「生成AIモデルの学習は複製と同じである」説はトンデモか?
ネット上における生成AIに関する議論で、いわゆる「反AI派」から「生成AIモデルの学習(訓練)は実質的に複製なので許可なく行えば著作権侵害である」といった主張がされることがあります。多くの場合、この主張は、「モデルの学習は訓練データ内の統計的情報を取得しているだけであり複製とは異なる(そして、日本の著作権法では情報解析を目的とした著作物の利用は非享受目的等の諸条件を満足すれば許諾不要)」ということで一蹴されることがほとんどです。
確かに、学習によって、訓練データのパーツがあたかもモザイクのようにモデル内に取り込まれているという理解は正しくありません。もしだとしたら総容量数百TB級の学習データが数十GB級のモデルに集約されることの説明がつきません。ということで、「モデル学習は統計的情報を取得しているだけであり複製とは異なる」というのは正しいのですが、これは生成AIモデルが本来あるべき動作をしているという前提での話であることに注意が必要です。
実際には、「統計的情報を取得」では説明ができない形で、出力データに訓練データの一部がそのまま含まれてしまうことがあります。これが、「メモライゼーション」という現象です。現時点で、英語版WikipediaのLLMの記事のサブ項目に記載があります(現時点では対応する日本語記事に同項目はありません)。本来起きてはならない現象ですが、完全に解消することは技術的に困難のようです。
昨年ご紹介した、ChatGPTによる著作権侵害を認定したドイツのミュンヘン地裁の判決文でもまさにメモライゼーションが問題とされています(参照記事(英文))。ドイツの音楽著作権管理団体GEMAが歌詞データの著作権を侵害しているとしてOpenAIを訴えた件です。この事件では、ChatGPTが偶然の一致では説明できないレベルで学習データに含まれていた既存楽曲と一致する歌詞を出力したとのことです。
生成AIが(偶然の一致を超えたレベルで)他人の著作物に類似した著作物を生成することにより、著作権侵害になることに異論のある人は少ないでしょう(これは、ドイツでも日本でも米国でも同じです)。問題はそのようなアウトプットを生み出した学習行為が遡って単独で著作権侵害になり得るかという点です。
日本の著作権法30条の4と同様に、ドイツ(というかEU諸国の)著作権法にも、統計情報の取得(TDM: Text and Data Mining)の利用では著作権を制限するという規定があります(ただし、非営利の行為に限る等、日本ほど緩くはないです)が、ミュンヘン地裁はそもそも簡単なプロンプトで訓練データを再現可能な「メモライゼーション」が起きている時点で、これは学習(統計情報の取得)ではなく、複製であり、ゆえにTDMの権利制限規定は適用されないと判断しました。もちろん、日本の裁判所はドイツの裁判所の意見には拘束されませんが、少なくとも世界にはそのような考え方をする司法もあるということです。
ちなみに、米国で進行中の、漫画家のSarah Ansersenらを原告としてStability AIを被告とする訴訟でも、この「モデルの学習は(圧縮を伴う)複製である」説が争点として残っています。
長くなりそうなので続きます。