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The Works "シンギン・イン・ザ・カルデア" includes tags such as "槍弓", "なにこれ素敵" and more.
シンギン・イン・ザ・カルデア/Novel by 摩央

シンギン・イン・ザ・カルデア

6,847 character(s)13 mins

大前提として槍弓のカルデアで、エミヤを見つめるマスターぐだ子と、「歌」にまつわる短編。かぎりなく無糖に近いです。槍弓ほのめかし程度しかあらわれてません。(※ぐだ→エミ要素はありません。)
現状は下記の二つを収録。順次追加予定です。
「第三者視点の○○」が好きなので、「マスターから見た槍弓」を中心に、そういうものが増えていく予定です。

1 BGM「テルーの歌」
2 BGM「ちょっぴりシェフきぶん」

(2017年10月21日 追記)タグ追加、コメントありがとうございます!!!とてもうれしいです……(*´ω´*)エヘヘ

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レイシフトしたのは微小な特異点、になるかもしれない可能性を孕んだある時代の小さな村だった。
拍子抜けするほどあっさりと終わってしまった「異常」の修正に、肩すかしを食った、暴れ足りないとぼやく青い頭をはたいた褐色の手が、しかしあまりにも簡単過ぎたなと呟いて消えた。
きっと、ないであろう「真打」を探しに飛んだのだ。「無い」ということを確かめるために。
悪魔の証明は不可能なはずだがネ、と呟いた教授は早々に村に唯一の教会に消えていった。「まあ」と小さく声を上げた白い聖女が旗を片手に嬉しげにそれに続く。
教授はきっと古書の類がないか漁りに行っただけだし、それを聖女に告げる必要もない。
なべて世は事も無し。森に入って無益な殺生に勤しもうとする青い尻尾を捕まえ損ねたことだけが残念ではあるが、通信機越しの「お夕飯の品数がひとつ増えるかもしれませんね」との後輩の一言に頷いて苦笑するにとどめた。マシュはかわいい。
そうして私の隣には、尻尾のない空色のドルイドだけが立っている。
「何だ、おまえさんも行くか?」
キャスターが欠伸を噛み殺しながら杖を肩に掛けた。(クー・フーリンが複数いるうちのカルデアでは、彼らだけはクラス呼びで通っている。他にもクラス違いの同一人物由来英霊はいることが確認されているものの、当カルデアにはまだお越しいただけていないからこそ成立するのだが、今はそのことは置いておこう。)
「森に?……うん、そうだなぁ」
ぼんやりと曖昧な返事をする私に、興味深そうに視線を注ぐ彼の赤い眼が眩しい。
ああ、やっぱり森に入る気分じゃないな。
「森には行かない。空がこんなに高いんだもん。あたたかくて、広くて、白い雲が浮かんでて、太陽の光が見える。」
浮かれている自覚はあったけど、言葉にしてみてはっきりした。
カルデアにいると拝めないものが、ここにはこんなに溢れている。
ああやっぱりマシュを連れて来たかった。あの子が私たちのなかで一番、青空に憧れているのに。
「確かに森の中じゃあこんな抜けるような空の下……ってのは望めねえわな。そういうことなら、好きなだけ駆けまわってきな。あの丘までくらいなら俺の目も届く。」
「キャスターは一緒に来てくれないの?」
「たまにゃあんたも一人になりたかろう。……自覚がなくても、なった方がいい」
予想もしていなかったことを言われて、わずかにぎくりとした。
何も後ろめたいことは無いはずだし、キャスターの今の言葉は、叱責でもなければ、失望を伝えるものでもないのに。
「野暮だったかね……すまんな、いや、深く考えなさんな」
ぽん、と頭を撫でられた。手甲に覆われた甲と違って、彼の掌は白くて、あたたかくて、いつ触れられても安心する、不思議な手だ。
「ひとりってのも、いいもんだってことさ」
微笑みの赤い瞳に促されたような気がして、そろそろと歩を進める。
示された丘まで半分というところで振り返ると、ずっと背を見送ってくれていたキャスターが、ひらりと手を振るのが見えた。

キャスターは観光案内とかやらせてもきっと上手いのだと思う。適当に指示したとしても、見事な采配だ。きっとここら一帯で、この丘が一番、見どころのスポットに違いない。
丘のてっぺんまで上ったとたん、下から吹き上げる風に前髪を払われ、一気に開けた視界にほうと溜め息が出た。
遠くまで続くなだらかな春の丘陵。少し遠いところに、色の薄い花の群生が見える。
甘い匂いはしないけれど、土や草のにおいは風に洗われるかのようにいつも新しく私を通り過ぎていく。
雲雀だろうか、高く垂直にぐんぐん上昇していく高い鳥の鳴き声に、また、空を見上げた。
それなりに歩いたのに、座る気にならない。
突っ立ったまま、頭がぽっかりと空になったような錯覚を覚える。
そうしてすっきりした頭の中に、ひとつずつ、シンプルな思考がぽこぽこと生まれては消える。
レイシフトした目的や、今日見たサーヴァントたちの表情、キャスターの言葉の意味、ランサーが狩ってきてくれるだろう獲物の予想――
そうだ。エミヤはどこまで行ってしまったのだろう。
彼だって、ランサーが狩りに行ったと知ったら、野草やキノコを抱えて帰ってきそうなものだけど。
ふふ、と一人で忍び笑いを漏らした。「何がおかしいんですか?」と問い掛ける声は、無い。
それが随分久しぶりな気がして、ああ、キャスターが言っていたのはこういうことなのかもしれないなと思う。
私がただ私である、そういう時間は、確かに必要なのかもしれない。
ひときわ強い風が、ずっと向うから草をなぎ倒してこちらまでやってくるのが見えた。
身構えて、受け止める。
まるで自分もここに生えている草の一本、葉のひとつになったような、不思議な錯覚を覚えた。
ざわざわとカルデア制服の裾を煽られながら、こういう風の中で誰よりも鮮やかに翻る赤を思い描く。
単独行動が多いエミヤ。私の初めてのアーチャー。キャスターと同じくらい初期から、ずっと人理修復のために尽力してくれたサーヴァント。
彼のことを、私はどれくらい知っているのだろう。長く一緒にいる間、様々な顔を見せてくれた彼のことを。
気障な台詞回し、慌てるとちょっと幼く崩れる表情や口調、スキルや宝具の名前、意外と童顔なところ、凛と立つ背中。
彼に似合いの歌があったような気がする。うんと幼い頃に見た映画の劇中歌だった。
私よりもずっと幼い少女が口ずさむ、伴奏のない歌。―――そう、確か一番は

「おまえさんが歌うのは、初めて聞いたな」
声を掛けられて、初めてそこにキャスターが追いついていたことに気付いた。
「キャスター、何も言わずに聞いてたの?」
「おう。なかなか上手いじゃねえか。また聞かせてくれや」
「……この歌ね、続きがあるんだよ。歌おうか?」
引っ張り出した一番の歌詞に続いて、二番、三番も紐付いて記憶の底からやってきた。
ここで口にしておけばしばらく忘れないでいられる気がするが、聴き役が出来てしまったからにはお伺いを立てたいと思う。
「是非」
二つ返事で返してくれたキャスターに甘えて、さっきよりは自信をもって、声で旋律をたどる。
丘の向こうへ声を飛ばすように、前を見て、真っ直ぐに。
ゆっくり丁寧に、音を外さないように歌ったつもりだったけど、いずれ歌は終わるし、声も途切れる。
風の中で、隣のキャスターを振り仰いだ。
いつもよりも優しく、少し困ったように笑う彼に、頼ってしまうのは卑怯かもしれないと思いつつ、いつものように、問いかけてしまう。
「ねえ、キャスターはやっぱり、『ひとりってのもいいもんだ』って思う?」
ゆっくりと瞬いた青い睫毛に縁取られた宝石のような瞳が、しんと落ち着いた声で答えをくれる。
「ああ。『ひとり』は即ち『孤独』じゃないのだと、知る者にとっての『ひとり』なら、な」
だから、そろそろ迎えに行かねえとなぁ、と私の頭を撫でるキャスターに、嬉しくなって頷いた。
言葉なんか出なかった。咽喉を開けばみっともなく泣いてしまいそうで。
だから、腕いっぱいに山菜を抱えたエミヤと背中に大きな猪を括りつけたランサーが連れだって小競り合いしながら戻ってきたとき、エミヤに飛びついておなかに顔を擦りつけてしまったのも、許されたいのだ。



BGM「テルーの歌」



Comments

  • わんわんお
    July 21, 2025
  • ゆんこ
    June 25, 2020
  • そー
    October 19, 2017
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