名前を呼ぶ、それだけで。
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四月の終わり、クラスの空気に慣れ始めた頃。
桜「ま、○○君、プリント、回してくれる?」
耳にすっと入り込んでくるような、落ち着いた声だった。
川崎桜。ほんの少しだけ距離のある隣の席。
○○「……あ、はい」
手渡すと、前の席にいた彼女は、そっと振り返って──微笑んだ。
桜「ありがとう……また話しかけるね!」
たったそれだけなのに、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。
○○「、、、可愛かったな///」
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昼休み。ぼーっとしていると幼なじみの彩が話しかけてきた。
彩「どーしたの○○!なんか元気ないじゃん!」
○○「いきなりなんだよ、彩。俺は元気だよ」
彩「ははーん……さては今日、弁当にトマト入ってなかったとかでしょ? 彩にはわかるんだからね!」
○○「……ふふっ、相変わらずなんだよそれ笑」
彩「なんで笑うのー!彩は真剣なんだよ?」
○○「いや、理由が可愛すぎてさ」
彩「なっ……/// も〜、○○絶対バカにしてる!」
○○「してないよ。相変わらず妹みたいで可愛いなぁって思って」
彩「もう!同い年なんだから子ども扱いしないで!」
彩「でも、○○が元気出たなら良かった! なんかあったら彩になんでも言ってよね!」
○○「……ありがとう、彩。頼りにしてるよ」
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放課後。
帰る準備をしていると斜め前の和が話しかけてくる。
和「○○ってさ、彩ちゃんと仲良いんだね」
○○「まあ、昔からずっと一緒だからね。彩は妹みたいなもん」
和「ふふっ。2人を見てるとなんだかほっこりするけど……彩ちゃん、○○のこと好きなんじゃない?」
○○「いや、それはないでしょ。たぶん……」
和「○○だけじゃないけど、男の人って、そういうの鈍いからなあ。気づいてないだけかもよ?」
和と談笑していた。
そのとき、教室のドアの外。
ふと顔を上げると、桜が立っていた。
目が合った気がしたけど、彼女はすぐに顔を逸らして歩き去っていった。
(……まさか、聞いてた?)
和「あー!絶対今彩ちゃんのこと考えてたでしょ?」
○○「、、、まさか笑」
和「ほんとに好きじゃないの?」
○○「少なくとも俺はね。俺だって好きな人いるし、、、」
和「ふふっ、分かってるよ。好きな人ってさくらだもんね。」
○○「なっ、、、!なんで分かって、、、!」
和「、、、女の勘だよ笑」
和(両思いだなんて、、、言えるわけないよね笑)
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同時刻、教室の外
桜「忘れ物しちゃった、、、」
桜「あれ、、、教室誰かいるのかな?」
桜が少し覗いてみると
和「ーーーー彩ちゃん、○○のこと好きなんじゃない?」
桜「えっ、、、!?」
忘れ物を取りに来た桜は偶然にも○○と和の会話を聞いてしまった。
ダダッ
忘れ物の事など忘れて逃げるように駆け出した。
その後の二人の会話も知らずに。
翌日
教室に入ると、桜はすでに席に着いていた。
○○「あ、川崎さんおはよう」
桜「……...おはようございます」
○○:(、、、え、敬語?)
○○は違和感を覚えながらもまだ対して仲良くないからと思いその場を後にする。
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1限目。プリントをもらおうとする。
○○「川崎さん、プリントありが──」
桜「、、、、、、」フイッ
○○が感謝を述べ終わる前に桜は前を向いてしまう
○○「え、、、」
○○は朝の違和感を再び思い出していく。
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昼休み。
○○は疑問に思う反面、仲良くなりたい気持ちを全面に
○○「あ、か、川崎さん、今日一緒にお昼──」
桜(無言で立ち上がり、教室を出ていく)
○○(……え?)
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次の日。
○○「ねえ、川崎さん、もしかして……俺、なんかした?」
桜「......別に。……....気にしないでください」
(“ください”? なんかやっぱり、距離置かれてる……?あの時より、距離感じちゃうな、、、)
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放課後・廊下の角
○○が訳も分からず一人で廊下を歩いていると
彩「ねぇ○○、ちょっと聞いてよ! さくたん、完全に避けてるよ!」
○○「え? さ、避けてるって……俺は普通に話しかけてるよ?」
美空「ふ、普通じゃないよ! 今日の授業でも、○○君が話しかけたら、さくたんは顔すら見なかったんだから」
彩「しかも、休み時間に○○の前の自分の席に戻って来たと思ったら、すぐに離れてたよ? 明らかに距離置いてる!」
○○「いや、そんなつもりは……」
美空「それにね○○くん、ここ最近朝、“おはよう”って言ったら、“おはようございます”って返されてたでしょ? それ、よそよそしい証拠」
彩「○○にもう完全に心閉ざしてるって事じゃないかな、、、」
○○「……心閉ざしてるなんて、全然気づかなかった」
美空:「もしかして、2人、何かあった?」
彩:「そうだよ!美空の言う通りなにかなかったらこんなことにならないもん!」
○○は2人に事の経緯を詳しく話す。
○○「実はーーーー」
彩「え、じゃあさ、さくたんのこと好きって伝わってるかもしれないよね?」
美空「ちょっと彩!話聞いてた?」
美空「、、、さくたん、○○くんの事好きだったから!この人なら信頼できると思ったから!それでも傷ついたからそこだけ聞いて嫌になっちゃったんだよ」
彩「み、みく、、、?」
美空は覚悟を決めたかのように話を続ける。
美空「、、、実はね、美空と桜は小学校から今まで一緒なの。」
美空「中学校の時ね、桜は上手く馴染めてなかったからクラスの男の子全員から虐められてたの。」
美空「そこで美空が助けたから今もこうやって仲良しなの。けど、ほんとにある日を境目に急に虐められるようになって。」
美空「、、、桜と結構仲良くしてた男の子もその流れで桜をいじめててさ、そこで桜は男を信用しなくなったんだよね、完全に。」
彩「じゃ、じゃあなんでこの高校に、、、」
美空「それは美空が誘ったから。美空がこのチャンス逃すと二度と戻れなくなるよって説得したから。」
○○「俺が気になり始めたあのときは、、、?」
美空「それはきっと美空たちで話してたから。○○くんって優しいよねって彩からも聞いてたし、これは彩にも言ってないけど、最後にもう一度だけ男の子を信じてみたらって美空が提案したの。」
彩「そうだったんだ、、、」
○○「まさかそんな背景があったなんて、、、」
美空「こんなことになるなら言わなきゃ良かったって後悔してるけどね、、、」
彩「、、、そういえば、桜の花言葉って“優しさ”ってさくたんが言ってた。、、、もしかしたら自分の優しさを大事にしてくれない人には、距離を置いちゃうのかもね」
美空「さくたんが優しいからね、、、。」
○○「……俺、川崎さんの勇気と優しさに気づけてなかったんだな」
彩「今からでも遅くはない!気づかなきゃ、もっと辛いことになるよ。ちゃんと向き合って!」
美空「ちゃんと全部伝えてくること!○○くんなら桜を任せられるからね!」
○○「……2人とも、、、わかった。ちゃんと話すよ。行ってくる!」
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教室に戻ると、桜の机に1枚のプリントが置かれていた。
右上に、小さく書かれた文字。
プリントの文字「○○くん」
その下に、そっと添えられたメモ。
メモ「もし間違っていたらすみません」
「桜はあなたを信用してもいいのですか?」
(他人行儀な文字。いつもはもっとやわらかかったのに……。
やっぱり……嫌われたのかもしれない)
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図書室
静かな夕方、窓際の席に座る桜。
○○「……川崎さん。」
桜は一瞬だけ顔を上げ、すぐに目をそらす
桜「……なんですか?」
○○「話がしたいんだ」
桜「、、、話すことなんてないから。」
○○「この前、和との話、聞いてたんだよね。彩のこと……好きって言ってたやつ」
桜「……....やっぱりね。」
○○「中学校の話も聞いたよ。」
桜「、、、っ!?」
○○「川崎さんは、過去に嫌なことがあったのに、こうやって俺に心を開いてくれようとしてたんだね。」
○○「俺はその思いも知らずに、和と会話をして、知らない間に傷つけちゃって、」
○○「本当にごめんね。」
桜「違う、違うの、、、!」
桜「全部、全部桜が悪いの、、、こんな誰にでも優しい素振りする桜がわるいの、、、!」
○○「川崎さん、、、」
桜「、、、全然、○○くんを信用していたかった、、、。」
桜「別に桜だって、○○くんのこと嫌いじゃないのに、、、またあの時のことを思い出しちゃって、、、」
桜「桜は嫌なの、、、こんな自分が、、、もうこんな思いしたくないって思ったのに、、、」
○○「、、、、、、」
桜「でも○○くんならと思ってたのに、、、あんな会話聞いちゃったから、、、」
○○「川崎さん、、、、、、」
○○「、、、ほんとは違う。彩は大事な幼なじみだけど、俺が本当に“好きだ”って思ってるのは──川崎さんだよ。」
桜「……なんで、そんなこと今さら言うの?」
○○「怖かったんだ。川崎さんに嫌われるのが。想いが一方通行だったらって思うと、言えなかった」
桜「もう……遅いと思ってた。○○君の隣には、私じゃなくて彩ちゃんが似合ってるって……」
○○「違うよ。隣にいてほしいのは、ずっと川崎さん、、、あなただった。」
○○「──だから、今までの苦しい思いも、これからの未来も、全部、俺と歩んで欲しい。」
桜(目を見開き、そして……涙がぽろりと落ちる)
桜「私……ずっと、怖かったのかもしれない」
○○「何が?」
桜「優しさが、信頼が……壊れるのが。信じるのが、怖かった」
○○「壊れないよ。俺が、隣でずっと大事にする。ちゃんと」
桜「……私も、○○君のこと、ずっと好きだった。でも、怖くて」
○○「もう怖がらせないよ。これからは、一緒に歩こう」
桜「うんっ、、、!」
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帰り道
夕日が二人の影を長く伸ばす。
桜「ねえ、○○君」
○○「ん?」
桜「今日から……“○○君”じゃなくて、“○○”って呼んでいい?」
○○「……もちろん」
桜「ふふ。じゃあ、○○……これからも、名前で呼んでね」
○○「……さ、桜…///」
桜「えへへ、、、///」
彼女は、少し照れたように笑った。
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教室前の廊下
遠くから、二人の様子を見ていた彩と美空。
彩「見て、美空! ○○とさくたん、やっと素直になったんだね」
美空「うん……ずっと待ってたよ。あの二人がこうやって笑い合う日を」
彩「○○は鈍感だけど、本当に優しい子。さくたんも、その優しさにちゃんと気づいてくれてよかった」
美空「これからも、ふたりで優しくいられるといいね」
彩「そうだね、、、」
二人はそっと目を合わせ、嬉しそうにうなずき合った。
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