第239話 小説と思い
俺が学校から一人で家に戻っていた。
そろそろ、小説も書きあがりそうだ。そう思うと、やる気がみなぎる。
しかし、目の前で警察の車が止まった。中からスーツ姿の男の人が出てきた。
「青野英治君ですね。私は、あなたの事件を担当している古田です。少しお時間いただけますか?」
何度か話したことがある人だ。
「捜査ですか?」
「いえ、別件ですが、あなたには聞いてほしいことがあるんです」
※
―宇垣視点―
総理との対立は、最高潮に達した。党のトップとナンバー2が権力闘争を始める。もう、マスコミではこの話題がもちきりだ。ここで敗北したほうが、今後の政治生命をすべて失う。
勝負はこちらの法案を通すことができるかどうかにもつれ込んでいる。
総理側は、是が非でも潰そうとしている。今回は議員立法の形で国会に提出するので、内閣は法案の提出に関与できない。だが、国会の審議の場で、多数の原理を使って否決しようとしてくるだろう。
これを否決されれば、私は今まで生き永らえてきた意味がなくなる。
いかなる手段を使ってでも、向こうを叩き潰す。だが、メディアはこちらの不利を続々と報道し続けている。
スマホが鳴った。英治君だった。PDFデータが転送されてきた。
これが言っていた小説だろう。
時間はない。
だが、これは読まないといけないものだとわかっていた。
ダウンロードして、すぐに小説を開いた。
彼の父親を描く私小説のような内容だな。よく取材して書いてあった。登場人物の名前こそ変えているが、彼の父親が主人公だとすぐにわかる。
小説を読んでいると、昔に戻ったような気分になる。あの大事な人たちが生きていた自分の日常に……
お互いの子供が20歳になったら開けようと思っていたウィスキーの話を読む。子供たちの生まれ年のボトルを買って、あいつは飲むのを楽しみにしていた。
一本は飲めたはずだが、もう一本はもう開封されることもないのだろう。
私も、捨てることができずに、戸棚にしまい込んでいる。まったく、あきらめが悪いと自分でも思った。
そして、物語は、あいつが亡くなった朝の話になる。
忙しい中でも、休日にもかかわらず、あいつは早起きして炊き出しの準備をしていた。
突然、苦しみ始めて、倒れたあいつは家族のことを思い出して、それでもなお自分は幸せだったと考えながら徐々に意識が遠のいていく。
「あいつが、あのウィスキーを息子と一緒に飲んでくれたら、な」
最期にあいつがそう言い残して、この物語は終わりを告げる。
読み終わってすぐにスマホの電源を切る。
感傷にひたる。だめだ、あいつはそんなことを言っているはずがない。これはあくまでも小説の話だ。そう言って、自分の心を落ち着かせようとする。だが、これを書いたのが英治君という事実が私の胸を締め付ける。
彼は、あいつの代わりに私と酒を飲みたいと言ってくれている。
それだけで救われた気持ちになる。なってしまう自分がいた。
感想を返そうと思って、もう一度スマホをつけると、新しいメッセージがあることに気づく。
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