【翻訳記事】MTG30周年記念セット販売をめぐる訴訟問題
MTG 30周年記念セット販売をめぐる訴訟
#はじめに。
今回のお話はMTGの製造元である、
ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社(以下WotC)と、
その親会社であるハズブロのお話です。
記事概要としましては、
ハズブロの株主が同社と取締役陣を相手取り、
マジック:ザ・ギャザリング(以下MTG)の運営に関する訴訟を提起しました。
この記事はネットに上がっていた情報を和訳し、
日本人にわかりやすくするためのものです。
和訳のミスが多少あり、
それによる情報の間違いなどありましたら、
ご指摘くださると幸いです。
本文は「※注」と書かれた部分は私の注意書きとして書きます。
それ以外は基本は翻訳記事だと思って下さい。
後半では私独自の意見も多少書きます。
#訴訟の背景
まず、訴訟の基礎部分からです。
原告:株主のジョセフ・クロコノとウルタン・マグローン
被告:ハズブロCEOクリスチャン・コックス及び複数の取締役、ハズブロ社
訴訟内容:受託者責任違反、不当利得、企業資産の浪費、重大な経営不全、支配権の濫用、証券取引法違反
となっております。
訴訟の主な論点は、
・カードセットの過剰印刷による既存セットの価値低下。
・30周年記念セットの販売中止に関する投資家への情報開示について。
この2点が大きな問題となっています。
この点を掘り下げて行きましょう。
#主な問題点
1. カードセットの過剰印刷
WotCはここ数年かつてないほど多くのセットをリリースしています。
2020年には過去最多のセット数を発表し、
WotC部門の収益は2018年から2021年の間に倍増しました。
2022年には2016年の5倍以上のMTGセットをリリースしています。
訴訟では39種のセットが2022年にリリースされたと主張しています。この39種にはシークレットレイアーが含まれていると思われます。
(※注:このシークレットレイアーのカウントの仕方では39を超えます。
ノーマル版とFOIL版などを別物とした場合、
数はさらに増える事になります。)
いずれにせよ、
2026年のユニバースビヨンドコラボの数に不満を持つプレイヤーなら誰でも知っているように、
新商品のリリース数は確実に増加の一途を辿っています。
株主の主張によればこのリリース数は消費者の需要を確実に超えており、
ハズブロの経営陣は他部門の赤字を補填するため、
速攻の現金獲得手段として、
これだけ多くのセットをリリースしているとのことです。
2. 「パラシュート戦略」
訴訟ではハズブロ経営陣が
「パラシュート戦略」
と呼ばれる手法を使用していたと主張しています。
これはハズブロの他部門で赤字が発生した際に、
新しいMTGセットを緊急投入する醜悪な集金戦略です。
当初これらの"パラシュートセット"は主に再録カードで構成され、
製造コストが低い「マスターズセット」でした。
しかしこのパラシュート戦略が拡大するにつれ、
シークレットレイアーの多数のコラボや、
コマンダーレジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦いなど、
より多くのセットがパラシュート戦略の一員となりました。
訴訟によれば、
「2021年9月から2023年10月の関連期間における、
MTG事業の爆発的な成長は実際にはパラシュート戦略の結果であった。
注目すべき事として、
2022年にはこのような
"パラシュートMTGセット"が全MTG新商品の46%を占めていた。」
とのことです。
3. 30周年記念セットの販売中止疑惑
これに加えて、最も物議を醸している主張は、
「ハズブロの経営陣が高額で物議を醸した、
30周年記念セット(通称:A30)の在庫切れを偽装し、
需要を喚起しようとした。」
というものです。
(※注:まずこのA30からお話をしていきます。)
#30周年記念セットについて
このA30セットは1ボックス:999ドルという異常な価格で、
中はたった4パックのブースターパックのみが入っていました。
以下、A30の細かい説明は私が書きます。
--A30セット概要--
内容は基本セット:βと同じ内容のものですが、
・カードが新枠のものと旧枠のものが出る。
・カードの裏面はMTGではなく、A30限定のものになっている。
・旧枠のもののほうが出にくい。
・追加でトークンカードなども出る。
・デザインの違うカードもある。
という仕様になっていました。
β版の内容の再録ということは、
WotCが決して再録しないと誓っていた、
《Black Lotus》などのいわゆる再録禁止が多数含まれていました。
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このA30は
・商品価格が異常なほど高額である事
・カードはトーナメントでは使用出来ない事
・Wotc側の約束違反(再録禁止ポリシー違反)と思われる事
・一般ユーザーに入手しにくい状況である事
大きな批判を集めました。
とりわけ再録禁止ポリシー(Reprint Policy)違反への声は大きく、
世界中で発売前から批判の声は相次ぎ、
喜んでいるのはインフルエンサーと転売屋という状況が各地で起きました。
A30に関する疑惑
訴状に記載された複数の経営陣の証言によると、
プレイヤーやコレクターからの多大な数の否定的な反応を受けて、
経営陣は販売が予想より弱いことが明らかになった場合、
セットの販売を「一時停止」する計画を立てました。
会社はX(Twitter)に
「販売は終了し、現在この製品は購入できません。」
と投稿し、
完売したかのように見せかけ、
実際よりもはるかに人気があるように見せました。
訴訟では原告は
「会社が製品が『在庫切れ』だと主張した。」
と非難しています。
売れ残ったA30の行方
A30の販売が一時停止された後、
売れ残ったカードはどうなったのか?
訴訟の資料にはこのように記されています。
「元従業員Xは
『会社がA30の販売をリリース後1時間足らずで一時停止し、
利用可能な在庫の一部のみを販売した。』と述べました。
元従業員Xはさらに、
『セットのリリース直後に、
彼と他のウィザーズの従業員が、古いマジック製品と一緒に、
テキサス州の埋立地に捨てられたA30の写真を見た』
と指摘しました。」
#原告の要求
原告は裁判官に対して以下を求めています。
「原告らは、
『自分たちが株主としてハズブロの適切な代表者であり、
したがってハズブロを代表して訴訟を起こすことができる』
と、判事に求めており、
『個々の被告はそれぞれ受託者責任を怠った』と、している。
また、原告らは、
『ハズブロに対し各被告からの損害賠償を認めること、
そして株主に対し取締役会における大幅な権限付与』
を求めている。」
とのことです。
また、過去の類似ケースが存在しております。
今回のような訴訟問題は、
「株主がハズブロのMTGの取り扱いに対し不満を表明した初めてのケース」ではありません。
訴訟では、
2022年にバンク・オブ・アメリカが行った、
この過剰印刷問題に関する詳細な調査が何度も言及されており、
アナリストたちは
「ハズブロが頻繁な新商品のリリースにより長期的価値を損なっている。」と主張しています。
#現在の状況
今年最初のセットであるローウィンの昏明は、
MTGの歴史の中で愛されている次元への回帰に対する興奮の中、
多くの場所で完売しており、少なくとも好調いえる滑り出し。
特別仕様の《花を手入れする者/Bloom Tender》が、
現時点で600ドル以上で取引されているなど、
非常に高価なカードも。
IGN(ニュースの発信元)はハズブロにコメントを求めたところ、
次のような声明を受け取った。
「これらの(原告の)主張には根拠がありません。
MTGに関する当社の戦略計画は正しく行われ、
その結果はその戦略の強さを裏付けています。」
#1. 過剰印刷問題
ここからは私が要点を整理します。
「2016年と比較して2022年に約5倍ものセット数をリリース。
ウィザーズ部門の収益は2018-2021年で倍増するも、
株主はこれを消費者需要を超える印刷だと主張。
既存セットの価値が低下。」
この点について、下記の画像をご覧下さい。
これは左端が1993年から始まり、
右端が2022年です。
画像だけだとわかりにくいでしょう。
これは各年代の下にあるアイコンは、
それぞれの年に発売した商品のアイコンです。
1993年は5つ。
α、β、Unlimited、CE(とIEはセット)、
それとアラビアンナイトです。
この画像が示す通り、
明らかに途中から発売する数字が異常になっていきます。
このように可視化するとわかりやすいですね。
ユーザーがついていけないというのもわかるだけの数字です。
この2022年の品を仮に全部1つずつ買ったとして、
それだけでもかなりの金額になるでしょう。
追いかけていく人に「税金を強いる」ような発売量です。
そもそも考えてみて下さい。
シークレットレイアーだけで2022年に48+という文字が見えます。
シークレットレイアーはノーマル版とFoil版があるものがあります。
簡単に50を超えていますよね。
一年間は52週間あります。
一週間に1つシークレットレイアーを買うとして、
どれだけの人が買い続けられるでしょうか。
しかも通常セットを買いながら、です。
#2. パラシュート戦略
次にパラシュート戦略について述べましょう。
「ハズブロの他部門で赤字発生時にMTGセットを緊急投入。
2022年の全リリースの46%がパラシュートセット。
短期的な収益確保のための戦略と株主は主張。」
これは前述の2022年の約半分がパラシュート戦略だという主張です。
この点においては
原告の主張がどのような分析かは具体的にはわかりません。
しかし、
先程のようにシークレットレイアーが異常な数である事から、
このような主張をする事は容易に想像がつきます。
ここでこの年のシークレットレイアーを簡単に調べてみました。
非Foil版とFoil版をあわせると、
なんとシークレットレイアーだけで140種を超えます。
基本:108個(非FOIL版+FOIL版のつまり54種)
FOIL版のみ:7個
特殊仕様/言語別):29個
合計:144種類
これらは1つ最低でも40ドルとか50ドルです。
日本円で2022年なら150円程なので、
6000円~という事になりますね。
相当低く見積もって、
140種✕6000円=84万円
です。
FOIL版が高額だという事を踏まえたら、
単純に言っても100万円超えます。
仮に4枚揃えたいから4つずつ!
などと言ったら、
シークレットレイアーだけで400万円超えです。
さらにシークレットレイアーは問屋を介さず、
直接本社に売上が飛んでいきます。
カードショップも「普通に買ってシングルで売る」しか出来ません。
これを一年でこれほど出しておいて、
パラシュート戦略でないというのは無理がありますね。
私個人は原告の言い分を支持します。
というより、
これ「たった46%程度で済むんですか?」すら思います。
これをパラシュート戦略で呼ばないのであれば、
「スマホゲーの集金戦略」としか呼べません。
#3. 30周年記念セット問題
次はA30です。
「1ボックスが999ドルという異常な高価格設定。
トーナメントで使用不可とはいえ再録禁止の再録。
リリース一時間未満で販売一時停止。
完売と見せかけて需要を演出したと株主は主張。
売れ残り在庫がテキサス州の埋立地に廃棄されたという元従業員の証言。」
確定の情報と不確定の情報の入り混じりですが、
問題点としてはそれだけではありません。
こちらを見て下さい。A30の《太陽の指輪/Sol Ring》です。
酷いデザインです。
何故かこのカードは4種がA30から出てきます。
理由は不明です。
ただ、リングがアップになっているデザインが、
異様にかっこ悪いです。
「絵というものは額装とトリミングが大事だ。」
とよくわかります。
元の《太陽の指輪》との差がありすぎます。
参考までにβの画像も。
このβと比べると色々な意味で、
A30は「ニセモノ」と言わざるを得ないでしょう。
発表当時も
「公式代用カード」
と失笑と不興を買っていました。
MTGの歴史の中でも「恥」と言わざるを得ません。
在庫をまるで売れているように見せかけたとか、
廃棄したとかという話は基本的にはどうでもよく、
こんなものを刷った事そのものが問題であると私は考えます。
裏側が違うというだけなら、
1993年に刷った、
COLLECTORS・EDITION
INTERNATIONAL・EDITION
の2種と同様ですが、
今回のものはパック売りのランダム要素なのうえに、
デザインを変えてしまい、
さらには値段はCE、IEとは桁違いです。
パラシュート戦略、集金活動以外の何だと言うのでしょうか。
そして、何より愚かだと感じたのは、
「これを刷ったら反感を買うかどうか。」
これすら運営はわからなかったのでしょうか。
私はその低レベルな認識力のほうが問題だと思います。
社内で何があったかはわかりませんが、
これに反対する人は少なかったのでしょうか。
それともトップダウンの決断だったのでしょうか。
#パラシュート戦略の業界への影響
現在は2026年が始まったばかりなので、
2026年のカウントは出来ません。
そのため2023年、2024年、2025年、
この3つを調べてみました。
シークレットレイアーの数は
「非Foil、Foil版合わせて100種超え」
というものはどの年も継続されています。
これらの商品の中には
・視認性が悪く競技に向かないデザイン
・パラシュート戦略と疑われる商品
・MTGの元の世界観を破壊するコラボ商品
が多数ありました。
こういった事は原告やアナリストの言う
・短期的な収益確保のため。
・頻繁な新商品のリリースにより長期的価値を損なっている。
というものとも合致するものでしょう。
ユーザーはこれを追いかける事に疲れながらも、
「MTG国の国民でいるために、
税金を払わなければいけない。」
という状態で商品を書い続ける人が多くいる状態です。
MTGのデッキに「デス&タックス」と呼ばれるデッキがあり、
このデッキは
「人の首を絞めるように相手にゲームをさせない戦略」
をとっているデッキです。
デッキ名は
「死(DEATH)と税金(TAX)からは逃れられない」
という意味合いからつけられたものです。
現状のMTGとはまさにこれでしょう。
「上級国民」は税金の事など気にしませんが、
そうでない多くのユーザーは税金に苦しめられる構図と同じです。
我々は
「税金は正しく使われているのであれば」
と考えますが、
税金は基本的には正しく使われません。
それと同じ事が今のハズブロに起きているのです。
得た収入を正しく使っているわけでもなく、
「次のシークレットレイアーやコラボのため」
「一部の役員の報酬のため」
のような使われ方をしているわけです。
こんな事をしていては、
アナリストの指摘通りになるのです。
そして、
我々は日本国民やアメリカ国民を辞める事は難しいですが、
MTG国民は辞める事はそれほど難しくないのです。
(私は日本国民辞めてもMTG国民辞められない気がしますが。)
過去にどれだけのMTG国民をハズブロは失ったのでしょうか。
そのMTG国民は、
「MTG国民を辞めたくて辞めたわけではない」
という人が多い事をどれだけハズブロは理解しているでしょうか。
もっと言えば、
ゲームバランスを崩壊させるインフレカードにもこれは言えます。
パワーインフレが過ぎるとユーザーは離れやすくなります。
昨今のMTGでの禁止乱発は、
「特定のカードとのコンボが過去のカードと見つかり、
それがゲームバランスを崩壊させるから致し方なく禁止。」
ではありません。
「単純にやり過ぎたデザインだったから禁止。」
ばかりです。
こういう事を繰り返して、国民を失う事は、
未来の利益を失う事とイコールです。
つまりパラシュート戦略は、
「一時的起爆剤となっても、
恒常的な利益には繋がらない。」
と原告は懸念しているわけです。
これは、
無能な政治家が跋扈して利権を漁り、
国民からは何かにつけて税金を取り、
結果として国が衰退してしまう状況と全く同じです。
懸念するのも当然です。
#さいごに。
今、MTGは
「プレイヤの平均年齢が最も高いTCG」
です。
その背景は、
・ずっとMTG国民でいた数少ない人(MTG歴20年超え)
・途中から入ってきた人(MTG歴5年以上20年未満)
・ライトユーザー(MTG歴5年以下)
・復帰組
などに分類出来るでしょう。
この復帰組やライトユーザーはとても大切です。
別に残り2つに該当する人を軽視しているわけではないですよ。
あくまでハズブロの経営の戦略として、
ライトユーザーや復帰組は大切にすべきだというだけです。
ライトユーザーや復帰組を食い物にするのなら、
MTGは「ブランド力」を失う事になります。
ブランド力とは社会的信用でもあります。
また、現在のプレイヤーは多岐に渡る遊び方に、
それぞれのスタンスで分かれていて、
1:古いカードも使える遊び方。
2:競技からは外れたカジュアル。
3:競技全般。
4:資産を必要としない遊び方。
5:仲間内だけで遊ぶ。
などに分かれます。
(上記は複合もありますのであくまで参考程度に。)
3の競技志向は減る傾向があり、
残りの1、2、4、5のほうが傾向が強いです。
競技志向が減っているからといって、
視認性が悪いカードを刷って良い理由にはなりません。
パラシュートを大量に刷って良い理由にもなりません。
私はこの原告の意見におおむね賛成です。
こんな事をユーザーに言わせる馬鹿げた戦略ではなく、
MTGというブランドを唯一無二にする戦略こそが望まれます。
世界の富豪ランキングには、
ルイヴィトンのCEOがランクインしています。
「ブランド力が最終的にはお金も稼ぐ」
という事を示す一つの証左と言えます。
多数存在するTCGの中で、
・コラボ製品大量で世界観を破壊
・集金のためにユーザーの不興を買う
・視認性の悪いカードによって競技性を損なう
・両面カード等で競技性を損なう(反転時などに時間を食うため)
・ジャッジを軽視し、競技への貢献をしない。
こんな事をしてブランド力がつくとは思えません。
(ジャッジの話は別の話でどこかで話したいと思います。)
MTGは最高のゲーム性を持ったTCGです。
それが古くからこのゲームを愛した人が、
今もこの世界に居続ける理由であり、
復帰組の人達が戻る理由でもあります。
短期的な集金のために、
そういう人達の心を折ってはいけません。
皆、ゲーム性や世界観に惹かれたからこそ、
残り続けるか、戻ってきたのです。
それを守り、良いゲームであり続ける事こそが、
ブランド力を維持し、伸ばす事になるのです。
今回の訴訟事件は、
そういったMTGを愛している株主の起こしたものと思います。
私は海を隔てたこの日本から、
この方達を応援したいと思い、
この文章を寄稿いたしました。
ご一読ありがとうございました。
出典元:



今回の件とは直接関係は無いと思われますが、自分は昔渡辺氏が殿堂入りを剥奪された事件の時から経営陣を信用しなくなり二度と競技大会には出ないと思いました。 今思うと、と言うか今思い返してもあの時点で上のどこがが腐ってたんだと感じます。