rとgが示す「国債の力学」
第3章:なぜ格付け会社は「金利上昇」より「成長鈍化」を恐れるのか
第2章で見たように、格付け会社は日本という国家を、巨大な企業として信用分析している。では、その企業の信用を根底から揺るがす要因は何か。多くの人は「金利が上がること」だと考えがちだが、格付け会社の視点は少し違う。彼らが本当に恐れているのは、金利の上下そのものではなく、「成長が止まること」である。
この考え方を理解するために、格付け会社が常に意識している、極めて単純な関係に目を向けたい。それは、国債の長期金利を示す「r」と、名目GDP成長率を示す「g」の関係だ。国債の信用が安定している状態とは、経済全体の成長率が、資金調達コストである金利を上回っている状態、すなわちr<g(成長率が金利を上回る状態)が保たれている状態である。
この関係を企業に置き換えると、直感的に理解しやすい。借入金利よりも事業の成長率や収益力が高い企業は、借金をしても返済負担が相対的に軽くなり、むしろ成長のための武器として資金を使うことができる。逆に、事業の成長が止まり、借入金利の方が高くなれば、その企業は「逆ザヤ」に陥り、借金が重荷としてのしかかる。国家でも、まったく同じ現象が起きる。
国債リスクは突然噴火しない
日本国債がこれまで大きな信用不安に陥らずにきた背景には、名目GDP成長率が長期金利を上回る、あるいは少なくとも拮抗する状態が続いてきたことがある。この状態では、債務の絶対額が増えても、経済規模という分母が拡大するため、債務の相対的な重さは増えにくい。税収も自然に増え、利払い負担を吸収できる。市場は「この国の借金は回っている」と判断する。
問題は、この関係が逆転するときだ。rがgを上回る状態、すなわちr>gが定着すると、国債の力学は一変する。成長が鈍化し、税収の伸びが弱まる一方で、金利負担だけがじわじわと増えていく。企業で言えば、売上が伸びないのに、借入金利だけが上がっていく状態であり、最も危険な局面だ。
重要なのは、この変化が突然起きるわけではないという点である。国債リスクは、ある日突然噴き出す火山のように現れるのではなく、静かに進行する。成長率が想定を下回る、税収が予算ほど伸びない、にもかかわらず支出と債務は増え続ける。こうした状況が続くと、市場は次第に違和感を抱き始める。「なぜ借金が増えているのか」「この支出は将来の成長につながるのか」という問いが、少しずつ強まっていく。