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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
326/978

仙人スィシー

 1.中国-海上都市ニャンダム-軍議


 中国軍の上層部と一緒に俺誘拐作戦の反省会をしている。


「危うい場面が幾つかあったな」

「ああ。特にここだ。マジュン殿がガムジェムを手放した瞬間に狙撃されている。配置が良すぎる。誘導されたと見るべきだろう」

「まず精彩予測だろうが……。精度が高すぎる。他に何か……。チェンユウくん。君の意見を聞きたい。どうか?」


 そうですね。裏は取れてませんが、今回ウチらの全体指揮を執っていたのはリリララのようです。これはNAiに聞いた話なのですが、精彩予測は本人の資質が大きく関わるアビリティであるらしく……。まぁリリララならば可能かと。


「リリララ……。β組のか。なるほど。他に何か気付いたことはあるかな?」


 仙人……スィシーでしたか。彼の参戦は想定外だったようです。結果論ではありますが、序盤の【八ツ墓】でスキルを封じたのは効果的でしたね。ささやきを封じられたことで計画の細かい修正ができなかったのではないかと。


「ふむ。しかしスィシー殿は【賢者】殿との連携を拒んだと聞いている」

「問題ですな」

「ああ。我が軍は危うく君主を失いかけた。あれだけの戦力を投入して、だ。このことは仙人会に厳重に抗議させて頂く」

「聞く耳を持ちますかな?」

「まず持たんでしょう。とはいえ事実は事実として報告すればよろしい。一口に仙人と言っても捉え方は人それぞれですからな」


 俺はちょこっと挙手した。

 あのですね。俺は仙人について詳しくないのですが、あれだけの戦力を遊ばせておくのは損失では? 例えば人質を取るというのは? 仮に親しい人間が居なくとも、こちらで用意することはできます。


「……ああ。【賢者】殿がそれをやって拗れてな。と言うより……仙人会の影響力を排除するためにひどいことを……」

「……あれ、本当にやる必要あったか?」

「いや、それは……」


 当時のことを思い出してか、軍のお偉いさんたちがしょんぼりした。

 軍隊と言えば地下深くで非人道的な実験に手を染めてそうなイメージだが、立場的にはむしろそうした輩を取り締まる側に居る。だからトップ層ともなると意外とまともな人間が多いらしい。非合法な手段に訴えるのは、正規のルートでは上に行けない人間だけだ。


「……チェンユウくん。【賢者】殿には気を付けなさい。正直あれは我々の手には負えん。何を考えてるのかあまりよく分からんのだ……」


 大丈夫っスよ。俺、メイヨウ様の派閥なので。

 すると軍のお偉いさんたちが急に元気になった。


「おお、【傾国】殿か。それならば安心だな」

「うむ。メイヨウ殿は良くも悪くも根が素直な方だ」


 メイヨウは愛されキャラだった。



 2.海上都市ニャンダム


 さて。そもそも俺は何のために連れて来られたのだろう。なんか放置されてるぞ。どういうことだ。帰ろうと思えばいつでも帰れるんだが……。

 マジュンくんは戦後処理で忙しいようだ。リンリー嬢にお小遣いを貰った俺は、海上都市をぶらぶらと散歩している。連れ去られた俺を心配してウチの子たちからガンガンささやき入ってるけど、俺はもう少し悲劇のヒロインでありたい。かと言って気落ちされても困るので、幽閉されてるけど今のところひどいことはされていないという体で小まめに返信している。

 つーか暇だ。ニジゲンの拠点作りは順調かな? ゆくゆくはこの国を泥沼のような戦乱に叩き落としたいので、ピンク髪に協力して貰ってる。俺と違ってアイツはロストと無縁だからな。

 秘密基地にひょっこりと顔を出すと、クロアリを餌付けしていたニジゲンがパッと喜色満面で俺に駆け寄ってくる。


「崖っぷち〜!」


 JK〜!

 俺はノッた。β組ってのはマジで使える。言ってみればョ%レ氏のお墨付きだ。大暴れする仙人サマを目の当たりにして俺はその思いを新たにした。どんなに強かろうが、あの程度だ。突出した個人の戦力が戦局を覆しうることは分かった。だが最後の最後。勝敗を決する最重要局面にスィシーは辿り着けなかった。それが全てだ。強すぎるからマークされ、クソのような廃人に絡まれて身動きが取れなかった。最初に廃人三連星が出てきた時点で気付くべきだったのだ。リリララはヤツらをフリーで動かした。ヤツらは浮いた駒だった。浮いた駒を刈り取ったところで盤面を動かすことはできない。

 まぁ軍議で言った通りだ。スキル完全停止の魔法環境を敷いたのは良かった。評価はする。しかし逆に言えば、百人力の人間が百人分の働きをしただけだ。例えば、あの仙人サマがゴミどもに紛れて接近してきたならマジで打つ手がなかったろう。自分自身を効果的に使うことができてない。仙人は怖くない。


「……お前たちは男同士じゃないのか?」


 ひょっ!? スィシーが俺とJK子の愛の巣に踏み込んできた。

 キャー! 俺はニジゲンにひしっと抱きついて悲鳴を上げた。ガターンと腰を抜かして尻もちをつく。

 こ、殺される! 人間戦略兵器が攻め込んできた! お、おしまいだ〜!

 俺はコメツキバッタのようにぴょこぴょこと頭を下げて命乞いした。い、命ばかりはお助けを〜! おら、JK! 何してる! お前も頭を下げるんだよ! こちらの仙人サマがチョットその気になれば俺たちなんか即座に首ちょんぱだぞっ!

 ニジゲンは俺と密着してメスの顔をしていた。


「堪んねえ……」


 スィシーさんが無造作に歩み寄ってくる。ま、待て! いや待ってください! いや俺はね、実は仙人サマの大ファンなんですよ〜! サインとか貰ってもいいですかね? げへへ……。

 揉み手などしてご機嫌を伺う俺に、スィシーさんはどかっと地べたに胡座を掻いて座った。背筋がぴんと伸びている。


「チェンユウだったか? お前をどうこうするつもりはない。私の話を聞け」


 何だよ。武力行使をしに来たんじゃねえのか? 俺は急に強気になった。スィシーの対面にどかっと胡座を掻いて座る。

 話ね。俺に何の用だ? 言ってみな。

 スィシーはコクリと頷いた。


「先の戦いでも言ったが、我々はただ強さのみを追求する集団ではない。人間という種の、高みを目指している。武力は手段の一つであって、目的ではない。ここまでは分かるか?」


 ……よく分からんが、山籠りしてて熊に殴られて死んでも困るってことか?


「乱暴な理屈だが、大まかにはそれでいい」


 おお、正解したぜ。俺の勘も捨てたモンじゃねえな。何かご褒美とかくれよ。

 スィシーさんは無言で俺に金を差し出した。やったぁ。俺はそそくさと金を懐に仕舞った。へへへ……。

 で?


「私が下山したのは、マジュン殿に請われてというのもあるが。何よりもお前を連れて来ることが我々の目的に適うかもしれないと見てのことだ」


 ……ん? ダメだ。分からん。ヒントをくれ。


「人間という種を個として捉えたなら、スキルの解放は限られたスキルポイントを使って独自のツリーを組む作業と似ていると考えたことはないか?」


 答え言っちゃってるじゃん。しかも完全にゲーマー寄りの。ヒントくれたら俺は当てれたよ。だから金くれ。

 スィシーさんは無言で俺に金を差し出した。どうも。へへへ……。

 スキルツリーねぇ。そういうふうに考えたことはないが、言われてみれば確かにな。サーバーごとにスキル解放の進捗は違うし、手当たり次第に解放すればいいってモンでもないことは身に沁みてる。特にアビリティの解放はヤバいな。やろうと思えばお手軽に解放できる上に下手をすれば詰む。


「そこまで分かっているなら話は早い。しかしな、チェンユウ。詰みはしない。方向性が変わるだけだ。例えば……セブンと言ったか。あの男のアビリティは死の間際に他者の認識に干渉するものだろう」


 食らったのか?


「ああ。あれは避けられない。干渉には限界があるようだが……。強力なアビリティだ。が、あれが解放されたとしても、それはそれとしてプレイヤーは別の遣り方を探っていくだろう」


 んん……。つまり何を言いたいんだ? 回りくどいな。ズバッと結論を言えよ。


「では言う。チェンユウ。お前のアビリティはR型の奇跡片と呼ばれるものだ。珍しい型だ。いや珍しいと言うよりは……めったなことでは表に出て来ない。私はお前のアビリティを解放するよう命を受けている」


 …………。

 え? 俺をロストさせるつもりなの?

 スィシーさんはコクリと頷いた。


「そうなる」


 それ、やられると俺つらいんだが。

 なんていうか……。ごめん、ちょっと混乱してるんだが、ロストってどっちの意味で? 良い意味でのロストじゃないよな?


「何の話だ」


 良い意味は良い意味だよ。俺にもよく分かんねんだ。


「…………」


 スィシーさんは一応俺の意を汲み取ろうとしてくれているようだった。


「いや……。何の話をしている?」


 OK。通じないよな。分かった。それは置いておこう。あんたは俺を殺し切って俺のアビリティを解放したい。そのためには俺が完全変身してないとダメだ。だからこうして腹を割って話してる。そういうことだな?


「少し違う」


 結論を言えよォー!


「我々に奇跡片は扱えない。アビリティには適合する型とそうでない型がある。血液型と同じだ。チェンユウ。お前のアビリティを解放するのは最終手段だ。お前が我々に協力してくれるなら、我々は適合者を探す手間を省ける」


 そんなもんサトゥ氏辺りに頼めよ。あいつは他人のスキルをコピーできる。いちいち解放せんでも。


「それでは意味がない。人が何らかの頂きに至ろうとするなら高め合う相手が居なくては」


 協力ってのは? もっと具体的に。


「口約束では心許ないのでな。とある術を受けて貰う。薬剤師のクラフト技能と言えば分かるか?」


 生体改造か。

 ほーん。イマイチぴんと来ねえが……。

 JKよ。お前はどう思う?

 ニジゲンは擦り寄ってきたクロアリを撫で回している。


「一度マジュンと相談するべきだ。利害がぶつかるかもしれないし、この仙人さんがホントのことを言ってるなら相談しても別に困る内容じゃない筈だ」


 というのは?


「俺らは日本人だ。現地民じゃない。よそ者にその地域のマイナールールは絶対に分からねえ。だから契約は安易に結べねえ」


 だそうだが?

 スィシーの答えはシンプルだ。


「この場で結論を出せとは言っていない。だが話をするなら早いほうがいいだろう」


 なるほど。どうやら俺らに欠けてるのは相互理解らしいな。

 まず、あんたの言う高みを目指すってのがよく分からん。女を侍らして左うちわの生活っていう理解で合ってるか?


「合ってない。何だそれは」


 そりゃあ仙人と言えばストイックなイメージだが、禁欲してれば偉いってモンでもないだろう。

 スィシー。あんたは強い。その強さを世のため人のために活かそうっていう気はないのか? 哀れなザコキャラは勝手に死ねばいいってことか?


「そうは言わないが……」


 よっしゃ。なら話は早い。街に繰り出そう。生憎と俺は俗物なもんでね。あんたの人となりを知らないと話が先に進まない。

 そういうことになった。


 強い男はモテるのだ。調子に乗ったザコキャラを成敗するだけでキャーステキーってなる。俺はお零れに預かりたかった。そして、べろんべろんに酔っ払った仙人サマともう一度話をしよう。

 俺と仙人サマは夜の街に消えて行った……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 人はそれを堕落と言う。



 GunS Guilds Online


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