三和ゴッド
犬狼隊。
それは……少し夢見がちなお犬様がドえらい目に遭わんとした時に集結する非正規部隊である。
主要メンバーはお犬様とヴォルフさん。ゴミ多数。あと俺。
なお、お犬様麾下のヤマダシリーズは別件で忙しいので現時点で参加の目処が立っていない。まぁウィザード問題だ。ロストすれば記憶を飛ばせるので俺は解決したつもりで居たのだが、お犬様はそのように考えなかったらしい。ヤマダシリーズはゴミどものロストを未然に防ぐために動いている。少し目を離した隙に三次職を多数抱えるヤバい戦闘集団と化していた。
1.マールマール鉱山-山中
霧のような小雨が降り注いでいる。
薄暗い山中でお犬様率いる犬狼隊と中国軍が正面衝突した。
チャイニーズは日本人のふりをすることもできた筈だ。やつらはパツキンのチャンネーとヨロシクしたいらしく西洋風の美男美女が大多数を占めるが、それは日本産のゴミも同じこと。美的感覚が違うので彫りの浅い顔面をしちゃいるがやたらと肌は白いし髪と目の色はカラフルだ。まぁ分からんでもない。キャラクリで肌の色を濃くするのは何か得体の知れない心理的な抵抗がある。唯一の例外が褐色スキーの女キャラということになるだろう。もちろん例外は居るが、それはあえてスタンダードを回避したキャラだったりネタキャラの比率が高い。
つまり、まぁ何だ。誤魔化しても仕方ない。俺ら黄色人種はどう足掻いてもパツキンのチャンネーとヨロシクしたいのである。
日本と中国の決して少なくない共通点。似通った性癖と生まれながらに備わるカラーリング。だからこそ俺たちは相容れない。それは同族嫌悪に近しい感情なのだろう。胴長短足の体型が劣等感を呼び覚まし、同じルーツを持つ胴長短足を滅ぼせと訴えかけてくる。
衝突は不可避だった。
リアル戦史に裏付けされた憎しみがぶつかり合う。
「お前らキャパ限界じゃねえ!? お先真っ暗だけどどうすんの!? ねえどうすんの!?」
「お前ら戦勝国とか言ってっけど俺らにボコにされてっからー! 言っちゃ悪いけど俺らお前らには負けてないんだよねー!」
「はいダブスタ来たー! お前らマジで俺らのことアホだと思ってんな! お前らは先祖のやったことだから自分は関係ないっていうスタンスなんだよねー! そんなの見てれば分かっから!」
お犬様が吠える。
「やめんか! 卑屈になるな! 前を向け! 過去はどうにもならん! 人間は明日を生きるんじゃ〜!」
命の火が燃える。赤い輝きがお犬様の前足を蝕む。凝縮した生命の色が鋭い鉤爪の輪郭を描く。火の粉を散らしながらお犬様が木刀を振るう。打ち据えられたチャイニーズがバタバタと倒れていく。むっ、まだ息があるようだ。俺はとどめを刺した。
母体の力を引きずり出して握力のなさを克服したお犬様の獅子奮迅の戦いぶりに犬狼隊が勢いづく。
犬狼隊のメンバーは俺を除いて国内サーバーでも上位の腕利きだ。
だが、中国サーバーのベンチ層の厚さは俺たちの予想を遥かに上回っていた。
「何をダラダラやってる。どけ」
後方に控えていた部隊が前に出る。
ヴォルフさんと一進一退の攻防を繰り広げていたゴミがニヤリと笑った。
「三和ゴッドのお出ましだ……! お前らはおしまいだよぉー!」
三和ゴッドとは中国版の廃人のことだ。
明日をも知れない日々を暮らし、泥沼のような享楽にふける人種である。
心強い味方の登場に俄然調子に乗るゴミの首を三和ゴッドが刎ねた。
「別にお前が強ぇ訳じゃねえだろ」
あっさりと味方を殺した男が、引き戻した矛でトントンと自分の肩を叩く。ヴォルフさんを見つめてニヤッと笑う。
「お前、なかなかやるな。サトゥってのはお前より強ぇのか? どこに居る?」
ヴォルフさんがハンマーを担いで答える。
「サトゥくんか。彼は強いよ。私よりずっとね」
ヴォルフさんは殺しを嫌う。お犬様に同調を示して今までは敵を殺さないよう立ち回っていた。そのヴォルフさんがギアを上げた。
「ぬっ、ふぅあッ……!」
嬌声を上げるや残像の尾を引いて容赦のない連撃を叩き込んでいく。三和ゴッドの男が目を見開く。ヴォルフさんの実力が予想以上だったらしい。捌ききれずに最後の一撃を腕で防いだ。素早く飛び退くや、へし折れた腕を眺めて狂ったように笑う。
「イイね! 今のは効いた! まーまーだ! あんたさぁ、まーまーだよ! ちょいと侮ったかぁ?」
そう言って男は使い物にならなくなった腕を切り落とした。矛を放り捨てて、手のひらを突き出して構える。
三和ゴッドの女キャラがくすくすと笑っている。
「ダサっ。なにやられてんの? 手伝ってあげよっか?」
「黙ってろ! コイツは俺がやる。手出しするな。殺すぞ」
プッチョムッチョが初登場した時にも思ったけど、そのガンツチームのノリ何なの? 一定以上のレベルに達するとチームワークがクソになるの? やっぱり種族人間ってゴミだわ。
とはいえ、強いものは強い。
三和ゴッドの参戦により戦局は一気に覆された。
俺はさっきから俺でも勝てそうなザコキャラを探しているのだが、なかなか見つからない。いっそ皆殺しにすればスッキリするんだろうけどお犬様とヴォルフさんが居るからな。MPKはダメだ。
仕方ねぇ。プッチョムッチョでも呼ぶか。俺はこんなこともあろうとポチョから借りてきたオカリナをはぷっとくわえた。ぴーひょろろーと吹く。
「呼んだか?」
俺に召喚された黒服二人がひょっこりと木陰から姿を現した。神出鬼没と言うよりは出待ちだった。
三和ゴッドの面々がギョッとする。
「テメー! プッチョムッチョ! 何してる! また減俸食らいてーのか!?」
減俸?
プッチョムッチョはサングラスを指で押し上げてフッと笑った。
「知らなかったのか?」
「私たちは給料泥棒だ」
ぴーひょろろー。
俺はバカ二人を送還した。
さすがにクビの危険性があると知って頼る訳には行かない。
おっと三和ゴッドに目を付けられてしまったようだ。
「お前、ちょっとタダモノじゃねーな?」
俺は虎の威を借ることにした。
待て。話せば分かる。俺に手出ししたらメイヨウ様が黙っちゃいねーぞ。
「……傾国の知り合いか? 関係ねーよ。戦争やってんだ」
ごもっとも。
万策尽きたぜ。
あっ、お犬様が捕まった。お前らお犬様をどうするつもりだ?
「さあな」
そうか、生け捕りにしろっていう命令が出てるのか。でも連れ帰るのは無理だろ。いや、αテスター。着ぐるみ部隊を捕まえたらリンリーが出張る手筈になってるのか。
なるほど。だが喜べ。意外でも何でもない。お前らはネフィリアを甘く見てる。
お犬様を捕まえたゴミどもの首が刎ね飛ばされた。
サトゥ氏だ。念獣みたいなのが頭の横に浮かんでいる。
「コタタマ氏さ。メイヨウを暗殺してくんない? あいつ邪魔なんだよね」
邪魔とは何だ。メイヨウ様は全人類の宝だぞ。
「すでに軽く隷属してるのかよ。なに? それ殺してやれば解けるの?」
解けねぇーよ。適当な理由つけて俺を殺そうとするのヤメロ。
「お前のハドラ、ストックしとくと微妙に便利なんだよ。カルマ半端なく上がりそうだけど」
カルマなんて項目はこのゲームにゃねえよ。……ないよね?
アビリティを発動したサトゥ氏は手の付けられない怪物だ。
俺と会話しながらゴミどもを迅速に始末していく。
三和ゴッドの面々が色めき立つ。
「スキルチェインの……! テメェがサトゥか!」
「クラン【大黒屋】のサトゥです。【大黒屋】は初心者歓迎のまったり派クラン。イベント参加は自由なので、クランってどんな感じなの?という方にもオススメ。お気軽にどうぞ」
サトゥ氏は虚偽にまみれたクラン勧誘をした。クランメンバーの鑑だ。
一口に三和ゴッドと言ってもピンキリだ。親の脛をかじって生きる真の廃人からしてみれば、日雇いの仕事で稼いだ金で遊び呆けるプレイヤーは準廃人という分類に入る。
真の廃人は社会に何ら貢献しない。
わずかながらも国家の発展に寄与している準廃人がイキる。
「俺がやる! 俺の獲物だ!」
言うが早いかサトゥ氏に襲い掛かった準廃人の頭に剣が突き刺さった。
宰相ちゃんだ。
木陰からひょっこりと姿を現した目隠れキャラが長い前髪越しに三和ゴッドの面々を順ぐりに眺める。
「初めまして。クラン【目抜き梟】のメガロッパです。【目抜き梟】は国内トップの大規模クランです。高アクティブユーザー優遇。イベント参加は強制ではありませんが、本気でゲームを楽しんでみたい!という方は上を目指せる環境で一緒にがんばってみませんか?」
クランメンバーの争奪戦が始まった。
だが、勧誘も虚しくヘッドショットされた三和ゴッドが次々と倒れていく。
「戦争やってる暇があるならレベル上げろよ」
もはや目的すら定かではないセブンが通りすがりのブーンに連れ去られて行った。
「せ、セブン〜!」
猛スピードで遠ざかっていくブーンをリチェットが追い掛けていく。
国内サーバーの【ギルド】はネフィリアの指揮下にある。あの女は退屈を嫌う。国家間戦争の勃発を歓迎している。リンリー嬢の潜入を許したのはわざとだろう。
お犬様の誘拐を阻止するべく【ギルド】が動いていたのは、小競り合いによる決着は許さないというメッセージだ。
長距離狙撃という手札を持つネフィリアは、この戦争を支配できる。
まぁ好きにするといい。俺はお犬様さえ無事ならそれでいい。
お犬様〜!
俺はダッと地を蹴ってお犬様に駆け寄っていく。お怪我はありませんか〜? お犬様がこちらに手を振る。
「わ、ワシは無事じゃー!」
お犬様の肉球はとても柔らかそうだった。
俺のカットインが入った。
受け止めてくれ! 俺をー! 両腕を広げて怪鳥のように飛び上がった俺を通りすがりのブーンがガッとインターセプトした。
ブーンのカットインが俺のカットインと交錯する。ちょっ……待て……。このクソ鳥。俺はロストしてからこっち、言うほど死んでねえだろ……! は、離せ!
ぴんと翼を広げたブーンが空中で回転しながら火を吹いた。火の輪を潜って急加速する。どういう理屈でっ……。おごぉっ……!
俺の意識はそこで途絶えた。
これは、とあるVRMMOの物語。
ファストフード。
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