「生成AIモデルの学習は複製と同じである」説はトンデモか?(続き^2):日本の場合はどうなるか?
前回、および、前々回の記事では、LLMにおいて「メモライゼーション」が起きている場合はモデルの訓練だけでも複製であるというミュンヘン地裁の考え方を紹介しました。世界にはこういう考え方をする司法もあるという点では興味深いですが、もちろん、日本での裁判に直接的に影響するわけではありません。
一応の締めくくりとして、日本においてLLMの「メモライゼーション」がどう扱われるかについて考察します。あくまでも個人的な考察です。
大前提として、機械学習モデルの訓練に関しては、世界的に見て日本の法制度はかなり緩い(許諾なしで訓練に使える範囲が広い)です。基本的にはこの問題は2019年施行の著作権法改正で新設された30条の4で扱われます。
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
(訓練の元となった)著作物の享受目的でなければ、(かつ、必要と認められる限度内で、著作権者の権利を不当に害しないのであれば)著作物は自由に利用できます(情報解析は例示であって、複製であってもできます)。したがって、仮に、裁判において「この機械学習モデルではメモライゼーションが起きているので、その訓練は情報解析ではなくて複製である」という判断が出たところで、30条の4が適用される限りどっちにしろ許諾不要なので、そもそもこの点で争う意義が薄いです。
ドイツの(というかEU諸国の)著作権法は、TDM(Text and Data Mining)なので著作権を制限するという既定振りになっているので、情報解析(≒TDM)なのか複製なのかの判断は重要なのですが、日本の著作権法は、より広く享受目的があるかどうかで判断するので情報解析だろうが複製だろうが結論は同じになってしまいます。
この点が問題になる可能性として思いつくのは、享受目的が認められて30条の4不適用になった場合で、この訓練は複製なのか情報解析なのかという議論になることくらいでしょうか?たとえば、訓練の前準備でデータを複製する主体と実際にモデルの訓練を行う主体が異なる場合等には原理的には争う意味があるかもしれません。重箱の隅のような話ではありますが。
ところで、30条の4の読み方として未だに誤解が見られるようですが、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」の「当該」が重要で、たとえば、ポケモンの画像を学習したモデルを使って、ピカチュウが出てくる動画を作って楽しませることが目的なのであれば享受目的とされますが、ポケモンとは類似しないキャラが生成されてそれをユーザーが楽しむだけであれば、当該著作物(=ポケモン)の享受目的ではありませんので30条の4は適用となります。
ここで、享受目的ではないにもかかわらず、「メモライゼーション」によってたまたま訓練データに含まれる著作物と似たものが生成された場合にはどうなるかという点も気になります。ユーザーが享受しているだけでは不充分で、サービス提供者側に享受させる目的があることが必要と考えられます。文化庁の「AI と著作権に関する考え方について」では、意図的に過学習させて訓練データ内の著作物と類似する著作物を生成させる場合には享受目的ありとされる可能性ありとしているので、その反対解釈として意図的でなければ問題ないようにも思えますが、裁判ではどうなるかは何とも言えません(ただし書きの「著作権者の利益を不当に害する」との関連もあるでしょう)。
ちなみに、ミュンヘン地裁の裁判では、OpenAIは、「訓練データ中の歌詞がそのまま出力されてるのは本来の動作ではない、意図しないものである」点を主張したようですが、それは棄却されたようです。「複製は複製」ということです。ちょっと厳しいですね。