しゅがーすぷれっど
槍弓とライダーとキャスター、泥酔したアーチャーがランサーが恋しくなってライダーによしよししてもらう話/女の子に可愛がられる弓好きです/いつも評価やブクマありがとうございます!!お蔭様でルーキーランク16位20位&女子に人気81位をいただきました!!感謝です!!
- 808
- 760
- 13,561
アルバイトを終えたランサーは残った店主に軽く手を挙げて挨拶をし、店へ背を向ける。
いまだ気温の低い冬木で、外見上のカムフラージュとして購入した濃蒼のダウンジャケットの襟を立てて、気のいい店主から貰ったお土産を一瞥すると空気を花やがせた。
今日の戦利品はアジが三尾に立派な鯖が一尾、残り物で悪いねーと言われたが、料理上手の知り合いが多いランサーにとっては宝にも等しい。
今日の夕飯も品が増えるだろう、ならば早めに連絡を入れなければならない。言う時間が遅くなればなるほど比例して姑の小言が増えるのだから。
ちょっと前は飛び込み当たり前の己が見事に調教されたものだ。胸中で苦笑したランサーが、早速連絡をしようとポケットの携帯電話を取り出した時、ホーム画面にずらりと並んだ着信履歴が目に飛び込んだ。
「んだぁ?これ」
それは携帯を購入した際、義理程度に番号を交換したキャスターのメディアからの連絡だった。
携帯を手に入れてから初めて表示された名前といくらスクロールしても先が見えない履歴数に、驚きよりも不審がる気持ちが勝る。
かけ直して良いものかランサーが迷っていると、ちょうど新しい着信が携帯を揺らす。
目の前で鳴ってる以上無視するのも変な話で、ランサーは警戒しながら緑色の着信ボタンを押した。
『ちょっと!あなた今どこにいるの!』
瞬間耳を突き抜けたキャスターの怒鳴り声にランサーは堪らず携帯を遠ざける。
キンと痛む鼓膜を押さえたランサーは、アルバイト後の程よく疲れた体が抗議をあげるのを感じながら、電話口へイライラとした口調で吐き捨てた。
「どこって…バイト終わったところですが何か?」
『今すぐ坊やの家に来なさい!駆け足!』
「あぁ?なんでお前に…ッ、ったく」
しかしランサーの喧嘩腰に怯むキャスターではない。カウンターを受けたランサーがさらに聞き返そうとした時には、ブツッと電話の切れる音に続いて無音が広がる。
行き場のない苛立ちを大きなため息で誤魔化し、女のヒスって嫌だね〜と嘯いたランサーは仕方なく地面を蹴ってサーヴァント憩いの場、衛宮邸へと歩を進めた。
手馴れた様子で門を潜り、ガラガラと玄関を開けたランサーは、靴を脱ごうと屈んだ瞬間体へ落ちる影に気づく。
眉間にシワを寄せたランサーへ腰に手を当てて何故かムカムカとしているキャスターは、有無も言わさずランサーの腕を掴んで引っ張った。
「遅い!もうっ、早く来て」
「だぁからなんなんだよ!引っ張んな!」
ランサーの文句も何処吹く風のキャスターにぐいぐい引っ張られ、強引に居間へ連れてこられたランサーは、苛立ちも何もかも吹っ飛ぶ光景に目を丸くさせることとなる。
普段とかわりない居間で座布団に座っているライダー、そしてその膝の上に座って抱っこしてもらっているアーチャー、アーチャー…
「アーチャー!?」
思わず叫んだランサーの声に触発され、ライダーの肩に額をつけて大人しくしていたアーチャーはぴくっと顔を上げうろうろと辺りを見渡すように首を回す。
明らかにおかしい様子と動きからして覚束無い危うさがあり、ランサーは視界の端を掠めた酒瓶でいろいろと察した。
「ほらアーチャー、ランサーが帰ってきましたよ」
男1人膝の上に乗せて平然としているライダーがアーチャーの肩をぽんぽんと優しく叩く。
アルコールが入って熱い頬をライダーの肩につけていたアーチャーはライダーが促す先を見て、居間の入口でぽかんと突っ立っている待ち人へ一気に瞳をキラキラとさせた。
「…ん?ランサー!」
「は?えっちょっうおっ!?」
ぐだぐだに溶けていた体が嘘のような、猫じゃらしへ飛びつく猫のように俊敏な動きでアーチャーがランサーへ抱きつく。
突如のしかかった重みはぐっと堪え、普段のツンツンが欠片も残っていない顔でぎゅうぎゅう抱きついてくる筋肉だらけの重い体をランサーは抱え直した。
「なんだよどうしたよ、何なんだこれ?体熱いな、お前」
猫ならごろごろ喉を鳴らしてるだろうご機嫌なアーチャーの顔にぐらっと揺らぎかける気持ちに喝を入れ、アーチャーを抱えたまま経緯を知っているライダーとキャスターへ交互に視線を向ける。
ひと仕事終えたように艶やかな髪をなびかせて座布団へ戻ったキャスターに促され、ライダーは目の前でわちゃわちゃと絡み合う男2人へ表情ひとつ変えずに口を開いた。
「アーチャーがランサーに会いたいと言って駄々をこねるので。アルバイト後のお疲れのところ、失礼しました」
「こいつが?何事だよ」
「見ての通りよ、少し飲ませたらすぐに潰れちゃうんだから情けないこと」
はぁとため息をつくキャスターに、やはり予想が的中してランサーは肩をがくりと落とす。やはりというべきか、原因は酒だった。
併設されたキッチンの方を見てみれば微かに空の酒瓶で黒々と染まった陣地が見え、キャスターの言う『少し』に審議の余地が大いにあることを察しながら、賢いランサーは閉口した。
状況を把握して、それでもアーチャーが駄々をこねるという冗談でも出来すぎなワードへ聞き返そうとしたランサーは、自身の肩を微かに揺らす酒気交じりの熱い吐息に視線を落とす。
「ランサー……らんさー…」
そこにはランサーの体にぴっとりとくっつき、なんとも幸せそうな顔でぐりぐりと頬摺りをするアーチャー。
もうこれだけで語るに足りている、ランサーは肩をすくめるとアーチャーを抱っこしたまま足で器用に自分の分の座布団を広げた。
「はいはいもうどこにも行かないっての。ちょっと席開けてくれや、俺も座らせてくれ」
アーチャーをくっつけたまま畳へどかっと腰を下ろし、ランサーはふぅーと深い呼吸をした。
ようやくつけた一息に、続けてランサーは愛すべき煙草へ手を伸ばそうとする。家主から再三やめてくれと求められていてもその手は止まらない、というか止める気は無い。
ごそごそと懐を探る動きに何を思ったか、ひっついてから大人しかったアーチャーがもぞりと動いた。
しょぼしょぼとした鋼色の瞳で至近距離の赤を見つめ、起きたかとランサーが呟こうとしたその時、じっと注がれる熱視線はゆっくりとほどける。
とろけるように甘く、恋しさが満載された微笑みに、ランサーは一瞬で心臓を射抜かれた。
そんな滅多に見れない表情に、ランサーは心臓を鷲掴みにされたような狂おしい愛しさがみるみるこみ上げる。
「とれーす、おん」
「えっおま!?」
外野なんて知ったことかと抱きしめようとしたランサーの腕を絡めとったのは冷たい鎖、酔っ払いのうわ言にしては物騒なトリガーはこんな時でもご丁寧に発動してしまう。
「天の鎖、ですね」
ライダーの冷静な声に天を仰いだランサーは、虚空に広がる金の波紋に唇を噛む。
アーチャーが投影した天の鎖は酔っ払いが作り出したにしては精巧すぎる。ギシッ軋む鎖の強さに神性持ちのランサーはなす術なく、一気に狭まった活動範囲に、煙草は諦めざるを得なかった。
ぱたりと体の上に落ちたランサーの手にアーチャーは満足したように微笑み、だんだんと安らかな寝息へと変わっていく。
「あーあー寝ちまったし、これじゃこいつが起きるまで離れらんねぇじゃねぇか」
「文句を言うならそのだらしない顔を少しは引き締めたらどう?」
やれやれといいたげな様子でもランサーから溢れ出る喜色は隠しきれていない。
糖蜜へさらに砂糖を追加したような甘ったるさ、聞いている方がむず痒くなるようなハチミツよりもとろけた声で文句を言ったところで、誰が誤魔化されるというのか。
滅多にないアーチャーとベタベタ出来るチャンスに、ランサーの手はわきわきとうごめいて腕の中のほかほかの体を撫でる。
チクッと刺してくるキャスターの言葉の棘もものともせず、デレッデレに緩んだ顔でランサーは首を振る。
「せめて着替えさせてくれればいいのによー」
「脱がせるくらいなら手伝ってあげてもよくってよ」
「脱がせるってそれ宝具じゃねぇか。しまえ、そんな物騒なもの」
あまりに締まりのないランサーへピキッと額に怒りマークを浮かべたキャスターがルールブレイカーを取り出す。
ごごご…と聞こえてきそうな殺気をランサーが牽制している間、心地よい夢の世界にアーチャーは微笑みを見せていた。