『木曜殺人クラブ』『ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン』など最近観た配信映画

木曜殺人クラブ(Netflix映画)(監督:クリス・コロンバス 2025年アメリカ映画)

映画「木曜殺人クラブ」は高齢者である主人公らが殺人事件の探偵を務めるという痛快コメディ・ミステリーの傑作だ。

物語は、引退後の穏やかな生活を送る老人ホームの住人たちが、毎週木曜に集まって未解決事件を推理する「木曜殺人クラブ」を趣味にしているところから始まる。しかし、ある日ホーム周辺で本物の殺人事件が発生。彼らは好奇心と正義感から、警察を出し抜いて独自に捜査に乗り出し、次々と事件に巻き込まれていく。原作は英国の人気司会者リチャード・オスマンのデビュー小説で、世界中で大ベストセラーとなったシリーズの第一作。監督は『ホーム・アローン』や『ハリー・ポッター』シリーズ初期2作を手掛けたクリス・コロンバスが務め、軽快なテンポで映像化している。

何より圧巻なのがキャストの豪華さ。ヘレン・ミレン、ピアース・ブロスナン、ベン・キングズレー、セリア・イムリーという英国を代表する名優たちが揃い踏み。特に、私の一番のお気に入りであるヘレン・ミレンが演じるエリザベスは冷静沈着なリーダー役で、貫禄と知性に満ちた魅力が全開だ。ブロスナンの元労働組合リーダー、キングズレーの元精神科医、イムリーのケーキ上手な元看護師も、それぞれ個性が爆発していて見ていて楽しい。

主人公たちが全員老人という設定に、最近自分も歳を重ねてきた身として強く惹かれた。高齢者の日常や友情が温かく描かれつつ、介護問題や移民をめぐる現実の厳しさも自然に織り込まれ、ただの軽いミステリーに終わらない深みがある。ストーリーは緩急自在で、ユーモアたっぷりの会話と意外な展開が交互に訪れ、完全に目が離せなかった。特にヘレン・ミレン演じるエリザベスの「真の顔」が明らかになる瞬間には、思わずニヤリとしてしまった。それに、劇中で登場するケーキがとにかく美味しそうで、観ているだけでお腹が空いてくる!総じて、大変楽しめる一本だった。シリーズ原作が続いているだけに、続編が待ち遠しい。老人たちの冒険はまだまだ続きそうだ。


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ナイブズ・アウト:ウェイク・アップ・デッドマン (Netflix映画)(監督:ライアン・ジョンソン 2025年アメリカ映画)

舞台は雨の降るアメリカ田舎町の古びたカトリック教会。元ボクサーの若き神父ジャド(ジョシュ・オコナー)が助祭として赴任するが、支配的な老司祭モンシニョール・ジェファーソン・ウィックス(ジョシュ・ブローリン)がグッドフライデーの礼拝中に密室で刺殺される。信者全員が容疑者となる不可能犯罪に、地元警察がブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)を呼び、無神論者の名探偵が信仰に悩むジャドと協力して真相を追う。

なにしろキャストが豪華。ダニエル・クレイグは髪を伸ばし髭をたくわえ、苛立ちと疲れが滲む演技。ジョシュ・オコナーのジャド神父は過去の罪を抱え信仰にすがる姿が圧倒的で、二人の対話が作品の核になっている。ジョシュ・ブローリンの支配的な老司祭をはじめ、グレン・クローズ、ミラ・クニス、ジェレミー・レナー、アンドリュー・スコット、ケリー・ワシントンら全員が怪しく映る。

監督はライアン・ジョンソン。『BRICK ブリック』『LOOPER/ルーパー』『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』を手がけ、アガサ・クリスティ風の古典的不可能犯罪を現代的に再構築。「信仰とは何か」「人は本当に赦されるのか」というテーマを深く掘り下げる。

ただ、探偵ブランが出てくるまでがやや長く感じられ、謎解き自体もあっさりした印象。登場人物たちのドタバタはユーモアと言うよりはヒステリックで観ていて引いてしまう。密室殺人のトリックは今一つのように感じたが、「死者の復活」には「まさか本当にやってしまうとは!?」とびっくりさせられた。全体的に主人公神父の内面的葛藤と人間ドラマが強く、観終わった後そこそこに余韻が残る。なお、1作目『ナイブズ・アウト』と2作目『ガラス・オニオン』は観ていないが、単独でも十分楽しめた。


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アンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』を読んだ

その裁きは死 / アンソニー・ホロヴィッツ (著), 山田 蘭 (翻訳)

その裁きは死 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

実直さが評判の離婚専門の弁護士が殺害された。裁判の相手方だった人気作家が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた数字“182”。被害者が殺される直前に残した謎の言葉。脚本を手がけた『刑事フォイル』の撮影に立ち会っていたわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査にふたたび引きずりこまれて──。

アンソニー・ホロヴィッツのミステリをいろいろ読んできたけど、今回は〈名探偵ホーソーン〉シリーズ第2弾『その裁きは死』を紹介する。前作『メインテーマは殺人』に続くこのシリーズの最大の特徴は、作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が小説の中に登場して、元刑事の凄腕探偵ダニエル・ホーソーンと一緒に事件を追う、というメタフィクション構造だ。まさに「作者がワトソン役をやってる」本格ミステリの新境地。

物語は離婚専門の優秀な弁護士が自宅で高価なワインのボトルで殴り殺されるところから始まる。現場の壁には謎の数字「182」が殴り書きされ、被害者が最後に残した不気味な言葉も謎を深める。ホロヴィッツはまたしてもホーソーンに強引に巻き込まれて捜査に同行する羽目になる。そこに新たな死が絡み、事件はどんどん複雑に……。

第1作が「ホーソーン&ホロヴィッツ」のキャラ紹介に重点を置いていたのに対し、本作では二人の関係性がかなり深く掘り下げられる。ただ、ホーソーンは相変わらず背景が謎だらけ。ぶっきらぼうで傲慢、自己中心的、無神経……正直「こいつ嫌い!」と思う読者が少なくないはずだ。作者が意図的に「推理は神がかり的だけど人間的には欠陥だらけ」の探偵を描いたのは明らか。でもその性格が作品の楽しさをかなり削いでしまっていると感じる。

一方、語り手の「小説内ホロヴィッツ」はこんなホーソーンに振り回されっぱなし。愚痴をこぼし、警察に脅され、命の危機にさらされ、推理を試みても毎回的外れ……。情けなさが極まっているけど、これこそ作者本人が自分をパロディ化した自虐芸だとわかると、むしろ微笑ましい。ホロヴィッツのこれまでの傑作を考えれば「こんなに間抜けなわけがない」と気づかされる仕掛けが秀逸だ。

そんな構造が徐々に腑に落ちてくる第2作。伏線回収の見事さとホーソーンの推理の切れ味は前作を上回る鋭さで、後半のどんでん返しは圧巻。シリーズは全10作予定で、ホーソーンの過去が少しずつ明かされていくらしい。ただ、正直に言うと……まだまだ謎の多い主人公に「次も絶対読みたい!」というほどの魅力が伝わってこないのが本音だ。ミステリとしての完成度は高いだけに、ホーソーンの「人間味」がもう少し見えたらもっとハマっていたかもしれない。というわけでシリーズを読むのは今作で打ち止めにする。

 

Shygirl 、Pretty Girl、Honey Dijonなど最近聴いたエレクトロニカ界隈

Shygirl
fabric presents Shygirl / Shygirl 【今日の1枚】

2024年4月にリリースされたShygirl監修のfabric presentsシリーズ最新作は、彼女の「Club Shy」ワールドを拡張した珠玉のDJミックス。自身の「Making The Beast」(fabric exclusive)や「Club Shy」関連曲のエクステンデッドを軸に、Danny Daze、Nick León、Rose Grayら信頼のおけるセレクター陣のトラックを巧みに織り交ぜ、約70分にわたるフロア志向の旅を展開する。 イントロから漂う甘く妖しい空気感、Nick León Dubのスウィンギーなグルーヴ、ダンジョン寄りの重低音、そして後半へ向かうにつれ高まるエモーショナルなビルドアップ——Shygirlらしい遊び心と洗練されたセンスが全編に漲っている。彼女自身のボーカルは控えめながら、選曲とミックスでしっかり「Shygirl色」を主張。90s〜00sのクラシック・ユーフォリアを現代的にアップデートしたような高揚感がたまらない。 fabricの25周年を飾るにふさわしい一枚で、クラブで流せば確実にフロアを溶かすだろう。家聴きでも没入感が高く、リピート必至の秀作だ。

fabric presents Pretty Girl / Pretty Girl【今日の1枚】

2025年6月にリリースされたfabric presentsシリーズ最新作、Pretty Girlによるミックスは、現代のエモーショナルなダンスミュージックを象徴する一枚だ。メルボルン出身・ロンドン拠点の彼女らしい、柔らかくメランコリックなメロディと輝くシンセが織りなす世界観が全編に広がる。オープニングのIsolée「Allowance」からClarian、Janeretへと続く流れは、ソフトエッジの印象派的なタッチで音を重ね、聴く者を優しく包み込む。新曲「Innadream」(Extended Mix)や「Hahaha」も収録され、彼女のボーカルとプロダクションの魅力が存分に発揮されている。Guy Contact feat. Nori「Drinking From The Mirage」やPalms Traxなどの選曲は、クラブのエモさと内省的な美しさを絶妙にブレンド。全体として、ダンスフロアへのラブレターでありながら、ヘッドフォンリスニングでも深い感動を与えるバランスが秀逸だ。fabricらしい高品質なミックス技術とPretty Girlの独自の感性が融合した、2025年の注目作。メロディックハウス/テクノからハウスまでを愛する人にはたまらない、感情を揺さぶる旅になるだろう。

DJ-Kicks: Honey Dijon【今日の1枚】

2024年10月18日に!K7からリリースされたHoney DijonのDJ-Kicksは、彼女の初の商業ミックスとして満を持して登場。シカゴ生まれのハウス・レジェンドが、約70分にわたる19曲の旅で「愛と黄金時代のハウス」を讃える一本だ。 イントロからChestnutの「Pot Of Gold」で優しく浮上し、Charly Brownの「Freaked Out」やStereo MC'sのMr Gリミックスを経て、Psychedelic Research Labの酸っぱい「Keep On Climbin’ (Mix 2)」でクラシックな深みに沈む。Johnny Dangerousの「Dear Father In Heaven」やBlow Out ExpressのSound Factoryバーミックスなど、忘れられた宝石を掘り起こしつつ、WaajeedやKiko Navarroのリミックスで現代を繋ぐ。Honey Dijon自身のエクスクルーシブも織り交ぜ、ストーリーテリングが秀逸。 全体に流れるのは、ジャジーでソウルフルなグルーヴと、クィア/ブラック・ハウス文化への深い敬意。アップリフティングでエモーショナル、フロアでは確実に盛り上がり、家では何度もリピートしたくなる。PitchforkやRAが絶賛するのも納得の、2024年を代表するDJミックスだ。

Defected In The House Ibiza 2025 / Andy Daniell

2025年7月25日にDefectedからリリースされたシリーズ最新作。Defectedの音楽ディレクターAndy Daniellが監修・ミックスを務め、3枚組47曲・約3時間37分の壮大なDJミックスとして登場。Ibizaの夏を象徴するハウス・アンセムを網羅した決定版だ。CD1はNic Fanciulli「Hold On」からGirls of the InternetのDennis FerrerリミックスAffirmations」、Olive F & Mike Dunnの「Hot Sauce」へとスムーズに繋がり、アップリフティングなスタート。Blackchild、Karizmaらによるディープでファンキーな選曲が中盤を支配し、後半へ向かうにつれSam Divineや低音重視のグルーヴが加速。全体にDefectedらしいソウルフルでポジティブなバイブが貫かれ、Ibizaのビーチからクラブまで完璧にフィットする流れ。Andy Daniellのミックスは精密で、トラック間の移行が自然。クラシックなmust-haveから最新のtastemakerまでバランスよく配置され、Defectedカタログの深みを存分に味わえる。フロアでは朝まで踊り続けられるエネルギー、家では陽気な夏のBGMとして最高。2025年のIbizaシーズンを締めくくるにふさわしい、シリーズ屈指の完成度だ。

Global Underground #48: Guy J-Córdoba

2025年末にリリースされたGlobal UndergroundのCity Series最新作、Guy Jによる#GU48「Córdoba」は、プログレッシブハウスの現在地を示す傑作ミックスだ。2枚組構成で、Disc 1のClubミックスはJames Holden「Common Land」から始まる流麗な展開が秀逸。Guy J自身の未発表曲をふんだんに織り交ぜ、深みのあるメロディと緊張感のあるビートが有機的に繋がり、ダンスフロアを意識したダイナミックな旅を提供する。特に「A Moment Of Clarity」や「No Drama」などのオリジナルが光り、Guy Jのシグネチャーサウンドを存分に堪能できる。Disc 2のダウンテンポ寄りミックスは、より内省的でチルなムード。ゆったりとしたグルーヴが心地よく、長時間のリスニングにも最適だ。全体的にGuy Jの進化と「Córdoba」という街への深い思い入れが感じられ、Global Undergroundらしい洗練されたクオリティを保ちつつ、現代的な感性を加えた意欲作。プログレッシブファンなら必聴の一枚で、2025年のベストミックス候補に挙がる完成度だ。

(※この記事はLLMで作成しています)

愛と復讐の黒い翼、再び / 映画『ザ・クロウ』

ザ・クロウ (監督:ルパート・サンダース 2024年アメリカ・イギリス・フランス映画)

愛する者と共に殺された男が、復讐を誓って死の世界から蘇る。――映画『ザ・クロウ』(2024年版)は、ジェームズ・オバーのコミックを原作としたダークヒーロー復讐劇のリブート作となる。

【STORY】更生施設で出会ったエリックとシェリーは、暗い過去を共有しながら激しい恋に落ち、施設を脱走して二人だけの世界を築く。しかし、二人はシェリーがかつて関わってしまった謎の組織に襲われ、惨殺されてしまう。死の国でカラスと取引したエリックは、復讐の超常的な力を得て蘇り、愛する人を奪った者たちへの容赦ない報復を始める。

主演は『IT』シリーズのビル・スカルスガルド(エリック/ザ・クロウ役)。ヒロインにミュージシャンのFKAツイッグス(シェリー役)、敵役にダニー・ヒューストン。監督は『ゴースト・イン・ザ・シェル』を手がけたルパート・サンダースで、ゴシックで現代的な再解釈を試みた。

1994年のオリジナル映画は忘れ難い作品だった。徹底的にゴスでエモーショナルな世界観は私をどこまでも魅了してくれた。主演のブランドン・リーが撮影中に不慮の事故により亡くなったことも含めて、伝説的な作品と言えるだろう。そういった経緯もあり、今回のリブートも楽しみにしていたのだが、これが期待に十分応えてくれる、実に素晴らしい作品だった。

なによりもまず、これは【復讐】の物語である。その復讐に至るまでに、痛ましい死があり、どこまでも深い絶望がある。いざ復讐が始まると、暗黒のゴシック趣味に彩られた凄まじい殺戮と肉体破壊が画面に躍り、主人公の心情はエモーションの高みに達し、かけがえのない愛がひたすら切なく謳いあげられる。そこには不可知の世界と超常の力が存在し、絶対の悪を葬らんと崇高な犠牲が対峙するのだ。

これはなんと残酷で鮮烈な物語なのだろう。ここには、私が【物語】というものに対し希求する全てのものが揃っている。そんな映画が私の心を動かさないわけがない。

1994年版『クロウ / 飛翔伝説』との比較ということであれば、1994年版がいわば「残酷なおとぎ話」あるいは「死と再生の寓話」であった部分を、この2024年版は主人公カップルの背景により多く説明を加えることで、よりリアルな痛みと実在感を与えることに成功している。最も大きな違いは敵役が「悪魔に魂を売った男」である、というオカルト要素を前面に打ち出している部分だろう。これにより、なぜ一度死んだ主人公が蘇るのか?という点をオカルト的に説明している部分で世界観をより強固にしているのだ。

涅槃の国で主人公に再生を約束するのは天使的な存在ということになるが、これとの契約を経ることで「ルール」が生まれ、物語進行により緊張感を生み出すことになる。その涅槃の国はインダストリアル的な冷たく暗いイメージが充満し、限りなく地獄に近い境界世界の寒々しさを十二分に演出している。エリックとシェリーのロマンスはひたすら陶酔的であり官能的なもので、それが失われたときに主人公の味わう尋常ではない苦痛がひしひしと観る者に伝わってくる。

ただしサウンドトラックの構成はどちらかというと1994年版のほうが好きだった。1994年版のオルタナティブなグランジテイストは、2024年版においてはもっとパワフルなデジロックに取って代わられている。とはいえ、1994年版と同様に2024年版でもジョイ・ディビジョンの曲が使われていた点は流石にニヤリとさせられてしまった。

ヒロインを演じたFKAツイッグスは、シンガーやダンサーとしても活躍するエキセントリックなマルチタレントだ。以前アルバムを購入して聴いていたこともあり、まさか映画作品でその演技を目にすることになるとは思いもしなかったが、彼女の持つ独特の存在感と体の動きはシェリーというキャラクターに唯一無二の輝きを与えており、この映画を語る上で欠かせない魅力のひとつとなっている。復讐と愛と死が交差するこの物語を、ぜひスクリーンで体感してほしい。


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『ゲーム・オブ・スローンズ』の新作スピンオフドラマ『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』を観た

ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ(シーズン1)(U-NEXT) (監督:オーウェン・ハリス、サラ・アディナ・スミス 2026年アメリカ作品)

鉄の玉座から遠く離れた、騎士道と友情を描く小さな冒険譚。『ゲーム・オブ・スローンズ』ユニバースの新作スピンオフドラマ、『ナイト・オブ・ザ・セブン・キングダムズ』は、ジョージ・R・R・マーティン原作の「ダンクとエッグの物語」(『七王国の騎士』)を基にしたHBOの最新ドラマシリーズだ。全6話で構成され、『ゲーム・オブ・スローンズ』の約100年前を描いている。

ターガリエン王朝が平和を保っていた時代。師匠を亡くした長身の放浪騎士ダンクは、馬上槍試合で名を上げようとアシュフォードを目指す。道中で出会った頭を剃った生意気な少年エッグを従士に迎え、二人は身分を超えたバディとして旅を続ける。しかし、試合を巡るトラブルが決闘裁判へと発展し、ダンクは死を賭した戦いに駆り出されることになる。

「『GOT』の約100年前」と書いたが、それは同時に『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の約100年後ということでもある。ドラゴンは滅び、ターガリエン家が安定した時代を描きながら、エッグが実は……という重大な秘密を抱えるため、後の王朝史(例:ブラックファイアの反乱など)に繋がる伏線が随所に散りばめられている。

『GOT』ユニバースの大ファンとして、配信をとても心待ちにしていた。そして第1話を観始めて、最初はその物語運びに拍子抜けしてしまった。『GOT』や『HOD』と同様の血塗られた暗黒群像劇が展開するのかと思いきや、気は優しくて力持ちの大男と、くりくり坊主の小さな従者とが、真の騎士になるためにコミカルな騒動を巻き起こす、というゆるふわ展開だったのだ。

全体の構成も小ぶりで、1話の配信時間も30分程度と短く、映画をも凌駕する超大作だった『GOT』や『HOD』と比べるなら、まさに「お茶の間サイズのTVドラマ」である。とはいえ、こういうドラマなのだと視点を切り替えれば、これはこれで十分楽しめる。奇妙な二人の珍道中を、ほのぼのと眺めていたのだ。ところが、そこへ波乱が巻き起こる。

時のターガリエン王朝国王の息子、エイリオン・ターガリエンが登場することで、物語は次第にきな臭くなる。残忍で傲慢、かつ精神的に不安定なこの男の陰湿な行為にダンクが否を唱えたばかりに、エイリオンは貴族への謀反を言い立て、遂に死を賭けた「決闘裁判」へとなだれ込んでゆく。騎士の精神を貴んだがゆえに、窮地に立たされる――。その苦渋の決断を迫られるシーンで、『GOT』のテーマが厳かに響き渡る。ここは思わず身を乗り出した。

本作の根幹にあるのは、『GOT』や『HOD』で描かれた陰謀術数や大規模戦争ではない。「騎士道とは何か」という、史劇ファンタジーにおける最も根源的な問いだ。それをストレートに描きながら、庶民目線のコミカルで軽快な冒険譚としてまとめた点に、このドラマの真骨頂がある。ある意味では、『GOT』や『HOD』との差別化が明確になされた構成とも言えるだろう。そういった意味で、本作は独自の魅力を持つドラマとして、しっかりと完成していた。


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