第214話 美雪の取り調べ

―警察官(堂本父)視点―


 近藤議員の息子の取り調べと並行して、関係者のそれも進んでいる。

 特に、サッカー部員たちは、いじめ問題から端を発して、暴行未遂や窃盗、器物破損などたくさんの罪を重ねた。おかげで、署内もあわただしくなってしまっている。


 少年事件は、センシティブだからな。慎重な捜査が必要になる。

 そして、我々は近藤と文芸部長の立花の二人が首謀者と突き止めた。他の部員たちは、彼らに乗せられて凶行に及んだようだ。少しずつ実行犯たちも取り調べに屈して、真実を吐き出してきている。


 そろそろ、捜査も大詰めのところで、事実上の今回の問題の発端となった女子生徒の取り調べとなった。


「今日は来てくれて、ありがとうございます。天田さん」

 近藤と共に今回の事件の発端でありながら、青野英治君への直接的な嫌がらせにどう関与したのかも、暴行未遂を起こそうとしたグループとの関りもよくわかっていない不思議な存在となっていた。


 だから、そこら辺を明らかにさせたい。今回の取り調べは、それが目的だ。

 現在、警察は彼女の身柄を拘束していない。

 なぜなら、近藤とは違って、逃亡を企てようともしていなかったし、証拠を隠そうともしなかった。彼女は、大人しく警察にスマホのデータを提供していたし、サッカー部員と協力して、誰かを口封じしようともしていない。


 それが不思議なんだ。彼女がいなければ、事件は起きなかったはずなのに、なぜか他のメンバーからは距離を置いているようにすら見える。


「はい。今日はどんなことを話せばいいですか?」

 彼女の自宅で、女性の捜査員が概略は聞いてくれている。彼女が最も関与したのは、青野英治君に対する現実とネット上での誹謗中傷だ。


「うん。何度も悪いけど、君がどんなふうに今回の事件にかかわったのか。自分の口で教えてくれないか」

 天田美雪。不良グループにいるような学生には見えない。教師陣も今回の問題を起こす前は、非常にまじめな優等生だったと証言している。先に話を聞いた女性捜査員も「悪い男と遊ぶようになって、幼馴染を裏切って、引くに引けなくなって、事件にかかわってしまった」という印象を聞いた。


「はい」

 彼女はどう話そうか悩んでいるように見えた。

 こちらは、あえて質問し、彼女に具体的に話をして欲しい場所を示した。


「君は、いじめの標的となっていた青野英治君と幼馴染だった。恋人だったのかな?」


「はい」


「では、恋愛がらみのトラブルはあったのかな? 他の生徒は、天田さんと青野君の別れ話のもつれがすべての始まりだと言っていたんだけど……」

 彼女はとても苦しそうな顔をしていた。正直に言えば、ここの証言は人によってばらばらだ。近藤に近い人間ほど、恋愛トラブルがあったと証言していた。しかし、青野英治君やそれに近しい人たちはそれを否定している。


 青野君は当事者だが、客観的な証言となると、天田さんと証言が一致しているほうが望ましい。だが、恋愛関係のもつれが発端なら、両者の言い分が異なることだって当たり前だ。それに、トラブルがなかったとしても、彼女の保身のためにはあったと証言したほうが情状酌量の余地が残る。


 高校生にでもなれば、それくらいの損得勘定はできるだろう。

 つまり、天田美雪からは、「恋愛トラブルはあった」と証言される可能性が高い。あとは、そちらについてどのようなトラブルだったかなどを聞いて信ぴょう性を確認していくわけだが……長い戦いになるな。


 そう覚悟を固めていたのに、彼女は覚悟を固めていたのかもしれない。

 ポツポツと吐き出し始めていく。


「そもそも、私は英治に別れ話なんてしてません。英治からも私にそんなこと、言いませんでした」

 思わぬ証言に固まる。自分から不利な証言をするとは思わなかったから、一瞬固まってしまう。


「どういうことかな? じゃあ、青野君の誹謗中傷はどうやって始まったんだい?」

 

「私が彼を裏切ったんです。英治と付き合っているのに、近藤さんと浮気してしまって」

 彼女は、うわごとの様に真実を話し始める。


「うん、それで?」


「学校で悪者になりたくなかったんです。近藤さんもスポーツ推薦が控えていたから。悪評が広まるのを防ぎたくて……それで、英治のことを……私は裏切りました」

 声もなく泣き崩れるように、彼女は机に突っ伏した。

 少しだけ落ち着くのを待って、確認する。


「裏切るって……なにをしたんだい?」


「は……い。英治に暴力を受けたと……偽装、して……近藤さんと一緒に私の腕にあざをつけて、写真を撮って……」


「それで……」


「彼がSNSを使って、それを拡散しました。私はそれを見て見ぬふりをして、学校中に噂が広まっても、自分を守るために否定しませんでした」

 そのボロボロな様子を見て、二つの気持ちが生まれた。

 自分の評判を守るためという浅はかな保身のために、恋人を自殺寸前にまで追い込み、その噂によって何人もの人生を狂わせたことに対するあきれ。

 そして、これをもっと早く証言できていれば……という憐れみ。


 だが、このままでは終われない。彼女には、被害者家族から名誉棄損などで被害届を出されている。憂鬱な気持ちになりながらも、仕事を進めていく。目の前の少女に訪れるだろう大変な未来を思い浮かべて……

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