返済能力を将来にわたって説明できるか

国債の信用が揺らぐとき、それは「借金が多いから」ではない。成長が鈍化し、税収が伸び悩む中でも支出と債務が膨らみ、その理由が説明できなくなったとき、市場は違和感を抱き始める。その違和感は、すぐに暴落や混乱として表れるわけではない。むしろ、長期金利がじわじわと上がる、国債の評価に慎重な言葉が増える、といった形で静かに進行する。

ここで押さえておくべきなのは、国債格下げは原因ではなく結果だという点である。格付け会社は、危機を作り出す存在ではない。市場や経済の現実を観察し、「この国の返済能力に以前ほどの確信が持てなくなった」と判断したとき、その評価を引き下げる。つまり、格下げとは、信用がすでに揺らぎ始めたことを公式に確認する行為にすぎない。

この章で明らかにしたい結論はシンプルだ。日本国債の最大リスクとは、借金の量ではない。それは、借金を増やす理由を説明できなくなること、そして成長と返済能力の関係が見えなくなることにある。だからこそ、PB(プライマリーバランス)を守っているかどうかという単一の指標では、国債の安全性を判断することはできない。

次章では、こうした評価がどのような考え方に基づいて行われているのか、格付け会社が国家をどのように「企業のように」見ているのかを、さらに詳しく掘り下げていく。そこから、なぜPB論争が噛み合わなかったのか、その理由がはっきりと見えてくるはずである。

街を歩く人々
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日本は「世界最大級の企業」である

第2章:格付け会社は「国家」をどう見ているのか

第1章で明らかにした通り、日本国債の信用を左右するのは、借金の量そのものではなく、「返済能力を将来にわたって説明できるかどうか」である。では、その返済能力を誰が、どのような視点で判断しているのか。ここで登場するのが、国債の格付け会社である。

多くの人は、格付け会社を「政府の財政運営を採点する存在」だと誤解している。しかし実態はまったく違う。格付け会社は、政策の正しさや思想的な是非を評価していない。彼らが見ているのは、極めて限定された一点、すなわち「この国は、発行した国債の利息と元本を、将来にわたって払い続けられるか」という問いだけである。

この問いの立て方は、企業の信用分析と完全に同じだ。企業が社債を発行するとき、格付け会社は「この経営戦略は素晴らしいか」などとは問わない。問うのは、「この企業は、将来も安定したキャッシュフローを生み、債務を返済し続けられるか」という一点である。国家も同様に扱われている。