それは毒かスパイスか
どうもバレンタインなんか無かった同盟隊員・タカムラです。アーチャーからのチョコを画面前で待ち続けて幾星霜。皆さん如何お過ごしでしょうか。 * バレンタイン前日って言ったらUBWで槍弓殺し愛があった記念日じゃないか!というテンションで書き始めたバレンタイン小話。大丈夫、殺し愛は回避しました。でも殺し愛なバレンタイン槍弓も書きたかったです(時間切れ)
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「おーっすアーチャー、邪魔するぜー」
「君な、ドアベルは鳴らせば良いというものでは無いぞ。どうして私がドアを開けるまで待ってられないんだ」
ぴんぽーん、とドアベルが鳴るのとランサーがリビングに入ってくるまでの時間は約五秒。
ボタンを押すのとドアノブを回すのとがほぼ同時だったに違いない。
そして最速の英霊の名に恥じないスピードで室内に侵入、リビングへ到達したのだろう。こんな事で証明される最速さって有難味が無いなあ、とアーチャーは思わずにいられない。
「かったい事言うなよ。オレとお前の仲だろ」
「凛が留守だったから良かったものの…彼女が居たら間違いなく蜂の巣だったぞ」
「嬢ちゃんが留守なのはリサーチ済み。今頃坊主の家でチョコレート振る舞ってる頃じゃねーの」
確かに凛は学校から帰ってくると大急ぎで私服に着替え、冷蔵庫から昨日作ったトリュフチョコレートを持って出掛けて行った。
彼女が持って行った箱は三つ。うち二つは衛宮邸に集まった面々に配るいわゆる友チョコに分類されるもの。
そして残り一つは言わずもがな、他よりも気合の入った本命チョコである。
「凛が居ないと良く知っていたな」
「ああ、ちょうど坊主の家に寄っててな。嬢ちゃんが来たんで抜けてきたって訳」
「そのまま残っていれば凛たちの手製チョコレートが食べれただろうに」
今日はバレンタインデー。チョコレートを用意してきたのは凛だけでは無い。
桜も姉に負けまいとガトーショコラを準備していたようだし、イリヤもいくつかカタログを取り寄せては真剣に吟味していた。
普段は食べる側のセイバーも新都のデパートでバレンタインコーナーを見ては「シロウはどのようなチョコが好きなのでしょう…」と悩んでいたぐらいだ。
何故アーチャーが彼女たちの事情を知り得ているかと言うと、「先輩は甘いのと苦みがあるのとどちらが好みなんでしょう?」とか「シロウは可愛いのとちょっと大人っぽいのと、どちらを渡したら喜ぶと思う?」とか「量より質、それとも色々な味を楽しめた方が良いのでしょうか…。アーチャー、貴方ならどちらを選びますか?」などと全員から相談を受けていたからである。
そんなの本人に聞け、と言いたいのは山々ではあったが、彼女たちの真剣な眼差しを受けては言える訳も無い。
何しろうっかりそのような事を口から滑らせればどんな目に遭うか判ったものでは無く、衛宮士郎爆発しろと呪いを掛けながらアーチャーは丁寧に彼女らにアドバイスをしたのだった。
今日までに降りかかった面倒事を思い出し、アーチャーは小さく溜め息を吐いた。それもこれも衛宮士郎のせいである。
だがその面倒事も凛にあるものを渡せば一応落着すると思えば気も楽になった。
「ところでアーチャーよ、さっきから部屋ん中に充満してる甘い匂いは何だ?」
「凛が昨日フォンダンショコラが食べたいと言い出してな。先ほどまで作っていたところだ」
その残り香だろう、とアーチャーが言うとランサーが期待に満ちた目でアーチャーの方を見る。
彼に犬の耳と尻尾が生えていれば、耳はピンと立ち尻尾はぶんぶんと左右に大きく振れていた事だろう。
これはあれだ、餌を貰う前の犬に良く似ている、とアーチャーは思った。
「期待させたところ申し訳無いが、君の分は無い」
アーチャーからの残念なお知らせにランサーの表情が一瞬固まり、見る見るうちにしょげていく様が良く分かる。幻の尻尾と耳はパタリと伏せられてしまったようだ。
「元々、凛が使ったチョコレートの残りを使って作ったものなんだ。二つも作る余裕が無くてな…」
「それならそれで良いけどよ…。それとは別にちゃんとオレの分のチョコは用意してあるんだろ?」
当然、と言った風に見てくるランサーの視線からアーチャーはそっと顔を逸らした。その顔は気まずそうだ。
もしかして。すまない。無言のうちに通じ合う二人。最初に言葉を発したのはランサーだった。
「なああああああんで無いんだよおおおおおおおおお!!!」
アーチャーの両肩をガシッと掴み、ガックンガックンと揺さぶる様子は必死過ぎてとても名のある英霊には見えない。
彼の赤い目には薄らと涙さえ浮かんでいる。
「ええいっ!たかだかチョコレート如きで情けない声を出すんじゃない!!そんなに食べたかったら明日作ってやるから!!」
「今日貰う事に意味があんだろうがああああああああッ!!おま、お前、オレがどれだけ今日と言う日を楽しみにしてたか判ってんのか!?」
アーチャーのチョコレートを味わうために、ランサーがバイト先の女の子や店にやって来た女性客からの数々のチョコを断っていたのをアーチャーが知る筈も無い。
そもそもバレンタインと言う行事自体に思い入れも無く、また恋人同士とは言え男が男にバレンタインだからとチョコレートを渡すのはどうかとも思う。
アーチャーがランサーに対して愛情が薄いとかそう言う訳では無く、菓子会社の思惑に踊らされたイベントに入れ込む理由が見当たらないのと、単に羞恥心が勝った結果なだけなのだが。
けれどランサーからしてみれば例え菓子会社の売上アップのためのイベントだろうが、恋人同士が堂々とイチャ付ける機会を逃す理由も意味も無いし、アーチャー手製の自分の為に作られた菓子を食べると言う優越感は何物にも代え難いものだった。
のに、当の恋人はチョコレートを用意していないし、当日中に用意する気も無いと来た。これは今日ばかりは泣いても仕方無いとランサーは思う。
アーチャーが何か言い返そうと口を開いたタイミングで部屋の奥からジリリジリリとクラシカルな音が鳴る。
遠坂邸にある数少ない文明の利器の一つ、電話の音だ。
不満げなランサーを一睨みすると、アーチャーは電話に出るべく部屋の奥へと行ってしまった。
甘いチョコレートの匂いはキッチンからする。匂いに誘われるようにランサーがキッチンへと向かうと、シンクの横にダークブラウンの塊を発見した。
小さな皿にちょこんと乗るフォンダンショコラ。焼き上げて然程時間も経っていないのだろう、温かなそれは今フォークで突き刺せばとろりと中身が零れてきそうだ。
そしてフォンダンショコラが乗った小皿の横には白い皿。白い皿には赤いベリーソースと粉砂糖で洒落たデコレーションがなされている。
「こりゃ砂糖漬けの花びらか?アイツ、パティシエのサーヴァントじゃねえだろうな」
皿に乗っていたピンク色の花びらを抓みながら少し離れた所で電話をしているアーチャーの方を見やる。
電話先の相手はマスターの少女だろうか。何を話しているかまでは判らないがもう暫くは戻って来なさそうだと雰囲気で察した。
アーチャーがマスターである凛を大事に、大切に思っている事はランサーも知っている。
大抵の場合、アーチャーがランサーより凛を優先させるのも仕方の無い事だと理解しているし、彼女を優先させない弓兵などランサーが好いた弓兵では無いとも思う。
けれどその扱いの差に嫉妬しないかと言われれば答えはNOだ。
自分と彼は恋人同士、そう恋人同士なのだ。たまには、ちょっとぐらい、少女よりも自分を優先させてくれたって良いだろう?
「………」
ランサーの手の中には少女の為に作られた菓子が一つ。自分の分は無い、と言う事実が腹立たしい。
だから、この暴挙は恋人として当然の結果だ。とランサーは勝手知ったるキッチンの引き出しから目当ての物を探し出した。
思いの外長く掛ってしまった凛との電話を終え、アーチャーはランサーの元へと戻る。
ランサーには悪い事をした、と流石のアーチャーも反省した。まさかそんなに楽しみにしているとは思わなかったのだ。
「ランサーったらチョコあげようとしたら『悪いな、オレはアーチャーのチョコしか貰わねえと決めてんだ。嬢ちゃんのチョコも美味そうだが、今日だけは受け取れねえ』とか言ったのよ!」
などと凛から聞かされれば申し訳ないという気持ちも湧くというものだ。
今日は本当に材料が足らないし、今から買いに行っても手間の掛かるものは作れないだろう。
今更かもしれないが誠心誠意謝罪して、今日の夕飯は彼の好きなものを作る事で代わりとさせてもらおう。
チョコレートは後日になってしまうが、納得出来ないものを急いで渡すよりも、材料も時間もたっぷりある時にちゃんと渡してやりたい。
「その、ランサー先ほどは―…」
「あ」
悪かった、と続ける前にアーチャーは言葉を失った。
何故かランサーはリビングでは無くキッチンの方に居て、左手にはアーチャーが先ほど作ったフォンダンショコラの乗った皿を、右手にはデザートフォークが握られていた。
そして彼の口元にはダークブラウンの汚れ。フォークにも同じ色の汚れが付いている。
アーチャーの方からはフォンダンショコラは完成時と同じ形をしていたが、恐らくランサー側は無残な姿をしている事だろう。
見つめ合う事数秒。アーチャーと見つめ合ったままのランサーが左手のフォークでフォンダンショコラを崩し、切り分けた一口分を口に運んだところで漸くアーチャーは我に返った。
「君はっ!何をしているんだ!!」
「むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない」
「後悔も反省も懺悔もしろ!!」
命が惜しくないのか君は!?とアーチャーが怒鳴る。
ランサーが口にしたものはアーチャーが凛の為に作ったものである。つまりは凛のものだ。そして凛が直々にアーチャーへリクエストした品でもある。
帰宅した凛が自分がリクエストしたデザートをいつの間にか上り込んでいた狗に食われてしまったと知れば間違いなく暴れるだろう。
それこそ跡地にぺんぺん草も生えないぐらいに。無論、相手など影も形も残るまい。
サーヴァント相手に人間がそんな事出来るものか、なんて言葉は遠坂凛には通じない。彼女はやると言ったらやる女なのだ。
「だってお前がオレにチョコくれねえから」
「大の大人が不貞腐れた顔でだってとか言うな。ああもう、どうしてくれるんだ…」
言い合っている間にもフォンダンショコラはランサーの口に放り込まれていく。最早止めろ食うなとは言えない状況なのでアーチャーも止めたりはしない。止めたところで彼が食べてしまったフォンダンショコラが元に戻る訳では無いからだ。
「ん、やっぱお前の菓子うめーわ」
「お褒めに預かり恐悦至極だよ…」
満足げなランサーとは対照的に、沈痛な面持ちで額に手を当てて俯くアーチャー。アーチャーの頭の中は凛への言い訳でいっぱいだ。
「実は失敗してしまったからランサーに与えたとか…?いや、電話で自信作だと言ってしまった手前その言い訳は通用しないな…。落として形が崩れてしまったとか?」
「今から買いに行って新しいの作りゃ良いじゃねえか」
「たわけ。そのチョコは凛が新都で買ってきたものだ。今から行っても凛の帰宅には間に合わないし、売り場そのものが既に縮小されてしまっている可能性がある。それに、使ったチョコは人気の品で、凛が買いに行った時点で既に品薄状態だったんだ…」
多分もう同じものは無いだろう、とアーチャーは深い溜息と共に吐き出した。
「違うやつじゃ駄目なのかよ」
「凛が気に入って買った物だからな…。何より時間が足らん」
「そういうモンなのか」
「ちょっと今、君を殴りたくなった」
「血のバレンタイン!?」
そんなバイオレンスなバレンタインはアーチャーとて御免である。しかし何とか状況を打破しないと本当に血のバレンタインになりかねない。主にランサーの血で。
再びぶつぶつと凛への言い訳を模索し始めるアーチャーを、ランサーは面白くなさそうに見ていた。
確かに自分のした事は悪い事だ。彼がマスターを思って作った代物を悋気で台無しにしてしまったのだから。
それでもランサーはアーチャーが作ったチョコレート菓子が今日食べたかったし、その為ならあの赤いあくまと一戦交えても構わないと思っている。
何より面白くないのはアーチャーが目の前の自分を見ていないと言う事実。
まだ俯き加減に凛への言い訳を考えているアーチャーの顎を掴み、無理やり自分の方へと向かせる。
え、ときょとんとしたアーチャーの顔は平素の皮肉ぶった顔と違い幾分か幼く見えた。
「ランサー?」
どうした、か。何を、か。そのどちらでも無いかもしれなかったがランサーにはどうでも良い事だ。アーチャーが二の句を次ぐ前にその言葉ごと唇を塞いでしまう。
口の中が甘いのは先ほど平らげたフォンダンショコラのせいか、それともアーチャーの唾液に含まれる魔力を甘く感じるのか。
恐らくアーチャーも同じように感じているのだろうと思いながら、ランサーは彼の口内をくまなく舌で蹂躙する。
「ふ…あ…っ、ん…」
くちゅりと湿った音がキッチンに響く。ランサーの右手はアーチャーの顎に、左手はアーチャーの腰を抱えるように回されている。
始めこそ突っぱねようとしていたアーチャーの腕だが、ランサーのキスが深まるごとにその抵抗は弱くなっていき、何度目かの息継ぎをした頃には弱弱しくランサーのシャツを握り締めるしか出来なかった。
唇を離せばお互いの舌をどちらとも判らない唾液が繋ぎ、やがて切れた。
「ら、んさー」
舌足らずな恋人の声が制止するように自分を呼ぶが、生憎と今のランサーに聞く耳は無い。
ランサーの背に回されたアーチャーの手が身体を引き離さんとシャツを引っ張るが、キスのせいで碌に力が入らない事と元の筋力差のせいでランサーの身体はぴくりとも動かない。
「ランサー、もうすぐ凛が帰ってくるから」
「…嬢ちゃんに見せつけてやろうか?お前はオレのもんだ、って」
「ランサー!」
耳元でくすくす笑いながら言うランサーの声。声音は笑いを含んでいるのに、ぞっとするような響きに彼が半ば本気だと感じる。
冗談だよ、と言うものの、依然ランサーはアーチャーを離そうとしない。
自分とランサーとの仲を知っているとは言え、年頃の少女にこんな場面は見せれない。何とかランサーから離れようとするが、既にキスだけで腰が砕けかけているアーチャーに逃れる術などありはしなかった。
「このまま嬢ちゃんが帰ってくる前に、お前の事攫っちまおうかね」
「馬鹿な事を言う前に、凛に土下座して謝る準備でもしろ…!」
「チョコの一つぐらいでごちゃごちゃ言うなよ。大丈夫だって、嬢ちゃんには後で詫びの品渡しとくから」
ちゅ、と皺の寄るアーチャーの眉間にキスを送ると、ランサーは腕の位置を変え「よいせっと」という掛け声と共にアーチャーの身体を抱き上げた。
脇と膝裏を腕で支えての横抱き、所謂お姫様抱っこだ。
「な、こら!貴様!降ろせ!!」
「やなこった。暴れると今度は足腰立てないぐらいキスすんぞ」
恫喝と共に唇を食めば、ぐっと押し黙るアーチャーにランサーの溜飲も幾らか下がる。
さて、ではこのまま弓兵連れてとんずらしようか、と一歩踏み出したところでチュインッとランサーの左頬を何かが掠めた。そして背後の壁にドゴッと穴のようなものが開く音。
ぎぎぎぎと壊れたゼンマイ人形のようにランサーが飛来物の来た先に顔をやれば、そこには人差し指を指鉄砲のようにしてランサーに向ける一人の少女。
顔は満面の笑みだが、一歩踏み出すごとに怒りのオーラが近づいてくる錯覚に陥る。
アーチャー、アーチャー、赤いあくまがやって来るよ。馬鹿だな、だから言ったのに。
「さてランサー?貴方、私のアーチャーをどこに連れて行こうって言うの?」
ゴゴゴゴゴゴ。迫力のある手書き文字が凛の背後に見える気がする。しかし此処で退いては英雄の名折れだ、とランサーはアーチャーを抱える腕に力を込め、殊更余裕のある表情を作った。
「何処って、恋人を連れ出すのに嬢ちゃんの許可が居るのか?」
「別にそんなのいらないわよ。でもね、アーチャーには私に渡すものがあるの。それを受け取ってからじゃないと」
ねえアーチャー?とにっこり笑う遠坂凛の姿にアーチャーの背筋が寒くなる。あれは全部知っている目だ、と。
「凛、実は、そのだな」
「もしかして、無い。なんて言わないわよね」
ドドドドドドド。凛が背負うオーラがどんどんと迫力を増している。これは逃げられないな、とアーチャーは腹を括った。
ランサーはまだ逃げられる気でいるが、多分この赤いあくまと化した遠坂凛から首尾良く逃げられるだろうか。
じり、じり、とランサーは腰を低くして凛との距離を取る。対する凛もゆっくりと、だが着実にランサーとの距離を詰めていた。
先に動いたのはランサーだった。
「じゃあな嬢ちゃん!菓子の詫びは後日すっからよ!!」
アーチャーを抱きかかえ、リビングの大きな窓をハリウッド映画のように割って逃亡を図ろうとしたランサーだったが、その足に何かが巻き付きぐいっと後ろに引き寄せられる。
足に巻き付いたのが何かなんて確認する間も無く、ランサーはアーチャーを庇うようにして床へと倒れこんだ。
「大丈夫かランサー!?」
「ってぇ…。お前の方こそ大丈夫か?どっか打ってないか?」
「私は大丈夫だ。だが…」
「オレも大丈夫だよ。つうか何だよ…、ってこれ!?」
ランサーが咄嗟に身体を反転させたお蔭でアーチャー自身に大した衝撃は無かったが、床にぶつかった衝撃と自分のクッションになってしまったランサーの身を案じたアーチャーにランサーは大丈夫だと答え、自分の足に絡まったものを見て思わず声が裏返る。
ランサーの腕に収まる恋人の概念武装にも似た赤い布。だが決定的に違うのは、この布は「男性のみを拘束する」という効果がある事だ。
そしてこの布の持ち主は現ランサーのマスター。
「カレンから借りておいて正解だったわ。全く、油断も隙も無いわね」
「くっそ、いつの間に結託してやがったあの陰険シスター!」
「アンタのせいで大きい借り作っちゃったじゃない。ま、それもランサーを引き渡せばチャラになるから良いんだけど」
ランサーにとって死刑宣告にも等しいそれを凛は事も無げに言い放つ。
「カレンに引き渡す前に、きっちりかっちり私のフォンダンショコラとアーチャーを奪った落とし前は付けてもらうけど…異論は無いわよね」
「あ、はい」
いつの間にか目の前に迫っていた凛にランサーは素直に応じた。
アングル的にスカートの中身がヤバいのだが、流石絶対領域と言うべきか、ランサーの角度からはギリギリ見えなかった。万が一見えていたらそれこそ死が待っているので、彼としては最大の幸運だったかもしれない。
「それじゃアーチャー、悪いんだけど今から新都で材料調達してきてくれる?別に同じメーカーのチョコじゃなくて良いから。あと夕飯は麻婆豆腐が良いわ。ランサー、勿論食べていくわよね、麻婆」
うふふ、と笑う少女は可憐で、そして何よりも怖かった。