサーから逃げようと。
追伸.お騒がせ槍弓に巻き込まれる苦労人なロビンフッドが好みです。

2019/07/22~2019/07/28の[小説] ルーキーランキング55位に入りました!!すごく嬉しいです!!!

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夜のカルデアのキッチンは1日の疲れを癒すためにお腹を空かせたスタッフやサーヴァントの殆どが美味しい夕食を求めて一斉に集ま出てくるため、特に忙しい。そんな毎日なため、たまにキッチンメンバー以外のサーヴァントが厨房に立つことはままある。多分その中でも俺、ロビンフッドは特に駆り出されることが多い。それはまぁいいのだが、それでも不満はある。まぁ一言で言えば。

「ランサー、昨日も肉を食べたのだから今日は魚にしろ」
「うるせぇなあ。てめぇはオレの母ちゃんかよ」
「だれが母ちゃんだ戯けめ。私は貴様が栄養を考えず、馬鹿の一つ覚えのように毎日飽きずに肉料理ばかりを選んでいるからわざわざ言ってやってるんだ」
「あーあー、うるせえうるせえ。飯くらい好きなのくわせろってんだ」

ギャーギャーと飽きず視界の端で騒ぐこの青い全身タイツの男と赤マントの男の存在だ。
このカルデアに召喚された古参メンバーの1人である赤い方はともかく、青い方は召喚されてまだ日が浅いとはいえ、それでもこのやり取りはもう何度見たか数えきれないほどであり、最近ではここまで同じようなやり取りを続けていることに感心してしまっている自分もいる。まぁ、このカルデア名物の2人のやりとりはどうでもいい。問題はその後だ。
ちらりと手元の作業を止めずに赤マントの方を見ると、あちらもちらちらとコチラを伺っているのが分かり、思わず溜息をつく。
やれやれ、今回は長かったな。

「おーーーい赤マント!!じゃれ合うのは構わねぇがそろそろこっち手伝ってくんねえと配膳間に合わないんで、いい加減切り上げてくれないっすかねぇ?」
「!…あぁ、すぐ行く。ではなランサー」

苛立たし気なランサーを置き去り、早足でこちらに戻ってきて隣で何事も無かったかのように包丁を手に持ち作業を始めているが、その顔はどことなく安堵の色を見せている。…ように感じたのは、この男と自分がカルデアで一番長く付き合っているからかもしれない。

「…すまない、助かった」
「いいから、早く手動かしてくださいよ。忙しいのはマジなんですから」
「承知した」

これでこの会話も何度目だろうか。
すっかりいつもの調子に戻った隣の男を盗み見ながらふと疑問に思ったが考えても無駄だと思い直し、出来上がった料理を皿に盛り合わせ始める。あぁ、ホントめんどくせぇ

ーーーーーーーーーーーーーー

そもそものきっかけはつい先日。突然何故か同時期に召喚されたが故に、そりが合わないのに関わらず同室であった赤マント、エミヤがポツリとベッドに潜り呟いた一言からはじまった。


「ランサーが眩しくてツラい」

…今なんか言いましたかあんた。
正直言って最初は長期のレイシフトの疲れが溜まったことによる幻聴か何かだと思ったし、すぐに寝ようとした。

「よく今まであの顔面宝具を直視できたものだな過去の私」
「…」
「というか彼、あんなにカッコよかっただろうか」
「………」
「彼の公式グッズ発売したら溜め込んでたQP全部つぎ込む勢いで課金する自信ある」
「……………………」
「あーーー…尊い」

………なんか隣の布団から語彙力なくしたオタクみたいな呟きが聴こえてくるんですけど、何あれ幻聴でOKなの?しかもあれ、俺に話を聞いてほしいのか、それとも俺が寝てると思って呟いてる独り言なのかどっちだよ。…いや、ここは独り言だと思ってスルーだスルー。触らぬ神に祟りなしってこういう時は云うんだろうん、よし、お休みさよらなgood night

「ーーーなぁ、私はどうしたらいいと思う」
「いややっぱり独り言じゃねぇのかよ!!!」

思わず飛び起きて叫んでしまうと、流石に驚いたのかビクリと隣のベッドが動いたあと、転がっていた男が嫌そうな顔をして起き上がる。

「…いきなり大声を出してびっくりさせるな」
「いやいやいやいや、オタクの突然の独り言か話し掛けてんのかも取りずらい呟きのほうがびっくりするわ」
「別にどっちにとってもらっても構わなかったぞ。どうせ君が寝ていても続けていたからな」
「うわぁーーー……、起きなきゃよかった」
「起きてるのなら聞いてくれ」
「いや聞きたくないんすけど」
「実はだな」
「え、スルー?」

自分を無視して話を進めようとしてくる暴君っぷりにイラッとしつつも何故か話を聞いている自分に嫌気がさすが、ちょっと話の続きが気になってしまうのも事実なので少しだけ話を聞くことにする(結局お人好し)。

「いや、別に大したことではないんだが」
「あーはいはい」
「ランサーに惚れてしまったから一旦座に帰ろうか悩んでてな」
「いや待て待て待て」

よく見ると男の手には果物ナイフが密かに握られており、慌てて取り上げようと身を乗り出した。しかしこちらの行動にいち早く気づいてしまった奴は即座にナイフを俺から遠ざけてしまった。

「おい、取り敢えずそれをこっちへ渡せ」
「何故」
「いい子だから、な?それこっちにくれたら素直に話を聞いてやる、だから早まるな」

なんで就寝前のリラックスタイムに突然目の前で同室の男が隣で自決する姿を見なくちゃならんのだ!!つーか何この展開!!!なんで俺こいつの話進んで聞いているようなスタンスに持ち込んで言ってるわけ?馬鹿なの俺?誰か止めてーーー!!!いや、俺しかいねぇわこの場!!!!

「…ほんとだな」
「ほんとほんと」
「……よし」

果物ナイフを受け取り、即座にそれを胸元にしまい込む。取り敢えず危機は脱した。

「…てか可笑しくね?俺あんたの恋バナ聞こうとしてる筈だよな?なんで木曜サスペンスのラストシーンみたいなやりとりみたいなことしてんの??」
「いや、もしかしたら昼ドラの泥沼展開の可能性も」
「そんなことどうでもいいわ!!」

成人男性2人が1つの布団の上に向き合って正座状するという傍から見たら奇妙な光景は無視して、状況整理をするために口を開く。

「あーー、順を追って確認しよう」
「頼むぞ進行役」
「誰が進行役だバカ野郎…まず1つ目、お前さんはあの青いランサーの兄さんに惚れちまったことは…まぁ良くはないが今は取り敢えず考えずにしといて、これはまぁ合ってるな?」
「…不本意ながらそうだな」
「でだ、ひとつ確認なんだが、それでお前さんが悩んでたのは」
「自害するかどうかだが」
「はいストップイエローカード」

いやそんな意味わからん顔されても困るし、意味わかんねぇし。ロビンフッドが同室の理解できない思考回路に頭を抱えて額をベッドに沈めてしまうと、エミヤは不思議そうに首
を傾げてロビンを見つめた。

「どうしてそうなるんだよ。普通ここはせめて『愛しのランサーと両思いになりたい 』だろうが!!!!」
「…君モノマネ下手だな」
「うるっっせえよ!!」

ーーーあぁ、そうだ。君の言う通り私はランサーに対して劣情を抱いている。しかし勿論、思慕してやまないからといって、私のようなものがランサーと結ばるとは考えていないし、そもそもそんなこと望んでいない。だからせめて、このまま共に戦う仲間の一人として関係を続けたいと感じている。しかし何故だろうな。最近ではこの秘めた想いが溢れ出しそうなんだ。情けないが、彼にバレるのが怖くなってしまって、こんな馬鹿げた行動さえ取ってしまうようになったんだ。

馬鹿だと笑ってくれても構わないぞ。ーーそんなことを言って笑ってはいるがその顔はどこか苦しそうで、このどこか不器用なアーチャーが、あのケルトの英雄に本気で恋をしてしまっていることがイヤでも伝わってしまう。

「…まぁオレはオタクが何しようが、正直どうでもいいし、いなくなってくれた方が1人で部屋を広々と使えますし、何より気に食わない奴の顔を見なくてせいせいするんですがね」
「……」
「でも!!オタクがいなくなるとマスターや嬢ちゃんたちが悲しんじゃうんで、面倒ですけど協力してあげますよ」
「!!…ロビンフッド」
「勘違いしないでくださいよ!!あ、く、ま、で、マスターのためなんですからね。…あと、オタクいなくなったら厨房が機能しなくなる可能性も有り得ますし」

そっぽを向きながら仕方ないと言ったふうに告げるロビンフッドだったが、それがただの照れ隠しと分かるのは、奴と自分が似たもの同士だからだろうか。自分の秘めた想いを誰かにうち明かすことができて少しだけ心が軽くなり、アーチャーはほっと一息つく。

「ーーすまないな」
「もういいって言ってんでしょ」
「では済まないがさっそく作戦を立てていきたい」
「切り替えはやっ」

やっぱりこいつ放っておくべきだったかとはやくも後悔し始めるが、まぁなってしまったものは仕方ないし、このままこいつを放置したままにしておくと面倒事を増やすだけだ。
まぁ、なるようになるか。

ーーーーーーーーーーーー

今思い返してみると、何故オレはこんな面倒な事案に首を突っ込んだんだと言いたい。もしも国民的某青いタヌキの持つ時間を遡れる道具が手に入るんだったら過去の俺を殴ってでも止めさせた筈だ。正直、思っていたよりもめんどくせぇ。

作戦はまぁ簡単だ。つまり、クーフーリンとエミヤが喧嘩をしていたら、ヒートアップする前にさりげなく2人を離れるように施す、それだけだ。しかし、それによって常日頃から好きでもないコイツの側にいなければならないため、何故か周りからコイツとオレがニコイチみたいな扱いにされてしまう。まったく、溜まったもんじゃない。

「ちなみにこの目的は」
「勿論、ランサーと離れるためだが」
「喧嘩してたら自然とあっちもオタクに関わらなくなるのでは」
「それも考えたんだが、奴と喧嘩腰の時は興奮してしまってか何故か距離が近くなってしまって…あの顔面を間近で見てしまうと、思わず本音が飛び出そうになるんだ」

いやそもそもそれ、アンタが奴さんにいちいち嫌味を言いに絡みに行かなければ済む話なのでは…いや、言っても無駄か。

人の気も知らずシラッとしている顔をしている男に心底呆れ、それを打ち消すために目の前にある米を掻き込み赤マント特製味噌スープを啜る。うん、やっぱ日本食って最高だわ。なんと言うかホットするっていうか、妙に体にじんわりと馴染んでしまうこの味、まさにお袋の味というやつだろうか。

「どうだね今日の味噌汁は」
「うん、オタクのこと嫌いだけど、オタクのこの味噌スープは毎日飲んでいてぇと思うほど美味いと思いますよ」
「一言多いがまぁ素直に好意は受け取ろう」

ふふんとどこか得意げで嬉しそうな顔隠せてませんよと言いたいが、それを言うと余計なことを言いそうなので黙っておく。
ちなみに今は既に皆夕食を食べ終えており、この席周りにいるのは遅めの夕食を頂く俺と赤マントだけなので、多少の話はできる。
少し焦げた、それでも十分に新鮮で美味しいシャケを食べ進めながら話を進める。

「ーーしかしロビンフッド、君のおかげで作戦は今のところ無事順調に進んでいる」
「へいへい、そりゃあ良かったですね」
「あぁ、おかげでここ数日はランサーに向き合う時間が短縮され、心がいつにも増して落ち着いている」
「その代わりにオタクを制止するために殆どの時間あんたに付き添わないといけないオレの負担は半端ないですけどね」
「むっ、それは済まないと思っているんだが…」
「…まぁ、乗りかかった船だし別にいいんですけど、そら、そこのキュウリの漬物1口くだせえよ」
「…全く、ほら」

そう言うと目の前に箸でつままれたキュウリの漬物が突きつけられる。何度やられたか分からないが、この弓兵は子供たちにやっているのが癖になっているのか、自分のものを誰かにあげる時、所謂あーんというものをしてくる。最初の頃は同族嫌悪するこの男からアーンなどをやられることが気味が悪くて仕方なかったが、今となっては慣れてしまった自分が悔しい。素直に漬物を口に含むと噛むたびにシャキシャキと歯切れのいい音が聞こえ、そして同時に広がる漬物の瑞々しい旨味に思わず舌を打つ。

「ん…美味いなこれ」
「今回のぬか漬けはいつもより長く漬けておいたからな。いつもより味が出ている」
「へぇ、流石だねぇ」
「ふっ、もう一口やろう協力者よ」
「なんでそんな偉そげなんですか…ん、あー」
パクっ

いつまで経っても訪れない食感な疑問を持ち橋を待ち閉じていた目を開けると、そこには警戒すべき対象である青いランサーがいた。
当の本人は口を動かしており、その度にシャリシャリと密かに音が聞こえてきた。多分赤マントの箸から漬物を奪い取ったのだろう。

「…お、うめぇなこれ」

満足気にカラッと笑うクーフーリンとは対照的に、エミヤは突然の出来事についていけてないのか放心していた。

「……」
「…おい、赤マント」
「…突然どうしたランサー、貴様の分の夕食はないぞ」
「んーー…いや、今師匠たちと俺の部屋で酒盛りしてるんで、ツマミかなんかないかと思って食堂に来てみたんだが、なんか美味そうなの食ってたのが見えたんでついな」

ニカッとあの青いランサーが赤マントに向けるとしては珍しく微笑んでいるので驚いて赤マントの方をちらりと見ると、案の定微弱に体を震わせて何かに耐えている様子だった。
おい、アンタやっとこの数日間この青いのに対して絶妙な対応出来てんのに、ここでボロを出してくれるなよ、マジでホント。
必死にこちらの切実な思いを伝えようと見つめていると、やっとこちらの視線に気づいたのかハッとした顔をして、1度コチラを見たあと、いつものようにランサーに向き合った

「…全く、人の食べかけにさえ手が出てしまうほど飢えているとは…仕方ない、これが食べ終わったら簡単なツマミを作ってやる」
「おっ、マジか。サンキューな、」
「ほら、持って行ってやるから部屋に戻ってろ」
「…あっ、この前の生ハム巻きもまた作ってくれよ」
「分かったからさっさと出ていけ」
「へーへー」

こちらに背を向け手をヒラヒラと振りながら出ていこうとするランサーから目を背ける。

「……っつ!?」

しかしその直後、ふと鋭い殺気を感じとり思わず扉の方へと振り向いた。だがそこにはやはり誰も居なかった。確かに殺気のような気配を感じたんだが…。

「ロビンフッド」

さっきの青い旦那…な訳ないしな。そもそもあの青い旦那とはクラス的にあまりレイシフトを共にしたこともない上、普段もそこまで関わりはないので恨まれる筋合いはない。…気のせいか。

「ロビン!!」
「うぉ!!!何なんすかいきなり!!」
「何度も呼んでるのに反応が返ってこないからだろう。何かあったのか?」
「…いや、何でもねぇですよ。さぁさぁ、俺も手伝うからちゃっちゃと食べ終えて青い旦那にツマミ作りましょうや」
「っっ!!あぁ」
「……」(ガツガツガツ)
「…ランサーの笑顔が眩しい…好き」
「人が折角急いで食べてる途中でいきなり惚れ切るなよ…」
「あんな笑顔を真正面から受けたら惚れてしまうだろうがたわけぇ…」
「あんた既に奴に惚れてるだろうが」

先程の疑念はすっかり頭から抜け、目の前で絶えずいかにクーフーリンの笑顔が輝かしいかを語るエミヤに律儀に相槌を打ちながら、何事も無かったかのように食事を進めた。

ーーーーーーー

もしかしたらあの夜からかもしれない。


「おいアーチャー、久しぶりに釣りでもどうだ」
「なぁなぁ、今日は唐揚げ食いたいんだけど、作ってくんね?」
「シュミレーションルーム行こうぜアーチャー!!」


…最近、何故かあの青い旦那が赤マントに構うようになった。いや、確かに以前からなんだかんだ言って2人で行動しているのは度々見かけたことがあったが…それでも以前よりも格段に青い兄さんは赤マントに絡みに行く頻度が増えている。

「なぁ、アンタあの青いのに何かしたのか」
「するわけないだろ。私は日々を穏やかに過ごしたくてランサーとは前よりもあまり関わらないようにしてる筈だ」
「だよなぁ…」

ランサー対策のために不本意ながらいつにも増して赤いのと共に過ごす機会が増えてしまったオレさえそう思うのだから、なんの問題も無いはず、なんだけどなあ。

「クソ、あの駄犬め!!私がせっかく貴様に不快な思いをさせないために距離をとってやっているというのに何故近付いてくる?!!そもそもなんで私が何処にいるのか直ぐに探し出してしまう!?貴様は警察犬か何かか…いや、ストーカー犬という方が正しいか」
「落ち着け」

そもそも、素直にランサーを蔑ろにしないこいつもオレは悪いと思う。思い切って1度奴に嫌われる態度をとればわざわざ奴は近寄ってこないんじゃないか?…いや、多分こいつなんだかんだ言ってチョロいから、拒絶しようとしてもうまい具合に誘い出せば相手に載せられちゃうんだろうなぁ。

「くっ、このままではランサーに私の想いがバレるのは必然……よし、死のう」
「はいぼっしゅーーーー!!!!」
「ええい離せロビン!!!私の心を道連れに私も死ぬーーー!!!!」

暴れ出す赤マントを押さえつけながらベッド横の棚に赤マントが投影した果物ナイフを投げ入れ、引き出しに再び鍵をかける。
いい加減自暴自棄になると果物ナイフ投影し出すのやめてくれよほんと。取り上げんの地味に大変なんだよ。
オレの引き出しの中何本果物ナイフがあるんだよ。つーか最近有り余る果物ナイフを配ってたり常備果物ナイフ持ち歩くせいで周りから果物の皮剥きが趣味の変人やらカルデア内で殺人を目論む犯罪者予備軍やら言われてるんですけど。

何とか目の前の赤マントが大人しくなるまで押さえつけることができ(ほんとコイツより筋力あって良かった)、本人に暴れる意志が無いことを読み取って手を離す。

「…落ち着きましたね」
「……あぁ」
「じゃあ作戦第二弾に移りましょうか」
「…は?」

ーーーーーーーーーーー

作戦は又もや簡単。青い方が近づいてくるから絶妙な距離感が取れないのなら、こちらから近づけばいいのだ。
というわけで現在、ごねる赤マントを無理やり部屋から追い出し、ツマミと酒を持たせてランサーの部屋の前に立っている。
名ずけて「酔っぱらってランサーを嫌がらせよう大作戦」だ。

「いや無理無理無理」
「大丈夫だって、あんた尋常じゃないくらい酒弱いし上に記憶も吹っ飛ぶんだから」
「ランサーに醜態を晒すなんてそんな真似出来るか。バカなのか、顔のない王(笑)は正常な思考回路を持つ脳みそもないのかね」
「テメェマジいつか痛い目見せてやるからな。…酒に酔ったオタクの面倒くささはオレが1番わかってる。その姿を見せれば、大抵のやつはあきれて離れてくれるだろ…あの青いのも、きっと今までの距離感に戻ると思うぜ」

それを言われて自分の酒の弱さや自分が酔ったことでロビンが被った数々の面倒事を常々聞いていたことを思い出した。
現状を打破するためには、少しの被害

「…本当だな」
「ほんとほんと」
「…じゃあ」

(ドンドンドンドンドン!!!!)

そしてロビンフッドはエミヤが小さく頷いたのを確認するまでもなく、力強く扉を叩き始めたかと思えば、あっという間に曲がり角の影に隠れた。
(なんでさぁぁぁぁあぁあ!!!!)
あとを追いその場から逃げようとエミヤは足を動かそうとするが、それよりも先に目の前の扉が非情にも開いた。

「…あん?なんだ、アーチャーか」
「ひぇ」
(で、でたぁああああ!!!)

予想通り目の前にいたのは自分の想い人であるランサーのクーフーリンだった。先程までシャワーを浴びていたのかぽたぽたと髪から雫が垂れており、それが光に反射することで彼の美しい髪が引き立ち、とても幻想的に見えてしまう。上半身は裸であり、彼の細身ながらも鍛え上げられた彫刻のような肉体がさらけ出されているせいで、ものやり場に困り視線を逸らす。ドキドキと鼓動が煩いが、ちゃんと私は平然としているだろうか。顔は赤くないだろうか。
そもそもなんでこんなことになったんだ。私が何をした…ロビンめ、絶対この1週間は厨房当番から外させてやらないからな!!!

しかし内心混乱のあまり心の中で目を回しているこちらの気なんか知らず、ランサーは何故か嬉しそうにこちらに話しかけてくる。

「お前が俺の部屋に来るなんて珍しいな…こんな時間になんか用か?」
「…いや何、折角いい酒を酒呑童子から貰ったはいいが、私はあまり酒に強くなくてな…良かったら一緒にどうかと思ってな」
「え」

ほらだから言ったじゃないか、私なんぞがランサーに晩酌を誘うなどしたら不快な思いをさせてしまうに決まっている!!だから見てみろ、ランサーだって嫌がって断るはず

「ん、いいぜ」
「いやすまないで過ぎたことを言ってしまった断ってくれてありがと…は?」

彼は今なんといった?彼は私の誘いに対して拒絶を示すはず。それがなんだ、先程いいぜと聞こえた気がするが、私の聞き間違いだろう、うん。ここはスルーして一旦出直そう。

「では失礼する」
「待て待て待て待て。お前から誘っといて何で出てくんだよ」
「うっ」
「なぁ、お前と酒飲ましてくんねぇの?」

うぅ…やめろ、そんな捨てられそうな子犬みたいな目で私を見つめるんじゃない。そんな顔してもダメだ私は決めた帰る、部屋に帰るんだ…ひぇっ、近い近い近い顔面宝具を近づけるんじゃあない…あぁ゛ーーヤバい顔がいい、どうしてこんなに顔がいいんだしんどい。あ、やめてくださいお客様、逞しい腕で俺の腰を抱こうとしないでください…あ、変な声でそう……。

「…いいだろう、誘ったのはコチラだしな」
「じゃあ早速部屋に」
「だ、そうだロビンフッド。ランサーの了承を得られたぞ」

何故か腰に腕を回してくるランサーから逃れ、役目は終わったとばかりにその場をあとにしようとしていたロビンを捕まえて物陰から引きずり出した。

(ちょっとオタク何してくれてんですか!!もう俺の役目終わったでしょ)
(ムリムリムリ、奴と二人きりでなんて居られるわけないだろう!!頼むロビン、そばに居てくれ)
(オタクが今そばに居るべきなのは青いのであってオレじゃないでしょ!!!1人で行ってきなさい!!)
(お願いだ私たちは同じ部屋で一夜を共にする仲じゃないか)
(誤解を招くような言い方やめて!!?)
(大丈夫、大丈夫。俺ならできるI can fly!!)
(飛んでどうするんですか逃げる気ですかさせねぇよ?)
(Can you fly?)
(飛べたらどんなに良かったかって今なら思えますよ)

ランサーに聞こえないぐらいの声でコソコソとふたりして話していたが、突然大きな舌打ちが聴こえてきたことにより会話は中断され、2人してそちらを振り向くと部屋の前の壁にもたれ掛かりながら苛立ったようにコチラを睨み受けながらランサーがいた。

「で?酒飲むの、飲まねぇの?」
「「飲まさせていただきます」」

ーーーーーーーーーーー

というのが今から2時間ほど前のことだった。あれから無事クーフーリンの部屋に入り(意外と小綺麗にしていて意外だった)、来る前にエミヤが拵えたツマミとロビンフッドが事前に用意していた酒瓶数本を用意した。散々な始まりだった飲み会は滞りなく進み、上手く事が運んでいく予定だった。…只でさえ酒に弱すぎる赤いのが緊張のあまり飲酒のペースを見誤るまでは。

「ローービーーンーー!!」
「…なんですか」
「いってみただけだ!!」
「…はいはい」
「ろっびん!!」
「その発音だと違う奴になるくね。あといい加減頬ずりやめてくださいよ」

めっ、とすっかり出来上がったエミヤを押しのけると素直に引いたのでやっと諦めたかと思ったが、次は爪楊枝に枝豆をちまちまと刺しながらこちらに差し出してくる。素直に受け取ると嬉しかったのか、またせっせと作り始めた。
ーーいや、可笑しいだろうが。当初の予定では酔っ払う→ランサーに絡む→ウザがられるだった筈なのに、俺に絡んでどうすんだこのバカ!!だから酔うのも程々にと言ったのに、なんでオタク初めに焼酎のんじゃった?オタク用に度数の低いやつ用意したのに!!甘くて美味しいからって高い方飲んじゃだめでしょ!!!?

「なぁ」
「はいっ!?」

やっべぇよすっかりターゲットの存在忘れてたよ。何かほっとかれたからか機嫌悪そうだし、何とか作戦結構しねぇと

「いやぁ、この人酔うといっつもこうなっちゃうんですよ!!嫌になっちゃいますよホント!!可愛い女の子にならまだしも、俺よりムキムキな野郎に絡まれるなんてどんな地獄だっつー話でしょ!!」
「…まぁそうだろうな」
「でしょでしょ?!」
「…はぁ…おい弓兵、ロビンが困ってんだろうが。こっち来いよ」

おおっとまさかの本人からのファインプレーキタよコレ。流石空気の読める男はちげえな、いや感謝カンゲキ雨嵐とはこのことだな。さて赤い弓兵さん、相手方の気遣いを逆手に取ってミッションスターーー

「いやだあぁあああ!!!!」

いざ己に纒わり付く赤マントをクーフーリンに開け渡そうとすると、とうの赤マントは手を伸ばしてきた旦那の腕を叩き落とし、再び己に抱きついてきただけでなく幼児退行したように泣きじゃくり始めた。

「ちょ、赤マントなにすん」
「らんさぁやだぁああ!!!!!」
「はぁ!?まっ、痛い痛い髪の毛引っ張らないで!!」
「ろびん、ひぐっ、、ろびんんん゛゛!!」
「…おいおい」

泣き止まないエミヤを見てふと思う。こいつは酒に酔うと途端に幼子のような行動をとりだすだけでなく、その理性さえあまりなくなってしまう。普段すました顔や態度をしているが、多分酒に酔って抑えていた感情が爆発しているのだろう。理性がある時でさえクーフーリンのそばに居ることを恐れていたのだ。それが酔った勢いとはいえ、いきなりクーフーリンの元にイケと言われ無理矢理連れて行かれそうになっただけで、幼児退行しているとはいえ、あのエミヤがキャパオーバーで泣いてしまうということは余程本人にとって耐え難いことなのだろう。ここは素直にコトを収めて引き上げた方がいいのかもしれない。
ーーーしかし事態は急転する。

「おい」

それは短い一言だったが、言葉には他者を震えさせるには十分な冷たさを含んでおり、場の騒ぎを収めるには十分だった。

「弓兵、貴様いい加減にしろ」

殺気立ったクーフーリンからの、激情を含んだその余りに鋭い眼光を向けられ、思わず身震いする。しかしその最中、自分の腕の中にいるエミヤが小刻みに震え、クーフーリンに対して怯えているのを見ると、エミヤを支える腕に力が籠る。

「…ちょっと、確かに赤マントが泣き止まないでイラつくのもわかるんですが、そんな言い方ないんじゃないんですかね?」
「…うるせえ、大体テメェが普段からそいつを甘やかしすぎるから悪いんだろうが」
「別に普段から甘やかしてるつもりもないんですけど、ーー誰かさんが理性のない犬っころみたいに短気だからそう感じてるだけじゃないのかともオレは思うんですけど」
「ーーー貴様、」

相手が槍を出そうとする前に己の武器を取り出し構える。とりあえず青いのの相手をしながらその隙に赤マントを逃がして、それから


「…や、、ン」

「「あ?」」

「…やめて、くれ。っ、ロビンは、わるくない、、ランサー、たのむっ、、」

か細くコチラを制する声の主は床にへたり込むエミヤで、涙を流しながらもオレの履物の裾を握りしめ、必至に訴えかけてくる。目元は既に赤く腫れていて、こちらに縋りつくエミヤの姿は見ていて痛ましい。エミヤの泣き顔に流石に焦ったのかクーフーリンは取り出そうとしていた武器を終いあわててコチラに近寄ってきた。エミヤの側まで近づき目線を合わせるようにしゃがみこむと、幼子をあやすように頭を優しく撫で始める。エミヤは最初は怯えながらもその手つきの気持ちよさに次第に表情が柔らかくなり、いつの間にか絶え間なく流れていた涙は止まっていたので、両者ともにほっと一息つく。

「ーーー何も悪いことなんてしねぇよ」
「…ほんとうか?」
「おう。ちょっと俺が子供じみてたのがいけなかったんだ、すまん」
「…ふふっ。それなら、いい」

素直に謝るクーフーリンに安心したのか、多量に飲酒をしていたエミヤは直ぐに眠りについた。寝顔は先程とはうって変わり穏やかで、乱れた髪も相まっていつもより幼くみえた。それを見ながら髪を撫で続けるクーフーリンの顔も、見たことがないほど穏やかで、慈愛に満ちていた。普段では考えられない二人の姿に驚きを隠せないが、なんとか事が収まったことにひとまず安堵する。
しかし、すっかり寝入っているエミヤをクーフーリンが抱えようとしているのを見て、すかさずそれを制そうとする。流石に赤マントが青い旦那にお姫様抱っこされてベッドまで運ばれたという事実を本人に知られたら、こちらもとばっちりを食う。

「いや、布団で寝かすんだったら俺が部屋まで運ぶからいいですよ」
「…そうかよ。ーーだけど勘違いすんな。オレは諦めてねぇからな」
「…はい?」
「こいつの心が今はテメェにあっても、アーチャーは俺のものだ」
「いや、どういう」


突然訳のわからないことを言い出すクーフーリンに困惑していると、エミヤを押し付けられ、ドアのところまで連れていかれ廊下に出される。


「テメェらの関係を俺に見せつけて俺を抑止しようとしたって無駄だぜ」
「俺はどんな事をしてでも俺の運命を、アーチャーを必ず手に入れてみせる」
「どんなにアーチャーがテメェを好きでも関係ねぇ」
「最後にコイツが選ぶのは、この俺だ」

こちらが声を発するのを制すように勢いよくまくしたてたかと思えば、オレに見せつけるように息をつく間もなくエミヤの唇に己のものを押し付けた。時間にしてみたらほんの僅か間だったのだろうが、この時は何故か永遠に感じた。離れがたそうにエミヤを見つめるランサーの顔は愛おしげで、まるで愛する者との別れを惜しむ恋人のように見えた。

「おやすみアーチャー…ーーーじゃあな、恋敵」

ピシャリと扉が目の前で閉まる。
エミヤを抱えながら歩いているといつの間にか自分の部屋の前まで帰ってきていた。部屋に入ると直ぐに腕の中で呑気に寝てる奴を布団に転がし、自分も己の布団にダイブするように飛び込む。疲れを癒すようにフカフカの布団に顔を埋め込みながら無造作に横になっていると、先程よりも落ち着いてきた。だから思う



「………え?」


ーーーーこの時のオレはまだ知らなかった。青いランサーだけでなく、カルデアにいる殆どの奴らがオレと赤マントが懇ろの仲であると勘違いしていることを。ーー実は両想いであった二人が赤マントの鈍感さ故にこの先も中々くっつかず、そしてオレらの関係の誤解も解けずに、クーフーリンの恋敵(偽)のオレが巻き込まれクーフーリンの結婚が再び行われることもーーーさらにその後、クーフーリンがオレに淡い想いを寄せていると何故か思い込んだエミヤが、オレと青いランサーを恋仲にしようと目論む事態に発展することも…神のみぞ知ることだろう。

ーーーーーー


(設定)
ロビンフッド…今回の被害者。エミヤの秘密を知ることで事態に巻き込まれ、何故か本人の知らぬ間にエミヤの恋人()になっていた。エミヤのことは自分と似ている部分が多いと感じるため嫌い合っていると思ってはいるが、なんだかんだ言って仲はそこまで悪くない。無意識にエミヤに気を許しているからこそエミヤとの距離が近いことを本人は無自覚。取り敢えず自分をこのゴタゴタから解放してほしい。

エミヤ…ランサーに絶賛片思い中。ロビンフッドのことはそこまで好きではないが、信頼はしている(今回の事態に巻き込んだ要因)。なんだかんだロビンフッドに甘えてあたることはこちらも無自覚。ランサーと付き合いたい訳ではなく、ある程度の距離感でいたい。今までの現界の記憶はなし。

クーフーリン(槍)…エミヤに絶賛片思い中。エミヤとは今までのどの召喚においてもお互いそういう仲になってきたし、エミヤが今回の現界においても自分をそういう目で見てると感じていたので安心しきっていた。しかし召喚されてから暫くしてロビンフッドとエミヤが付き合っているという噂を聞き、最初は半信半疑だった…が、今回のことで確定しました、恋敵はあの緑の弓兵です絶許。

Comments

  • わんわんお
    September 20, 2024
  • nana_nag

    素敵な作品をありがとうございます☺ ロビンが不憫ですね…笑 個人的にはエミヤがロビンとランサーを恋仲にしようと目論む話が読んでみたいです!! あと気になったんですが、嵐のファンなんでしょうか?感謝カンゲキ雨嵐は感謝感激雨あられをもじった曲名なので…!

    August 16, 2019
  • そー
    August 8, 2019
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