11/10 17:00
1.ポポロンの森-クランハウス前
俺は叫んだ。
「先生ー!」
リリララは未来視の内容を先生にだけは伝えなかったようだ。
それは何故か。
先生の行動が鍵になるからだ。
時刻はもう少しで五時。このまま先生が家に入れば俺と間違って赤カブトに不意打ちされる恐れがある。当然、俺は止めに入る。
そうやってリリララは俺の動きをコントロールしたんだ。
レアリティを上げた中国人たちと機械化した手足を持つギフターズが衝突した。丸太小屋までの道が開いた。俺は全速力で駆けていく。
ゴミが多すぎる。ゴミどもの思惑が複雑に絡み合って混乱の坩堝だ。いつ何が起きても不思議じゃない。それじゃ困るんだよ。俺はゴミのようなアビリティを発動した。俺の肌を薄黒く染めた複雑な紋様が遊離して円環状に広がる。俺は吠えた。
「俺のぉー! 邪魔をするなぁー!」
ゴミどものカットインが入った。何なんだよ。邪魔臭ぇ!
俺のカットインがゴミどものカットインを切り裂くような演出が入った。
セブンの狙撃。
【心身燃焼】を利用して無機物と融合した種族人間はスキルを使えないが、【スライドリード】は他者を巻き込むことができる。【心身燃焼】のリジェネのように、リチェットの【スライドリード(速い)】を利用することは不可能ではない。普通は無理だろうが。自分の筋肉を他人に動かして貰うようなものだ。しかしセブンとリチェットの組み合わせなら、それができるのかもしれない。
銃弾もかくやという速度で打ち出された雪玉がマジュンくんの脇腹にめり込んだ。
マジュンくんも狙撃は警戒していたようだが、【戒律】に侵食されつつある身体を自由に動かすことはできなかったのだろう。
砲弾じみた衝撃に吹っ飛んだマジュンくんが血反吐を撒き散らしながら叫ぶ。
「撤っ、退する……!」
君主のジョブは渡せない。マジュンくんは己の首に矛の刃を当てて引き切った。
マジュンくんにガムジェムを託されたオムスビコロリンがニヤニヤと笑いながら俺をじっと見つめている。
俺は吠えた。どけ!
オムスビコロリンはさっと身を翻して俺の進路を開けてくれた。いい子だ。いや、全然いい子じゃない。何かしようとしている。
「俺がゲートキーパーだ」
死出の門が開く。俺は無視した。構ってやっている暇はない。
先生がハッとした。
「事象の地平面か……!」
ついた。俺はウチの丸太小屋に辿り着いた。良かった。間に合った。玄関のドアに手を掛けて勢い良く開ける。
ジャム。俺は帰ってきたぞ。いつだって俺はお前の元に帰ってやるんだ。
扉を開けた先、剣を引き絞った赤カブトさんがニコニコ笑顔で待ち構えていた。
「お帰りなさい」
不意打ちってそれ? 浅っ。浅いなぁ〜。なんだかガッカリだ。もう少し意表を突いてくるのかと思っていた。まぁ……。俺は苦笑した。赤カブトらしいっちゃらしいか。
だが赤カブトは俺を殺せなかった。リリララの予言に散々振り回されたゴミどもが、自分たちにも知る権利はあるとばかりに外から俺たちの遣り取りを覗き見していたのだ。
赤カブトは剣を取り落としてわたわたと両手を振った。
「ち、違うから! そういうのじゃないから!」
真っ赤になった顔を両手で隠して二階の自室に引っ込んでしまった。
……ああ、そういうことだったのか。
俺は不意に納得した。
リリララが目にした俺の死ってのは、良いほうの未来だったんだな。
アナウンスが走る。
【警告!】
【レイド級ボスモンスター出現!】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:レイド級ボスモンスターの討伐】
【制限時間:00.00】
【目標……】
【使徒】【α-Jewel】【Level-1007】
俺は振り返った。
……よう。リンリー。
龍の意匠を施された緑色の部分鎧で申し訳程度に肌を隠している巨人が両手を俺にかざしている。
そういえばゲートキーパーとか言ってたな……。完全体のリンリー嬢を従えたオムスビコロリンが無邪気に笑った。
「どっちにする?」
俺の負けだ。
俺は先生を突き飛ばした。
詰めも申し分ない。何をされるか分からないのに先生を差し出すことは俺にはできない。畜生め。
命の火が降り注ぐ。αテスターの固有スキル。プライベートルームの形成だ。
赤い監獄が閉ざされる直前にスズキと目が合った。泣きそうな顔をしている。
「コタタマっ」
最後に何か言葉を掛けてやればいいんだろうが、生憎と気の利いたことは何も思い浮かばなかった。
だから、代わりに俺はこう言った。
「ジャンプ+でワールドトリガーを毎日2話ずつ無料で公開している。気になるやつは今すぐジャンプ+で検索してくれ」
赤い牢獄が閉ざされる。
俺はお持ち帰りされた。
これは、とあるVRMMOの物語。
現在、第54話まで無料公開中。
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