精彩予測
1.ポポロンの森-人間の里
事情は知らんが中国の偉い人に身体を狙われている。
レベル1の俺が走ってもすぐに追いつかれる。なのでメガロッパさんにおんぶして貰っている。
並走するスズキがメガロッパに尋ねる。
「メガロッパ! なんでコタタマが狙われてるの!?」
「分かりません。あちらのサーバーには私たちの仲間が何人か潜伏していますが、トップ層に取り入るのは無理です。さすがに日本国籍を捨てろとは言えませんから」
そこまでやるなら、むしろ中国側についたほうが実入り良さそうだしな。
人間の里は乱戦状態だ。
攻め込んできた中国ゴミと日本ゴミが適当に相手を見つけてバチバチやり合っている。
おい、メガロッパ。逃げるのはいいが、これ先に進むの無理なんじゃねえか? ゴミが多すぎる。
「問題ありません。私は【目抜き梟】のメンバーですから」
そう言ってメガロッパは器用にゴミどもの隙間を縫うように駆けていく。俺はハッとした。リリララの精彩予測か……!
「そういうことです。けど、仙人が攻めてくるのは予想外でした。それに李信馬准……。レベル35超えの君主……。どうにかしてマナを削らないと……」
メガロッパが走りながら肩越しにチラリと後ろを見る。
メガロッパはリリララに予め逃走ルートを指定されていたようだ。しかし、それは裏を返せば俺たちを追う相手にとっても走りやすいルートということになる。
金髪碧眼のロリキャラを小脇に抱えたマジュンくんが正確に俺たちを追ってくる。
スズキがギョッとして呆然と呟く。
「抜けてきた? サトゥさんたちが、たった一人の相手で手いっぱいってこと……?」
俺の足を抱えるメガロッパの手にぎゅっと力が込められる。
「……コタタマ。仙人が何したか見えましたか? あの見えない斬撃は一体……」
あれはアフトクラトルの国宝の一つだ。
「ワートリはいったん置いておいて」
さて。何だろうな。そういう母体なんじゃねえか? 仙人ってのは?
「イベントにも参加してこない変わり種のプレイヤーです。お前のトコのアットムさんに近いかと。トッププレイヤーを上回る実力者とは聞いていましたが……あそこまで桁外れとは」
……そういえばマジュンくんが前にそれらしいことを言ってたな。自分を鍛えることにしか興味がない連中が居るとか何とか。ヤツがそうなのか。
マズい。マジュンくんがぐんぐんと距離を詰めてくる。レベル差だけじゃない。求心力が尋常じゃない。存在感とでも言うのか。目で追わずにはいられない何かがある。
メガロッパがマジュンくんを指差して叫べば、
「その人は君主です! みんな、お願い! 少しでも足止めを……!」
マジュンくんは余裕すら感じる声音で目的を述べる。
「私は金の雛鳥を追う」
マジュンくんが動けば、自然と三和ゴッドが集まってくるかのようだった。君主のジョブを狙って動く日本ゴミを、マジュンくんの意を汲んだ中国ゴミが排除していく。
チャイニーズが誇らしげに叫ぶ。
「竜殺しの【英雄】が通るぞォー! 道を開けろ! 盾になれ!」
俺はゾッとした。中国人どもはマジュンくんが君主であることに「納得」しているのだ。ドサクサに紛れて君主のジョブを奪ってやろうという考えがない。
「小日本人! お前らじゃ俺らっトコの【英雄】にゃ勝てねーよ! 格が違うッ」
俺は揺さぶりをかける。
「そうだといーな! 君主は死ねば一発アウトだ! いざ崩れれば脆い!」
オムスビコロリンは楽しそうだ。
「逃げ方に迷いがない。精彩予測。リリララか。いい駒を持ってンね」
ダメだ。追いつかれる。
俺はニッと笑った。
俺一人ならな。
「室長!」
本当にお前らは俺にはもったいない部下だよ。
俺に扮した査問会の連中が駆け寄ってくる。
俺は人差し指と中指を広げて言った。
「シャンブルズ」
コタタマくんシャッフルタイムだ。
俺の意を汲んだコタタマシリーズが壁を作って立ち替わり入れ替わる。よし、散れ。
パッと散開したコタタマシリーズが走り去っていく。さあ、どう出る?
オムスビコロリンが俺を指差した。
「マジュン。このまま」
ほう。正解だ。……アビリティじゃない。【八ツ墓】の八番環境でスキルは封じられている。当てずっぽうとも思えない。俺の心理を読んだのか。
なるほどな。本物だ。【賢者】。先生と同じ称号を持ってるだけのことはある。
おい、メガロッパ。オムスビコロリンを集中的に狙おう。本当に厄介なのはアイツだ。マジュンくんだけなら撒ける。プレイヤーには死に戻りがあるからな。
シャッフルを看破されたと見て戻ってきた査問会がマジュンくんにアタックを仕掛ける。しかし三和ゴッドの守りが固い。マジュンくんに近寄れない。俺の可愛い査問会はそんじょそこらのゴミには負けないが、別に廃人という訳ではないのだ。三和ゴッドに絡まれた査問会が脱落していく。
人間の里を抜けた。森に入る。武器を振るのに木々は邪魔だから乱戦エリアは自然と人間の里の内側に収まっていた。森に足を踏み入れるや急に戦闘が散発的になる。
メガロッパがぼそりと呟く。
「手練れが抜けてきます」
プレイヤーはシンプルな環境でのPvPを好む。遮蔽物や高低差を利用して戦うのを好むのは本格派だ。
おや、しがないモツ煮屋の店主が木の幹に背を預けた気取ったポーズで立っている。
サタウだ。
「クラン潰し。また厄介ごとか?」
俺は苦笑した。ああ、どうやらそうらしい。悪いな。手を貸してくれ。
「無論そのつもりだ。君には大きな借りがある」
サタウはかつてのクランメンバーと和解し、店員として雇っているらしい。黒い前掛けを腰に履いているモツ煮屋の店員たちが三和ゴッドの部隊に左右から挟撃を仕掛ける。
本丸のマジュンくんを陥とすためには、まず三和ゴッドを減らさないと話にならない。
隊列が乱れた三和ゴッドに、剣を抜いたサタウがざんざんと地を蹴って接近していく。
前に出ようとする三和ゴッドをマジュンくんが制した。
「乗るな。なかなかの使い手だ。私がやる。すぐに済む」
サタウが吠える。
「見くびられたものだな!」
マジュンくんは無手だ。クラフト技能を使える君主は身軽さを保つために武器を持ち込まないという選択肢を取ることができる。
マジュンくんが地を蹴って加速した。鉤爪状に広げた手を腰だめに構えて突進する。
接敵。サタウが刺突を繰り出す。正確に心臓を狙った一撃だ。マジュンくんは避けなかった。胸を貫通した剣を半ば無視して掌底をサタウの顔面に叩き込む。
「……バカな!」
サタウが前のめりに倒れる。
マジュンくんが胸に刺さった剣を引き抜いて放り捨てる。……無傷だった。ダメージを負っていない。いや、治った。傷口を淡い光が包んでいる。
俺とメガロッパは同じ結論に至って同時に叫んだ。
「ガムジェム……!」
マジュンくんはニコリと笑った。打ち倒したサタウを肩越しにチラリと見て冷淡に述べる。
「無駄骨だったが健闘したな。玄界の剣士」
玄界ではないが……!
禍々しい光を放ったマジュンくんが迫る。
メガロッパが俺をスズキに預けて前に出る。
「逃げて! コタタマ!」
これは、とあるVRMMOの物語。
未来の分岐点まで、およそ590秒……。
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