ぬめたけ ぬめたけ
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幼なじみの桜#4【こっちの気も知らないで】

くそ、ダメだ。

浴槽に浸かって、天井から落ちそうで落ちない雫を睨みつける。

桜と初めての二人だけの飲み会を終えた夜。

眼を瞑るたびに、さっきまでの仕草と台詞がフラッシュバックする。

ボトルキープだの・・・

ポテト食べろだの・・・

最終的にはおぶって家まで送り届けて・・・

「桜におやすみは?」って・・・

『ほんとにどういうつもりなんだよ・・・』

誰もいない風呂場で、湯面に向かってぼそっと文句を落とす。

落としたところで、湯気の中に残る桜の甘い匂いは一ミリも薄まってくれない。

いつもより念入りに洗った背中と右肘には、柔らかい記憶がこびりついて落ちない。

湯船に沈めた顔の上にまで、桜がついてくるようだ。


3年前にフラれてから、桜への想いが途切れたことなど一度もない。

幼なじみとしての関係をキープするならば、そういう好意は断ち切らなければいけないってことくらい分かっている。

それなのに・・・

桜に対する裏切りのようなものだとも思う。

そんなオレの隣で、桜はいつでも笑ってくれる。

そんなつもりはないんだろうが、桜の言葉や仕草の一つ一つに意味を感じてしまって・・・

オレに都合のいい解釈をしたくなってしまう。

胸のあたりが、じわじわと熱い。



風呂から上がり、ガシガシと適当にタオルで髪を拭いてベッドに倒れ込む。

今日はもう何も考えずに寝よう、そう思って目を閉じたはずなのに、

数分後にはなぜかスマホを握りしめていた。

ロックを外した親指が、勝手に写真アプリを開く。

『何してんだ・・・オレ』

行き先は分かりきってる。

順調に蕾が増えていく桜のフォルダ。

この写真たちはどこにもアップされてないし、桜にも送ったことがない。

この笑顔を知るのはオレだけという事実に、胸がきゅっと鳴る。

目を閉じても、まだ桜が視界から消えない。

『どうしてくれんだよ・・・こっちの気も知らないで・・・』




ーーーーーー

ーーーーーー

ガチャ

扉を開けた瞬間、甘い空気が鼻を襲う。

ベッドにいる発生源に目をやると、仰向けでも主張をやめない身体の一部が布団から盛大にはみ出ている。

『風邪引くぞ・・・』

近寄って布団をかけ直そうとする手を止める。

違う違う;;

『おーい、桜。朝だぞ。起きれるか?』

「んぅー」

甘くかすれた声が、朝の耳には毒である。

『起きろって;;』

「んぅー?〇〇?ふふ、おはよ・・・」

半分しか開いてない目でオレを見て少し笑う。

「んぅー、〇〇ー」

『なんだ?』

「頭痛いー」

『飲み過ぎだろ』

「んうー」

『とにかく起きて大学行くぞ』

「んー、起きれないー。行きたくないー」

『じゃあ、置いてくぞ』

「やだやだ、おいてかないで」

開かないまぶたを懸命に開きつつ、オレの手をきゅっと掴む。

細い指先はいつもより熱い気がする。

・・・・・・

『どーすんだよ;;』

「じゃあ、ぎゅーして」

『は?』

「ぎゅーってしてくれたら起きるよ、桜・・・」

『な、何言ってんだよ////』

「はい!、起こして!早く!」

仰向けのまま、両手をぱっと広げてくる。

これはヤバいぞ;;

分かっているのに、抗えずに吸い込まれていく上半身。


桜の柔らかい身体に触れて・・・

両腕で包み込んでいく・・・

甘く香る匂い、温かく柔らかい感触に心も身体も・・・

・・・・・・

・・・・・・

あれ?

視界に見えるのは、

天井をバックにクロスする自分の両手。


はあ・・・


なんて夢見てんだよ、オレ・・・

幼なじみを起こしに行くシチュエーションなんて現実にあるわけないのだろ・・・

浅い眠りで頭が重い。

喉の渇きと、口の中にはうっすら残る甘い後味。

酒は抜けているようだが、桜だけが濃度を増して残っている。

枕元には、昨夜伏せたままのスマホ。


『二日酔い・・・じゃないよな、これは・・・』

布団から這い出るには、それなりに時間を要した。




ーーーーーー

「うーん、頭痛い・・・」

大学に向かう電車の中。

揺れに合わせてこつんとオレの右肩に小さな頭が乗る。

『だから、昨日飲み過ぎだって言ったろ;;』

「だって美味しかったし、〇〇とお酒飲めて嬉しかったんだもん。あれ、ボトルって全部飲んじゃったんだっけ?」

『いや、名前書いただろ?昨日のこと覚えてないのか?』

「え;;覚えてる覚えてる」

『怪しいな・・・』

「帰りにおぶってもらえたの覚えてるもん。〇〇の背中、あったかかったよ////」

たぷたぷの眼で、至近距離から器用にオレを見上げてくる。


『はいはい////』

もらえたってなんだよ、その言い方・・・

変な気分になりそうで顔を反らすと、不満そうに肩をつままれる。


「ねえ、またおんぶしてね////」

『するか!』

「えーいいでしょ、してよー」

そう言いながら、ぐいっと体重を預けてくる。

右肘に鮮明に甦る柔らかい記憶。

たまらず視線を落とすと桜の太ももの横が、布越しにぴったりくっつく。

「ん?〇〇?どうかした?」

『別に////』

近いんだって;;;

ひとしきりのラリーを終えたあとに、また辛そうに頭を抱えて可愛くうなる。


「うぅー、桜、お酒弱いのかなー」

『水とか飲んだか?』

「ん、飲んだほうがいいの?」

そうか、そのあたり昨日のうちに気にしてやるべきだったな・・・


『ほらこれ、開けてないから』

鞄から常温の水のペットボトルを差し出して桜に渡す。

「え、いいよいいよ。悪いし;;;」

『いいから、飲んどけって』

キャップを開けてそのまま渡すと、申し訳なさそうに受け取る。

「ありがとう・・・」

ごきゅっと喉を鳴らして、水が桜に流れ込む。

顔と合わせるようにして上を向く身体の部分につい目が行ってしまう。

うーん・・・・大きい////

比較的空いた車内で幼なじみが水を飲む姿に、目も心も奪われる。


「ぷはぁ、美味しい!いつもよりお水がおいしい!」

『おお;;そうか、よかったな』

「はい、ありがとう」

ペットボトルを返してくる。

『いや、それはもう桜に全部・・・』

「〇〇も飲んだほうがいいよ!はい!」

『いやいや、それはまずいだろ////』

「はいっ!」

拒否権無しといわんばかりにペットボトルを顔の前に出される。

これは従うしかなさそうだ。

中学生でもあるまいし、意識するほうがおかしいか・・・

自分に無理やり言い聞かせて、残りの水を飲み干した。


「ふふ・・・」

『なんだよ////』

「なんでもなーい!」

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大学までの道のりは、ご満悦の桜が満開だった。





ーーーーーー

いつもより遅くなった帰り道。

駅から家に向かう通りで見知った後ろ姿を見つける。


長い黒髪と、紺のブレザーにチェックのスカート。

スマホを見ながら、とことこ歩いている。

危ないなと思っていたら、案の定つまづいて転びそうになる。

なんとか体勢をキープした後に、気まずそうに振り返ったところで目が合う。

「あっ;;」

心の中で『よっ』と言いながら片手をあげると、気まずそうに目を伏せてから歩き出す。

うーん、相変わらずつれない態度だ。

明らかにやり過ごそうとしている歩幅は、オレに比べるとずいぶん小さくてすぐに追いついてしまう。


『うるみ、今帰り?』

・・・・・・

『うるみ?』

・・・・・・

『うるみーん!うるみちゃーん!』

「やめてよ;;恥ずかしい;;」

大きな声を出すとようやく立ち止まって可愛い猫目でこっちを睨む。

『ごめんごめん、聞こえてないのかなって』

「聞こえてて無視してるに決まってるでしょ!」

『ひどくないか。で今帰り?』

「制服で駅から歩いてるんだから帰りに決まってるじゃん」

『たしかに!そうだな』

「なんなのもう・・・」

鬱陶しそうに口をとがらせてから、歩みを早める。



・・・・・・

「ついてこないでよ・・・・」

『いや、オレも家こっちだろ』

「そういえばそうだった」

『そんなにオレのこと嫌いか?』

「・・・うん、きらい」

分かりやすい拒絶の言葉よりも、きちんと会話を返してくれることに安心してしまう。

『そんな冷たいこと言うなよ。昔は「私が大統領になったら、〇〇を大統領夫人にして養ってあげる」って言ってくれたのにな』

「な;いつの話してんのよ;;」

『いつって、うるみが小5の時だから6年前か?』

「数えてなんて言ってないし、もう子供じゃないから!」

カワウソっぽい可愛い顔が迫ってくる。


『たしかに大人っぽくなったよな』

「え・・・ほんと?」

『ああ、女性っぽくなったっていうか、大きくなったっていうか』

「ねえ////ほんとにそう思う?」


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『ああ・・・』

うるうるに潤んだ猫目。

それより少し下のほうに視線が勝手に落ちてしまう。


「ねえ・・・さっきから、どこ見てんの?」

『あ、いや胸見てたわけじゃないぞ;;』

・・・・・・

『やばっ;;』

・・・・・・

「変態!桜ちゃんに言いつけるから!」

『え、待った待った。それはやめとこ;;』

「うるさい、スケベ〇〇」

顔をたっぷりしかめてから歩みを早める。


うるみは、所謂年下の幼なじみというやつだ。

昔は兄のように慕ってくれたし、オレは今でも妹みたいに思ってるんだが中学に上がったくらいから急にオレへのあたりが強くなった。

まあ、そういう年頃なんだろう。

桜とはいまだに仲良くやってるようだが・・・


足早に先を歩くうるみの鞄についたさくらんぼのキーホルダーが視界に入る。

懐かしいな・・・


『それ、まだ持ってたんだな』

「え;」

ぱっと横に並んでキーホルダーを指さす。

「あ!べ、べ;;別にこれは〇〇にもらったから気に入ってつけてるわけじゃないんだからね!」

教科書に載りそうなツンデレ台詞に吹き出してしまう。

『あはは、分かってる分かってる。うるみって、さくらんぼ似合うよな、昔から』

「むぅーバカ・・・こっちの気も知らないで」

『ん?何か言ったか』

「うるさいっ!変態っ!もうついてこないでっ!」


ひどいいわれようだ。

さすがにちょっと傷つくぞ。


【続け・・・】


読んでいただいてありがとうございます。
だいぶ迷ったんですが、うるみん登場です。
感想もらえたらがんばれます!よろしくお願いします!
ありがとうございましたー!





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