話を聞いた人
21世紀のジャズギター最重要人物、その中心にあるもの
君島大空
ギターはすごく手軽な楽器です。自己表現のためのツールとして、取りかかりやすい楽器でもある。でもジュリアンの演奏を見ていると「ギターという楽器が人間に求めていること」と「それに対して身体がどう動くべきか」を考えてるように感じるんです。
ジュリアン・ラージ
それはすごく嬉しいな。じゃ、僕が学んだことを話すよ。例えば、アンドレス・セゴビアやジュリアン・ブリームのような自分のヒーローを見ていると、彼らは「起きていることの中にいる」と同時に「どこかでそれを観察している」感じがあるんだ。つまり、「音楽が好きで聴いている自分」と「演奏している自分」、その2つが同時に存在している。その二面性だよね。それをどんなバランスで同居させるかは、ミュージシャンごとに全然違う。そこが面白いなって思うんだ。
君島
ジュリアンはまさにその「二面性」をやってますよね。
ジュリアン
大空もそうだよ。今、君が言ったことは君自身がやってる。だって、ファンでありながら、演奏してるわけだから。誰かに強く惹かれるのって、相手がやっていることのどこかが自分の中にもあるからと思うんだ。近づいていくほど、自分の中にもそれがあることに気づく。だから、君の質問に僕は心を動かされたよ。君が何を大事にしているのかが伝わってきたから。それは僕にとって希望でもある。つまり、君はもう答えを知ってたんだ。僕はそれを思い出させただけなんだよ。
君島
面白い……。僕はジュリアンを見ていると、「二面性」どころじゃない「多層的」な人なんじゃないかって思ってるんです。野性的な側面も、冷静な側面も、音楽を愛する側面もある。そんな「自分の中にいる複数の自分」を楽しんでいる人なんじゃないかな、って思うんですよね。
ジュリアン
面白い視点だね。僕は大学卒業後、「できるだけ多くの人と演奏しよう」って思って、NYでジャズ、フォークやブルーグラス、アバンギャルドなど、様々なシーンの人たちと共演したんだ。それが良かったのは、異なる音楽を演奏すればするほど、自分の中の別の何かが引き出されたから。その結果、逆に「自分の中心(センター)は何か」が見えてきた。
最近も普段の自分とは異なる音楽をやった後、「よし、自分が今取り組んでいることに集中しよう」って思えたんだ。つまり、いろんな音楽に触れるほど、その経験が結果的に、自分の個人的な音楽に戻ってくる。演奏者の音を聴けば、その人が多様性を「経験しているかどうか」だけじゃなくて、多様性を「愛しているか」さえも伝わることがあるでしょ?僕はきっと多様性を愛してるタイプなんだよね。
君島
ジュリアンの「センター」はやっぱりジャズなんですか。
ジュリアン
うん、僕にとってはジャズだと思う。ただ、正直に言うと、ブルースギターも中心と言える気がする。そういったジャズやブルースにつながる「ブラックミュージックの伝統」と、そこから広がるインターナショナルな音楽のつながりを含めた系譜が、僕にとっての「ホーム」なんだ。
でも、僕は長い間、「自分の中心がジャズだ」ってことを拒んでた。なぜかは自分でもうまく説明できない(笑)。でも、ずっと否認していたから、そのぶん葛藤も長かった。それがある時、「自分はここから来ているんだ」って認められた瞬間、ホッとして、肩の荷が下りたんだ。
君島
認めたタイミングって何かきっかけがあったんですか?
ジュリアン
僕のジャズ観が変わったんだ。昔は、ジャズって「能力や技術を獲得すること」だと思ってた。でも、ジャズは文化であり、愛で、癒やしなんだって気づいたんだ。偉大なマスターたちの音楽を聴いた時、僕らの中で深い思いやスピリチュアリティみたいなものが動く。ジャズをやる時に大事なのは、そこにちゃんと接続されているかどうかなんだよね。自分が本当にジャズを愛しているかどうかだけが重要だってことに僕は気づけたんだ。
ブルーノートレコードから発表した新作ではジャムバンドムーブメントの中心人物で名鍵盤奏者のジョン・メデスキが奏でるハモンドオルガンを全編にフィーチャー。ゴスペルを軸にアメリカ音楽を詩的に表現。プロデュースはジョー・ヘンリー。品番:UCCQ‒1228。