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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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決死の行軍

 1.海上都市ニャンダム-軍議


 対日本軍に向けた軍議に参加している。

 本日のお題は戦力分析の再調査結果報告だ。当然攻め込む前にも似たようなことはやったんだろうが、最新のデータが手に入ったなら更新しておくに越したことはない。

 この手の会議で盛り上がるのはやはり重要攻略対象のピックアップ。つまり敵軍の要注意人物の戦力分析だ。

 モニターに奮闘するサトゥ氏が映っており、参加者一同で眺めている。撮影したのはリンリー嬢だろう。サトゥ氏の気持ち悪い動きに中国軍幹部からどよめきが上がる。

 俺は指揮棒でサトゥ氏をぴたりと指して、


「まぁご覧の通り。一番厄介なのはコイツです。いっぺんロストしてるんでレベルは下がってますが、アビリティがロスト前よりヤバいので今となっちゃ20近くまで盛り返したかもしれません」


 このゲームのプロフィールはフレンド限定で閲覧できる仕様になってるのだが、フィルターを細かく指定できるためレベルを隠すプレイヤーが多い。レベルが一つ違うだけで、いざ始末しようとした時に戦法が変わるからだ。一番分かりやすいのは足の速さだろう。走って追いつけるのか追いつけないのか。それだけで本当にガラリと変わる。

 状態3のスマホを持ってるやつが居るらしく、サトゥ氏の各種ステータスが動画に添えられている。作戦指揮能力やら何やらを十段階で評価したものだ。推定の値ではあるが、俺の印象からそう大きくは離れていない。よく出来てる。

 俺はサトゥ氏のステータスを指揮棒で指して続ける。


「レベルのこともあって戦闘力そのものは現時点ではリチェットのほうが上だと思いますが、コイツの場合は頭が回るし戦力の展開能力が高い。とにかく指揮を執らせないこと。隔離してゴミどもから引き離す。それに尽きる」


 展開能力とは折り畳んだものを広げる力だ。指揮能力というのは人を使う能力なので、単純に一つの項目で大雑把に判定しても話が先に進まない。

 中国軍幹部の雰囲気は朗らかだ。それは自軍のほうが強いという自負から来る余裕の表れだった。


「いや、しかし……この総合能力の高さは。是非ともウチに欲しいな」

「いいや、ここはやはりリチェットだろう。チェンユウくんの言う通り彼女は貴重な正常個体だ。時期が浅いからか、どうしても頭角を現してくるものは異常個体が多くなる」

「だが、それもいずれは落ち着く見立てだ。トップクラスのプレイヤーはロストからの再スタートが定石。となると、やはりサトゥは一歩リードしていると言わざるを得ない」


 サトゥ氏とリチェットが大人気だ。俺も同じ日本人として鼻が高い。なおセブンは不人気である。キャラが濃すぎてロストを繰り返しても正常個体になった姿を想像できないそうだ。

 かように日本軍の戦力を丸裸にする手伝いをしていると、ふと軍幹部の一人が悪戯っぽく笑って俺に目を向けた。


「しかしチェンユウくん。君のステータスはひどいな。戦力評価が2というのは、あまりにも謙虚なのではないかね? 少し使える新規ユーザーと変わらんぞ」


 いやぁ。俺は照れ隠しに指揮棒で自分の頭をコツコツと軽く叩いた。

 俺もね、3くらいはくれてやってもいいんじゃない?って思って分析班の子に菓子折りを持ってったんですけど、そういうところがダメなんですって一刀両断ですわ。

 どっと軍幹部連中が沸いた。

 最高幹部の席に座るメイヨウ様がチッと舌打ちした。モニターの中でエンフレに変身したサトゥ氏を穴が空くほどに注視している。


「……欲しいな。日本に置いておくには惜しいコマだ」


 おっ。メイヨウ様の推しメンはサトゥ氏ですか?


「セブンとリチェットも、だ。コイツらは三人で一組だろう。特にセブン。ステータス表記にはない項目だが、セブンは単独でも動けるコマだ。猟兵のクラスチェンジ条件を見つけたのはヤツだと聞いてる。あれには私たちですら苦労した。そうと知らなければ、ブーンを追跡するのは単なる時間の無駄だからな」


 死に戻りしたほうが早いですからね。

 メイヨウ様によれば、中国サーバーでは猟兵の発見は大分遅れたらしい。遠因になったのは女神の加護だ。プレイヤーが死に慣れすぎて、ブーンに攫われた仲間を助けるという発想が出て来なかった。新規ユーザーはそうでもないが、ブーンを追跡するためには【スライドリード】の段階解放が絶対条件だ。新規ユーザーにはいささかハードルが高い。

 セブンの場合はホイホイと攫われるので試行回数が常人離れしていたのだろう。ワッフルの巣でのヤツとのエンカウント率はちょっと異常だからな。

 メイヨウ様は腕組みなどしてうんうんと唸っている。可愛い。メイヨウ様は少し子供っぽいところがある。


「チェンユウ。着ぐるみ部隊が参戦してこないというのは本当か? お前はどうも私の命令を拡大解釈するところがある。ハードラックによるものか。厄介な育て方をしてからに」


 先生に関してはまず間違いなく。メイヨウ様が気にしてるのはそこでしょう?

 先生は参戦しませんよ。先生の本質は人を導くことにありますから。ご本人も分かっている筈です。指揮能力に限って言うならサトゥ氏やリリララのほうが上だ。先生に誰かを切り捨てる判断は下せない。それがどれほど重要なことかメイヨウ様はご存知でしょう? 末端の兵士にも守るべきものはあるだろうと気にしていては戦争はできませんよ。


「……お前やネフィリアの師に当たるというのが気に掛かる。お前たちには大規模GvGの経験がない。窮鼠は猫を噛むと言う。いざとなれば化けるかもしれない」


 うーん。そこまで踏み込んでしまうと何とも言えませんねぇ。敵戦力を過大評価するのもあまり巧くありませんし。

 当然ながら敵は勝つにはどうしたらいいか考えて動く。ひとたび劣勢に陥ったなら罠の存在を偽装する程度のことはやるだろう。そうした場面で偽装工作だと見破るには調査力がモノを言う。体制が整った軍ならばそれをやれる。ならば、やれない場面もある。乏しい情報を想像力で補って勝ち筋を探るのだ。だから警戒しすぎるのも良くない。

 いずれにせよ俺個人としては着ぐるみ部隊の皆様は優しい世界で生きていて欲しい。



 2.日本-マールマール鉱山-山中


 だが、そうは問屋が卸さなかった。

 軍議を終えて一時間も経たない内に俺はお犬様と一緒に最前線に駆り出されていた。

 ここマールマール鉱山の山中では中国軍と日本軍の小競り合いが頻発している。

 マジュンくんの撤退命令で中国軍の主力は引き上げたが、その後どこで遊ぶかはプレイヤーの自由だ。日の丸の腕章を巻いた俺とお犬様は茂みに身を潜めて突撃の機を窺う。

 ……まぁアレだ。いつかの危惧が現実のものになってしまった。

 スキル選挙の際に戦争の時代は終わったと豪語したお犬様であるが、戦争が始まってしまったことに責任を感じて三等兵に志願。放っておけなかった俺も志願して現在に至る。

 中国産のモブキャラはクォリティが高いのでMPKで皆殺しにしてやったら簡単に見分けることができた。ネフィリアも裏で暗躍しているらしく【ギルド】の動きが活発だ。

 中国軍のゴミどもはマールマール鉱山の女神像を目指して進軍中。クソ虫さんたちの銃弾が戦場を飛び交う。

 お犬様が正面を見据えたまま俺含む犬狼隊のメンバーに声を掛けてくる。


「君らまでワシに付き合うことはないぞ」


 俺たちは苦笑した。

 だったら一緒に帰りましょうよ。


「それはできん」


 なら仕方ないですね。ご一緒します。

 お犬様は小さく震えて「すまんっ」と力強く詫びた。傍らに置かれた木刀を掴み取って檄を飛ばす。


「総員抜刀! 突撃じゃー!」


 お犬様を筆頭に俺たちは茂みを飛び出して駆けていく。

 俺はメイヨウ様に忠誠を誓った身であるが、お犬様の命はそこら辺のゴミよりも重いという絶対的な確信がある。俺はメイヨウ様のためにお犬様と共に散るのだ。

 俺は吠えた。

 掛かって来いや共産党の犬どもォー!

 犬と犬の国家の威信を賭けた戦いが始まる。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 MPKで皆殺しにできるなら魔族一人で十分なのでは?



 GunS Guilds Online


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