第240話 愛からの願い
古田さんと別れて、俺は家に帰る。
少しだけ気分が重くなる。でも、自分のやるべきことははっきりした。
そして、家に着くと、愛さんはすでに来ていた。
「遅かったですね」
少しだけこちらを心配してくれる。いじめ問題も少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるが、それでも帰りが遅くなったら心配をかけてしまうだろう。
「ごめん。珍しく知り合いに呼び止められてさ。話を聞いてきたんだ。かなり待たせちゃったかな?」
愛さんは首を横に振って、笑顔で否定した。
「それならいいんです。たいして、待っていませんよ。たぶん、30分くらいです。せっかくの夕食が冷めないように、お二人には作るのを待ってもらっています」
母さんが愛さんを心配して、しばらく俺と一緒に夕食を食べて、できる限り一人にさせないようにしていた。心理的に追い詰められるようなことがあれば、遠慮せずにうちに泊まっていってほしいとも伝えてあった。
「そうか。じゃあ、声かけてくるよ」
俺がキッチンに向かおうとすると、制服の後ろを遠慮がちにつかまれた。
「あ、あの……」
こんなに遠慮がちな彼女は珍しいとすら思う。
「どうしたの?」
何か言い出しにくいことでもあるんだろうか。
「ごめんなさい。相談があるんです。聞いてください」
本当に彼女は人に頼ることが苦手だと思う。だからこそ、とても努力家で自分の才能に磨きをかけることができる人で、尊敬できる。年下とは思えないほどしっかりしているからこそ、彼女のことが好きなんだ。
「もちろんだよ。愛さんが俺に相談してくれるだけで、本当に嬉しいし……」
信頼してもらえているんだなと……
「ありがとうございます。そういうところですよね、本当に……」
愛さんは少しだけ苦笑した。
「じゃあ、言わせてもらいますね。甘えちゃいますよ」
俺はそのお願いに即答することができた。
「もちろんだよ」
目の前の彼女は、目を一度閉じて、今度はしっかりと俺を見つめる。
「助けてください。もう一度、私は父と親子に戻りたいんです。今の仮面のような関係じゃなくて、昔みたいに笑いあえるような関係に……」
俺の肩に肩を預けるような形で、彼女は涙ながらに訴えた。
「助けて、センパイ」
そんな彼女に、俺から言えることなんてひとつしかない。
それも、彼女の父親は宇垣のおじさんだから。
俺にとっては、愛さんも宇垣のおじさんも大事な人だ。たぶん、思いあっているのにすれ違っている彼女たちをこれ以上、見たくはなかった。
「当たり前だよ。俺にできることなら何でもする。愛さんをこれ以上、泣かせたくはない。俺の好きな人たちには笑っていてほしいから」
「ありがとう……大好きだよ」
彼女は、感情の堤防が決壊したかのように泣きじゃくり始めた。
彼女がしてくれたように、ゆっくりと寄り添っていく。これで少しは彼女にふさわしい男になれただろうか。自分が苦しいときに、誰かが味方でいてくれることがどんなにありがたいか、俺自身がよくわかっていた。それに、彼女の味方は俺だけじゃない。母さんや兄さんも間違いなく協力してくれる。南のおじさんだって絶対にそうだ。高柳先生や校長先生だって事情を話せば……
サトシや遠藤だってそうだ。
あのいじめ事件で、助けてくれたみんなの顔が思い浮かぶ。
そして、その中心に多いのは彼女だった。
俺は力を込めて最愛の人を抱きしめ続ける。
※
―総理官邸前・マスコミ視点―
「えー政界を騒がせている総理と宇垣幹事長の対立ですが、本日動きがありました」
私は興奮気味に状況を説明していく。
「ただいま、宇垣幹事長が総理官邸に入りしました。対立の発端となった法案についての最終的な調整を行う模様です。とあるベテラン議員から話を聞いたところ、宇垣幹事長側の全面降伏に近いものになるのではないかと予想されているようで……事態は最終局面に突入した模様です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます