メイヨウ様ー!
1.中国-海上都市ニャンダム-とあるティナンの屋敷
部屋に入ってきたリンリー嬢が目を丸くした。
「わお」
よう。俺は不敵に笑った。
四つん這いになっている俺の背中に尻を乗せているメイヨウ様が俺の座り心地を誉めてくださる。
「ふふふ……。どうだ? なかなかのモンだろ。リンリン。お前を苦しめる全てはこの私が排除してやる」
赤カブトが頬を膨らませてブンむくれている。俺をメイヨウ様に取られて悔しいんだろう。仕方ねえなぁ。あとでこっそりと殺されてやるか。ウチの三人娘は少し殺されてやればすぐに機嫌を直してくれる。
イライラした様子の赤カブトがチラリと俺を見る。今だ。俺は「あとでな」と口をパクパクと動かして、赤カブトが椅子に立て掛けている剣をチラリと見た。
俺の視線を目で追ったAI娘が頬を赤らめてもじもじする。ふふん。チョロいぜ。すっかり機嫌を良くした赤カブトがリンリー嬢に元気に挨拶した。
「ルビー姉さん! お久しぶりです!」
ルビー?
上機嫌のメイヨウ様が解説してくれた。
「ルインルビィ。リンリンの本名だ。αテスターに国籍はないからな。宝石にちなんだ名前をしてるのさ」
わざわざ改名を?
「お前らは英名に抵抗がないんだろうが、私たちは違う。たかが名前一つで反感を買うのもバカらしい。私が名前を贈ったんだ」
そういえばジュエルキュリもシャーリーとか呼ばれてたな。愛称にしても無理があるとは思っていたが……。はて? 俺は首を傾げた。イマイチぴんと来ない。
リンリー嬢がメイヨウ様の向かい側に座る。高価そうな椅子だ。華美な装飾や演出にかけては日本じゃ中国には勝てないかもな。日本人は質素な暮らしを美徳とする。しかしそれは中国ではズレた感覚になる。中国は人口が多く国土が広いから一時の流行よりも誰が見ても分かりやすい絢爛さを好む。
リンリー嬢はそっけない。赤カブトに軽く手を上げて、
「ああ、ジャム。元気そうだな」
リンリー嬢の赤い瞳に感情の揺らぎはない。だが、先日の遣り取りから姉妹に無関心ということはないだろう。強い自制心を持った女だ。な、何か……。俺は奇妙な焦りを感じた。やっぱりウチの子だけバカっぽいぞ……。リンリー嬢には悪いが、俺は断然赤カブト派だ。どうにかしてウチの赤毛をリスペクトしてやりたい。
うーん……。個性かな? 何かコレという個性があれば違ってくるかもしれない。つまりキャラ付けだ。
俺は、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてるニジゲンを見た。メイヨウ様の体重を支えている俺の両腕を揉みほぐし、吹き出る汗を拭き取ってくれている。リンリー嬢を見つめ、何か腑に落ちない様子で首を傾げた。
「リンリー。あんたはもしかしてメイヨウに付いてるのか? マジュンじゃなく。いや、こっちじゃトップが交代してるんだったな」
リンリー嬢はニジゲンを高く評価している。それはおそらく先を見据えてのことだ。今はまだいいが、生産職の格差は広がっていくと予想されている。レベルが上がり、できることが多くなればなるほどセンスを問われるようになる。ョ%レ氏の玩具箱然り武器による戦力向上は無視できないものになっていくだろう。
工場で銃器を大量生産しているリアルとは違う。かつて俺はゴミジェムの力を借りて玩具箱の再現を試みたが、細かい造りまでは分からなかった。レシピを公開して大量生産するという訳には行かないのだ。
ニジゲンは赤カブトがサトゥ氏でなく俺の元に派遣されたことを気にしている。米国サーバーのジュエルキュリはジョンの元に派遣された。リンリー嬢はどうだったのかと。
リンリー嬢は思案するように小指で唇をなぞり、慎重に受け答えする。
「思うにGMマレとの戦いが一つの契機だったんだろう。ョ%レ氏は私たちαテスターの投入に関して様々なパターンを試しているように見える。特に……」
そう言って、メイヨウ様をじっと見つめる。
「メイヨウのように。手に負えないプレイヤーとの接触に回されることが多いようだ」
リンリー嬢は俺に同情しているようだった。
「チェンユウ。厄介な女に目を付けられたな。メイヨウは三国一のワガママ娘だ」
身に余る光栄です。
真の奴隷とは身も心も主人に尽くすものだ。
俺はセミプロだからな。半端な仕事はしない。
メイヨウ様が椅子になれと言うなら、俺はメイヨウ様の尻の感触を楽しむのだ。これが男キャラなら即刻叩き殺しているが、メイヨウ様は男キャラに存在価値がないことをよく理解なさっておいでだ。豚のような俺のケツをばしっと叩いてサッと立ち上がる。
「リンリン! 我が友よ! 街に出るぞ! レベル上げもいいが、卑劣な日本人どもはマジュンに従うまい。開戦は近い。備えねば」
メイヨウ様が真に心を許せるお友達はほんの一握りしか居ない。その一人に俺はなりたい。そのためには、弱った心に付け込むのが一番手っ取り早い。メイヨウ様にはこの俺さえ居ればいいのだ。この俺さえ居れば、な。
俺は、メイヨウ様に強引に引っ張られていくリンリー嬢の背中を見つめてベロリと舌舐めずりした……。
2.海上都市ニャンダム
メイヨウ様は新しい奴隷の俺を見せびらかしたくて仕方ないようだ。
街に出るなり俺にあれを買って来いだの何だのとパシリを命じてくる。
だが、主人の言うことに唯々諾々と従う奴隷はしょせん二流、三流よ。俺は買い物のついでに露店商の首を刎ねて手土産にした。狩りの成果を自慢する飼い猫のように生首をぶら下げて戻ってきた俺に、しかしメイヨウ様は不思議な生き物を見るような目を向けるばかりだ。
「なんで殺した?」
価値とは希少性ですからね。
世に名を成す名画、名曲は作り手が死んで初めて完成を見るのです。コイツは果報者ですよ。くくくっ……。俺は斧の刃をベロリと舐め上げた。
リンリー嬢がメイヨウ様にボソボソと何か言っている。
「……おい、ヤバいぞ。本気で言ってる」
メイヨウ様は腕組みなどしてジロジロと俺を見つめている。ややあってからカッと目を見開き、
「一理ある! それもまたよし! 私は細かいことには拘らない女だ!」
メイヨウ様ー!
俺の華麗なる奴隷生活の幕開けであった。
これは、とあるVRMMOの物語。
光の戦士、理解ある上司を得る。
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