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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ムキダシのコラボレーション

 1.ちびナイ劇場


 プッチョムッチョのエサ皿を持ったちびマレがその場でるんるんとスキップしている。

 大量ロスト事件以降の新規ユーザーにとって強制召喚と五感ジャックのコンボは初体験ということになろうか。カイワレ大根娘の突然のキャラ変に何事かと思ったかもしれないが、ちびナイ劇場はいつもこんな感じだ。

 ぴょんと軽く跳ねたちびマレが、スクロールしてきたプッチョムッチョの小屋をオーバーリアクション気味に屈んで覗き込む。


【プッチョ〜ムッチョ〜。ごはんだよ〜!】


 ピチャリと湿った音がした。


【えっ】


 マレの驚く声。

 ひたり、ひたりと素足で床を歩くような音がした。

 そして、プッチョムッチョが居る筈の小屋から何かが……ずるりと這い出してきた……。

 ……それは……犬とも猫ともつかない得体の知れない生き物であった……。


 ちびマレが【ひゃあっ!】と悲鳴を上げてすっ転んだ。その拍子に皿ごと地面に落ちたエサに得体の知れない生き物がガッつく。

 お世辞にも可愛いとは言えない生き物だった。

 デスピサロみたいな乱ぐいの牙。眼球はデメキンのように飛び出している。全身は生皮を剥がれたかのように筋繊維が剥き出しになっていた。

 それはプッチョムッチョの成れの果て……ではなく。

 櫻井氏が推し進めたコラボレーション企画より放たれし刺客であった。

 俺に驚きはまったくなかった。意外でも何でもなかった。公式サイトをチェックしていれば事前に分かっていたことなのだ。

 当然マレも把握している筈なのだが、このちびナイ劇場において茶番スタイルは連綿と続く伝統である。好意的に解釈すれば公式サイトの重要なお知らせをスルーしたプレイヤーへの説明を兼ねているのだろう。だが、本命はあざといビジュアルと仕草でゴミどもを籠絡することに違いなかった。

 しゅぱっと立ち上がったちびマレが小さな手でメガホンを作って叫び声を上げる。


【おっ、おっ、お姉ちゃあああああん!】


 舞台袖からプッチョムッチョを伴ったちびナイがるんるんとスキップして現れた。散歩の帰りらしく、プッチョムッチョの首輪から伸びるリードがちびナイの歩調に合わせて上下に弾んでいる。

 ちびマレがちびナイに駆け寄る。


【お姉ちゃああん! ぷ、プッチョとムッチョが〜!】

【妹よー!】


 ちびナイがちびマレをガッと抱きとめた。

 茶番である。

 ちび姉妹の扶養家族に成り下がったプッチョムッチョがサングラスをくいっと指で押し上げて気取った様子でポケットに片手を突っ込んだ。背合わせに立ち、ちびマレをビッと指差す。


【俺たちはここに居るぜ?】


 もはやペット扱いを問題視する段階にはないようだった。

 ちびマレがハッとした。


【プッチョムッチョ! じ、じゃああの子は誰!?】


 すうっと大きく息を吸ったちびナイが叫ぶ。


【知らないのおおおおお!?】


 ちびマレも叫ぶ。


【知らないよおおおおお!】

 

 そこでひとまず茶番の第一章は完了したらしい。

 手を繋いだちび姉妹がくるくると回ってステージの中央に移動。ぴょんと軽く飛び跳ねてハイタッチ。だらだらとヨダレを垂れ流している得体の知れない生き物の前足を手に取って万歳させる。


【コラボレーション企画!】

【ムキダシのレイド戦!】

【はっじまるよ〜!】


 こっちのゲームのロゴとあっちのゲームのロゴが小気味いい音を立ててクロスした。

 なお、あっちのゲームタイトルは「ムキダシサモナー」と言う。獣のシルエットをバックに散らしたロゴがとてもカッコ良かった。運営ディレクターがロゴに出しゃばっているこのゲームは見習うべきだと思った。

 けどゲームの評価的なアレはどっこいどっこいだ。

 ムキダシサモナーはムキダシメイトと呼ばれる色々とムキダシな不思議な生き物を召喚してサモナー同士の殴り合いを見守って貰うスマホゲーだ。

 ムキダシメイトは戦わない。見ての通りビンカン肌なので、争いは好まない平和的な生き物であるらしい。

 では何のために召喚するのか。そこら辺の説明は一切為されないままゲームは進行していく。

 ……多分、悪いのは俺らっトコの運営ディレクターだ。

 このゲームがリリースされてからというもの、珍妙怪奇なゲームが増えた。暫定エイリアンが持ち込んだゲームという触れ込みは卑劣極まりなく、まともに相手をしていられなかったのだろう。インパクトを追求した結果、インパクトだけが残ってしまったのだ。

 もっとも俺は普通に勝負になると思っているが。

 このゲームはとにかく面倒臭い。仮に30分だけ遊ぼうしたらセクハラして殺されるだけで終わってしまう。その点、スマホゲーなら30分もあれば曜日ダンジョンを五周くらいはできるだろう。リアルと比べても遜色ないグラフィックや臨場感あふれる戦闘なんてものは慣れてしまえば面倒臭いだけだ。キレーなチャンネーが居なければ俺はとっくに引退していただろう。だって風が頬をくすぐる感触とか川のせせらぎとか別にゲームやらんでもリアルで体験できるしな。

 まぁ自分がやってるゲームに文句を付けるのはゲーマーの習性だ。それは往々にして慣れから来るもので、だから他社企画とのコラボは新鮮味があって胸が踊る。

 ムキダシメイトが地の底から響くような雄叫びを上げた。


「ミダシナミ〜」


 俺の胸は踊るのをやめた。

 ミダシナミ……身だしなみだろうか? 身だしなみも何も……お前むき出しじゃねえか。そう思った。

 何なんだ、このコラボは。そうも思った。一体誰が得するんだ……?

 だが、ちび姉妹は今日も仕事熱心だ。

 ゴゴゴとステージが揺れ、ちび姉妹が【な、なに?】と怯えた様子で顔を見合わせる。

 舞台袖からポポロンが飛び出してきた。

 ギョッとして飛び退いたちび姉妹にポポロンが触手を振り上げて威嚇する。

 茶番である。

 使徒の称号を持つポポロンは子を得る特権と引き換えに運営に絶対服従の【戒律】を刻まれている。

 つまり自作自演だ。

 妹キャラを背に庇ったちびナイが【律理の羽】とかいう反則臭い大剣を構える。


【ぽ、ポポロン! なんでここに!?】


 それはお前に呼ばれたからだろう。俺はそう思ったが、コナンくんの犯人みたいになっている俺たちモブキャラはざわ……ざわ……と賑やかしの声を上げることしかできない。


【説明しよう】


 おっとタコ野郎。観客席に潜んでいたタコ野郎がスポットライトを浴びてステージに上がった。

 ざわ……ざわ……。

 ちび姉妹が口を揃えて感嘆の声を上げる。


【あ、あなたはもしや運営ディレクターのョ%レ氏!?】


 この遣り取りを俺たちは幾度目にしたろうか。

 コラボだろうと何だろうと自分が一番目立たねば気が済まないらしいタコ野郎がステージの中央に立ち、くねっと身体をひねった。天地をタコ足で指差して、その場でくるりとターン。観客席をびしっと指差して言う。


【そうとも。私が運営ディレクターのョ%レ氏だ】


 ……なんかムカつくな。いちいち気取りやがって。つーか、さっさと帰らせてくれねえかな?

 コラボやるんだろ? カムバックキャンペーンと称して地獄のチュートリアルの再現をやるんだろ? 分かってるんだよ。

 だが、このクソゲーにスキップ機能などという気の利いたシステムは存在しないのだ。

 ……ああ、そういえば報酬を用意するとか言ってたな。クズ石の詰め合わせだろうか。一応そこだけは聞いてやってもいい。

 ョ%レ氏はすぐ側で威嚇のポーズを取っているポポロンを無視して言った。


【プレイヤーの諸君。ああ、プレイヤーの諸君。私は心を鬼にして言わねばならない】


 何だよ。


【諸君らは弱い。弱すぎる。それは生まれながらにして定められし宿命であり、この私をして救ってやることは許されない。なんと悲劇的なことなのだろう】


 ザコで悪かったな。放っとけや。


【ならばどうするか!】


 タコ野郎は観客席に背を向けてタコ足を左右に大きく広げた。


【敗北だ! 諸君らは徹底的な敗北から始めねばならない!】


 嫌だよ。勝たせろや。イイ気分にさせろ。俺らは客だぞ。

 ョ%レ氏が振り返った。青色に染まった瞳は悲哀を表すものだったが、このタコ野郎は感情を自在に操ることができる。まったく当てにならない。


【このョ%レ氏が機会を与えよう】


 ……復刻版チュートリアルはいつもこうだ。

 理屈は分かる。このゲームはレイド級を打ち倒すことで魔法が解放される仕組みなので、一度倒したレイド級に挑む意義が薄い。

 つまり新規ユーザーはイベントなくしてポポロンやワッフルと戦うことがない。個人で戦うぶんには自由だが、レイド戦勃発の条件を満たすのは難しいだろう。

 それは公平ではないだのとワガママを言い出したョ%レ氏が期間中にログインした全プレイヤーを強制徴募してチュートリアル空間にまとめて叩き込むのが復刻版チュートリアルだ。

 俺も何度か経験したことがあるのだが、いつもぐだぐだになる。何しろ真面目に戦っても仕方ない。そう思っていた。

 ……まぁ報酬次第だな。以前の復刻版チュートリアルには報酬なんてなかった。そこだけは期待してやってもいい。

 ざわ……ざわ……。

 ポポロンに大剣を向けたまま一時停止しているNAiに代わってちびマレがョ%レ氏に意見する。


【で、でもョ%レ氏! ポポロンの固有スキルはもう解放されてるし、プレイヤーのみんながちゃんと戦ってくれるか……。私、とっても不安です!】


 いい質問だとョ%レ氏がタコ足を一本立てた。


【一部のプレイヤーはごく初期の段階で気が付いていた。主張もしていた。多勢によって黙殺されたがね。ヒューマンめ。面倒と見るや一斉に手を引く。スキルの解放には段階があるのだ】


 そりゃあ、あったよ。そういう噂は。

【スライドリード】の段階解放が発覚する前から何かあるんじゃないかっていう噂はあった。けどよ、実際にあれこれ試してもダメだったんだから仕方ねえじゃん?

【スライドリード(速い)】の第一人者、サトゥ氏とスマイルっトコのアオミドリが段階解放に成功したのは山岳都市にポポロンが攻めてきて退くに退けなかったからだ。あんな状況はそうそうあるもんじゃない。あっても困る。

 しかしョ%レ氏の見解は異なるようだった。


【私は諸君らにレイド級の討伐を期待している。諸君らの強化を望んでいる。周知の事実だ。では何故、この私が使徒に負けろと命じないのか。戦い、そして打ち勝つことに意味があるからだ】


 そうみたいね。でもさぁ……。俺はイマイチ乗り気になれなかった。俺、鍛冶屋だからなぁ。ぶっちゃけ関係ねーっつーか……。

 むしろゴミどもが強くなるのは困る。いや、たまにファイナルバトルみたいなノリになるので、その時はちらっと後悔したりもするのだが、それはしょせん一時的なものだ。オンゲーのメインコンテンツは素材集めとレベル上げなのである。

 どちらかと言えば俺はゴミどもの足を引っ張ってやったほうが楽しい。こればかりは人間の本能的な衝動なのでどうしようもなかった。

 で? 報酬は? 何をくれるんだよ?

 ざわ……ざわ……。

 ョ%レ氏は俺たちのモブ言語を理解しているようだった。タコ足を突き出して告げる。


【逸るな。報酬は用意する。そう言ったな。このョ%レ氏は約束を違えない】


 ンなこと言ったって櫻井氏との約束をブッチした生きた証拠があんたの横に居るじゃねーか。カイワレ大根娘がよぉ。まぁ結果的にはカイワレ大根育成日記っつー新規特典は出回った訳だが。

 ョ%レ氏はタコ足をうにょると掲げた。


【スキルを一つ】


 あ?


【投票制とする。期限内にポポロンを討伐せしめたサーバーには最多票のスキルを一つ進呈する。まぁこのョ%レ氏とて万能ではない。完全な形ではないだろうが、できる限りのことはしよう】


 ざわ……ざわ……。

 そ、創造魔法でスキルを作ってくれるってことか? 可能なのか。そんなことが。

 か、可能として、だ。しかし……代償はどうなる? あんたが支払ってくれるとでも?


【諸君らの乏しいリソースを削るような真似はしない。安心して欲しい】


 マジかよ。

 驚いたぜ。なんて胡散臭いんだ。こりゃあハッキリ言って罠だぜ。間違いねえ。

 ざわ……ざわ……。


【ふん。信じるも信じないも自由だ。今回に限っては参加するもしないも、な】


 最後に気になることを言ってョ%レ氏は舞台袖に引っ込んでいく。去り際にムキダシメイトの頭をタコ足で撫でた。

 一時停止を解除したちびナイが大剣を分離してポポロンをびしっと指差す。取り巻く小剣群の剣先をポポロンに向けて叫んだ。


【二つの世界の力を合わせれば、不可能なことなんてないんだから!】


 その言葉に勇気付けられたかのようにちびマレがムキダシメイトの首にそっと手を置いてポポロンと対峙する。

 

【行くよ! ムキダシさん!】


 ムキダシさんが吠えた。


「ミダシナミー!」


 シャッと幕が閉まった。



 2.クランハウス-マイルーム


 俺はパチリと目を覚ました。

 見慣れた俺の部屋だ。

 おお、今回は強制参加じゃないのか。なんだよ。やればできるじゃねえか。へっ、あのタコ野郎もいい加減に種族人間の愛らしさに気が付いたらしいな。ありがたくレベル上げに勤しむとしよう。俺は居間に降りてさっそく藁人形をクラフト……できない。

 ふむ。ちょいと気合が足りなかったかね。思えばレベル1だからな。気合を入れてやらないと。イヤどうだったかな……。何となくでイケたような気がするんだが。

 俺はメニューを開いてステータスを参照した。ステータスと言っても、素早さとか身の守りとか載ってる訳じゃないけど。

 ところがどっこい。身の守りは載ってないがミダシナミ関連は載ってた。

 なるほど。職業がムキダシサモナーになってる。そりゃクラフトできねえわな。だって鍛治師じゃねえし。うん、なるほど。なるほどね。そう来たか。

 んん……。

 俺はしばし迷ってから、片手を突き上げて吠えた。


「ムキダシ召喚!」


 するとどうだろう。怪しい召喚儀式が始まったではないか。ぽこぽこと泡が弾けるような音を立てて血の玉が床から染み出てきて、ふわりと浮遊したのちに一気に凝縮。ガチャみたいな演出を交えて飛び上がったゾンビ犬みたいなのがしゅたっと着地した。

 俺の呼び声に応えて颯爽と参上したムキダシメイトが遠吠えを上げる。


「ミダシナミー!」


 ふう……。

 俺はソファに腰を下ろしてぼんやりと天井を見つめることしばし。ややあってから視線を床に落とし、顔面を両手で覆った。

 コラボまでクソなのか……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 ミダシナミー!



 GunS Guilds Online


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ミダシナミー!!!!!!!!
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