⚠注意
・士弓。
・カニファン時空のような、何でもありなご都合設定。
・細かいことは気にせずフィーリングで読んでください。
・倉橋ヨエコ様の『卵とじ』という素敵な曲がイメージソングですが、解釈等は個人的なものですので、そういった点に関してはこういう考え方もあるんだ程度に思ってくださると幸いです。
以上の注意事項を理解し、守っていただける方は、お付き合いくださいませ。
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「『言えない気持ちを卵とじ〜』……」
つい、口をついて出たのは、どこかで聞いたことのあるメロディと歌詞。
いつものように台所に立ち、卵焼きを作っていたからだろうか。
気になるあの子のためにお弁当を作る、みたいな内容だった気がする歌詞が、頭で浮かぶよりも先に口から出るくらいには覚えていたらしい。
あまり意識していなかったが、改めて歌詞の内容を考えてみると、あぁ確かに今の自分の状況に似ているかもしれない。なんて思わず笑みが溢れた。
「士郎?どうかしたのですか?」
「あ、セイバー。おはよう」
「おはようございます」
声が聞こえたほうを見ると、青と白を基調とした服に身を包んだセイバーが立っていた。
朝の挨拶を交わすと、セイバーは俺の手元を見て満面の笑みになる。
「卵焼きですか!?」
見かけによらない食欲は相変わらずらしい。
その勢いに思わず笑ってしまった。
「あ、士郎!なぜ笑うのですか!」
「ごめんごめん。卵焼き1個おまけするから許してくれ」
「!」
俺の言葉にセイバーのアホ毛がピンと立つ。
まるでアンテナみたいだ。
「わ、私はそんなことで許すほど安い女ではありません!」
「じゃあおまけはいらないか?」
「いります!」
食い気味にそう答えるセイバーに俺はまたしても吹き出してしまう。
「あ!また笑いましたね!?」
「ごめんって」
「もう……そう言えばさっき歌を歌っていませんでしたか?」
「あぁ、聞こえてた?」
「微かにでしたが」
聞こえるくらいの声量で歌っていたのか、と自分のことなのに驚いた。
無意識で口ずさんでいたものだから全く気がつかなかった。
「なんの歌ですか?」
「うーん…昔聞いたことがあっただけであんまり知らないけど、たしか…『卵とじ』って歌だった気がする」
「卵とじ?」
セイバーは不思議そうに首を傾げる。
「うん。気になるあの子のためにお弁当を作るみたいな歌詞だったと思うんだけど」
「それで卵とじなんですか?」
「はは、変わってるよな」
俺も昔初めて聞いた時にそう思った記憶がある。
なんで卵とじなんだろうって。
「……気になる人がいるんですか?」
「え?あぁいや、なんとなく思い出しただけだよ。ちょうど卵焼きを作ってたし」
「なるほど」
セイバーは納得したように頷き、テーブルを拭きに居間に戻った。
けれど、さっきのセイバーへの返答には、ほんの少しだけ嘘も混ざっている。
一応、「気になる人」に当たる人物はいるからだ。
今も頭に浮かんでいる。
体のラインがはっきりと出る黒のインナーと赤い服、オールバックにした白髪をたなびかせ、不敵に笑っている。身長が高くて、肌は褐色。筋肉がしっかりついているのに、腰はきゅっと締まっており、長い脚はすらりと伸びている。ぞわりとするような低音のいい声が、嫌味と皮肉を流れるように紡ぐ。
──その男は、アーチャーという。
またの名を、『衛宮士郎』。
俺の、未来の姿でもあった。
未来の自分が目の前に現れ、俺を殺しに来るだなんて誰が想像できるだろうか。
まぁ、実際にそうなったし、幸いお互いに死なずに穏便に解決できた…と思う。
それでもアイツは相変わらず『自分』のことが嫌いらしく、そのカテゴリの中にはアイツ自身も俺も含まれているようだ。
だから、アイツは極力俺に会わないように行動してくるし、俺に会った途端、皮肉小言嫌味のオンパレードなのだった。
俺もアイツのことなんか嫌いだった。
─そう、嫌い「だった」。
今は、嫌い、ではない。
アイツのことを知るたびに前よりもアイツのことを好意的に思うようになっていたのだった。
俺自身もなんでだよと思ったし、結構悩んだ。
でも、「俺」と「アーチャー」はもう別人だからいいんじゃないかと思った。
同じ『衛宮士郎』ではあるが、俺の前にアイツが現れて、未来の自分の姿を否が応でも見せられた時点で、俺は「アーチャー」とは違う『衛宮士郎』になったのだと思っている。
多分アイツ自身もそう思っているのだろうけれど、それでも自分嫌いなところは変わらないらしい。
だからアイツには徹底的に避けられているのだが……俺としてはアイツともっと仲良くなりたい。
でも、そのためにはまずアイツと会わなければならない。
だが、アイツは絶対に俺の前に姿を現さない。
どうしよう。
よし、とりあえずお弁当を作ろう!
……という流れで今に至るわけだが。
安易だしなんでそこでお弁当になるんだって感じだが、悩みすぎて頭がパンクしそうになっていた俺の現実逃避でもあったのだ。
アーチャーのことを考えすぎて最近睡眠不足だし、これではまるで歌詞の通りじゃないかなんて頭を抱えそうになる。
そんなことを考えていると、居間に人が集まってきてだんだんと騒がしくなってきた。
相変わらずの賑やかな朝の食卓だ。
さすが大家族並の人数がいるだけはある。
そうして忙しなく朝ご飯の準備をしているうちに、一旦俺の頭からアイツのことは抜けていた。
「そう言えば、アーチャー知らない?」
「へ?」
準備がひと段落し、皆で食卓を囲んでいたときに、思わぬ爆弾であった。
遠坂から俺に向かって投げかけられた問いに、俺は動揺を隠しつつ答える。
「…なんで?」
「最近見てないのよ。アーチャー、貴方と再契約したじゃない?」
そう。
なんやかんやあってセイバーは遠坂と、アーチャーは俺と再契約したのだ。
今でも信じられないけど。
「……アイツ絶対俺の前に姿現さないからなぁ」
「相変わらず嫌われてるのね」
さも面白そうに笑う遠坂は、完全に他人事だ。
まぁ実際、他人事なのだろうけれど。
「でも魔力が不足する前にちゃんとしとかないとダメよ?ただでさえアンタの魔力は少ないんだから!」
ビシッと人差し指で指されて、全くもってごもっともな言葉に俺は何も言えない。
「……あぁ、なんとか頑張るよ」
「頑張るじゃなくて、絶対にやるのよ!」
「…わかったよ」
言うことを言って満足気に食事に戻る遠坂と反対に、俺は食事に集中出来なくなってしまった。
どうしようか。
アーチャーが素直に応じてくれるとも思えない。
俺が呼んでも応えないし、姿も現さないのだから、正直どうしようもないのだが。
それでもサーヴァントにとって魔力は不可欠なものだ。
アイツのことだから、魔力がなくなっても消えるだけだ、とかなんとか言って本当に消えかねない。
何とかしてアイツと話をしなければ。
朝ご飯も終わり、片付けをし、洗い物をしつつ、俺はあの男のことを考えていた。
今日は休日だ。
女性陣は女子会らしい。
昼食はいらないと言われているから、昼の心配はしなくていい。
俺は家で、家事をしつつアーチャーに会う方法を考える。
普通サーヴァントはマスターが呼んだら来てくれるものだと思うんだが。
アイツは俺が呼んでも絶対に応えない。
洗い物を終え、テーブルを前に正座する。
テーブルの上には、ぽつんと弁当箱を風呂敷で包んだものが置かれている。
結局お弁当を完成させてしまった。
だが、渡そうにもアイツはここにはいないし、俺が探しに行っても絶対逃げるから、渡せない。
しかしこのまま無駄にするのももったいないし、何よりアイツに負けたみたいで癪だ。
よし、と覚悟を決めて、俺は家を出る準備をする。
何がなんでもアイツに会ってこれを食べさせる。
絶対に。
そう心に決めた俺は、戸締りをきちんと終えて、家を出た。
まずは商店街にでも行ってみるか。
─そうして、俺はアーチャー探しの旅に出たのであった。
だが。
いない。
いない。
……………どこにもいない!!
「くっそ!!アイツどこにいるんだ!?」
アーチャーはどこに行ってもいなかった。
途中でバイト中のランサーには会ったが、ランサーも知らないと言っていた。
アイツ忍者か何かかよ。
そう思ってしまうくらいには、アイツの気配がどこにもないのだった。
「………むかつくっ…!」
こうなったら意地でもアイツを見つけ出してやる。
俺は改めてそう心に決めた。
───しかし、結局夕方になっても、アーチャーは見つからなかった。
「くっそ……!なんでいないんだよ……」
いい加減にしろ、と言いたくなるくらいに俺は疲れきっていた。
体力に自信はあったが、それでもさすがに一日中歩き回っていたら疲労は溜まる。
もう夕焼けが綺麗だ。
深くため息をついて、俺はベンチに腰掛けた。
「………どこにいるんだよ、アーチャー」
「ここにいるが?」
「うおっ!?」
返事なんて求めずにぽつりと呟いた言葉に、思いもよらない返答がきた。
驚いて横を見ると、いつの間に現れたのか、一日中探し回っていた男がいた。
黒いシャツに黒いズボンという真っ黒なコーディネートに身を包んだ白髪褐色肌の男は、馬鹿にするように笑う。
「何の用だ」
「おっ前……!どこにいたんだよ!」
「貴様には関係のないことだろう」
「大ありだ!!お前のせいで俺がどんだけ歩き回ったと……!」
「人のせいにするな。貴様が勝手に探し回っていただけだろう」
「っ……!」
どこまでも皮肉屋なこの男は、そう言って不敵な笑みを浮かべる。
ムカつくが、今日は喧嘩をするためにコイツを探していたわけではない。
今日の目的である物を取り出し、俺はアーチャーに、もうすっかり冷めきってしまった弁当箱を包みごと強引に押し付ける。
アーチャーは、受け取らずに黙って弁当の包みと俺を見ると、ふっと笑った。
「……言えない気持ちでもあったのか?」
にやりとからかうように弧を描く口元を見て、俺は驚きに目を見開いた。
「…知ってるのか」
アーチャーの口から出たのは、俺が弁当を作るきっかけとなった今朝思い出した歌の歌詞だった。
俺がそう問うと、アーチャーは先程の不敵な笑みから憮然とした表情へと変わり、呟くように言った。
「……なんとなく思い出しただけだ」
……やっぱり俺とコイツは同じかもしれない、なんて馬鹿なことを考える。
別にたまたま同じ時に同じことを思い出すくらいのことは珍しくもなんともないかもしれないが、それでもつい馬鹿なことを考えてしまうくらいには、俺はコイツのことが気になっているらしい。
「……食えよ」
「それが人にものを頼む態度か?」
そう言って鼻で笑うアーチャーは心底生き生きとしていてムカつく。
「……じゃあ食べてくれって言ったら食うのかよ」
「何故私が貴様の作った弁当を食べねばならない?そもそもサーヴァントは食事を必要としない。無駄なことだ」
「そんなこと関係ない。俺はお前に、俺の作った弁当を食べてほしいんだよ」
「……何故」
心底意味がわからないという表情を隠しもせず、そう問いかけるアーチャーに、俺はこれから告げる言葉を頭に浮かべ、覚悟を決めるようにこくりと息を呑んだ。
「………好きだから」
「……………は?」
眉間の皺をさらに深くしたアーチャーから発せられた言葉はたった1文字だった。
そりゃそうだろう。
嫌っている相手から突然愛の告白なんてされたら誰だってそういう反応になると思う。
「お前のことが好きなんだよ、アーチャー」
「………」
「好き」
「ちょっと黙れ」
黙り込むアーチャーに畳み掛けるように言葉を重ねるが、アーチャーの掌によって制止された。
俺の口元を覆うようにしてアーチャーの大きな左手がある。サーヴァントだからだろうか、自分の体温よりも少しひんやりとしている。
アーチャーは眉間を右手で揉むようにして目をつぶっていた。眉間には深く皺が刻まれている。
困らせてるなぁ、と思う。
まぁ当然だけど。
それでも好きなのだからしょうがない。
そしてこれでも初恋なのだから、少しは丁重に扱ってほしい。
アーチャーは未だに目を閉じ、黙ったままだ。
俺はふと、普段ならば絶対に触れられないアーチャーの手がこんなに近くにあるのだから今がチャンスでは?と思い、アーチャーの掌に唇を寄せた。
ちゅ、と軽く音を立てて、俺はアーチャーの掌にキスをする。
アーチャーは素早く手を引く。
「っな、………なんのつもりだ」
アーチャーは先程よりもさらに深く眉間に皺を寄せ、今にも武器を投影するのではないかというくらいの鋭い気配を纏っていた。
「あー……アーチャーの手が目の前にあったから、つい」
「つい、で貴様は恋仲でもない相手にキスをするのか?」
アーチャーは深くため息をつきながら、まさかここまで変態だったとは、と独りごちている。
酷い言われようである。
しかしごもっともでもある。
「…だから言っただろ。お前のことが好きなんだよ」
「それと今の行動が関係あると?」
「……好きな人に触れたいと思うのは普通だろ」
少し照れながらそう答える俺に対して、アーチャーはまさに苦虫を噛み潰したような表情で、俺の言葉に引いている。
「………貴様の口から『普通』だなんて言葉が出てくるとはな」
自嘲気味にそう言って笑うアーチャーに、俺は苛立つ。
俺のことを馬鹿にするのはいい。もう慣れたから。それにコイツの言葉の裏にはちゃんと思いやりがあることも知っている。
けれど、お前がお前自身を馬鹿にするのは許さない。
だって、そうじゃないと、誰がお前を認めてくれるんだ。
俺は勢いのままに、アーチャーの左手を掴む。アーチャーが反射的に振り払おうとするが、俺は絶対に離してやるもんかと強く握り込む。
「好きだアーチャー!愛してるんだよ」
「っ、…だから?俺にも貴様を愛せと?」
そう言って鼻で笑うアーチャーの表情は苦しげに歪んでいる。
「違う!俺はお前を愛してる!だから、…だから、お前はお前自身を愛せよ!」
「っ………」
アーチャーは驚きに目を見開いている。美しい鋼色の瞳には俺の必死な表情が映っていた。
あぁ、やっぱり、綺麗だ。
アーチャー自身が嫌って止まないその瞳の色を、肌の色を、髪の色を。
アーチャーの全てを。
俺は美しく思ってやまないんだよ。
なぁ、アーチャー。
愛されてくれよ。
俺に。
そして、愛してくれよ。
『衛宮士郎』を。
だって、正義の味方は、皆から愛されるものだろう?