light
pixiv's Guidelines will be updated on March 18th, 2026.
View details
The Works "【番外編】 「あなたが食べてと言ったから」" includes tags such as "Fate/GrandOrder(腐)", "槍弓" and more.
【番外編】 「あなたが食べてと言ったから」/Novel by イヌダ

【番外編】 「あなたが食べてと言ったから」

9,421 character(s)18 mins

【通販のご案内&イベントお礼&小話】

★イベント当日アレコレ

・朝犬に噛まれてちょい遅く家を出ることに。可愛い馬鹿わんこめ……。
・9:30会場入り、ちゃんと本届いてた!
・10:20頃、設営終了、スペースは売り子の友達に任せて私は買物へ。
・11:00頃、自スペースへ万冊を両替(笑)しに行ったら売り子さんから「100円が無くなりそう!」との悲鳴が。慌てて自販機に行ってお茶を数本買って小銭作って戻る。
ドタバタしてたらお隣さん(ふぐさん)が「両替しましょうか?」と申し出て下さった。天使か!その後には「100円で本代持ってきますよー!」との女神さんまで現れた!!天使に女神が現れるなぞここはカルデアか!?お二方ホントにありがとうございました……。人情が目にしみた。
・↑のバタバタでご近所さんの本買いに行けず、残念ながら小説類数冊手に入れ損ねた…。ここらへんからイヌダが対応してました。赤い人です。
・12:00頃、新刊完売。ホントすんません……。
・あとはまったり。空いてくるとタンブラーお手にとってもらえること多くて嬉しかった。
・14:00撤収!ありがとうございました!!(礼)

反省点としては搬入数と両替ですね。
初ジャンルのイベントではアンケート結果はあんまり当てにしちゃならんのだなと実感。今までのジャンルだと通販数はアンケートがそう違いはなくて、搬入数も誤差があっても3割超えない程度でした。
ですが今回はアンケート結果の3倍(イベント2回分予定)と予部を入れれば4倍近く搬入してたんですよ。それでも完売なんて槍弓人気舐めてました。私なんぞ初ジャンル参加で無名なのでまったりしか来ないと思ってた。そういう初心者ほど搬入数間違うもんですね。それを見越した買物の猛者達が早めにいらしてくれたのかなと勝手に推測してます。

あとあと、午前中にいらした方で「読んでます!」と声をかけて下さった方が多かったらしい。すいません、全部売り子さんが対応してたそうです。コスプレした方もいらしたらしくて「すっごい綺麗な赤い人(友達はfate未履修)がいたよー」と自慢されてギリギリした。私もお話ししたかったよーー!!普段しこしこ書いてるだけで読んで貰えてる実感ないので非常に残念でした。次回は私が売り子してお買物を友達に任せます。ええ、絶対に!(ギリギリ)

※誤字のお詫び※
幸運値Eの初版のP107と108に「下僕」を「下オレ」になってる箇所が複数あります。一括置換したあとに誤字チェックで気付きませんでした。他にも数箇所見つけてしまいました。何回も見た筈なのに再録部分のが誤植多くて凹む。申し訳ありませんでした……。再販分のは修正してます。

1
white
horizontal

【本編完結後の小話です。本の内容が分らなくても読めるようになってます。】


 カルデア食堂にはメニュー表にはないスペシャルメニューがある。

 食堂の昼と夜のメニューは二種類以上が常に用意されている。食材を人数分揃えるのが難しいのと、皆同じにしては菜食主義や宗教上の理由で食べれない者がでるからだ。あとはその日の食材次第で増えていく。
 その他に、当番シェフによってメニューにない特別メニューが出されることもある。
 頼光の場合は息子への愛をふんだんに盛り込んだ金時スペシャル(肉、野菜、米、ともに昔話風のてんこ盛り仕様)が常だ。本人に贔屓の二文字はなく、ただただ当然のこととして行っているから周囲も何も言えない。
 ブーディカの場合はお手製のケーキを試食として数量限定でつけることがあり、女子達にレディーススペシャルと呼ばれている。
 タマモキャットの場合はある日突然丸秘メニューが出される。本人曰く「我が料理魂が爆発し生まれたのがこれだ。貴様は運がいいぞ!賞味する栄誉を与えよう!」と、強制的に食べさせられることがある。大体において好評だが偶に激辛や激甘に当たって涙目になる者もいる。
 子供達に対してはお子様ランチ仕様(エミヤ投影の特別仕様プレートに全ての食材が可愛らしく盛られ、ハンバーグやオムレツにはケチャップで動物模様が描かれ、最後に旗が立てられる)がデフォだ。これは各シェフ共通で、人によって和風やイタリアンや和洋折衷になる程度の違いである。可愛らしい子供達が可愛らしいプレートを食べている姿を眺めるのは皆の癒しとなっている。
 そして、一番スペシャルメニューが多いのが、アーチャー・エミヤである。
 試作品としてやけに手の込んだ品(丸一日煮込んで作られた魔猪バラ肉の角煮、フォン・ド・ドラゴンのシチュー、マンドラゴラのポトフ、など)が出されるときもあれば、ジャンクに挑戦した品(見かけは某ピエロ店のバーガーにそっくりだが微妙に上品に仕上がってしまったハンバーガー、ホットドッグを目指したのに野菜盛り盛りでサブ○ェイ風となったサンド)など、様々な品が毎回並ぶ。好評であれば後に正メニューに加わるけれど、今ひとつだった場合はそのままお蔵入りになってしまう。試作といっても美味くないはずがない。今後食べられるか分らないというプレミア感も手伝って、エミヤファンはすかさず注文するほどの人気だ。
 あとは子供達やマスター向けにメニューにはない特別な品を作ることもある。エミヤは基本的に誰にでも優しい優しいオカン体質なので特定の誰かを贔屓をすることはないが、子供とマスターだけは別なのである。それを非難する者など誰もいない。
 ただ、それとは真逆な、ある一定の条件化で出される特別メニューがある。
 ソレが出るのはランダムで、だが忘れた頃には出されるため、密かに楽しみにしている者もいるらしい。

 そして、そのスペシャルメニューデーに、立香とマシュはランチをしに食堂に向かった。

「……この香り、アレだね」
「……はい先輩、確実にアレかと思われます」

 某特別メニューが出される時は食堂に入ると一発で分る。そこはかとない刺激臭が食堂内を漂っているからだ。子供達が来た時のために足元には扇風機で風が上に行くよう配慮されている。
 立香はカウンターからエミヤに声をかけた。
「あー、エミヤ、今日は麻婆豆腐?」
「やあ、マスター。その通りだ。味はいつものでいいか?マシュも?」
「うん、お願い」
「お願いします」
 すぐ二人の前に美味しそうな麻婆豆腐とサラダと漬物とご飯、そして杏仁豆腐が出された。
「はい、召し上がれ」
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
 二人が受け取ったすぐあとにはカルデア職員のムニエルが並んでいた。
「やあムニエルくん、今日はどうする?前回はレベル4まで頑張ったんだったかな?」
「ええ!今日はその上、レベル5の叫喚地獄に挑戦します!!」
「了解だ。……そら叫喚地獄だ。気をつけて食べたまえ。杏仁豆腐はお代わり自由だ。アイスもある。ツラくなったら遠慮なくとりに来るがいい」
「ありがとう!」
 そう言ってムニエル氏が受け取ったのは赤黒い麻婆豆腐である。これは辛さレベルが全9段階あるうちの5番目だ。かなり、辛い。少々M気のある彼はレベル3から少しずつ上を目指しているらしい。
 麻婆豆腐が出される日は辛さのレベルが選べるようになっている。レベルは9段階あり、以下の通りだ。

 レベル1:現世(無辛)
 レベル2:等活地獄(ちょい辛)
 レベル3:黒縄地獄(中辛)
 レベル4:衆合地獄(大辛)
 レベル5:叫喚地獄(特辛)
 レベル6:大叫喚地獄(特大辛)
 レベル7:焦熱地獄(痛辛)
 レベル8:大焦熱地獄(大痛辛)
 レベル9:阿鼻地獄(昇天辛)

 最初は5段階程度だったのだが、とある事情と辛い物マニアの希望によりどんどん増え、最後は9段階になってしまった。その後8大地獄になぞらえて命名されるようになった。名付けたのは酒呑童子である。酒を嗜むせいかごくごく辛党な彼女はレベル9まで食す事が可能だ。人間でこの域に達した者はまだいない。サーヴァントでも通常の味覚をしている者でもかなりどころか目茶苦茶ツライ。レベル7で「口の中に『五行山・釈迦如来掌』を受けたみてぇ……(舌と粘膜に蹴りと掌底の連打を食らい、飲み込むと覚者掌底の一撃のごとく胃にダメージを食らう)』と例えたのは誰だったか……。
 とはいえ、元々はとても美味しい麻婆豆腐である。豆腐はフルフルと柔らかく、ソースはトロトロ、唐辛子と山椒が食欲をそそる一品である。フルフルと柔らかい豆腐は炒める際にくずれることを防ぐため軽く塩茹でされているので、柔らかいのに煮崩れしていない。豚の挽肉入りだが菜食主義者用に大豆で作られた精進肉バージョンも用意されている。
 口に入れると四川風の花椒粉の痺れるような辛味が広がる。ただ辛いわけではなく痺れる辛さで大人の味である。レベル2以降は花椒粉の量が倍となっていく。花椒は唐辛子より深刻なダメージを食らうので注意が必要だ。それなのに癖になりレベル3や4へ挑戦する者も多い。
 本来はレベル4以上の激辛麻婆豆腐などオカン気質の健康嗜好なエミヤが作る料理ではない。
 これはある特定の人物に食べさせるための料理だった。
 その人物は辛い物が好きなわけではない。
 いわゆるお仕置き的な”逆贔屓”スペシャルメニューなのだ。
 その該当人物が訪れた時は一瞬食堂が静まりかえる。
 この日も例外ではなかった。

 ランサーのクー・フーリンが食堂に姿を見せた際、一瞬ざわつくがすぐ静まりかえり、周囲は固唾を飲んでその動向を見守った。
 ランサーは居心地の悪さを感じつつも、カウンターへ乗り出しエミヤに声をかけた。
「よお……」
「よくきたな」
 決まり悪げなランサーの顔に対して、エミヤは春風のような笑顔を見せた。何も知らない者が見たら機嫌が良いと勘違いするかもしれない。だが普段仏頂面の多いエミヤがそんな笑顔を見せることはまずない。よく知る者からすれば目が笑ってないことに一発で気付く。
(あかん、こりゃあかん顔だ……!)
 エミヤの顔が見れた者は皆同じことを思った。立香は背筋がぞぞっと凍った。
 その笑顔のままエミヤはランサーに向かって挑戦的に言った。
「食べるかね?」
「……頼む」
 ランサーは覚悟を決めたように答えた。
 そして出されたのは……。
「うッ……」
 受け取ったランサーはトレイから立ち上る刺激臭に一瞬目を背けた。
 トレイに置かれたのは一人用土鍋だった。蓋は開かれていない。なのに、刺激臭で目をやられそうになった。
(……これは今までにないレベルか?)
 ランサーはごくりと生唾を飲み込んだ。
「降参するかね」
「するかたわけ」
 エミヤが挑発するように片眉を上げて聞くのに対し、ランサーはんべっと舌を出して答えた。そのままトレイを抱え、人のいないカウンター近くの席に陣取る。
 一旦着席して息を整える。そして、覚悟を決めて蓋を開けた。
「グゥッ!!!!」 
 鍋から立ち上る刺激臭に目をやられ、ランサーは声を殺せず呻いてしまった。
 温められた刺激臭が通り過ぎるの待って鍋の中身に目を向けると、そこには白い豆腐を赤く染め、花椒粉と辛子の赤い油がぐらぐらと煮立っていた。その色は今までに見たことがないほど赤黒い。唐辛子と花椒粉がこれでもかと入っている。地獄の池のような禍々しさだ。
(こりゃヤベェな……)
 中身を見たランサーは刺激臭を浴びた顔が火照りながらも、これからの戦いの厳しさに背筋に冷や汗が流れた。
(こ、これは……レベル8か?今までにないレベルだぞ?一体兄貴何をやったのさーーー!)
 と立香が心の中で叫ぶ。見ていた周囲の者も全く同じ意見だ。

 エミヤだけが余裕の表情でランサーを睨んでいた。
 以前ランサーとの痴話喧嘩?で苛立ち、それがメニュー選びに出てしまったことがある。それを指摘されて反省したエミヤは気をつけるようになった。とはいえ、苛々したまま料理するのは食材に対して失礼だし、僅かに角のある味になりやすい。それならば、当の本人にぶつけられるメニューにすればいいと開き直った。
 それで思いついたのが辛さ選択式の麻婆豆腐である。
 ランサーにだけは選択を許さず、自分のイライラ加減でつけた味付けを食べさせる。その様子を見て溜飲を下げることにしたのだ。
 一応「食べるか?」と選ばせはする。その結果残ったら自分で食べるつもりだ。
 もし「食べない」と言ったら二度と閨は共にするまいと内心決めていたのを知ってか知らずか、今のところ断られたことはない。
(さあ、今日は初レベルの8、大焦熱地獄だ。どこまで耐えられるかな?)
 口元を歪めながらランサーの動向を眺めた。

 ランサーは一瞬エミヤを見やった。
 『愉悦、愉悦』と言いそうな顔にキャラ違うだろうと内心で悪態を付きつつも、これは自分が受けるべき罰だと覚悟を決める。
 鍋に向き直り、ランサーは覚悟を決めてレンゲを手に取る。レンゲ一杯に掬い、口の中にほおりこんだ。咀嚼し、ゴクリと飲み込む。
「!!!!!!!!!!」
 噴出しそうになるのを手で押さえて堪えた。豆腐の柔らかさ、肉と油の旨味、が分るのは一瞬だけだった。飲み込んだ途端、恐ろしいばかりの辛さが舌と口内粘膜と食道から胃袋まで襲った。もうこのレベルは辛さではない、痛みだ。しかも小鍋で熱されているので熱い。熱くて痛いしか感じない。
(これは口の中に『紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)』ぶっぱなされた感じだな……)
 例えたのはEXレベルの特攻宝具、大聖杯を破壊できるほどのレベルだ。味覚を「打ち砕くべき敵」として認識されたほどの破壊力だ。もはや味覚は破壊され、熱さと痛さしか感じない。体の中から炎で焼かれた気分である。一口食べただけで汗がどくどくと流れだした。痛さと熱さで気が遠くなるレベルだが、このまま気を失うわけにはいかない。
 しかも、二口目を躊躇して時間をかけるとよりツラくなるのを経験上知っている。
 ランサーは一気呵成にガツガツと麻婆豆腐を掻きこみはじめた。
 周囲からは「おおお……」とどよめいた声が聞こえたが既にランサーには聞こえていない。
(無だ。無になるんだ……)
 熱いと感じていたら手が止まる。
 なら熱いと感じなければいい。
 痛いと感じていたら手が止まる。
 なら痛いと感じなければいい。
 ランサーは己に言い聞かせながら手を動かし、咀嚼し、飲み込み続けた。
 この麻婆豆腐が出される切欠となった昨日の出来事を思い出しながら……。


 * * *


 昨夜、ランサーはいつものごとくエミヤの部屋に押し掛けていた。

 色事に対して消極的な弓兵を閨に誘うのはコツがいる。
 翌日にガッツリと用事があり本気で駄目な時は夫婦剣が出され、ちょっと用事がある時は皮肉のオンパレード、特に用事も無い日はちょっとした憎まれ口を叩かれる。
 昨日は皮肉のオンパレードで翌日にちょっとした約束があったらしい。こういう日は宥めすかしたり煽ったりしてベッドになだれ込めば一回くらいは付きあってくれる。そういう駆け引きが醍醐味の日だ。
 日によってアプローチの仕方を変えるのは少しだけ釣りと似ている。今のところ喜んで釣られてくれた日が無いのも釣りと一緒だ。
 そんないつものやり取りをしている時に、弓兵がぼそりと文句を言った。

「大体だな、何故私がいつも下なのだ」
 
 押し倒された体勢で眉間に皺を寄せながら言うもんだから驚いた。
 ランサーは体を起こしてエミヤを開放し、ちゃんと向かい合って話をすることにした。お互い立派なオス同士だ。こういう話はうやむやにしないほうがいい。
「お前、オレのこと抱きてぇのか?」
 聞くと、エミヤは目を瞬かせ視線をあちこち彷徨わせたあと、「……いや」と小さく首を振った。
 その返事に些かガッカリした。
 いつも『面倒くさい』という態度を崩さないコイツに『抱きたい』と思うほどの欲求があるのかと一瞬期待したのだ。女相手ならいくらでも色男になれる男だ。こうして女役にまわり続けるのに不満があってもおかしかない。実際抱かれるかどうかは別にして、積極的になってくれるのは大歓迎だ。
(こういうのはヤリタイ方が動くもんだからな)
 いつも自分が率先して動くだけでこいつから求められることはない。それが寂しくないと言えば嘘だ。熱烈に求められるなら一度くらい応じてやるのも悪くないとさえ思う。
 でもそうではないという。
「じゃあ何なんだよ」
「いや、現状に不満があるわけではない」
「でも何か思うところがあんだろ?」
 ほらゲロっちまえよと促すと、逡巡しながら口を開いた。
「その、抱きたいとは思わないが……」
「が?」
「君に触れたい、とは思っている」
「……」
「いつも嵐のごとく激しくていつも私から動く隙がない。私はもっとこう穏やかな触れ合いが望ましくてだな……」
 言ったそばから恥ずかしくなったのか最後は目をそらした。こちらに向けられた耳が若干赤くなっている。因みにオレの耳も頬も赤い。自分の方が目立つほど赤くなってどうするよ。褐色の肌ずるい。
(ホンットに不意打ちが好きなヤツだよなぁああああ!)
 はぁ~~っと溜息をついたあと、エミヤの手を握った。指を絡める恋人繋ぎだ。びくりと腕が震えた。肌を重ねる夜を十は過ごしたはずなのに、いつまでたっても初心な反応を見せる。それが面倒に感じる時もあるが、こうして煽られる時の方が多い。
「好きなだけ触れればいいだろ」
「う……」
「ほれ」
 エミヤの手を握りながら後ろ向きに倒れこむ。自然と引っ張られエミヤも倒れこむ。先ほどとは逆の体勢だ。今度は自分が組み敷かれる構図となった。
 握ったままの手に頬を寄せてちゅっと可愛らしい音をたてたキスをしてやる。さあどうだと見上げてやると、まんまるに見開いた鉛色と目が合った。
 その眼がふと柔らかく緩んだと思ったら、上から唇が落ちてきた。
「ん……」
 優しい唇の感触。ノックをするように舌を差し込まれ、撫でるように舌を絡められた。どこまでも優しい、お手本のような紳士的なキスだ。
(お、おお……)
 エミヤは事の最中に朦朧としながらする以外、普段滅多に自分からキスはしない。たま~にキザったらしいことを言いながらすることがあるくらいだ。
 今みたいに自主的に、エミヤらしい奥ゆかしい仕草でされることは数えるほどしかない。
 唇からはなれ、頬、目元、額へと啄むようにキスをされると、むず痒くて胸が詰まる。
(あ~~下半身にクルぜ……)
 胸が詰まるとそこから血が逆流して下半身にくるのではないだろうか。このままだと少々キツイ。
 そんなランサーの下事情など露知らず、エミヤは一通りキスして満足したのか、身を起こして腕を伸ばしてきた。
 頬を撫でられ、髪を解かれた。枕に青い髪が散らばる。その一房を掬い恭しい仕草で唇を落とした。何故か自分にキスされるより恥ずかしい。
(そんな髪ごときに愛おしそうにキスすんじゃねーよ!!)
 何か髪の一本一本まで愛されてるような錯覚を覚える仕草だった。自分の欲求は滅多に口にしない。その代わり、目で、仕草で、能弁に語りかけてくるのだ。大事にしたいと、愛しいと。そのことに本人は自覚しているのだろうか。
(あ~~もう、お前!オレのことすっごい好きだろ!!知ってるけど!知ってたけど!)
 顔を覆ってごろんごろんしたい衝動に駆られる。だが片手を恋人繋ぎしたままの状況ではそれもできない。ただただ顔が熱い。
 ふと、エミヤがこちらを見た。
「顔が赤いぞ」
「誰のせいだ」
「私のせいだな」
 ふふふ、と猫が喉を鳴らすように笑った。
「うん、たまにはこういうのもいいな」
 そう言って、花が綻ぶように微笑んだ顔がたまらなかった。
(あ、もう無理)
 心臓打ちぬかれたら理性は死ぬしかない。

「わりぃ」

 一応断わってから、腹筋で起き上がり、エミヤの顔を掴んで引き寄せた。
「んんッ!」
 舌を捩じ込み息を奪うように吸いついてやった。
 エミヤのせいで胸が詰まった分、エミヤから空気を分けてもらうのだ。遠慮なしに吸いついてやった。十分に奪ってやった頃にはエミヤも酸欠で力を抜いているので、そのまま押し倒して理性が蘇生するまで付き合ってもらった。
 三回?いや四回くらいしただろうか?あまりおぼえていない。
 朝になったらエミヤは「地獄に落ちろ!」とのセリフを残して部屋から去っていった。


 * * *


 そして、今まさに地獄にいる。

 体の内も外も熱い。汗が滝のように噴出し続けているが一向に冷めない。それ以上に体から熱が放出しているからだ。まさに灼熱地獄にいるかのごとくだ。
 あと四分の一程度残したところでランサーの手が止まってしまった。
(水飲みてぇ……)
 我慢していた水も飲みきってしまった。このままでは脱水症状を起こしてしまうかもしれない。だが新たに水を汲みにいくのもツライ。誰かに頼むにしても口を開いて空気を吸うのも話すのもツライ。どうしようか迷いつつも思考が停止してしまう。

 そんな時、目の前に水の入ったコップが置かれた。

 ランサーは飛びついて水を貪るように飲み干した。
 飲んだ後で、水を置いた相手を見る。いつの間にか、目の前に水のピッチャー片手に赤い弓兵が座っていた。
「お代わりはいるかね」
 こくりと頷くと再び水が注がれた。再び貪るように飲み干す。それを二回ほど繰り返すと、未だに口も体も大火事だが地獄からは生還した。
「ギブアップするか?」
 それにはぶんぶんと首を振って答えた。ここまで来てギブアップするなど考えられない。
 第一、これはオレに与えられた罰だ。甘んじて受ける義務がある。
 オレの勝手を許してくれるエミヤに対する詫びでもある。
 謝罪の言葉は言えない。言ってしまったら二度と昨日のようなことは出来ない。
 夜を共に過ごすようになってからまだ日は浅い。まだまだ落ち着く気配を見せない自分はきっとまた同じことを繰り返すだろう。なら行動で詫びるしかない。
 それに……
(何か知らねぇけど、コレ食べてる時嬉しそうなんだよなぁ……)
 こいつオレ限定でSッ気あるよなと思いながら再びレンゲを持ち上げる。
 喜んでくれるならと、地獄の麻婆を口に放り込んだ。

 エミヤはランサーの様子を目の前で眺めていた。
 昨日駄犬が暴走したお陰で寝過ごしてしまった。朝食の当番をブーディカに任せてしまい、かつ子供達と約束してたベリーを摘みに行く約束に少しだけ遅れてしまった。
(いつもいつも好き勝手しおって……)
 ランサーが主体的に動くのはいい。だがこちらの都合を無視して好き勝手されるのは困る。同じ男なので暴走してしまう気持ちは分るが、毎回許してやるほど都合の良い相手と思われるのは癪だ。
 その鬱憤がたまり爆発した時に麻婆豆腐を出すことでガス抜きをする。
 だがその目的は、ランサーに辛いものを食べさせてツライ思いをさせ、溜飲を下げることではない。
 実は、ランサーの食べる様を鑑賞するのが本当の目的である。
 だから、中盤以降になると目の前に座って間近で鑑賞する。
 この美しい顔が辛さで歪み、熱さで赤く火照る様を十二分に堪能する。
(うむ、可愛い……)
 この時の顔は閨の中で見せる顔に少し似ている。終わりに近づいている時に見せる顔だ。汗だくになって火照り、快楽に耐える顔だ。たまらなくセクシーだと思う。
 いつもは自分も朦朧としているので堪能することが出来ない。なのでこういうときに存分に堪能させてもらい、自分の堪忍袋の容量大きくしてくれるランサー指数を貯めておくのだ。
 無事に完食しそうなので、冷凍室から辛さを和らげるラッシーで作ったアイスをランサーの目の前に置いてやる。目が輝いた。その顔も可愛いと思う。
(我ながら甘いな)
 分っていても、その次をまた許してしまうだろう自分に苦笑した。


 * * *


 二人の様子を立香はハラハラしながら見ていた。

「……ねぇ、いくらサーヴァントとはいえ体に悪いんじゃない?人だったら確実にお腹壊すよ?トイレ直行レベルだと思うんだよね」
 立香の心配交じりの疑問に答えたのがいつの間にか来ていたキャスターのクー・フーリンだった。彼はレベル3を美味そうに食べていた。
「その心配はいらねぇぜ。一度試しに少しだけレベル7食ったことあるけど平気だった」
「そうなの?」
「えっれぇ辛いがそれだけだ。胃の腑が焼けることもない。何でか聞いたら、レベル5以降は聖晶石の欠片がすりおろされてんだと」
「は?何ソレ」
「内臓にダメージ食らっても聖晶石ですぐ癒える。死ぬほど辛いのに食えるのはそのせいだ。口の中が痛ぇくらい辛いのに何か美味いって後味すらする。さすが弓兵だと思ったね」
「エミヤ……」
 お仕置きしながら手当てもして尚且つ美味しくするなんてどんだけだよ……というかオレが渡した石そういうことに使うの勘弁してよ……と、立香の胸に様々な思いが飛来した。
「ありゃあいつらの一種のプレイだ。心配なんぞするだけ損さね」
 そう言って、キャスターは自分の中辛麻婆豆腐を美味しそうに頬張った。

「おお、完食したぞ……」
「生きてる。さすがランサーだ」
「しぶといなぁ。さすがだ」

 小さな歓声が上がったので二人を見ると、エミヤが完食して机にへばってるランサーの頭をくしゃくしゃに撫でていた。分りにくいがご満悦な表情だ。ランサーの前にはアイスも置かれている。
 
((((あっま……)))

 視界の獄辛地獄が一気に甘味地獄に変わっていた。

 皆内心で『ゴチソウサマ』とつぶやいたそうな……(合掌)。


Comments

  • p13
    May 1, 2022
  • 如月
    April 9, 2021
  • 哉太
    February 3, 2019
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags