表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
311/978

駆けろ、アットム!

 財産らしい財産を持たないティナンだが、そんな彼らにも代々受け継がれてきた三つの秘宝がある。

 一つはガムジェム。

 一つはなんか変な歌。

 そして最後の一つが月の雫だ。



 1.月の洞窟


 アットムの拳法は八極拳ベースだ。

 八極拳は超至近距離での攻防をメインにしていて、肘撃や体当たりをよく使うってWikiに書いてある。

 では何故わざわざ密着することに拘るのかというと、人間の拳は脆いからだ。どんなに鍛えても骨の強度は急に上がったりしない。蹴りは蹴りで二本しかない足の一本を攻撃に使うのは不安定極まりない。八極拳は一対多を想定した拳法だ。だから一撃で倒すことを重視するし、中途半端な距離を保つよりも密着したほうが有利に立ち回れる。敵を盾に使ったりな。

 とはいえ、一対一ではリーチの差は大きな要素になる。なので他流派の技を取り込んでいる八極拳士は多い。俺の師父やアットムの崩拳がそうだ。殴るなら急所が集中している顔面を殴ったほうが強いのだろうが、八極拳士はとにかく安定性を欠くことを嫌う。両の足で地を踏みしめ、どっしりと根ざすように腰を開く。それが八極拳の基本となるスタイルだ。

 敵の攻撃は避けるよりもいなすことを重視する。根底にあるのは得意なことをさせないという考え方だ。街のゴロツキは崩れた体勢からどう攻撃するかなんていう練習はしない。


 アットムとギフターズの上腕がぶつかり合った。鍔迫り合いをするように全身に力を込めて押し合う。

 ギフターズの表情には余裕がある。


「私のそれは安い物真似とは訳が違うぞ。この硬く強い手足でトレースする。敵ナシという訳だ。一撃必倒の拳、か。大層な武勇伝を持つようだが、格闘術とは理だ。摩訶不思議な《気》や《発勁》などというものはまやかしに過ぎない」


「理か。そうかもね。でも、それが全てじゃないだろ? 君は何のために戦う?」


 アットムの問いにギフターズは即答した。


「全てはカーディナルのために」


 アットムは苦笑した。


「どうも君のことは嫌いになれないな。まぁいいや。君のことはよく分かった。一撃。一撃で雌雄を決しよう」


 そう言ってアットムくんは左拳を胸の前に掲げた。


「僕はコレで行く。君はどうする? と言っても……」


「いかなる小細工も意味を為さない。肉で鋼を断つことはできないのだから」


「だろうね。そう言うと思った」


 パッと離れた両雄が腰だめに拳を構える。

 ……おいおい、大丈夫か? 俺はアットムが心配だった。俺にはギフターズの言葉のほうがもっともらしく感じる。本人が言うように単なる物真似じゃないんだろう。アビリティも絡んでるかもしれない。

 アットムの拳に宿る非常識な殺傷力は純然たる技術によるものだ。そいつを完全にコピーされたなら素材の差が勝敗を分ける。子供でも分かるような理屈だ。


 ヒュッと短く吐息を切ったアットムとギフターズが同時に拳を繰り出した。

 正面衝突。

 見物しているゴミどもの幾ばくかが小さな悲鳴を上げた。厚い鉄板を殴ればどうなるかなんて簡単に想像できることだ。

 アットムの拳から血が吹き出した。皮膚は裂け、骨は砕ける。当たり前のことだ。

 ギフターズは動かない。

 拳を引いて姿勢を正したアットムを見て、ニヤリと口元を歪めた。その余裕が次の瞬間には消し飛んだ。


「バカな……」


 ごふっと盛大に吐血してガクリと片膝をつく。


「な、何をした……?」


 アットムは砕けた拳をぷらぷらと振っている。


「君のコピーは完璧だった。だからダメなんだよ。僕の技は僕の身体で為せる最大限を追求したものだ。僕には僕の。君には君の道がある」


 ……よく分からんがコピーキャラは負ける定めだからな。順当な結果ということになるのか。

 アットムくんはニコッと笑ってギフターズの肩をポンと叩いた。


「またろう。次はもっと君を見せてくれ。コタタマみたいにね」


 深部に向かって歩いていくアットムの背にギフターズが声を掛ける。


「ま、待て。そんな身体でドコへ行く……? 私ほどではないにせよ、お前の身体もボロボロの筈だぞ。死ぬ気か?」


 アットムは振り返らなかった。砕けた拳から滴り落ちる血がパタパタと地面に赤い染みを作っていく。


「生きて帰るさ。僕の帰りを待ってる子が居るんだ」


 ……月の雫か。

 月の洞窟でしか採れない小さな宝石のことだ。理屈はよく分からないが、ティナンに感応し彼らの願いを叶える力を持つ。

 また厄介な依頼を受けてからに。いや、依頼とも限らないのか。いずれにせよ、月の雫は超レアだ。最深部まで行っても十中八九は空振りに終わる。俺も実物は目にしたことがない。

 まぁアットムくんがやると決めたなら仕方ない。だから邪魔しないでくれるか。

 俺はそう言ってゴミどもに混ざっていた三つ編みの女キャラの肩をガッと掴んだ。小さな背丈。貧相な身体つき。小学生にしか見えない女キャラだ。

 うまく化けたな。だが俺の目は誤魔化せない。

 こんなところで何してる? リンリー。


 αテスターは外見上の年齢を自在に変えられる。

 振り返ったリンリーが無邪気に微笑んだ。


「チェンユウ。お前は聡いようで鈍いな。私はジャムとは違う。余計な縛りなど持たない。その私が。αテスターが……プレイヤーに協力するということが何を意味するのか」


 ……ネフィリアはログインしてない。アットムのフォロワー……。まさか。

 リンリーは小さな舌をべっと出した。


「海底に眠る【ギルド】は私が始末した。だから言ったろう? お前たちではマジュンには勝てないと」


 サトゥ氏と宰相ちゃんが剣を抜いてリンリーに急迫する。

 リンリーは戦いを避けた。ぴょんと大きく後方に跳んで俺たちによく聞こえるように声を張り上げる。

 

「さあ、日本人! 戦争を始めよう!」


 サトゥ氏が叫んだ。


「女神像を封鎖しろ! すでに侵入されてるぞ!」


 リンリーが声高らかに笑う。人差し指を唇の前で振り、


「宇宙人? 天使? 【ギルド】? 甘い甘い。これからが本番だ!」


 アナウンスが走る。


【山岳都市ニャンダムが強襲されました!】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:マーマレードを守れ!】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【王族】【マーマレード】【Level-242】


 ……山岳都市は陥ちる。

 敵は中国サーバーだけじゃない。

 着ぐるみ部隊を襲ったαテスターは二人居た。

 中国サーバーは他の国と同盟を結んでいる。


 リンリーが三つ編みを解いた。長い黒髪を搔き上げて背中に担いでいた矛を引き抜くやサトゥ氏に突き付ける。


「そして、サトゥ。私はお前の足止めという訳だ。徹底してるだろ? ああ、自害して逃げてもいいぞ。ここで私を捕らえることがお前たちの唯一の勝機かもしれないけど」


 俺は自害した。

 戦争だ。戦争が始まる。

 ダッシュで死に戻りした俺はあらん限りの声で吠えた。


「戦争需要だぁぁぁぁぁ!」


 国家間戦争において物資は湯水のごとく消費される。稼ぎ時だ。泥沼のような戦争をしよう。

 ロストしたら女神像の登録はリセットされる。チャンスは一度きり。なら今だ。

 俺は、すぐさま中国サーバーのポポロンの森に飛んだ。

 現地入りするなり知らない人たちが施してくれた封印術を散らして完全変身する。

 地下祭壇の天井を突き破って咆哮を上げた。


 Pyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa


 俺の咆哮に呼応するかのように海上都市の方角に巨人が複数体出現した。

 くくくっ、いいぞ。

 本土決戦を仕掛けるような連中が逆の立場になることを想定していない筈がない。

 盛り上がってきた。

 俺はバッと翼を広げて吠えた。


【クロアリ! やるぞっ!】


 ニジゲンの手引きで海上都市に潜伏していた俺の可愛いクロアリが合体巨大化していく。


 夢はでっかくってな。

 チャイニーズどもが意外とショボいようなら、こっちのガムジェムは俺が頂戴するとしよう。

 勝つにせよ負けるにせよ中途半端は良くない。徹底的にやり合おう。しょせんはゲームだ。中途半端は良くない。実に良くない。目いっぱい遊ぼうぜ。

 俺は中国の人たちに自己紹介をした。


【こんばんはー! 日本鬼子のメタタマでーす! ガムジェム貰いに来ましたー!】


 ズンズンと地響きを立てて巨人がこちらに向かってくる。

 俺は杭のような歯列をギラつかせた。


【いつもいつもアメリカの味方してゴメンね! だってお前らアメリカと喧嘩したら負けそうだからよ〜! まぁ許したってくれや!】


 くくくくっ、ふははははははははははは!




 これは、とあるVRMMOの物語。

 この不思議な生き物は、今も日本のどこかでひっそりと暮らしているのです。



 GunS Guilds Online


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
行動早すぎて怖い
[一言] どこまで行ってもブレない けどきっと両津勘吉オチ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ