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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
77/978

飛翔

 1.ちびナイ劇場


 例によって例の如くプライドをかなぐり捨てた【ちびNAi】がステージの上で元気いっぱいに手を振っている。


【プレイヤーのみんな! 元気だった? みんなの味方、ナビゲーターのナイだよ!】


 前回のイベントでクソ強力なパッシブスキルを勝手に作って勝手に与えたことをバラされたちび女神が、それを逆手に取ってプレイヤーに媚びを売っている。


【プレイヤーのみんなは今日が何の日か知ってるかな!?】


 当たり前だろ。何なら一週間前くらいから意識してたよ。これがラブコメの主人公ならチョコを渡されて初めて気付いたみたいに「そうか、今日は……」とか言い出すけど、女に興味ないふりが通用するのは精々が中学二年までだからね。いや二年ですら厳しいわ。

 怪しい電波を受信したかのようにちび女神のアホ毛がぴんと立った。


【むむっ……! みんなの負の感情がびんびん伝わってくるよ! これは、怨念!】


 放っとけ。バレンタイン当日にゲームやってる時点で答え出てるだろ。妖気みたいに言うな。

 しかし不思議なこともあったもんだな。俺たちの怨念が具現化してちび女神に襲い掛かる。やけに可愛らしいゴーストだが口からまろび出る怨嗟の声がガチだ。チョコくれよーとか言ってる。完全に俺らだわ。

 ちび女神がゴーストとがっぷり四つ組み合う。力比べか。負けないぜ。バレンタインなんざクソだ。消えてなくなればいい。俺は怨念をゴーストに注入していく。


【お、怨念に潰されるー!】


 その時、舞台袖から颯爽と現れた人影がステージを駆ける。


【お姉ちゃん、危なーい!】


 GMマレだ。運動できませんと言わんばかりの内股走りだが、ヤツの戦闘能力が国内サーバー最強の男を上回っているのは周知の事実である。

 やはり血は争えないのか。口うるさそうな生真面目キャラは早くも崩壊し、新たに妹キャラを獲得したようだ。


【とう!】


 跳躍したちびマレが俺たちの怨念に飛び蹴りを浴びせた。


【妹よー!】

【お姉ちゃん、今だよ!】


 ツインビーの2Pプレイみたいに密着したちび姉妹がびしっとポーズを決めた。


【魔よ退けー!】

【母なる大地よー!】


 ちび女神とちびマレのカットインが入る。


【ホーリーシュゥゥゥゥート!】


 ステージを突き破って打ち出された光の杭が俺たちの怨念を串刺しにした。光輝く十字架に磔にされたゴーストがチョコーと断末魔の叫びを上げる。十字架が砕け散ると共にゴーストは昇天した。

 ……ホーリーシュートか。何が何でも自分たちは聖なる存在だと主張したいらしいな。

 小芝居を終えたちび姉妹が何事もなかったかのようにバレンタインに話を戻した。

 ちびマレがもじもじしている。


【ねえ、お姉ちゃん。バレンタインのチョコレートってどうやって渡せばいいのかな? 勇気が出なくて……】

【な、なんですとー!?】


 生後一週間の妹に恋愛相談されて仰け反るちび女神には早くも行き遅れの風格が備わりつつある。


【お悩みのようだね】


 ちびョ%レ氏の登場だ。


【ややっ!? あ、あなたはもしやここしばらく行方をくらましていた運営ディレクターのョ%レ氏!?】


Holaやあ。そうとも。私が運営ディレクターのョ%レ氏だ】


 ョ%レ氏は何故かスペイン語で挨拶した。

 

【長らく留守にしてしまってすまないな。このョ%レ氏は借りはキッチリと返さねば気が済まないタチでね】


 前回のちび劇場で新規特典がどうとか言ってたな。マネージャーの櫻井氏の安否が気遣われる。

 ちび女神がすかさず広告した。


【詳しくはバレンタイン特典のョ%レ氏の逃避行録を見てね! お友達でハード本体を持ってない子が居たらオススメしてみよー!】


 あざとい。暫定エイリアンの一味が現状に甘んじることなく地球経済への進出を果たそうとしてくる。


 もじもじしているちびマレに代わってちび女神がョ%レ氏に事情を説明した。マレの名前は伏せ、内気な女性は意中の男性にチョコレートを渡せないのでは、という体だ。


【秘めたる思い】


 ョ%レ氏がぽつりと言った。


【勇気を出してみてはどうかね? 好意を寄せられていると知って悪く思うものは居ないだろう。でなければ、初めから好く相手を間違っている】


【この場でお悩み解決しちゃうのね! さっすがョ%レ氏! でもね、女の子はいつだって不安なの! そんなにあっさりとは行かないんだなー!】


 鬼畜ナビゲーターに一体、女性の何が分かるというのか。

 ョ%レ氏も似たようなことを考えたのかもしれない。声音に呆れの色が混ざる。


【まぁしょせんはヒューマンに当て嵌めて考えた場合の話だ】


 ちび女神は興奮している。


【えー!? なんか意味深! ョ%レ氏の恋愛観に私凄く興味あるなー!】


【私かね。そうだな……】


 迷う素振りを見せたョ%レ氏が、ふと何かを思い出したかのように振り返る。


【ああ、時にマレ】


【は、はいー!】


【私は固形チョコよりもホットに興味がある。一杯淹れてくれないか】


 ちびマレは真っ赤になってコクコクと頷いた。


【たたた直ちにー!】


 舞台袖に駆け込んだちびマレを、ョ%レ氏がゆったりと後を追う。

 舞台袖に消える前に、最後に一度、肩越しに振り返ったョ%レ氏がちび女神をぴっと指差した。


【一流の%は女性を待たせるようなことはしない】


 このタコもどき、何スマートに決めてんだ。


 ステージにぽつんと取り残されたちび女神が、ぐぬぬと握り拳を震わせて嘆き声を上げた。


【私も素敵な恋がしたぁ〜い!】



 2.マールマール鉱山-チョコレート工場


 イベントの告知かと思いきや単なるコントだったぜ。

 バレンタイン当日である。ログインした俺は代わり映えしない坑道の景色に溜息を吐いた。

 俺とシルシルりんは結局ミュウモールの魔の手を逃れることができなかった。犬死にしたサトゥ氏には申し訳ないが、生産職は【スライドリード(速い)】を使えない。逃げろというほうが無茶である。

 シルシルりんはバザーの焼失がよほどショックだったらしく、俺の傍らを離れようとしない。俺はシルシルりんの水色の髪を撫で撫でして慰めの言葉を掛ける。よしよし、大丈夫。今に助けが来るよ。気休めでしかないとは理解していたが、他に何と言えばいいのか分からなかった。

 ミュウモールはモグラ共和国の上流階級。貴族とは少し違う。自らの手で資産を築き上げ、他者を蹴飛ばして這い上がってきた連中だ。考える頭がある。バイタリティもある。まさしく精鋭と言うに相応しい。

 基本的に他人を見下している連中の集まりなので放っておけば瓦解するだろうが、それは今すぐじゃない。バレンタインに標的を絞った短期的な活動ということであれば、付け入る隙はないかもしれない。

 公式のイベントは特にない。チョコを貰ったところで賞品が出たりはしないということなのだが、ミュウモールの士気は崩れないだろう。変なキャバクラみたいになってる。

 モグラっ鼻の監視下に置かれた女キャラ(ネカマも可)がせっせとチョコを作り、出来上がったチョコを女子からミュウモールの連中に手渡しされるというシステムである。指名制も導入している。

 最初はアホかと思ったが、これは侮れない。モグラっ鼻も俺と同意見であるらしく、嬉しそうにもるもる鳴いている。


「いやぁ、正直リーダーのことアホだと思ってたけど、これマジで嬉しいね。勝ち組感が半端ない」

「手渡しいいよね……」

「もうゴールしていいよね……?」


 世の春を謳歌するモグラっ鼻。

 囚われの身ではあるが、女キャラの待遇も悪くない。というか、普通にモグラっ鼻がデキる連中なので大規模な合コン会場みたいな感じになりつつある。

 そして俺はミュウモールの指導者に気に入られている。他のモグラっ鼻も怖いもの見たさで俺を指名するという悪循環から抜け出せずにいる。


「じゃあ、あの〜。ペタタマさんよろしくお願いしますっ」

「おいおい、やめとけよ。ペタタマさんはリーダーのお気にだぞ。つーか男だし……」

「いやリーダーは気にしないでしょ。あの人、そんなに小さい人じゃないよ。むしろ器が大きすぎてアホになってる」


 ちっ、うぜーなぁ。構いやしねえよ。三人ともそこに並べ。

 野郎にチョコを渡すなんざ屈辱以外の何物でもないが、俺が犠牲になればそれだけシルシルりんが指名される可能性は減る。

 モグラっ鼻の一人が慌てて手を振った。


「い、いや、俺は。そんな畏れ多い……」


 だよなぁ。男にチョコ貰ってどうすんだって話だろ? お前は正しい。胸を張れ。俺は賢いモグラっ鼻の肩をばんばん叩いた。

 それと比べてお前らと来たら……。

 正直、俺はかなり不満が溜まっている。チョコを渡す側に回っているのもそうだが、コイツらミュウモールは俺が育てたと言っても過言じゃない。だってのに、コイツらと来たら女からチョコを貰ったくらいで嬉しそうにニマニマしやがって……! 俺の遺志を継いだって話はどこに行ったんだ? しかし言い出せない。だって今の俺はペタタマくんだから。くそがっ、イライラするぜ。

 俺は苛立ちも露わにモグラっ鼻にデコピンを浴びせた。


「痛っ。痛いっす」


 ガタガタ騒ぐな。男だろうが。それ以前に痛覚カットされてるから痛くねえだろうが。

 ったくよー。お前らマジで変態なんじゃねえか? こんだけ綺麗どころを揃えといて何だって俺を指名するんだよ。特にお前だ。これで三度目だぞ。前にも言ったよなぁ? 俺はモグラ共和国の一員としてマジでこの国の未来が不安になって来るぜ。おい、聞いてんのか?


「聞いてます。ハイ」


 ホントかぁ? 俺の話をちゃんと聞いてるなら何で三回も俺からチョコを貰おうとしてんだよ、お前は。デコピンっ。デコピンっ。

 おら、ぼさっとしてんじゃねえよ。チョコが欲しいんだろ? さっさと頭を下げて俺にお願いするんだよ。人間として最低限の礼儀だろうがよ。


「お願いしますっ」


 何をお願いするんだ? ハッキリ言え。ハッキリ。


「チョコを下さい!」


 頭が高えっつーんだよぉー!

 俺はモグラっ鼻の頭を掴んで上下に揺すった。

 あ? おい、テメェ。誰の許可を貰って土下座しようとしてんだ? 立て。俺の許可なくプライドを捨てるのは許さねえぞ。お前らはDモールだ。御神体のマールマールだろうが何だろうが、俺はお前らに頭を下げさせるつもりはねえ。ゲーマーに上下関係なんてねえからな。なんで頭を下げる? 礼儀じゃねえだろ。心が屈してるんだ。負け犬根性なんだよ。頭を下げるな。その癖は直せ。じゃなきゃ根性も治らねえ。だが俺には頭を下げていい。俺は正しいことを言ってやれるからだ。分かったな? 分かったら返事!


「はい!」


 よぉし、いいだろう。おら、チョコだ。手渡しっつールールだからな。手、出せ。

 俺はモグラっ鼻に順々にチョコを手渡した。やるからには半端な仕事はできねえ。筋を通すってのはそういうことだ。

 じゃ、俺はチョコ作りに戻る。まだノルマが残ってるんだよ。お前ら、戦争やってるんだってな。勝てよ。負けたら殺すぞ。お前らはモグラ共和国の看板を背負ってんだ。Dモールは無敵だ。ウサ耳なんぞに負ける訳がねえ。お前らは無敵なんだ。デコピンっ。デコピンっ。


 モグラっ鼻を激励して俺はチョコ作りに戻った。

 シルシルりんはじっと俺を見つめている。……投薬したマウスの経過を観察するような目だ。


「……あのぉ。お聞きしていいですか?」


 ん? 何かな? 俺は作業を続けながら気さくに答えた。

 俺に答えれることなら何でもどうぞ。俺も聞きたいことがあったからちょうどいいや。

 ……俺はシルシルりんに正体を打ち明けるつもりはない。ウチの子たちにはバレたし、ネフィリアんトコにもバレた。【敗残兵】にもバレていると見ていい。これ以上は本当に制御できなくなる。もう誰だろうとバラさない。それが絶対の境界……! 親しい、親しくないという問題ですらない。

 愛想良く返事をした俺に、シルシルりんが首を傾げた。シルシルりんは一つ一つの仕草に愛嬌がある。俺が無条件に幸せになって欲しいと思える数少ない友達。絶対にここから救い出してみせる。

 決意も新たに作業を続ける俺の背を、シルシルりんはじっと見つめ、


「私に聞きたいこと、ですか? もちろん、いいですよー。ただ……」


 ただ?


「私はあなたがコタタマりんじゃないかと疑ってるんです。それでもよろしければ」


 ! い、いや、落ち着け。俺は自分に言って聞かせた。カマを掛けられてるだけだ。確証なんてない。

 そうさ。ペタタマなんて名前してるんだ。疑われることは想定内……。既定路線なんだ。むしろシルシルりんが疑っていることを知ることができた。チャンスだと思え。

 俺はくるりと振り返ってシルシルりんの瞳を見つめた。


「俺がコタタマ? あまり似てないと思うけど、どうしてそう思ったのか聞いても?」


 くすんだエメラルドのような瞳が俺をじっと見つめている。


「人との接し方、ですね。ギリギリのところでくるくる回るような……」


 思った通りだ。何の確証もない。

 俺は小さな子供をあやしてやるようにシルシルりんの頭を優しく撫でた。


「シルシルさん……。それじゃあダメだよ。接し方や話術なんて本屋に行けば幾らでも手引き書が売ってる。コタタマ氏は俺と同じ本を読んでたんだなってコトくらいしか俺には言えない。ゴメンね」


「コタタマりんはですね。女性の髪を触る時、動物の毛並みを整えるみたいに撫でるんです。それも同じなんですね」


 嘘ぉ……。俺、そんな癖があったの? 思い返してみる。あ、ホントだ。やってるわ。

 うっ、このシルシルりんの目。もはや確信の域に。こ、これはどう言い繕ったところで……。

 いや、違う。考え方を変えるんだ。俺がコタタマであるという証拠がないように、別人であるという証拠だってないんだ。受けに回れば不利になる。攻めるんだ。

 俺は言い訳を考えながらぺらぺらと口を回した。

 シルシルさん、よく気が付いたね。

 俺の言葉にシルシルりんがアクションを起こすよりも早く俺は言葉を継いだ。

 俺は君のような人材を探してたんだ。そう、つまりコタタマ氏を探し出せるかもしれない人材をね。


「えっ。だってあなたは……。コタタマりんを、探す、ですか?」


 俺は声を潜めてシルシルりんを散歩に誘う。


「ここじゃちょっと……。歩きながら話そう」


 もちろん時間稼ぎのためだ。どうする。考えろ。頭を回せ。俺ならやれる。何か……。モグラっ鼻にチョコを手渡している女キャラの姿が目に入った。女が相手を選ぶのではなく……逆に男が……指名制……追われる側から追う側へ。これだ……!

 俺は周囲の目を気にしながらシルシルりんに身体を寄せた。

 シルシルさん。俺は秘密裏にコタタマ氏を追う捜査員の一人だ。所属は言えない。すまないが……。極秘任務だからね。

 コタタマ氏は……あまりにも危険な人物だ。それは分かるね?


「それは、はい。もちろん」


 もちろんなのか……。

 ま、まぁいい。俺は続けた。

 ヤツが引退したなんて信じられるか? 俺は信じられない。君もそうは考えてない。だろ?

 シルシルりんは頷いた。

 そう。しかしヤツがキャラクターデリートの処置を受けたのは間違いない。俺が彼の立場だったなら、確実に別人を装う。顔と名前も変えてね。……俺の名前、もしもコタタマ氏本人だとすれば妙だとは思わなかった?


「い、いえ。でも……言われてみれば、確かに……」


 シルシルりんは自信が揺らいでいるようだ。俺は内心でほくそ笑んだ。

 そうだろ? ペタタマじゃあ疑ってくださいと言わんばかりだ。だから……これは罠。コタタマ氏を探している人物を誘き寄せるためのね。

 顔と名前を変えられては探しようがない。一見するとそうだ。けどシルシルさん。君のように仕草や癖を手掛かりに探せる人は居るかもしれない。だから俺はコタタマ氏を研究して、彼の仕草を真似て君をテストした。君がコタタマ氏と親しくしていたのは把握していたからね。

 そう、事情が飲み込めたようだね。

 ただ勘違いしないで欲しいのが、我々は君の味方であるということだ。

 動機を話そう。何故我々がコタタマ氏を追うのか。我々はコタタマ氏がこのゲームに舞い戻ると確信している。しかしどこで何をしているのかは分からない。見えない脅威に怯えるよりは、目の届く範囲に置いておきたいと考えている。この理屈、分かるかな?

 シルシルりんはコクリと頷いた。

 よし……。乗り切った……。

 シルシルりんがぴたりと立ち止まった。

 ん? どうしたのかな?

 俯いて黙りこくったシルシルりんが、意を決したように顔を上げる。


「あのっ」


 何だろう。


「私っ、コタタマりんを見つけ出せるかもしれない方法に心当たりがあるんです」


 ……何だって? そんなものある訳……いや、ラッキーだ。シルシルりんは思ったよりも観察眼が鋭い。俺が自覚していないような俺の癖も把握していた。シルシルりんが他にも何か知っているというなら、この場で聞き出しておくべきだ。やっぱ日頃の行いだな。俺って天に愛されてるわ。

 だが焦るな。俺は自分に言い聞かせた。ここはワンクッション置いて……。


 しかしシルシルさん。仮にそんな方法があるとして、君は俺にそれを試そうとしなかった。それは何故?

 俺がそう尋ねると、シルシルりんは頬を赤くした。


「それは、その、コタタマりんのプライベートな問題と言いますか……。人目のあるところでは、あまり……」


 プライベートな? り、リアル情報とかか? 気を付けていたつもりでいたが……シルシルりんは一体俺の何を知っている? ま、マズいぞ。これは是が非でもここで聞き出しておかねば。

 俺は人目のないところにシルシルりんを連れ込んだ。

 どうだろう、シルシルさん。ここでなら話せるかな?

 シルシルりんはコクリと頷いた。よし……。


「あの、本当に秘密ですよ?」


 慎重だな。しかし、これはいよいよ信憑性が増してきた。

 俺は重々しく頷いた。もちろん口外しないと誓うよ。

 シルシルりんは緊張した様子でスカートの端をぎゅっと握る。


「……コタタマりんは、女の人の脚が大好きなんです」


 わーい。バレてた。


「ですから、こうして……」


 シルシルりんがそっとスカートを捲り上げて……。


 罠だ! 俺は全てを悟った。シルシルりんは俺を罠に掛けようとしている……!

 ここでシルシルりんの太ももを凝視したら特定される! いや男なら誰だって。ちょっとくらいなら。いやダメだ! いや、でも!

 俺は葛藤した。シルシルりんが色仕掛けを。こんなチャンスは二度と。

 そうだ。何を迷うことがある? 俺からセクハラを取ったら一体何が残るってんだ?

 正体を隠すなんてどうでもいいじゃないか。だからここで悩むべきは、もっと別のこと。

 ただ見るだけでいいのか? 否。断じて否である。今ここに俺の人生のハイライトが訪れようとしてる。シルシルりんの覚悟を無駄にするな。ここで終わってもいい。それくらいの覚悟で応えるんだっ。


 今! ここで進化しなかったら! いつ進化するっていうんだ!?

 全身っ全霊っ絞り尽くせ……!


(人間の身体には想像したものを目で見る機能が備わっている)


 ネフィリア……!


(プレイヤーの視点をどこに置くかでジャンルは決まる)


 先生……!


(ネフィリアの悪意と先生の知恵。二つが合わさったなら……)


 サトゥ氏……!


(愛はシンプルでいい。綺麗に飾って複雑化しても本質は決して手に入らない)


 アットム……!


 そうか、そうだったのか。進化の地平線が見える。

 俺からセクハラを取ったら? そうじゃない。

 俺がセクハラだ。俺たちがセクハラなんだ。

 ただ見るんじゃない。絡みつくように視るんだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 俺は血を吐くような絶叫を上げてシルシルりんの太ももを凝視した。

 視線は実体にあらず! もっと精神的で、もっと崇高な……! だったら俺は!

 俺の視線が進化していく。昇り竜!? いや触手だコレ! だがそれがいい!

 この時! まさしく俺の目はリアルを超えた……!

 シルシルりんの脚に俺の視線が絡み付く。ねっとりと……! どこまでも孤高で……気高く……!


「ひゃあっ!?」


 シルシルりんがしゃがみ込んで脚を隠した。

 俺は腰を直角に曲げて最敬礼した。礼儀を尽くそうと自然に思えた。

 目は……無事だ。痛くない。相性がいい。この目は俺に合ってる。触手になりたいと、ずっと思っていたから。


 これが、俺だけのオリジナル。

 名付く……

 セクハラの魔眼・北斎浮世絵……開眼ッッッ!




 これは、とあるVRMMOの物語。

 開眼されても。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
俺たちがセクハラ 複数形?ガムジェムとってことか?
だからモルボルなのかね
[一言] どこまでもコタタマ(ペタタマ)の主観(主眼?)で展開される物語。 だがそれがいい。
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