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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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第七章、王の奇跡

 1.エッダ洋-海上


 ざぷざぷとクロアリが海原を進む。

 目指すは新天地だ。

 それは決して責任逃れではない。一時のテンションに身を任せてョ%レ氏に喧嘩を売ったら人間の里がヤバいことになったのは確かだが、主犯はサトゥ氏だ。俺はヤツの手足となって動いたに過ぎない。

 俺が高飛びした理由は別にある。

 国内サーバーのゴミどもはもうダメだ。

 俺は新規ユーザー様なのだから、もっと優しくして欲しいのに、ヤツらは何かあるたびに「崖っぷち〜」だのと言って俺に絡んでくる。ホモかよ。

 こうなったら環境をリセットするしかない。誰も俺を知らない土地で慎ましく暮らすのだ。

 ウチの子たちとお別れするのは寂しいが、なに、女神像さえ登録してしまえば簡単に行き来できるようになる。

 高飛び自体は難しいことではない。

 以前に宇宙空間に放り出された時に俺はこの星のマップを半分くらい把握した。エッダ海岸から一番近い陸地の方角も把握している。さすがに泳いで海を渡るつもりはなかったが、今の俺には可愛いクロアリが居る。エッダ洋の海底にへばり付いている【ギルド】についてもネフィリアの手下だから問題ない。

 要するに全ての条件が揃った訳だ。

 気掛かりなのは赤カブトを残していくことだけだ。クソ強力な固有スキルを持ってることがバレちまったからな。レイド戦じゃ役に立ちそうにないことだけが救いか。

 早いトコ海外展開してる筈の赤カブトの姉妹を見つけてやらねえと。移住先があるというのは赤カブトにとって大きな希望になる。以前に俺がちらっと考えた、別の考えってヤツだ。赤カブトには血を分けた?姉妹が居る。俺はサトゥ氏とは違う。赤カブトを国内サーバーに縛り付ける必要性を感じない。いざとなれば一緒に逃げればいい。

 俺は本気だぜ。その証拠に動ける金づるのニジゲンも連れてきた。

 水着代わりに布きれを胸と腰に巻いたピンク髪がきゃっきゃとハシャいでいる。


「崖っぷち〜。お前は子供が何人欲しいんだよ?」


 新婚気分かよ。何なんだ。そいつをお前に言って何になる? だが言っておこう。最低でも三人だな。ここは譲れねえ。JKよ。兄貴や姉貴には威厳が必要だと思わねえか? 俺は二番目以降のガキには徹底的に上下関係を叩き込むつもりだ。兄貴分は下の兄弟をこき使う代わりに何があっても守ってやる。それが正しい兄弟関係ってモンだと思わねえか? 強い男に育て上げてやる。子育てってのは究極の育成SMGだぜ。まぁそうそう上手くは行かねえだろうがな。末っ子は趣味だな。自由に育てたらどうなるのか興味がある。例えばの話だが、小せえ頃から漫画を読ませて描かせたらどうなるんだ? 漫画には定石っつーかココを押さえとけば間違いねえっつーポイントがあるだろ。感覚的なモンだが、俺にはなんとなくそれが分かる。俺のクソガキに漫画の英才教育を施したらどうなるんだ? 途中でイヤだっつって逃げるのか? 分からん。興味がある。長男じゃ失敗できねえからな。末っ子で試したい。つーか俺の読みが正しければ、そういう育て方をされたヤツがそろそろ出てくる。トップクラスの漫画家の年俸は野球選手に匹敵するからな。そいつは言ってみれば宝クジの当て方をガキん頃から徹底的に仕込まれた人間だ。そういう時代が来るんだ。わくわくするぜ。おちおち死んでられねえよ。


「お、俺とお前のガキがそうなるのか?」


 俺とお前の間にガキは生まれねーよ! だが生まれたとしてだ……。お前にはお前なりに自分のガキに託したい夢の一つや二つはあるだろう。俺は尊重するぜ。嫁さんを蔑ろにしたってろくなことはねえからな。そりゃあワイドショーを見てれば分かる。特に浮気はヤバいな。どんなにキレーに言い繕っても発端がスケべ根性だから弁解の余地が一切ねえ。

 ……俺は何故クロアリの背に乗って遠目に見えてきた陸地を眺めながらネカマと将来設計についてアツく語っているのだろう。

 他にやることがなかったので、新天地についてからの計画を綿密に打ち合わせしていたのが良くなかったのかもしれない。

 ニジゲンは俺の大切な金づるだ。他のゴミにコナを掛けられても困るので、不本意ながら俺はニジゲンのママということになっているのだ。JK子である。夫婦やら兄妹だのといった設定じゃ甘い。付け入る隙がある。母子こそが人間関係の最小単位であり無敵の結び付きだ。親父は不要な存在だと聖書でも言ってるぜ。もっとも誤訳らしいがな。

 さて。そろそろか。俺は腕を突き出して胸中で内なる妖精に語り掛けた。

 ウッディ。出番だぜ。

 ぞろりと俺の腕から這い出したウッディが俺とクロアリの回線を繋げる。


(クロアリ……。シンイチに従え……。シンイチの近くに居れば……間違いはない。指揮官コマンダーに会える……)


 ウッディの兵科は工兵だ。

 クロアリとは兵科が異なるが、指揮官が不在の際には先任の兵の判断が優先される。

 なお、ウッディが俺をシンイチと呼ぶのは俺の記憶をバックアップした時に自分がミギーに近い存在だと認識したためらしい。

 まぁ俺はシンイチだろうとシンジだろうと構わない。スパシンよろしく腑抜けたネルフをド根性を合言葉にシンクロ率400%突破する熱い戦闘集団に生まれ変わらせる自信がある。もっとも俺はウィルス型の使徒が来る前にトンズラさせて貰うがね。ありゃあ根性じゃどうにもならねえ。一番ヤバい。一歩間違えばってヤツだ。リツコさんに前もって教えたところでどうにかなる問題じゃない。人間のコンプレックスってやつはコントロールできない。そんな危ない橋は渡れない。何しろ一発勝負だ。ゲームとは違う。俺がシンジさんに及ばない部分はそこだろうな。電池で動く相棒に命を預ける気にはなれないぜ……。

 その点、無限に動ける【ギルド】は最高だ。

 分離したクロアリが海底から浮上してきた【歩兵】の群れに向かっていく。クソ虫さんたちの豆鉄砲でどうにかなるほどクロアリはヤワじゃない。まっ、こればっかりは相性だな。

 この星に不時着した【ギルド】は海底に待機している。他に行き場がないからだ。このゲームのマップにはその地域一帯の頂点に君臨するレイド級が住んでいて、しかも明らかに【ギルド】を敵視している。しかしレイド級が本当に警戒しているのは同じレイド級だ。だからエッダは海の向こうよりも内陸を警戒して眷属を配置している。

 レイド級はサーバーごとに一種一体……。かつて【目口】が言っていたことだが、ヤツの目はこの星の反対側まで見える訳じゃない。正しくは同一個体なのかもしれない。他のレイド級ならともかくニャンダムと接触するのはマズい。

 俺とニジゲンはミニサイズのクロアリに掴まって国外サーバーに上陸した。

 クロアリに海底で待機するよう言って何食わぬ顔で砂浜をさくさくと歩いていく。

 さて、ここはどこの国かな?

 ゲーム内の季節は晩秋だ。リアルの地球とは微妙に公転速度がズレているらしく、今年の冬には大体一致して、また離れていくと予想されている。

 さすがにこの季節ともなると海水浴に来るプレイヤーは居ない。エッダ水道観光ツアーだろうか、武装した海外産のゴミが砂浜を横切っていくくらいだ。

 ……顔立ちは白人系だな。アジア系なら分かりやすかったのだが……。黄色人種の多くは白人コンプレックスを抱えている。それはパツキンネーチャンと仲良くなりたいという思いが強いからだ。イメージ戦略で敗北を喫した結果だな。かく言う俺もパツキンネーチャンと仲良くなりたい。あ、いかん。ポチョ子が恋しくなってきた。ホームシックだ……! ポチョ〜ポチョ〜!


「が、崖っぷち! 俺が居るぞ!」


 禁断症状に陥った俺はガッとピンク髪に抱きついてナデナデした。JK子や。よしよし……。

 ネカマといえど女キャラである。俺は定期的に女体に触れないとダメな身体になってしまったので、時々はこうしてニジゲンの野郎を撫でないと気が狂いそうになる。

 今ならナルトやサスケの気持ちが分かる気がする。孤独ってのはどこまでも人の精神を蝕む。俺は別に孤独ではないが。

 よっし。ホームシックを一時的に解消したぜ。ありがとよ。

 そう言ってニジゲンの肩にぽんと手を置いて労う。ニジゲンさんは興奮していた。はぁはぁと息を荒げてふらふらとしている。

 

「こ、これ本当にホームシックか? 変な病気としか思えねえ……」


 細けぇことはどうでもいいんだよ。

 そんなことより、手筈通り行くぞ。まずは市場に向かう。

 ニジゲンとは海上であらかじめ打ち合わせは済ませてある。

 一目で分かるなら仕方ねえと思って一応チェックしたが、俺はここがドコの国か探るつもりはない。俺らは別に日本サーバーのスパイじゃないからな。有利な情報を持ち帰るとか、そんなのは攻略組が勝手にやればいい。内情を探るってのはリスクを伴う。それは俺の目的からは遠ざかる行為だ。そうじゃない。

 俺は、ただ強くてニューゲームがしたいだけだ。新規ユーザーにしては物の分かってる野郎だとか言われてチヤホヤされたい。何なら日本サーバー出身だとバレてもいい。クールジャパンとやらをこの身でどんな具合か試してやろうじゃねえか。日本人は金持ちってイメージがあるらしいからな。小金をチラつかせてウハウハの暮らしよ。我ながら謙虚なモンだぜ。

 そのためには、まず現地に溶け込むことだ。

 ここで俺には二つの選択肢がある。

 シャイな日本ボーイとして愛されキャラで行くか、それともミステリアスなエキゾチックボーイとしてクールにキメるかだ。

 JK。お前はどう思う? お前の意見を聞きたい。何しろラックくんにとって初めての海外進出だ。自覚はないが浮き足立ってるかもしれねえ。

 ニジゲンは深呼吸している。


「俺はお前がホントに自重してくれるのか心配なんだよ。それしか頭にねえ。暗黒街に落ちるのだけはナシにしてくれな?」


 なんでバカンスに来て暗黒街に落ちるんだよ。あり得ねえだろ。

 あと、言ったろ。俺を崖っぷちと呼ぶのは二人きりの時だけだ。このゲームにゃ胡散臭い翻訳機能が付いてんだ。どこの世界に崖っぷちだのと呼ばれる善良な市民が居るんだよ。俺のことはママと呼べ。


「ま、ママ」


 よ〜し。それでいい。なに、すぐに慣れるさ。お前は俺の愛娘になるんだ。すぐに分かる。この俺がお前のママだ。

 俺はポケットに両手を突っ込んでザッザッと砂を蹴立てて歩いていく。

 慌てて俺の横に並んだJK子が腕を絡ませてくる。俺は歯列をギラつかせて笑った。


「まずは金だ。お前さえ居れば俺はドコだろうと生きていける」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 ヒモ、グローバル展開。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
この国はおしまいだ。魔族の上陸を易々と許すなんて
[一言] 一瞥しただけで半球世界地図が手に入る目が便利すぎる
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