第235話 動き始める英治&暗躍する総理
俺は母さんや南のおじさんに聞いた話をノートにまとめる。調べなくちゃいけないことがたくさんある。完全なものにはできないだろうけど、できる限り父さんの実情や二人の関係に迫りたい。
俺にできるのは、父さんと宇垣のおじさんの関係をモチーフにした人間ドラマを描く小説を作ることだ。感情の機微や父さんがおじさんのことをどう考えていたのか。できる限り実情に迫って文章にする。
その経験を追体験することで、より宇垣のおじさんの気持ちに迫りたいと思った。
だから、愛さんが巻き込まれた事件の情報もできる限り集める。新聞のアーカイブや現在も審議中の裁判の時系列を集めた。当時のSNSのつぶやきや世間の様子の情報を集めて、それを物語の中で再構成する。
臨時国会の後で、おじさんとまた、会う約束をした。調べたら、臨時国会は平均して70日間行われることが多いらしい。審議の内容などで前後するはずだから、こちらの猶予は2か月くらいか。
学校に行きながらだから、持ち時間はあまりないだろう。間に中間テストだってある。
調べ物をしながら、それを書き上げないといけない。そして、間に合わせる。
これはもしかしたら、みんなの人生を変えてしまうかもしれない。だから、全力で書く。
時間はどんなにあっても足りないくらいだ。
取材した世界の中に自分を沈める。思考の奥深くにもぐり、圧倒的な情報量の海に身を任せた。
没入状態となり、物語の構成をひたすら練りこんでいく。
そして、紙の上に、新しい物語を創りこんでいく。
※
―総理官邸・総理視点―
「あの若造が‼ こちらが引き上げてやった恩を忘れて、噛みついてくるとはなぁ! 絶対に許さないぞ」
電話を思いきりたたきつけて、憤慨して、総理の椅子に身を沈める。
そうだ、この椅子が今までの政治的な争いを勝ち上がって、勝ち取った立場の象徴だ。あの若造に奪われてたまるものか。
だが、宇垣は、若いのにも関わらずとても優秀だ。おそらく、切り札があるのだろう。
こちらはこの国の最高権力者だがな……
この臨時国会が終わった後で、あの男は幹事長の座から降りてもらう。そして、あいつの側近たちも含めて、全員粛清して、冷や飯を食らわせる。
俺は、敗者に対してこう言うのが大好きなんだ。
「俺はもう怒っていないぞ」とな。
これは一見すれば、器の大きさを表現しているように思えるかもしれないが、政治の世界では別の意味を持つ。
「俺はもう怒っていないぞ。だから、敗者のお前の方からきちんと謝りに来い」
そうしなければ、政治生命がなくなる。今まで、政争相手が頭を何度も下げに来た。屈辱に震えながらな。その様子を思い浮かべて、近くに置いておいた日本酒を一口あおる。
さらに、スキャンダルが表になったとしても、私は逮捕されない。
国会議員である自分には、国会の会期中には議会の同意がなければ逮捕されない不逮捕特権がある。さらに、会期外でも、法務大臣に圧力をかけて、捜査を強制的に終わらせる指揮権を発動することだってできる。
国会の同意など絶対に下りない。なぜなら、私が政権第一党の総裁だからだ。
「数は力なり。先人はよく言ったものだな」
多数が少数を支配する。それが政治の原理だ。そして、多数を率いるものが勝者であり、勝者こそが絶対の正義だ。
自分の身を助けるためには、なんだってする。この権力の座を守るためには、それこそなんだってする。あの若造は、こちらの権力への欲求を低く見積もり過ぎたのだろう。だからこそ、こんな危ない火遊びをする。
もしかしたら、あのトンネル事故の件で、復讐でも考えているのかもしれない。
だが……自分以外の他人を出世の道具とも思えない優しいバカな人間は、どちらにしろ長くない。
近藤も便利な男だったが、もう利用価値もないだろう。
あいつにすべての罪をなすりつける準備は終わっている。たとえ、宇垣がスキャンダルの爆弾を爆発させたとしても、それはすべて近藤に吸収される。
私は絶対に負けない。
宇垣の夢や希望をすべて壊して、あいつを謝罪に追い込んでやる。
さあ、政争の始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます