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生産技術者が「手に職をつけろ」から考えること

はじめに

最近、「手に職を身につけろ」という煽り文句をよく見みます。 若手に向けた話だけではなく、30代の中堅層にまで拡張されている印象です。 組織の看板に依存せず、自分自身の武器としての技術を持つ。 その考え方自体は理解できます。 ただ、どうしても違和感が残ります。 技術を磨くことは大事。 技術者の説得力は、基礎をベースとした経験に裏付けされた知見によって身につくものだからです。 しかし、「技術さえあればいい」という空気には、どこか危うさがあります。 この違和感について少し考えてみました。

目次

  1. 立場の選択に期限はあるのか
  2. 技術は再現を生むが、組織は不確実を抱える
  3. 生産技術は専門特化では成立しない
  4. 守りではなく、攻めの全方位
  5. 適用という力
  6. 生産技術の終着点
  7. 終わりに

1. 立場の選択に期限はあるのか

プレイヤーとして、実務をこなし手に職をつけることに、年齢の上限はないと考えます。 最前線で働いてる50代や60代のシニアの方を見ていると、プレイヤーに戻ることはそこまでハードルが高くなく、むしろ、マネジメント経験を通して次の3つを理解している分、単なるプレイヤーとはまた異なる立場で活躍してる人が多い印象です。 ・意思決定の構造 ・責任の所在 ・不確実性の扱い

一方で、マネジメントには、時間的な機会が明確にあると感じています。 組織に身を置いている中での肌感ですが、 組織の中でまともに機能するマネジメント能力は、 ある程度若いうちに経験しなければ身につきにくいのではないでしょうか。 生技は多くの関係者と会話しますが、閾値としては30半ばすぎたあたりで、考え方の意識が固定されてしまうように感じます。 意思決定に触れず、責任を持たず、ただ技術を深め続ける選択は、あとから取り返しにくい、見えない問題でもあるとかんじます。
だから30代というフェーズはとても重要であると思っています。 マネジメントとは、何もマネージャーでないとできないわけではありません。
リーダー、後輩指導、主担当としての個人のある程度の裁量に任せられた中での周囲の巻き込み方。
技術だけでなく、組織運営に触れることを意識し、その割合を増やしていく。 判断し、不確定要素に結論を出し、その結果を引き受ける経験をすること。 これは肩書きというよりも、立場に応じて、いかにその機会を自分で構築していくかという組織構造的な立ち回りかと思います。

2.技術は再現を生むが、組織は不確実を抱える

技術は再現性を高める力です。 条件が揃えば、同じ結果を出せるため、 原理原則に基づいた理論が重要な理由でもあります。 しかし、組織に再現性は基本的にはありません。 市場の動向が変わる。 人が変わる。 コスト構造が変わる。 方針が変わる。 組織、そして生産の現場は、常に不確実性の中にあります。 昨日の最適解は今日の悪手である場合も少なくないわけです。 その中で必要になることは、単なる技術力ではありません。 一つに  前述した『不確定な要素に結論を出し、責任を引き受けること』です。 責任を引き受ける人間が減れば、組織はゆるやかに弱くなります。 これは、私が身をもって経験したことでもあります。
人が1番成長する瞬間がどこかというと、責任を取る時です。 ここでいう責任とは、自身の責務を果たすとして使っていて、何がなんでもやり遂げるといったニュアンスとなります。
責任を取れる機会に恵まれるのは、常に背景に近いところにいる必要があるわけです。

3. 生産技術は専門特化では成立しない

生産技術は単一の専門職ではありません。 安全、品質、タクト、投資回収、人材構造、専門技術そして将来拡張性など。 どれか一つを突き詰めれば、どこかが歪みます。 例えば、自動化率を高めれば、 初期投資は膨らみ、変動対応力は落ちます。 逆に柔軟性を優先すれば、タクトや原価の成立性に跳ね返る。 生技は全方位戦略を取ります 局所最適の積み上げでは成立しわけです。 しかし、綺麗なレーダーチャートを目指すわけでもなく、やはりその時々に応じたテーマを軸として、尖らせるという判断があります。
ここでもやはり『不確定な要素に結論を出し、責任を引き受けること』という意思統一が必要となります。

3. 守りではなく、攻めの全方位

全方位というと、守りに聞こえるかもしれません。 ただ、よくよく考えると、技術的なノウハウとはどこにあるかというと、背反を突破することと考えます。 単一条件の達成とは、非常に楽であることは、ある程度経験を積むと、非常に楽であると感じます。 作業量が多いと大変であると条件達成自体が大変であると錯覚してしまうだけです。
そして、基本、背反とは時間軸的に横並びを指しますが
組織における背反とは時間軸においても発生します。 過去の実績を読み取り、今の制約条件を踏まえ、 未来の変動を織り込む。
例えば、 将来モデル切替を見越して治具構成を決める。 人材構成が変わっても回る工程にする。 需要が揺れても破綻しない変換余裕を残す。 条件における背反と時間における背反。 設備一つといえど単なる物ではありません。 組織の思想と覚悟の塊です。

4. 適用という力

とは言っても、技術を持つことは必要です。 学ぶべき技術が何かを全ての人が考え探し、苦労しているのだと思います。
私が一つ考えを出せるとしたら、 技術は再現性であると述べましたが、 そに先に『適用すること』があると考えます。 例えば、過去の成功事例を模して実現するのは再現に他なりません。 リピートとは一見、簡単に思われやすいですが、実現するまでの技術を同等に有していることが前提にあります。
一方で、過去の成功事例を模して、今の流行技術と互換性を持って実現する。 これも一見、簡単と思われやすいですが、全くの別物です。 この実現に必要なのは、本質を抽象化し、状況に合わせて再設計し、再実装する。 つまり、一度要素に分解して再構築する必要があるわけです。 場合によっては、ゼロから作るよりもはるかに難しいです。
再現に必要な技術に加えて、適用に必要な技術という分野はとても見えにくく、気づきにくいからか、軽視されがちなところであると感じます。 適用できない技術は、再現止まりで終わります。 展示品と同じですね。

5. 生産技術の終着点

これまで述べたことを成長にロードマップ的にまとめてみます。
技術の再現性の取得、 条件における背反の突破、 時間軸における背反の突破、 技術の適用性の取得、 そして、不確定な要素に結論を出し、責任を引き受ける 冒頭の「手に職を身につけろ」とはどこまでを指すのか、 使われている文脈では、だいたい2番目までです。
若手は、まず基礎を学ぶ。 自分に関係する技術を再現し、条件における背反を少しても解消し突破する。それがまず求められていることだと思います。 だけど中堅は、その先が求められます。 そして、その機会を得るためには、背景の近くにいてマネジメントを介して意思決定を理解し、不確実性を引き受ける経験を積むことが必要です。 その上でプレイヤーに戻る。 そのとき初めて、思想を実装できる技術者になると考えます。 技術を極めるか。組織を理解するか。 どちらかではないはずで、技術を逃げとして考えていないか、 そこが私のなかでの違和感の正体だったかもしれません。 工程の思想を読み取り、意思決定構造を踏まえ、 過去・今・未来を繋ぎ、それを設備という形で適用する。 生産技術の終着点の一つであると考えます。

6.終わりに

最近、そろそろ定年で退職されるかたと飲みにいく機会がありました。 親世代を見ていると、定年=余生を過ごすという価値観な気がしてましたが、その方を含め?定年後は個人としては新しいことにチャレンジしていく人が私の周りには多いです。
そんな方々の言うことに共通しているのは、『今を全力で取り組める環境に身を置く』に勝るものはないでした。
私の中でも、とてもしっくりくる言葉です。
巷では、転職の賞味期限や市場価値について述べられていますがそれが環境を得るものでなく、目先の技術にとらわれてないかと言うのは常に気をつける部分であるなと改めて感じた次第です。
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