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誰が殺した青い鳥【F/sn】/Novel by 遠野

誰が殺した青い鳥【F/sn】

2,056 character(s)4 mins

マザー・グースの有名な詩より。まほよの青いロビンさんとは無関係ですすみません…(書き始めた後で青いコマドリの存在を知りました)。
グロくはないですが殺したり殺されたりの描写があります、ご注意。

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 誰が殺した青い鳥
 ――それは私と、私は言った

*

 いつから有るのか。どうして在るのか。気づくと私の目の前に、その死体は転がっていた。
 剣しか存在しない筈のこの場所に何故、と思って思い出す。これはそもそも剣だった。
 私がここに在るのだから、これがここに在るのも道理だろう。
 これは死体で私は死人。何の不思議もない。
 ないがそれにしても数が多過ぎる。首を切られた死体、胸を貫かれた死体、胴体が半分千切れかかった死体。
 目を瞬く間にも新たな死体は増え続けている。
 裂けた傷も流れる血もそのままに、けれどどういう訳か死臭の一つもしない。
 私と違ってこの剣は、どれもその身に死臭が染み着く前にその生を終えたらしい。
 剣としては不適切だが人としては正しい在り方だ。これは、やはり剣ではなく人かもしれない。
 私が正しく殺せる、たった一人の人間。
 ……それにしても、死体の数が多過ぎる。確かに此処には無限の剣があるが、同じ物ばかり散らばっているのはどうなのだろうか。
 私以外の誰が見るわけでもないが、それでもこれは見苦しい。
 片付けようと、その一つを掴むと。
 触れた瞬間、死体から記憶が流れ込んだ。
 ――いや、これは記憶ではない。ただの記録だ。
 この死体は、私に首を切られたらしい。最後に見開いた瞳から、無表情に剣を振り下ろす私が視えた。
 視えただけだ、その時抱いた感情まではわからない。私に私の姿を見せて、死体はさらさらと砕けて地に溶けた。
 ああ、この赤い砂漠は死体で出来ていたのだと。思い出して納得した。
 ならば、どれだけ私が私を殺しても、此処が死体が溢れることはないだろうと安心する。
 無限に存在する世界で無限に存在する私を殺して無限に存在する死体は、赤く乾いた砂となってこの無限に続く丘を覆う。
 何の不思議もなかった。
 この赤い砂漠が、私の死体だけで出来ていればいいのだが。
 願いながら死体を拾う。触れるだけで死体は砕け、最期の記録を私に見せてさらさらと砂へと変わって行った。
 刺し殺したこともあった。縊り殺したこともあった。頭を綺麗に潰し殺したこともあった。
 待ち望んだ死体の山だ、もっと心躍るかと思ったが。所詮記録はただの記録、何の感慨も浮かばない。せいぜい手際の悪さに苛つくくらいだ。
 そうして死体を砂に還し続け、もうその数を数えるのも止めた頃。
「――やっと、見つけた」
 掴んだ死体が、不意に目を開いた。
「ずいぶん時間がかかったな。――ああ、いや、ここだとそんなの関係ないか。それでも、結構待たされたぞ」
 一体どれが致命傷なのか。わからないくらいにボロボロに傷付いた死体は、どういう訳かこちらの手を掴み返して来た。
 死体のくせにひどく熱い、手。
 死体はやはり死体のくせに、忌々しいほど真っ直ぐな視線で私を射抜くように見る。
「――待ってた。ずっとずっと待ってた。アンタが俺を見つける日を。すぐ傍にある答えに気づく時を」
「……答え?」
 何のことだと、気づいたら声に出していた。言葉を音に乗せるのは、一体どれだけぶりだろう?
 ロクに聞き取れる筈のないそれを忌々しくも聞き取って、死体はさも当然の如く言う。
「そう、俺は答えだ。アンタが得た答え。それを伝える為に、俺はここで待っていた。ずっと、ずっと」
 握られた手に力が篭もる。火傷しそうに熱い。
「こんなに近くに在ったのに、アンタはずっと気づかなかった。そういうものなのかな」
 幸福の鳥を探す子どもたちが、傍に在るそれに決して気づかなかったように。
 お伽噺を歌うが如く、死体は囁く。
「でも。やっと、アンタは俺を見つけた」
 もう、大丈夫だよ。
 死体は――いや、私の答えだというそれは、そう言って笑った。
「……っ」
 あまりのおぞましさに目を逸らした。これが笑っていい筈がない。こんなものは、明らかに間違いだ。
 間違った答えは、正さねばならない。
 咄嗟に振り上げた手には、既に刃が握られていた。そのまま、その心臓を貫く。
「――」
 何の抵抗もなく、刃は胸へと吸い込まれた。死体は漸く死体へと戻る。
「……ああ、またか」
 それでもそれは言葉を発し続ける。しつこい死体だ、まるで――のようだ。
「まあ、いいさ。また、見つけてくれ。俺は、いつだってここにいる」
 アンタが此処に在る限り。
 最後にそんなことを言い残し。笑ったまま死体は砂へと還って行った。
「……」
 赤い砂は今までと同じようにさらさらと風に溶け、剣の丘を覆う。
 その様を見届けた後、死体の群れを見遣った。まだ、それは無限に積み重なっている。
 まだ、幾らでも殺すことが出来る。
 もう一度手を伸ばして、新しい死体を掴む。今までと同じように、それは砕けて砂へと還って行った。

*

 誰が殺した青い鳥
 ――それは私と、私は言った

 私の刃で私が殺す
 全てが消えるその日まで

 いつか捕まるその日まで

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