【CP 閲覧注意】マスター×藤堂 甘イチャ生活2

  • 125/12/14(日) 11:57:33

    マスターと藤堂君の甘々生活の記録、の続きのような小ネタの詰め合わせ。ほのぼのから閲注、前スレのifルートなどの予定。

    お労しさZERO。糖度10000倍。マスター⇔藤堂君がお互い完堕ちでちょっとタガが外れることもある
    悲惨な過去や痛い要素は存在しないので他キャラの横やり、モブとの過去・NTRは無し

    ※注意※
    ※マスターは男想定
    ※時系列バラバラ
    ※複数ルートを想定している話はダイスを振るかも。どのルートでもイチャつき方法と度合いが変わるだけです
    ※パスワードのあるSSリンクは全て【18↑ y/n】

  • 225/12/14(日) 11:58:44
  • 3二次元好きの匿名さん25/12/14(日) 12:11:24

    あの時のスレ主か!
    その節はありがとう、立て乙

  • 425/12/14(日) 12:13:32

    ***ある日のメンテナンス***
    ~~~
    〇月〇日

    今日は藤堂君の義肢をメンテナンスする日。
    自分も特に緊急の予定が無く、ミーティングと軽いトレーニング、あとは部屋で待機すればいいことになった。
    要は何もなければ休みで良いという事。

    予定が思ったより早く終わったから、映画のライブラリを借りてきた。
    大きめのクッションにもたれて映画を再生し、傍の小さいテーブルにはコーヒー。
    あとは、ただのんびりと鑑賞していた。


    藤堂君は藤堂君でメンテナンス日にしかできない用事があるので、先ほど部屋に帰って来たところだった。
    今は自分の足の間に収まるように座り、背中を預けるようにしてこちらに体重をかけている。
    どこか力が抜けてだらっとした、リラックスモード。

    完全に猫ちゃんみたいだ。と口に出したら確実に拗ねられそうだから黙っておく。

  • 525/12/14(日) 12:19:16

    そもそもこの映画を借りてきたのは、藤堂君が面白かったと言っていたからだった。
    少し前、仲のいい仲間たちと映画鑑賞会をしたときに一番評判が良かった作品らしい。
    だからもう一度観る必要なんて本当はないんだろう。
    画面に視線は向けず、デバイスで電子書籍を読んでいる。
    紙の本だと片手で読むことが難しいので映画と一緒に借りてきた。
    体の上にクッションを置き、デバイスの支えにしながら器用に指でページをめくっている。

    少しずつ体重を預けてくるのは、きっと集中しているからだろう。
    腰の位置がわずかに下がりはじめ、背中も前より深くもたれかかっている。
    無意識に楽な姿勢を探しているらしい。


    最初は藤堂君が観たことのない映画を借りてくるつもりだったけど、お互いの用事が終わるタイミングが合うかどうか分からないし、自分は本を読むから大丈夫だといって断られた。
    それでも、黙ったままなのは少し気になって、「退屈じゃない?」と軽く聞いてみた。
    彼は意外そうに瞬きをし、一瞬だけ動きを止めた。
    何を聞かれたのか確かめるみたいに、少し間を置いてから、
    「……全然、退屈じゃない」
    と、ゆっくり答える。

    「そっか」
    軽く身じろぎして体勢を整えた。
    会話は生まれず、部屋に響くのは映画の音。
    あとは飲み物を口にする音と、体勢を整えるたびに布が擦れる音だけが部屋に落ちていた。
    それでも、その沈黙は気まずさを含まず、ただ静かに時間が流れていく。

  • 625/12/14(日) 12:28:08

    デバイスの画面でしばらく動いていた指が止まり、端末が静かに置かれる。
    読み終わったらしい。

    体を起こすと、少し身体を横にずらした邪魔にならない場所で、静かに腕を伸ばした。
    「ぅ…」という声になっていない音が口から漏れ出ている。
    伸びを終えると、藤堂君は手足を器用に動かして身体を支えつつ、近くに置いてあったブランケットを手に取って再び元の位置に戻ってきた。

    さっきまでデバイス置き場に使っていたクッションを、今度は脚の内側にそっと置き、ためらいなくその上に身を預けて横になる。
    膝枕というほどではなく、頭は太ももに近い位置だ。
    もぞもぞと体を動かしてから、ここだ、という姿勢を見つけたらしく、ブランケットを自分の身体にかけて安心したみたいに目を閉じた。

  • 725/12/14(日) 12:34:10

    やっぱり疲れてたんだな。

    ここ最近のメンテナンスの日は、片手片足でも動けるように試行錯誤しているらしい。
    もし戦闘中に不具合が起きたり破損したとしても、慌てずに最低限の回避や攻撃をできるようにとか。

    何度かシミュレーターに迎えに行こうかと伝えたが、そのたびに断られた。
    がんばるなぁ…と思いつつ、あまり無理をして欲しくないとも考えてしまう。

    しばらくして、藤堂君の呼吸がゆっくりになった。
    映画から目を離さずに、そっと手を伸ばす。
    指先で、髪を一度だけ撫でた。
    反応はないと思っていたら、目を閉じたまま迷うようにこちらの手に触れてくる。
    何も言わないまま軽く引かれて、手を抱き込むようにしてまた眠りに戻っていった。

    映画の音だけが静かに続いている。
    起きたら、温かいものでも用意しよう。

    ***

  • 825/12/14(日) 13:12:51

    映画が終わってしばらく経ったあと


    藤「………う」
    マ「おはよう。目、覚めた?」
    藤「……んー……」

    マ「まだ寝てていいよ」
    藤「…いや、おきる…」
    マ「うん、わかった」

    藤(寝そべったままマスターのほうへ手を伸ばす)

    マ(抱きかかえながら)「そろそろメンテナンスも終わってると思うよ。行こうか」
    藤「うん…」


    (部屋の入り口を出ようとした時)

    (ハッと覚醒する藤堂君)
    藤「…? !!! うわ!降ろして!」
    マ「え、抱えて行けるけど?」
    藤「いや、いいから!歩いて行くから!!」
    マ「そう?」

    藤「(完全に無意識だった…)」
    マ「(誰も気にしない思うけどな~)」

  • 925/12/14(日) 13:54:17

    ~~~
    〇月〇日

    また別の日。
    今回は映画じゃなくて動物のドキュメンタリーを借りてみた。
    短時間で見られるうえに可愛いモフモフで癒されるらしい。
    藤堂君も見たことが無いらしいので、早速一緒に見るための準備をする。

    いつもの通り、クッションを背に座ろうとして気付いた。
    そういえば、座る位置ってなぜか毎回同じになるな。

    藤堂君が甘えモードの時は、こちらの足の間に座ることが多い。
    彼のお腹に手を回すと、こちらに体重をかけてくる。
    必然的に視線の位置はほぼ同じ、モニターの正面になる。

    その座り方でない場合、大抵は自分がモニター正面に近いところに座り、藤堂君は左右どちらかに収まることが多い。
    うーん、いつも自分のほうが見やすい位置をキープするのは不公平かな…。

  • 10二次元好きの匿名さん25/12/14(日) 14:00:21

    このレスは削除されています

  • 1125/12/14(日) 14:00:27

    今日は藤堂君にモニターの正面に座ってもらおうかな。

    そう決めて、モニターの斜め前の位置に腰を下ろす。
    彼がそっと近づいてきて、横に座った。
    自分の真横。モニターからさらに遠い位置に。

    マ「……磁石?」
    藤「……?」(自覚なし)

  • 12125/12/14(日) 17:56:10

    藤堂君視点

    ~~~
    □月□日

    最近、マスターは前より忙しそうだ。
    頑張り屋だから、限界まで動いてしまう。

    部屋に帰ってくるのは夜遅くか、運が悪いと日付が変わっている。
    二言三言の会話が出来ればいいほう。
    たいていは「もう休むね」とだけ言って、シャワーを浴びてそのままベッドに倒れ込む。

    多分だけど、もし自分が同じベッドに寝なければ、シャワーも浴びずにそのまま即寝てると思う。
    気を遣わせるのも悪い気がして、忙しい時期だけでも僕は自分の部屋に戻っていようかと提案してみたこともある。

    それでも、「藤堂君が嫌でなければ」と前置きしたうえで、部屋にいてほしいと言われた。
    抱き枕だとか、癒しだとか、そんな言葉を並べながら。
    かなり疲れていたから、自分で何を言っているのか分かっていなかったのかもしれない。


    疲れているのも、頑張っているのも、分かっている。

    それでも、今はただ見ているしかない。
    手を差し伸べたい気持ちだけが、行き場を失っていた。

  • 13125/12/14(日) 20:15:56

    マスターは今日も遅くに部屋に戻ってきた。

    何かしてやれている気はしない。
    上手に話を聞く余裕もないし、励ます言葉も浮かばない。
    だから、横にいるだけ。

    シャワーのあと、すぐ休めるようにしておいた。部屋を静かにして、灯りを落とす。

    バスルームから出てきたマスターは、ベッドに入る、というよりも吸い寄せられるみたいに倒れ込んできた。
    髪を軽く撫でても、反応は薄い。目元に眠気が滲んでいる。
    それでも、腕が回ってきて軽く引き寄せられた。
    抱きしめるというより、抱えて落ち着く場所を作るみたいだった。
    無意識だと思う。

    癒しているつもりはない。
    ただ、そばにいるだけだ。

    それでも、眠る顔はさっきより穏やかで安心した。



    忙しさが落ち着くまでもう少し。
    どうやってマスターを労わろう?

  • 14二次元好きの匿名さん25/12/14(日) 20:20:31

    前スレから見てました
    続いてくれたの嬉しいありがとうスレ主

  • 15二次元好きの匿名さん25/12/14(日) 20:25:19

    ありがとう 冷えた体と心と五臓六腑に沁み渡るイチャ甘だ

  • 16二次元好きの匿名さん25/12/15(月) 00:14:45

    今回も二人で甘々いちゃいちゃ出来ますように

  • 17125/12/15(月) 01:04:37

    忙しさに押されていた時間が、ようやく遠のいた。
    マスターの表情が少し柔らいでいるし、言葉の端にも余裕が戻っている。

    微小特異点での戦闘や戦力アップのためのシミュレーター訓練など、やっと一息ついたらしい。
    今なら、落ち着いて過ごせる。
    でも、それより先にちゃんと休ませたい。

    マスターはまだ部屋には戻ってきていないけれど、今のうちにできることがある。
    癒したい、なんて大それたことじゃない。
    ただ、楽でいられる時間を渡したいだけだ。

    少しだけ部屋を整えようと、ゆったりと過ごしていた時の事を思い出しながら準備した。
    明るさを落として、香りを焚いて、ベッドを整える。

    何もしない時間を、一緒に過ごすため。
    それが今のマスターに、一番必要なものだと思った。


    戻ってきたマスターは、どこか落ち着いている。表情には疲れが残っているけれど、どこかほっとした空気も混じっていた。
    今日はもう終わりであとは休むだけ。明日と明後日も特に予定はない。
    その事実が、表情を和らげていた。

  • 18125/12/15(月) 01:07:14

    部屋に入るなり、マスターが立ち止まる。

    「……いい匂いがする」

    不思議そうに言って、こちらを見る。
    それが、今日最初のゆっくりした会話だった。

    「疲れを和らげてリラックスできる、って聞いたお香」
    それだけ言うと、納得したみたいに頷いた。
    部屋の香りも空気も、いつもより柔らかい。

    もう後は休むだけなので、手を引いてバスルームに誘導した。
    「今日は動かなくていい。僕が洗う」
    目をぱちぱちさせて一瞬驚いた様子だったけど、すぐにあっさり頷いた。


    マスターは洗い場に腰を下ろし、少し前かがみになる。
    その背後にあるバスタブの縁に座って、両手で泡を広げるように髪を洗い始めた。
    ふと様子を見ると、彼は目を閉じて、すっかり力を抜いていた。
    触れられるのを疑いもなく受け入れている顔だ。
    気持ちよさそうで、思わず指先の動きがゆっくりになる。

    髪を流し終えてから、今度は肩に手を伸ばす。
    泡を含ませたタオルで、背中から順に、力を入れすぎないようになぞっていく。

    マスターは何も言わず、ただそのまま身を任せてくれていた。
    洗われるたびに、少しずつ力が抜けていくのが伝わってきて、思わずこちらの口元も笑みになる。

  • 19125/12/15(月) 01:14:29

    バスルームを出たあとに着替えを渡すと、マスターは素直に袖を通した。
    髪を乾かしている間、目は半分閉じたままだ。

    水を渡すとコクコクと飲み干し「ありがとう」と小さく呟かれた。
    それだけで、今日は十分だった。

    ベッドに入ると、お互い当たり前のように寄り添った。
    そのまま抱き枕のように抱き込まれて、しっくりくる位置に収まる。

    ほどなく、呼吸がゆっくりになっていく。
    長く溜め込んでいた疲れが、少しずつほどけていくのが分かった。

    呼吸が落ち着いたのを確かめてから、目を閉じた。
    明日も思う存分癒されて貰おう、と色々考えていたけど、どんどんと意識がほどけていく。
    そのまま、静かに眠ってしまった。


    ~~~
    健全ルート

  • 20二次元好きの匿名さん25/12/15(月) 07:43:35

    疲れたパートナーのお世話して寝かし付けるの良いよね…

  • 21125/12/15(月) 10:37:48

    17からの別ルート/マスター視点

    ~~~
    □月□日

    忙しさに押されていた時間が、ようやく遠のいた。
    微小特異点の対応や戦力強化に必要な素材集め、訓練などが運悪く重なってしまい、慌ただしい日々が続いていたのも一段落。
    今日は対応に当たった皆との最終報告を済ませれば終わり。
    思っていたより早く解放されそうだった。明日も明後日も、今のところ何もない。

    部屋のドアを出る直前、藤堂君から「今日は早めに戻れそうか?」と声がかかった。
    軽い調子だったけれど、振り返ったときの表情が少しだけ柔らかく見えた。
    心配してるのがわかるほど露骨じゃない。
    でも、ちゃんと気にしてくれているのは伝わってくる。

    「たぶん大丈夫。そんな遅くならないと思う」
    そう答えると、相手は小さく頷いた。

  • 22125/12/15(月) 11:00:52

    ドアに手をかける前、藤堂君がこちらの手を取る。進もうとした動きが止まった。
    「?」と顔を見ても、俯き加減で表情が読み取れない。
    強く引かれたわけではないのに、身体が自然とそちらへ向いてしまう。
    そのまま、静かに引き寄せられた。

    近づいた距離に、言葉が出なくなる。
    ただ手を握られているだけなのに、離れがたい温度がそこにあった。

    両手で手を包み込まれる。と、彼の右手がこちらの左手の指先を探るように触れてから、根元までゆっくりと絡められた。
    肌と肌がすり合う。
    引き止めるほど強くはないのに、離す気がない。
    それだけで、求められているものがわかってしまう。

    最近は忙しさを理由に、つい後回しにしていた。
    恋人として、ちゃんと触れ合う時間を持てていなかったことの埋め合わせもしたい。

    「……帰ったら、少し一緒にいようか」
    俯きがちに、彼がこくりと首を動かす。控えめに絡められた指が、名残惜しそうに離れた。

    ドアが閉まる。
    背中に向けられた気配が、しばらく消えなかった気がした。
    早く戻れたらいいな、と自然に思う。

  • 23125/12/15(月) 13:38:01

    報告が終わり無事に解散となった。
    別れ際、仲間たちに「お疲れさま」「ゆっくり休むように」など、労わりの声をかけられる。
    その言葉に軽く頷き、部屋までの道を歩いた。


    部屋に足を踏み入れた途端、いい香りがした。
    いつもの部屋なのに、少しだけ違う…?
    照明も少し落とされていて、部屋全体が静かだ。

    すぐに藤堂君がすっと距離を詰めてきた。
    香りについて聞くと、
    「疲れを和らげてリラックスできる、って聞いたお香」
    という返答が返ってくる。
    癒やされるようにと、部屋にやさしい香りを満たしてくれていたのが素直に嬉しかった。


    部屋の中を進みつつ、ふと藤堂君に視線を向ける。
    落ち着かない様子で、心なしか頬がほんのり熱を持っているように赤い気がする。
    動きもぎこちないし、そわそわしているのが妙に分かりやすい。
    何かあるのはすぐに分かった。

    呼びかけると落ち着かない様子で返事が返ってくる。でも目が合うとすぐ逸らされた。
    視線が定まっていない。

    彼はもうシャワーを浴びたらしい。
    「ゆっくり温まってきて」と言いながら、タオルと着替えにちらりと視線を向ける。
    そのまま背中を押されるようにして、バスルームへ向かうことになった。

  • 24二次元好きの匿名さん25/12/15(月) 19:56:16

    も、もしや…?アレなルート???

  • 2525/12/15(月) 22:11:40

    バスルームの扉を開けると、柔らかい空気が身体を包んだ。
    床もひんやりとしていない。脱衣所も丁寧に整えられていたと分かる。
    服を脱いでも、肩口に冷えがまとわりつかない。
    バスタブのお湯の表面はまだ薄く波紋が残っていて、照明を映した水色が磨いたガラスみたいにきれいだった。
    藤堂君はシャワーですませたと言っていたので、わざわざ湯を張ってくれたらしい。
    気を遣わせたという思いとやっぱり嬉しいという感情が、同時に浮かんでくる。

    明日や明後日は藤堂君の望むままにお願いを叶えてあげよう。
    レクリエーションルームで遊んでもいいし、シミュレーター内で好きな環境を作ってのんびりするのもいいかも。
    部屋でただ一緒に居るだけでもいいし。
    明日からのことを考えると、頭の中が少しずつ軽くなっていく。


    バスルームの扉を開けると、さっきより部屋の明かりがもう一段階落とされているのに気付いて足を止めた。
    部屋の中を見渡すと、ベッドの縁に藤堂君が腰かけているのが目に映る。
    背中を預けるでもなく、ただ座って、ぼんやりと視線を落としている。

    考え事をしているというより、まさに心ここにあらずという様子だった。
    音をたてずにそっと近づいて
    「藤堂君?」
    と小さな声で呼びかける。

    彼ははっとして顔を上げた。
    「え、あ……」と言いかけて、言葉を探すみたいに口を閉じる。
    なんとなく、声に熱がこもっているような感じがした。

  • 2625/12/15(月) 22:50:09

    ベッドに座る彼の隣に静かに腰を下ろし、「眠い?もう休もうか」と何気なく口にした。
    「……あ、いや、休むほどじゃなくて、大丈夫」
    こちらの言葉に戻ってきた返答は少しだけ早口だ。
    自分でも否定が急ぎすぎたと気づいたのか、一瞬視線を彷徨わせてから、
    「喉、乾いてない?水、あるよ」
    とテーブルに用意されていた水をすすめられた。
    ありがたく飲みながら、話をうまくかわされた気がして、少しだけ首を傾げる。

    彼の様子を伺うと、まだ妙にそわそわしている。
    指先を何度も握り直していているし、少し身じろぎも多い。

    何だか様子がおかしいなと思い始めた。

    今日の朝の風景を頭に思い浮かべて、今の彼の様子と比べてみる。
    自分の自意識過剰な考えで無ければ、明らかに今日はそういう触れ合いをしたい、というアピールだったと思う。
    付き合い始めの頃の照れ屋な彼ならともかく、今の彼だったらもっと抱きついてきたりしそうなのに。
    途中で気が変わったとか、日中に疲れて相手が難しくなったとか、そういう理由でもない限りは…。
    でももしそうだとしたら、ハッキリとそう言って謝罪するタイプなんだよな、藤堂君の場合。

    思案していると、意を決したかのように藤堂君がベッドから立ち上がった。
    そのままこちらの目の前に立つと、息を整えるみたいに一瞬止まる。
    照れを隠そうとしているのが、距離の近さで分かった。

  • 2725/12/16(火) 05:23:42

    ※途中まで※

    まだ書きかけですが、長くなりそうなので保守がわりにアップします。


    ・・・


    目の前に立つ藤堂君から声が紡がれる。

    「あの、変に思わないでほしいんだけど……」

    そう前置きしてから、少し小さな声で続けた。

    「久しぶりだし……いろいろ、準備はしてきたから」


    耳まで赤くなっていて、声も少し震えている。


    ・・・


    Writeningwritening.net

    ※冒頭に注意書き

    ※パスは1

  • 28二次元好きの匿名さん25/12/16(火) 10:12:53

    最高にかわいくてえっちだ……ありがとう

  • 29二次元好きの匿名さん25/12/16(火) 16:54:39

    あ~~自分で見せちゃうの凄くえっち!

  • 30二次元好きの匿名さん25/12/16(火) 22:37:04

    自分で躊躇いがちに持ち上げてくれるの可愛いとえっちでてぇてぇの気持ちが反復横跳び

  • 31125/12/17(水) 03:00:36
    Writeningwritening.net

    >>27の完全版

    ※冒頭に注意書き

    ※パスは1に明記


    17~19の健全ルートとは別の【R18ルート】

     藤堂君がおねだりするとこちらのルートになります。

  • 32二次元好きの匿名さん25/12/17(水) 06:42:49

    最高に可愛い…ありがとうありがとう

  • 33二次元好きの匿名さん25/12/17(水) 07:27:54

    このスレ大好きだったから2代目嬉しい!

  • 34二次元好きの匿名さん25/12/17(水) 15:05:48

    抜かずの…いい…えっち

  • 35125/12/17(水) 18:05:01

    ~~~
    □月□日

    目を開けた瞬間、天井より先に視界に入ったのはすぐ隣にある横顔だった。
    寝起きのぼんやりした意識の中で、一拍遅れて状況を理解する。
    頭の中で、昨夜の記憶がゆっくりと巻き戻された。

    時計を見ると、思っていたよりずっと遅い時間だった。
    体を起こして横を見ると、藤堂君はまだ静かな寝息を立てている。
    普段は先に目を覚ますことの多い彼が珍しいなと思いつつ、そういえば眠ったのは数時間前だったと思い出した。
    近くで見るその顔は昨夜――というより夜明け前までの疲れが抜けきっていないのか、目元がわずかに赤くて少し痛々しいほどだった。

    起こさないよう、そっと体を動かしてベッドを降りようとした瞬間、わずかな抵抗を感じて足を止める。
    何かに引き留められた理由を探して視線を落とすと、彼が眠ったまま、自分のシャツの裾を握っていた。

  • 36125/12/17(水) 18:49:53

    眠ったまま裾を握るその仕草が可愛くて、自然と口元が緩む。
    指を外そうとそっと手を触れた瞬間、彼のまつげがかすかに揺れ、ゆっくりと目が開いていった。

    「起こした?」と声をかけると、「……うん……」と、覚醒しきっていない様子の返答が返ってくる。
    まだ意識が戻りきっていないのか、ぼんやりとした表情でゆっくりと瞬きを繰り返す。
    飲み物を取ってくるねと告げて手を外し、名残惜しさを残したままベッドを降りた。

    簡易キッチンから水とグラスを持ってベッドに戻ると、ちょうど彼が起き上がろうとしたところだった。
    けれど途中で力が抜けたらしく、ふにゃ、と再び身体がベッドに沈み込んでいく。
    彼も予想外だったのか、「……あ、あれ……?」と小さく声を漏らし、驚いている。

    力が入らず戸惑う彼を見て、手を伸ばして上体を支えて座らせ、水を入れたグラスを渡す。
    彼は小さく息を整えてから口をつけた。

    水を一口ずつゆっくりと飲む藤堂君を見ながら、今日一日の予定を考える。
    昨日は、彼がずっと自分のことを優先してくれていた。言葉にしなくても分かるくらい、細かいところまで気を配ってくれていた。
    だから今日は、その分を返したい。今度は自分が、彼を甘やかす番だ。
    そんな視線に気づいたのか、彼は照れたように顔を逸らした。

    ~~~

  • 37二次元好きの匿名さん25/12/17(水) 23:22:32

    ぽやぽやした藤堂くん可愛いねえ

  • 3825/12/18(木) 01:40:09

    おまけ・マスター視点 /小話なのでお試しにダイスでルート選択

    ~~~


    寝起きのぼんやりした頭も段々冴えてきた。

    今日一日をどう過ごすかを考えながら、水を飲み終えた藤堂君に改めて視線を向ける。

    彼は少し気が抜けたように、視線を宙に漂わせていた。


    寝る前はあまりにも疲れていて、最低限に身体を清めただけ。身につけたシャツも適当に羽織った状態だった。

    まずは身支度に取りかかる前に、先にシャワーを浴びてすっきりしようか。

    そう伝えると、少し間を置いて「ん、そうする」という返答があった。

    まだ身体がだるそうな彼を一人でバスルームに行かせるのは躊躇われたので、一緒に入ってお世話したいと提案すると

    「……お願いしようかな」そう言って、こちらに見つめてくる。


    先ほどまで力が抜けてしまい身動きが取れなかった藤堂君は、今は多少回復したらしい。

    彼の手からグラスを受け取ってテーブルの上に置き、彼の身体を支えようと傍に寄る。

    こちらを見たあと、ベッドから降りるために立ち上がろう、とした。


    「―――ッ!?」

    「っ藤堂君!」


    身体がいきなり崩れ落ち、背中を丸めて身を縮めるような姿勢になってしまう。片手はシーツを掴み、もう片手は自分の服を握りしめている。

    喉の奥から、息を弾くような呼吸を吐き出していた。

    いきなりの状態に驚いて、彼の肩を掴む。その瞬間、彼の身体が弾かれたように大きく跳ね上がった。

    「だ、大丈夫?どうかした?」

    慌てて問いかけると、彼はうずくまったまま、ふるふると首を横に振る。シーツに広がった髪がふわりと揺れたのに、視線だけは頑なにこちらを避けていた。


    dice1d3=1 (1)

    1 理由を言う・聞く(R18)

    2 理由を言わない・聞かないけど察する

    3 理由を言わない・聞かない

  • 3925/12/18(木) 06:19:57

    彼は背中を丸めて小さくなっていた。
    よく見ると、その背中が、呼吸に合わせてではなく、細かく、一定でないリズムで揺れている。
    寒いわけじゃない。震えが止まらない感じ。
    シーツを掴んでいる指先が、ぎゅっと力を込めたまま震えている。
    白くなるほど握りしめているのに、微かに、でも確かにビクビクと跳ねていた。

    ふーっふーっ…と強めに呼吸が聞こえたかと思うと、
    「………っ…!ぅ…っ……」
    吸うでも吐くでもない、引っかかるような呼吸と交互に繰り返している。
    それが続くたび、肩が小刻みに跳ねて、震えが止まらないことをはっきり示していた。

    髪の間から見えた耳が、妙に赤かった。
    首筋までじわっと色が上がっていて、さっきまでの気の抜けた様子とは明らかに違う。

    まだ肩に触れたままの手に、力を込めてもう一度声をかけようとした。
    揺すれば、少しは意識がこちらに戻るかもしれない――そう思った、その瞬間。

    「………ッ!」

    パシッという乾いた音。
    短く息を詰める音と同時に彼の手が伸びてきて、こちらの手を強く弾いた。
    拒絶するような、でも余裕のない動き。
    払いのけられた手が宙で止まる。
    触れられること自体が、今の彼には負担だったのだと、遅れて理解した。

  • 4025/12/18(木) 06:55:53

    こちらの手を払いのけた後、彼の手がぱたりとシーツに落ちた。
    自分のしたことに今さら気づいたみたいに、身体が小さく跳ねた。泣きそうな表情をしている。

    「あ……ごめ……っ今の……違…、嫌だった、とか……じゃ……」

    掠れた声と一緒に、呼吸が浅く、熱を含んだ息が零れる。
    伏せた目は、潤んでいるようにも見えた。
    瞬きをするたび、熱を持った視線が彷徨って、うまく焦点が合っていない。

    否定するように首を振るが、その動きは弱く、震えが残っている。
    「……ごめん。僕が……おかしくて…」
    喉の奥で引っかかるように言葉が途切れ、息を吸い直す。
    その拍子に、首筋の赤みがはっきりと浮かび上がった。
    そのあと結局言葉は続かず、最後は吐息に紛れて消える。
    荒い呼吸と、熱を帯びた目だけが、言葉の代わりみたいに残っていた。

    「全然気にしてないから、いいよ。それよりさ……その状態のほうが心配なんだけど」
    声を落として、出来るだけ穏やかに言う。責める響きが混じらないように、意識して。

  • 41二次元好きの匿名さん25/12/18(木) 07:03:10

    好き!!!(挨拶)
    これって何て言うんですかね 甘イキ?余韻イキ?

  • 4225/12/18(木) 12:56:59
    Writeningwritening.net

    おまけのR18ルート

    ※パスは1に明記


    ダイスのせいです

  • 4325/12/18(木) 13:01:52

    >>41

    調べても単語が出てこなかったんですが、多分余韻イキ…?かもです

  • 44二次元好きの匿名さん25/12/18(木) 14:18:34

    藤堂くんえっち!いいですね、ナカでイッてる最中にマスターに入れられて更にイッちゃうの


    >>43

    わざわざ調べて頂いてありがとうございます

    これだって名称はなさそうなので自分は余韻イキって呼ぼうと思います

  • 45二次元好きの匿名さん25/12/18(木) 16:39:00

    大変エッチなぐだ平?ぐだ藤?ありがとうございます このイチャあまに何度も命を救われております……

  • 4625/12/18(木) 20:02:38

    ***おまけ後のひと時1***
    マスターと藤堂君+α


    落ち着いて、シャワーを浴びたり身支度が終わった後ののんびりタイム

    マ「本当…本当にごめん…反省してます」(食べ物や飲み物のお世話をしながら)
    藤「いいよ、もう。こっちが誘ったんだし」(ベッドから動けないのでマスターから貰う)
    マ「いや、もうちょっと配慮するべきだったなって…」
    藤「いいから、もうこの話は終わり!もう一杯水ちょうだい」
    マ「はい、どうぞ」

    藤「…それにしても、何だったんだろう、あれ。」
    マ「身体の感覚がおかしかった事?今まであんなことなかったよね?」
    藤「…ええと、いや、今までも多少は…あったんだけど…いつもじゃなくてたまに」
    マ「え、そうだったの!?」
    藤「うん、まあ…でもこんなに酷くなかった」
    マ「今まではどんな感じ?」
    藤「ちょ、ちょっとだけ過敏になってただけ。それだけ(目を逸らす)」
    マ「(あ、これ”ちょっと”じゃなかったんだろうな…)」

    ~~~
    (数日後)

    藤「この前のアレ、わかったかも」
    マ「?」
    藤「これ、この本にそれっぽいことが書いてあった。こっちの漫画も」
    マ「あの、この薄い本たちは…」
    藤「刑部姫さんたちに借りた」
    マ「やっぱり!!!」

  • 47二次元好きの匿名さん25/12/18(木) 20:07:16

    また薄い本から変な知識を!!
    可愛いね♡

  • 4825/12/18(木) 21:25:01

    ***おまけ後のひと時2***
    マスターと藤堂君

    (薄い本をパラパラめくる音)
    藤「これとか」
    マ「(開いたページを読む)へ、へえ… 『次の日、ふとした瞬間に勝手に身体が反応してドライで達する』…うわ、結構しっかりした反応なんだ」
    藤「この本読んだだけだと半信半疑だけど、別の本でも同じネタがあるし。それに、この前の…あれ、まさにこんな感じだった」
    マ「あれからは平気?」
    藤「一応…」

    マ「なんであの時だけ過剰な反応だったんだろうね?」
    藤「それはこっちの本のコレとか、関係あるかも」
    マ「どれ?…ああ、”中で快感を得るには気持ちも大事”ってところ?」
    藤「気持ちというか感情と言うか……あの、道具、使っただろ」
    マ「(見た場面を思い出して固まる)」
    藤「最初はめちゃめちゃ緊張してたし、途中からは、その…かなり過敏になってた、と思う」
    マ「ああ…」
    藤「だから、過剰な感覚がいつもよりも長く…次の日まで残っていたのが原因かもしれない」

    マ「そっか、じゃあこれからは気を付ければいいか。…いいかな???」
    藤「具体的には?」
    マ「…うーん…」
    藤「内容によっては却下」
    マ「難しくない!?」
    藤「(にっこり)」
    マ「道具使わないか回数を抑えるくらいしか、あ痛っ!」

  • 49二次元好きの匿名さん25/12/18(木) 23:48:25

    このレスは削除されています

  • 50125/12/18(木) 23:51:38

    ***おまけ後のひと時3***
    マスターと藤堂君+技術顧問

    顧問「うーん、そういうのは婦長に聞いたほうがいいんじゃないかなあ」

    藤「それも考えたんですけど、それは最終手段で」

    顧問「なんで?」

    藤「おそらく『間隔をあける』とか『触れ方に配慮する』とか言われる気がしますが、指導を守れるか分からな むぐっ」
    マ「(藤堂君の口を塞ぎながら)あの、割と真剣な相談なんだよ」

    顧問「ふむふむ」

    マ「例えばさ、休みの日に突発的に特異点が発生して適正サーヴァントが藤堂君だったとする。
      で、現地に行って戦闘になったときに、いきなり身体が過敏になったらマズいと思うんだよ。
      本当に洒落にならない」

    顧問「それはまあそうだね」

    マ「だから、身体の感覚をマヒさせるとか、一部の感覚だけ遮断するとか、そういう礼装とか装備とかできないかな、と…」
    藤「(マスターの手を口から外す)一応、この後医神の所にも相談しに行く予定です」
    マ「それでも手段が無ければ、魔術に強い人達にも…ルーンとか…」

    顧問「医神やルーンが対応できるかどうかはともかく。
       確かに特別にリソースを消費してパワーアップしている藤堂君の戦闘に支障があれば、作戦自体にも多大な懸念がある。
      よし、何とかできないか考えてみよう!」

    マ「ありがとう!」
    藤「すみません、よろしくお願いします」

  • 51125/12/19(金) 00:00:05

    ***おまけ後のひと時4***
    藤堂君と技術顧問

    藤「すみません、ちょっといいですか」

    顧問「あれ、どうしたの藤堂君?忘れ物?」

    藤「いえ、少しご相談があるので戻ってきました」

    顧問「何かな?さっきの話とは別件かい?」

    藤「はい。別の相談で…あの、マスターには内密にして欲しいことなんですが」

    顧問「…訳ありっぽいね。分かった、約束するよ。それで、何かな?」

  • 52二次元好きの匿名さん25/12/19(金) 06:17:17

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん25/12/19(金) 13:48:59

    待機中

  • 54二次元好きの匿名さん25/12/19(金) 21:18:05

    このレスは削除されています

  • 55125/12/19(金) 21:57:03

    ***相談後1***
    マスターと藤堂君+技術顧問


    顧問「出来たよ!さっそく着てみて!!」

    マ「これ、すごくシンプルな服?にしか見えないね」
    藤「魔術礼装みたいな装飾も無い、本当に普通の服っぽいですね…」

    顧問「だって戦闘や回復の機能はいらないから、感覚遮断だけに特化すればよかったからね。薄いインナーと同じだよ。服の下に着ても違和感ないと思う」

    藤「じゃ、ちょっと着てきます」

    マ「あれ、着ればいいだけなの?」
    顧問「そうそう。一部でも着てれば全身効果あるよ。もし破れたりしても大丈夫だし、不安なら靴の中とか手首とか、他の所につけてもいいし。
      表面の感覚も、内部の感覚も同じように遮断するように設定してるから」
    マ「万能すぎる…」
    顧問「まあ、私が作るものだからね!」

    藤「着てきました。本当に普通の服と同じなんですが…」

    顧問「とりあえず何時間か試着してほしいな。ちゃんと機能してると思うけど、念のため試してみてね。で、後でまた来て!」

    マ「ありがと…試す?」
    藤「はあ…?」

  • 56125/12/19(金) 22:47:09

    ***相談後2***
    マスターと藤堂君

    (部屋に戻った二人)

    藤「(ぴょんぴょん飛び跳ね)うん、特におかしな感覚は無いけど…うーん」
    マ「何か気になることある?」
    藤「気になるっていうか、今は普通の状態だから…」
    マ「ああ、確かに。前みたいに過敏な状態じゃないから、本当に感覚が遮断されてるのか分からないか」
    藤「そう」

    マ「藤堂君、ちょっとこっち来て」
    藤「?うん」

    (ギュッと抱きしめ)

    マ「どう?普段の時と何か違いはある?」
    藤「いや、いつもと同じ。体温とか手のひらの感覚とか、ちゃんと伝わってるよ」

    マ「確か全身に効果があるって言ってたっけ。じゃあこれは?」
     (首筋や腰を撫でる)
    藤「…あ、いつもと違う。”触られてるなあ”って感覚しかない」
    マ「なるほど」
    藤「髪も撫でてみてもらっていい?」
    マ「うん」
    藤「………(ほわほわした表情)」
    マ「藤堂君?」
    藤「こっちはいつも通り気持ちいいよ」
    マ「てことは、少しでも性的なニュアンスがある接触だと感覚が遮断される、とかなのかな…」

  • 57二次元好きの匿名さん25/12/19(金) 23:05:17

    普通のイチャイチャに関して問題ないなんて、さすがダ・ヴィンチちゃんすごいものを作りよる

  • 58二次元好きの匿名さん25/12/19(金) 23:17:21

    いちゃいちゃしてて最高

  • 59125/12/19(金) 23:27:55

    ***相談後3***
    マスターと藤堂君


    マ「ちょっとごめん、こっちも試しに触っていい?」
     (服の上から胸を撫でる)
    藤「んん、こっちも特に…撫でられてるのは分かるけど、それだけ」
    マ「『一部でも着ていれば効果がある』とか『内部の感覚も』っていってたから、服を着てない部分でも効果があると思うんだけど…」
    藤「まあ、そうじゃないと戦闘中に役立たないし」

    マ「服の下から触ってみてもいい?」
    藤「う、うんどうぞ」
    (裾から手を入れて軽く胸を撫でる)
    藤「あ、本当になんともない。なんともないのが逆に変に思うほど平気」
    マ「これは?」
    藤「…いつもなら、ここまで触られたらとっくに反応してると思うよ…」

    マ「念のため聞くけど、まったく触られてる感覚が無い、とかじゃないよね?それだと怪我したときに気付かなくて危ないから」
    藤「うん。皮膚の感覚はちゃんとある」
    マ「よかった。じゃあ、特に問題なく使えそうだね。後でまた報告に行こう」

  • 60125/12/20(土) 00:32:00

    ***相談後4***
    マスターと藤堂君+技術顧問

    マ「試してきたよー。特に問題ないみたい」
    藤「普通の感覚はそのままなので、便利ですねこれ」

    顧問「よかった~!まあ問題ないのは当然なんだけどね!
      で、一つだけ言ってなかったことがあるから今から説明するね」

    マ「?」
    藤「?」

    顧問「その服ね、『感覚を遮断する』っていうのは正確な表現じゃないんだ。正しくは『感覚が伝わるのをすご~く遅らせる』服なんだ」

    マ「『すご~く遅らせる』…?」
    藤「あの、もう少し分かりやすい説明をお願いできますか?実際、なんともなかったんですが…」

    顧問「そうだね、分かりやすく言うと…。今、藤堂君にデコピンして、その痛いという感覚が遮断された、とする。
      で『全く痛みを感じなかった。終わり』だとその感覚を遮断して無かった事にした、ってことだね」

    藤「はい」
    マ「そうだね」

    顧問「ただこの服の正確な効果は『すご~く遅らせる』なんだ。だから、感覚を戻すと決めた時に改めて同じ痛みがくる」

    藤「……………………………………………………………………………………………えっ!?」
    マ「ちょっとまって!?消えるんじゃないの!?!?」

    顧問「消えないよ。一旦遮断するだけで後から来る」

  • 61125/12/20(土) 00:36:42

    ***相談後5***
    マスターと藤堂君+技術顧問

    藤「な、なんでそんな機能にしたんですか!?」

    顧問「だって『刺激だけ遮断して普通の感覚はそのまま』だと繊細すぎて設定や調整が難しいんだよ。
      逆に『全部の感覚を遮断する』だと簡単だけど、それは問題がありすぎるし」

    マ「それはそうだけど…」
    藤「あの、『感覚を戻すと決めた時』というのは?脱ぐだけじゃないんですか?」

    顧問「ああそれも不慮の事態に備えてだね。特異点で何かあって服を脱がないといけなくなった時とか、
      服の生地が全部取れちゃった時にいきなり感覚が戻ったら困るだろう?
      あくまで自分の意志で『今から感覚を戻す』というスイッチを入れるイメージだね。
      心の中で思ってもいいし、何か特定の行動…例えば深呼吸するとか、マスターとハグするとかでもいいし」

    マ「その配慮は嬉しいけど、結局刺激は消えずに戻ってくる、ていう理解でいいのかな」

    顧問「そうです」

    藤「先に!!!言って欲しかったんですけど!!!!!!!!!!!!!!!!」
    マ「ま、まあこれから心配がなくなる…と思えば…」

    顧問「それじゃ、しばらく試してみて、何か問題があればまた教えてね☆
      あ、今日これから『感覚を戻す』も試してみてね!」

    マ「藤堂君、とりあえず部屋に戻ろうか…」
    藤「(頭を抱える)」

    ******

  • 62125/12/20(土) 07:00:57

    ***相談後・おまけ1***

    藤堂君視点
    ~~~

    部屋に戻った後、二人とも何か言おうとして、結局黙ったまま時間だけが進む。
    すごく気まずい。
    だって結局、ああいう…身体が勝手に反応してしまうことには変わりないってことだから。
    まあ、不意に起こる事が無くなって、コントロールできるようになるのは助かるけど。


    まだ夕方で、消灯までは少し時間がある。
    これから食堂に行く予定だったし、廊下で誰かに呼び止められるかもしれない。
    予定外の事が起こって誰かと一緒に過ごすかもしれないし。

    試しに『感覚を戻す』事をしたいんだけど…。
    なにせ、服の機能を試したときに、ちょっとだけ余計なことをしちゃったし。
    今するか、一日の終わりに改めてするか、どうしようかと思考を巡らせる。
    どちらにしても一人になりたかった。
    ふと意識を戻すと、こちらを見つめるマスターと目が合う。

    「どうしようか?」と問いかけられた。

  • 63125/12/20(土) 09:26:21

    ***相談後・おまけ2***

    僕は少し考える時間を取ってから、答えた。
    「今から感覚を戻すのを試したいんだけどいいかな?もし問題があったらすぐに相談しに行けるし…」
    「うん、そうだね」と小さく頷かれる。

    まずは、感覚を切り替えるスイッチをどうするか。

    さっき例えで提案された『ハグ』だとマスターがいない時に出来ないから、『深呼吸』の方で良いかな。
    1回だけだと事故りそうだから3回続けてとか。
    それにスイッチは後から意識的に変更できるとも言われたから、とにかく一度お試しでやってみたい。

    そうマスターに相談したら、いいんじゃないかなと頷かれる。

    同意をもらえたことで少し安心し、「じゃあ、試してみるから一人にしてほしい」と伝えた。
    予想外だったのか、マスターは少し驚いた顔をする。
    一緒にいてくれるつもりでいたらしい。
    その気持ちはありがたいけど、恥ずかしさを考えるとさすがに無理で、丁寧に辞退した。

    大丈夫かどうか迷うような表情を浮かべたまま、マスターは静かに部屋を後にする。
    どこか別の場所に行くのではなく、隣同士の部屋だから問題ないとは思うんだけど。
    去り際まで、気がかりそうだった。

  • 64125/12/20(土) 12:24:51

    ***相談後・おまけ3***

    部屋に一人になると、急に音が減った気がした。
    壁の向こうにはマスターがいる。もし耐えられなくなったらすぐに手助けに来てくれる。
    それが分かるから、僕は深く息を吸った。

    万が一のことを考えて、僕はベッドの傍に座った。
    倒れるような事は無いと思うけど力が入らなくなるかもしれないから、本当に大丈夫だとは思うけど、念のため。

    感覚遮断の効果のある服はインナーとして一番下に着ていたので、上半身の服を全部脱いで傍に置き、恐る恐る意識を集中する。
    ”皮膚や内部の感覚を、スイッチで切り替えるように”
    そう言われたけれど、初めてのことで何処にどう意識を向ければいいのか掴めない。
    僕はただ、静かに考えを巡らせた。






    ・・・
    (マスター視点)

    藤堂君が部屋に籠ってそろそろ10分経つ。
    ドアを閉める前、「もししばらくしても出てこなかったら部屋に入るから」と伝えてはいる。
    でも具体的に何分経ったら、というのは決めてなかったんだよな…。

    今日は、撫でる手に少しだけ気持ちよさを込めるつもりで、でも行き過ぎないように気をつけながらそっと触れただけのつもりだったんだけど。

    作られたものの性能については絶大な信頼をしているけれど、もしかしたら予想外の事態になっているのかも。
    そう考えて、部屋に入ることにした。

  • 65125/12/20(土) 14:01:52

    ***相談後・おまけ4***

    扉を閉め、部屋の中をぐるりと見渡した。
    すぐに藤堂君を見つける。

    床に座った彼は、ベッドのわきに座ってもたれかかるようにうずくまっていた。。
    両手でシーツを握りしめ、丸めた素肌の背中が呼吸に合わせて上下している。
    呼吸は浅く、どう聞いても明らかに熱を持て余している様子だった。

    ドアの音と近づく足音が聞こえたのだろう、ベッドに顔を伏せていた彼がゆっくりとこちらを見た。
    熱のこもった赤い頬が露わになる。息は柔らかく、表情はとろけるように甘い。
    薄く涙がにじんだ瞳が、こちらを見た瞬間ほっとしたように揺れた。

    「ぁ…ますたー…」

    耳に入ってきた声は抑えきれない熱を含んだ、最中のそれと同じ響きだった。

    思わず傍に寄って触れそうになるものの、すぐに躊躇して手の動きを止める。
    彼は今は耐えている最中なのか、もう落ち着きつつあるのか。それとも、すでに限界なのか。
    いくつもの考えが浮かんでは消えていく中、彼がベッドから身を離して縋るようにこちらへにじり寄ってきた。

    慌てて腕を伸ばし、その身体を抱き留める。
    「大丈夫?辛い?」と声をかけるが、返事はない。すぐそばで、「ぅ…」というかすかなうめき声と甘く乱れた呼吸が耳に触れるだけ。
    身体を撫でると刺激が彼の負担になりそうな気がして、そっと抱きしめ返すだけに留めておいた。

  • 66125/12/20(土) 15:27:55

    ***相談後・おまけ5***

    ―――息が穏やかになり、彼の身体の熱も収まった。
    改めて顔を見ると、申し訳なさと照れが混じった表情で言葉を探している。
    彼にそっと上着を羽織らせ、藤堂君の体を支え直してからゆっくりと体勢を変えた。無理のない姿勢で座り直し、ようやく顔を見て話せる位置になる。
    まだ頭がはっきりしないのか、曖昧な表情のまま、それまでの状況を話し出した。そのまま耳を傾ける。

    彼の話を要約するとこうだった。
    「感覚を遮断していた間の刺激が一度に来た」

    今日は服の性能を確かめるために、ほんの軽い気持ちであちこちに触れていた。
    身体をなぞり、胸を撫で、足やお腹へと移っていく…という、ある意味慣れているはずの流れ。あくまでお試しの触れ合いだった。
    その場では何も起こらず問題ないと思っていたのに、そのときの刺激がまとめて直接身体に押し寄せてきそうだ。
    『時間差で刺激が来る』とは聞いていても、まさかすべての刺激が一度に来るとは想定していなかったので、いきなり逃げ場なく身体に響いてしまったそう。
    そうつぶやく彼は「…本当にびっくりした…」と呟く。
    まあ、身体のいろいろな所を触れてしまったのは悪手だった。あとから刺激が来ると知っていたらそこまではしなかったのに…。

    服の性能自体はスゴイと思う。なにせ着ていれば本当に快感を得る刺激は感じずに済むみたいだから。
    「問題はそのあとかな」と、二人で悩んで―――結局、『マスターに傍にいて助けてもらう』となった。
    もうそれしかない。

    「翌日、身体が敏感になってしまったら困る」という理由で作った服なので、実際に着たその日に感覚が過敏になるかどうかは分からない。
    いつ服を着るかは藤堂君の感覚に任せるとして…。
    感覚を遮断する服を着て一日を過ごし、夜に何もなければそれでよし。感覚を戻したあとに藤堂君が乱れるようなら…それなりに対処する。

    …という、ある意味『刺激ガチャ』とでもいう方法になってしまった。
    藤堂君の顔を見て様子を伺うと、「まあ、昼間の行動に問題がなければいいよ……そのあと、マスターが対処してくれるなら」と少し気を抜いたように答えてくれた。

    少なくとも、藤堂君がひとりで抱え込む状況じゃなくなった。それだけで、今は良しとしよう。

  • 67二次元好きの匿名さん25/12/20(土) 16:37:26

    …感覚遮断と時間停止の合わせ技的な

  • 68125/12/20(土) 21:11:16
    Writeningwritening.net

    相談後・おまけのおまけ

    4→5の間の、藤堂君の欲を発散させるお手伝いの話。

    読まなくても支障はないです


    ※パスは1に明記

  • 69二次元好きの匿名さん25/12/20(土) 21:23:21

    やっぱり感覚遮断穴だった!!ありがとうございます!!!

  • 70125/12/21(日) 01:02:19

    ***とある特異点解決後の話***

    ▶技術顧問からの複数サーヴァントへ呼び出し、お説教開始。

    顧問「も~!いくらお酒の席だからって羽目を外しすぎ!
      マスターが本気で怒ったっていうからさ、何事かと思ったじゃないか。

      彼、基本的に気心の知れた相手にはフレンドリーで、多少のことなら笑って流すだろ。
      気難しいサーヴァント相手にも根気強く付き合うし、ある程度は我儘も受け入れるタイプだ。
      冗談半分で怒ることはあっても、滅多な事が無い限り本気でキレるタイプじゃないってわかってるよね?
      つまり”滅多な事”だったって分かった?

      □□□□□、□□□□□□□、□□□□□、□□□□□□□。

      まあ君たちにとっては何気ないやり取りだったかもしれないけどさ。
      あと、藤堂君にも謝っておいてね。マスターと一緒にいる時にね!」

      
    ・・・・・・

    □□□□□□ はサーヴァント名ですが、特定のキャラ設定は無し。
    カルデアに居る誰か、くらいのイメージです。

  • 71125/12/21(日) 01:30:48

    藤堂君視点
    ~~~

    何でこうなったんだろう…
    グラスに入った甘めのお酒を少しずつ口に運びながら、僕は静かに後悔していた。

    周りには明らかな酔っ払い状態になったサーヴァント。
    国も居た時代も年齢もバラバラな、ここカルデアしか一堂に集まらない面々だ。

    ただ、今のこの場所はカルデアじゃない。


    先日解決した特異点は、温泉宿も兼ねた大きめの娯楽施設だった。
    すぐに撤収する必要はなく、しばらくはここで過ごしてもいい、というお達しが出ている。
    そのため、様々なサーヴァントが代わる代わる滞在し、思い思いに癒されていた。

    今日も大広間での夕食が宴会のような騒がしさだった。歌や踊りや一発芸など、本当にすごい。
    マスターは特異点解決の疲れを癒すためと、実際に解決に駆け回った任務担当のサーヴァント達との慰労を兼ねて
    部屋の一角のスペースで落ち着いて食事を楽しんでいる。

    僕は今回は特異点の解決に関わっていなかった。
    だから後からこの特異点にのんびりしに来た立場で、今はマスターと少し離れたところで別のグループと食事をしていた。

    ―――それだけで済むはず、だったのに。

  • 72125/12/21(日) 07:05:42

    畳敷きの大広間は机がきれいに並んでいる。
    最初は皆それぞれ自分の席に座って、思い思いにくつろいでいた。
    けれど時間が経つにつれ、席を移動したり、机を端に寄せて数人で集まったりして、自然と配置が崩れていった。

    僕も最初は新選組の皆と一緒に座っていたけれど、今では皆がそれぞれ別の相手と話している。同じ国の人だったりカルデアで縁が出来た人だったり。
    今僕の近くにいるのは、食事とお酒をゆっくり楽しんでいる、どちらかといえば落ち着いた雰囲気のグループだった。

    食事もひと通り終わり、酒もほどよく回ってきた。
    グラスを置いて小さく息をつきながら、さて、この後はどうしようかと考える。
    周りを見渡すと、あちこちで話の輪ができていて、笑い声や喧噪が混じり合っている。
    僕はといえば、特に行く当ても無い。このままここに座っていようか、それとも誰かの輪に混ざろうかな…とはっきりしない気持ちのままぼんやりとしていた。

    そんな時だった。
    一人、また一人と、何人かが自然と僕のそばに寄ってくる。
    よく話すようになった人も居れば、今まで全然話したことが無い人もいた。

    気づけば、机越しではなく、随分と近い距離で声をかけられている。
    軽い挨拶から始まり、「さっきの話だけどさ」と誰かが切り出し、それを合図に、次々と会話が重なっていく。

    僕が話の中心になっているようだけど、何故か逃げ道を塞ぐように囲まれている。
    少しだけ戸惑った。

  • 73二次元好きの匿名さん25/12/21(日) 14:20:30

    ふ、不穏な空気
    怖い

  • 74125/12/21(日) 21:12:50

    「さっきの話」というのは、僕がマスターから贈られたバディ・リングの事だった。
    酒の席での話題に出たついでに見に来たようだ。
    今も右手にしていて、なんとなく気恥ずかしくなって手に視線を落とす。

    そこから、この場に集まった人たちがそれぞれの恋人の話をし始めて軽く驚く。
    何に驚いたかって、全員男で恋人も同性だったから―――というのと、何よりその相手にだった。
    生前から恋人だった、実は敵同士だった、ここカルデアで初めて会ってつきあいはじめた…と様々な恋愛事情を一度に聞いて軽く混乱した。

    「ここで恋人ができるってすごい奇跡ですね…」
    そう言うと、君の方がよほどだろうと言われて、思わず視線を逸らす。

    この場に顔を揃えているのは、それぞれの関係の片側だけ。結果的に、どの恋人関係も一人ずつが集まっている形になっていた。
    たまたま集まったにしては、揃いすぎている。

    そんな不自然な集まりに、疑問を抱いたその直後だった。
    話題はいつの間にか、恋人同士の距離感や、夜の過ごし方に触れ始める。
    酒の勢いもあってか、少しだけ踏み込んだ話が混じり始めた。

    そこで話題の流れと周りを囲まれた理由を唐突に察した。
    僕に聞きたいのは夜の話らしい。

  • 75125/12/21(日) 21:54:11

    聞きたいのがそちらの話だと分かった瞬間、僕は腰を浮かせた。
    集まった人の輪の外へ一歩踏み出そうとして、手首を取られる。
    反射的に視線を上げると、そんなすごく嫌そうな顔をしなくても、と指摘された。
    実際すごく嫌なので、あからさまに表情に出ているんだろうなとは思う。

    静かに首を振って告げた。
    「そういう話題に付き合うつもりは無いんです、苦手なので…。皆さんだけでどうぞ」
    マスターと恋人になっている今はともかく、生前は色事や艶事は元々苦手と言うか興味が無かったので、その手の会話はすごく苦手だ。話題を振られても正直困る。

    そう伝えても離してもらえず、力ずくで抜け出す算段が頭をよぎる。

    もう少しでも引き留められていたら、声を荒げていたかもしれない。
    そのタイミングで、数人が言葉を選ぶようにして”せめて少しだけ悩みごとを聞いてもらえないか”と頼んできた。

  • 76125/12/21(日) 23:13:43

    「え、悩みごと……僕に?」
    予想外で、一瞬言葉に詰まった。
    悩みを抱えても、自分で片づけてしまいそうな人たちばかりだ。そんな彼らが相談を持ちかけてくること自体が、意外だった。

    彼らの話を総合すると、どの恋人関係にも多少の悩みはあるらしい。
    深刻というほどではないが、放っておくのも落ち着かない、くらいの。
    そんな中、酒の席で雑多な話題が行き交っているうちに、ふとマスターと僕の話が持ち上がった。
    その話題をきっかけに自分たちの恋人の話へと移り、語り合っているうちに同性の恋人がいる者同士で集まり、そのまま自然に相談会の形になって僕の所へ集まった…ということだった。

    どうやら答えを出す先生役ではなく、話が転がる起点になっただけらしい。
    男女間ならともかく、同性は話を聞ける相手は限られている。だからこの機会に、という事だった。
    「答えられることがあれば、ですけど……それくらいなら良いですよ」
    そう言えば、軽く感謝されて酒の流れに戻っていく。もし悩みや疑問を言ってくれれば相談に乗る、とも言われた。

    とはいえ、あたりが喧噪に包まれていてもここは宴会場。
    周りに他のサーヴァントが大勢いる中、あまり踏み込んだ会話はしにくい。
    場所を変えることになり、移動するため食べ物や飲み物を各自手に持つ。
    同じフロアの別の小部屋に行こうと話がまとまった。

    僕も新しくお酒を注いだグラスを手に持ち立ち上がる。
    すると、一人から”そういえば、床事ではどちらが受け身になる?”と何気なく聞かれた。

    「………やっぱり会話に加わるのはやめていいですか」
    と立ち去ろうとすると、逃がさないという風にぐいぐい引っ張られてしまった。

  • 77125/12/21(日) 23:44:46

    大広間を出る前に、マスターのいる方へ目をやった。
    先ほどと変わらず、サーヴァントたちに囲まれて賑やかに食事を続けている。

    この特異点に来た時に少しだけマスターと話をしたけど、それ以降は特に一緒にならなかった。
    特異点の場合、マスターの部屋はだいたい相談で集まる集合場所になる。来客も多い。
    だから特に部屋に遊びに行くつもりも僕が予約した部屋に招くつもりも無かったから、わざわざ一言伝えなくてもいいか…。

    そう判断して大広間を出た。

    向かったのは、同じフロアの廊下沿いに並ぶ小部屋の一つだった。
    仕切りには障子が使われているが、その下半分はガラスになっている。中に座ると、ちょうど首から下が廊下側から見える位置だ。
    外から中の様子が分かるし、こちらからも廊下の行き来は見える。
    いくつかの小部屋には、すでに別のグループが入っていた。

    靴を脱いで部屋に上がり、まずは一口、喉を潤す。
    それぞれ飲み物や食べ物に手を伸ばしながら、途中で途切れた話を再開させた。場所を移したことで、話題も少しずつ踏み込んだものになっていく。

    皆は僕が受け身であることをなんとなく察したらしい。
    実際は体格や身長で決まるわけではないし、人によってはどちらもするらしいんだけど。
    何故そう思ったのか問えば”…色気?”と言われて首をかしげる。
    僕、成人男性だし、色気のある顔じゃないと思うんだけど…。
    そう呟くと、聞いていた面々が何故か黙り込む。なんでだ。
    マスターに愛されてるんだな、とも言われた。

  • 78125/12/22(月) 00:18:53

    早速、”こんなことがあったんだけど、どう思う?”と問いかけられた
    そのひとの恋人に「一緒に温泉に入ろう」と誘うと断られたそうだ。他人の視線がある場所は落ち着かないと言っていたらしい。

    まわりの意見は”なんでなんだ?””そういえばうちも…””以前は普通に温泉も入ってたのに、今回貸し切りじゃないと入らないと言われて困った”
    等々、疑問しかない様子。

    皆が疑問ばかり口にする中で、僕だけが「ああ……」と小さく息をつく。
    その反応だけで、視線が一斉にこちらへ集まった。

    僕も心当たりがある。
    先日も技術顧問に相談しに行ったばかりだ。
    だから今回のこの宿も、客室付きの露天風呂があるちょっと高級な部屋を選んだんだし。

    でも理由を事細かに説明するのは…ものすごく恥ずかしいし、何よりその相手にも悪い気がする。
    だから、
    「不特定多数のいる空間で裸になるのが恥ずかしくなったんじゃないですか。他人の視線を意識するからだと」
    と曖昧にぼかして伝えた。
    嘘は言っていない。ただ理由を全部説明していないだけ。


    今度は今集まってるメンバーの恋人側のひとたち(多分、皆受け身の側)と話してみたい。
    悩みあるある、みたいな感じで語れるかも。

  • 79125/12/22(月) 01:02:28

    それからも、誰かが悩みを口にし、別の誰かが助言したり冗談めかして突っ込んだり、時には笑いが起きたりしながら話題は次々と入れ替わっていった。
    酒の進み具合は変わらず、次第に会話は脈絡を失いまとまりのない賑やかさになっていく。
    皆いい感じに酔いが回ってきてるな…。

    僕はちびちびとしか飲んでいなかったので、そこまで泥酔はしない。
    甘めのお酒はカルデアに来てから初めて飲んで以来気に入っている。
    マスターはお酒が飲めない年齢と聞いたので、部屋では飲まずにたまにこういう飲み会で味わっている。

    そろそろお開きにしてもいい頃だろうか。それとも、僕だけ先に抜けさせてもらおうか。
    そう口にしようとして、グラスに残った酒を一気に飲み干した。

    すると”それ、お酒っていうよりジュースじゃないか~?”とからかう声。
    「味は、まあそんな感じですね」
    と軽く受け流しながら、立ち上がろうとした、その時だった。
    不意に手首をつかまれ、まあまあと引き止められる。

    さすがに疲れが出てきて、半眼のまま手を振りほどいた。
    その声に引き寄せられたのか、横で別の話をしていた面々まで、こちらに寄ってくる。
    何をそんなに熱心に話していたんだろう――そう思った矢先だった。

    ”その体でちゃんとマスターの物を受け入れられてる?”
    と唐突に投げられた下世話な一言。一瞬、理解が追いつかず、次の瞬間には「はぁ!?」と声を荒げてしまう。
    何を言い出すんだ、この人たちは。

  • 80125/12/22(月) 06:34:36

    酔っているのは分かっている。分かっているけど、さすがに話題の振り方というものがあるだろう。
    こちらが露骨に顔をしかめても、誰一人として気に留める様子はない。そのまま会話は勝手に続いていく。

    ”最初は大変だったんじゃないか”
    ”自分の恋人も体格が小さめだから大変そうで”
    ”うーん確かに”
    ”いや体格よりもサイズ感では”
    等々。

    ……ああ、これは僕を揶揄っているわけじゃなくて、それぞれが自分の恋人を肴に盛り上がっているだけか。
    もういいかな部屋に戻っても。

    立ち去ろうとした瞬間、両手を掴まれた。

    「え——」
    引き寄せられ、誰かの胡坐をかいた膝の上に座らされる。
    向かい合う形ではなく、背中を預けるような位置だった。
    視界に相手の顔はなく、代わりに背中いっぱいに誰かの胸の温度が伝わってくる。

    両腕は掴まれたまま、逃げ場がない。
    驚きでその場に固まった。声も出ず、体も動かない。

    会話はまだ続いている。

  • 81125/12/22(月) 06:45:46

    固まって動けないこちらを気にも留めず、腕を掴んだまま背後と目の前の間で会話が続いている。
    これくらいの体格差、とか、そうそう、とか。
    腕を掴む力に、特別な含みはなかった。欲も、嘲りも、そこにはない。

    ただ説明しやすいから身体を掴まれている、会話の補足として。それだけだとは理解した。


    …まあ、それはそれとして。
    丁度説明するためだけに接触されているようだ、と理解しても、不愉快なのでとりあえず背後のひとから殴り飛ばそうと決めた。
    売られたケンカなら買うぞ。

  • 82二次元好きの匿名さん25/12/22(月) 07:34:15

    酔っ払い特有のこっちの話聞いてくれない感
    藤堂くん喧嘩買うの早い!流石の魁先生

  • 83二次元好きの匿名さん25/12/22(月) 16:34:30

    このレスは削除されています

  • 84125/12/22(月) 20:05:38

    (日中のコメ・保守ありがとうございます。ほぼ規制で書き込めないので助かります…!)

  • 85125/12/22(月) 21:53:59

    僕は膝の上から逃れようと、肘で後ろを突いて距離を作ろうとした。
    けれど腕が封じられていて、力が入らない。
    さすがにサーヴァントの力か、と舌打ちし、体を捻って無理やり顔だけを後ろへ向けた。

    顔を見て、手をはなせと反射的に言いかけたその瞬間。
    ”ちょうどこのへんまで…”
    と目の前にいたひとから手が伸び、指先がお腹をすっと撫でた。

    「っ、ひゃぅ」

    思わず、上ずった声がこぼれてしまう。
    触れられた場所が、ひどく覚えのあるところだったから。
    一瞬、別の手の温度が脳裏をよぎった…けど、甘さでも熱でもなくゾワっとした不快感だけがあった。
    だから身体が反応して、声が漏れてしまった。とはいえ、変な声だったことに変わりはない。
    声が途切れたあと、僕は何もできずにいた。驚きと恥ずかしさで身体が硬直する。

    何も言えないまま顔も耳も赤くなっているのが自分でも分かる。
    視界が滲み、慌てて瞬きをする。
    涙目になっているのに気づいて、余計に動けなくなった。

    前後にいる相手も周囲も同時に固まる。場に残ったのは、沈黙だけだった。

  • 86125/12/22(月) 22:32:54

    張りつめた沈黙が、室内を覆っていた。
    誰も動けず、息をする音すら重い。

    ――その静けさを切り裂くように、障子戸が勢いよく開いた。

    「っ藤堂君!!」

    迷いのない声とともに、マスターが飛び込んできた。

    マスターの視線が、僕に向けられる。
    掴まれた腕も、膝の上の体勢も、赤い顔も――全部、見られた。
    直後、背後へ引き倒されそうになる。僕の手を掴んでいた相手が崩れ落ち、その拍子に腕を引かれたのだ。
    「ぅわっ!?」
    背後へ倒されようとしたその直前、マスターが僕の手を強く引いた。

    次の瞬間、体勢が反転し、胸元に引き寄せられる。抱え込むような腕の中で、視界が遮られる。

    続けて、バタバタッと騒がしい音がした。
    何事かと視線を巡らせると、さっきまで目の前にいた人を含め、三人が揃って畳の上に転がっている。
    「えっ…え?」
    と混乱した頭でマスターの方を改めて見た。
    無表情。普段の柔らかさが嘘みたいに消えている。

  • 87125/12/22(月) 23:04:29

    マスターに抱きかかえられたまま今の現状に混乱していると、まだ魔術礼装を着ていることに気付く。さっき大広間での宴会でもこの礼装だった。
    そういえば今日はギリギリまで素材集めをするって言ってたな…と思い出す。
    そして、視界に入るマスターの手に令呪が消えている。
    そこまで気づいて、部屋の中がこうなっている理由が見えた。

    多分、部屋に入ってきて即ガンドを撃ったんだ。
    あとの三人は令呪でそれぞれガンドのような行動不能の命令をした、と考えれば辻褄が合う。

    …それにしても、マスターらしくないと思う。
    どれだけ驚いても、冷静に引き離し、話を聞いてから対処する。それが彼のやり方だったはず。
    問答無用でガンドと令呪を使うなんて…。

    ふと、先ほどまでの自分を客観的に考えてみた。
    膝の上に座った状態で、腕を掴まれて動けない。しかも前にいる相手がお腹を触っている。
    僕は顔が赤くて今にも泣きそうな表情。

    …あ、これ、もしかして襲われてるとか勘違いされた…?
    でも、彼らは酔っぱらっているとはいえ、信頼されているサーヴァントばかり。
    それは無いと思うんだけど…。
    付き合いの浅い僕でさえそう思うのに、マスターが勘違いするとは思えなかった。

  • 88125/12/23(火) 00:33:06

    マスターは何も言わなかった。
    ただ、僕の手首を掴んで立たせ、そのまま障子戸に手をかける。
    一度部屋を振り返り、倒れている面々に向かって言った。
    「後でまた来るから」
    それだけ告げて障子戸を開け、僕の手を引いて廊下へ出る。

    力は強くないし乱暴でもない。それなのに、逆らうという選択肢が最初から頭に浮かばなかった。
    誰ともすれ違わず、さっきまでの喧騒が嘘みたいに遠ざかって行く。
    手を引かれながら、僕は彼の背中だけを見ていた。いつもより少しだけ歩幅が大きくて、速い。

    少し歩いたところで、「そうだ」とマスターがふと足を止めた。
    いつもの調子で「藤堂君の泊まる部屋ってどこだっけ?送るよ」と続ける。
    さっきまでの緊張感が嘘みたいに消えていて、表情だけ見れば普段と変わらない。
    そういえばどの部屋に泊まるか伝えてなかったな、と場所を伝えると、そちらの方へ向かって歩き出す。

    今なら話しかけられるかと気を取り直し、まずはさっきのお礼を伝えた。
    本当に困っていたから助かった、と。
    そう伝えると、一瞬言葉を探すようにしてから、「遅くなってごめん」と静かに謝られた。

  • 89125/12/23(火) 01:06:25

    まさか謝られるとは思っておらず、ただ目を瞬かせる。
    今日は別々に過ごしていて、どこへ行くとも言っていなかったのに。
    それでも探して迎えに来てくれた、その事実だけで十分嬉しい。

    それから、何故迎えに来てくれたのか、なんであの部屋に居るのが分かったのか、という疑問を口にする。
    そう疑問を口にすると、言いにくそうに躊躇した後に言葉を発した。

    曰く、宴会場で僕の姿が見えなくなったのが気になったという。
    最初は、少し席を外しただけか部屋に戻ったと思ったらしい。
    けれど周囲を見渡しているうちに、『さっきまで藤堂君の周りにいたサーヴァント達も一緒に居なくなっていた』と気付いた。
    「それで、ちょっと変だなって思ったんだよ。みんな結構酔っ払ってたし」

    近くにいた人たちに、彼らと僕が別の部屋へ移動したと聞いて、なんとなく気になって探したそうだ。
    おそらく、僕は親しくない相手の部屋には行かないだろうと、大広間と同じフロアの小部屋のどれかだとあたりをつけた。
    入り口の障子戸は下半分がガラスになっているので、外からでもある程度中の様子が見える。

    そこで、どう見ても僕にしか見えない人物が、酔っ払いたちに囲まれて身動きが取れない状態でいるのが見えた。
    ふざけているにしては、様子がおかしかった。
    「だから、すぐ中に入ったんだ」
    淡々と、でも少しだけ声を強くして、そう言う。

    マスターの話を聞きながら、嬉しいという感情と同じくらい、居たたまれなさが膨らんでいく。

    そうこうしているうちに、僕らはいつの間にか部屋についていた。

  • 90二次元好きの匿名さん25/12/23(火) 06:41:27

    ほしゅ

  • 91125/12/23(火) 09:10:36

    部屋の前で立ち止まった彼が、繋いでいた手を離す。
    促され、キーでドアを開けて中へ入った。
    マスターも一歩だけ内側へ足を踏み入れたが、それ以上は進まなかった。

    「それじゃあ、ゆっくり休んでね」
    そう言って、彼は穏やかに微笑みながら、指で僕の髪を梳いた。
    表情は心配と優しさが同じだけ混ざっているように感じる。

    立ち去ろうとするマスターに、僕は「待って、少しだけ」と慌てて言葉をつなぐ。
    「さっきの、襲われたとか、そういうんじゃない。拘束はされたけど……多分、悪ふざけの延長で…」
    たどたどしく説明すると、あっさりと返答が返ってきた。
    「うん、心配するような事は無かったのは分かってる。でも見過ごせなかったからね」
    一瞬言葉に詰まったけど、嫌な誤解をされていない事だけは分かって安心した。

    「…まあ、藤堂君を連れ出すのを優先したから、もう一度戻って話してくるよ。まだ倒れてるだろうし、いきなり問答無用でガンドしたことを謝ってくる」
    そう言われれば引き留められない。
    この事が原因で、マスターと彼らの間にわだかまりが残るのは嫌だし。

    それはそれとして、「今度僕も一発殴らせて欲しい」と告げるとマスターは笑って了承した。

  • 92125/12/23(火) 09:44:03

    「じゃあもう行くね」そう言ったマスターが、ふと思い出したように付け加える。

    「部屋の露天風呂は入った?」
    「もう入った。あとは寝るだけだよ」
    宴会前に入浴はすませたので、今日はもう休みたい。

    その答えると、一歩近づいてきて抱きしめられた。
    髪と肩に顔を寄せ、確かめるように息を短く深く吸う気配。
    名残惜しそうに身体を離したあと、マスターは少し考え込むように黙った。
    「……やっぱり、もう一回風呂に入ってきて」
    理由を尋ねる前に、短く付け足される。
    「匂いがするから」

    「うん?いいけど」
    あれだけアルコールの中にいれば、匂いが残っても不思議じゃない。
    布団に匂いがつくのも嫌だし、もう一度入ってくるか。
    そう答えると、マスターは少し微妙な顔をしていたけど、すぐに目を逸らされた。

    去っていく背中を見送る。
    僕はそのまま部屋の奥へ進み、備え付けの露天風呂に身を沈めた。
    湯気の向こうで、考えは同じところを巡っていた。
    ――明日は、一緒に過ごせるだろうか。


    翌日、彼らが謝罪に訪れた。さすがに酔いすぎて失礼な事をした、と謝罪を受ける。
    しかも顛末をそれぞれのお相手にも知られてしまったらしく、
    お相手の皆さんから”殴っていいむしろ一発と言わず好きなだけ殴れ”と言われてしまって、予想外すぎて対応に困ってしまった。

    ~~~

  • 93125/12/23(火) 12:54:12

    ***余話(マスター→部屋に居たサーヴァント)***

    まず先に謝るよ。
    やり方が少し強すぎた、ごめん。
    そこは本当に悪かったと思ってます。

    でもね、理由を聞かずに皆を止めたこと自体は、謝罪しないよ。
    ああいう触れ方をしていて、彼が拒否した時点で、もう駄目。
    理由を聞く必要もない。

    この話はこれで終わり。
    もうそろそろ動ける?
    大丈夫そうだね。
    今日はもう休んでね。

  • 94125/12/23(火) 19:59:27

    ***余話(マスター&藤堂君)***
    藤堂君視点


    翌朝。控えめなノック音に、身支度を整えた手を止める。
    来客かと思いながら戸を開けると、そこに立っていたのはマスターだった。

    「おはよう。相変わらず早いね」
    「おはよう、ってそっちこそ。どうかした?」

    部屋に招き入れながらあいさつを交わす。
    「一緒に朝食に行こうと思って来たんだよ。もう準備も済んでるみたいだね」
    マスターは部屋の中を一瞬だけ見回してから、ふっと近づいてくる。
    距離が詰まると、昨日と同じように抱きしめられてから肩口に顔を寄せられる。

    「うん、大丈夫だね」
    「何が?」
    「匂い」
    あっさりと言われて、思わず瞬きをする。
    「そんなにお酒の匂いがきつかった?」
    昨日も自分ではほとんど分からなかった。ちゃんと風呂で流したつもりだったし。
    思わず自分の身体を確かめてから確認するように聞くと、マスターは小さく笑った。
    「それは最初から気にしてないよ」
    「え?」
    思わず問い返すと、マスターは何でもないことのように続ける。

    「昨日さ、藤堂君の身体に別人の移り香が残っていたのが嫌だっただけ。今はもう、ちゃんと消えてるね」

    あまりにも当たり前のように言われて、返す言葉が見つからない。
    照れて戸惑う僕をそのままに、マスターは穏やかに「朝食に行こう」と促し、部屋の外へ連れ出した。

  • 95二次元好きの匿名さん25/12/24(水) 00:09:47

    保守

  • 96125/12/24(水) 06:08:31

    ***余話(藤堂君・技術顧問)1***

    ちょっと要注意ネタ(>>51 >>78




    藤「相談内容に合いそうな本を持ってきました。このあたりとか」


    顧問「へえ、これ刑部姫から借りてる本だね。マスター君が言ってたよ。君、相当読み込んでるって。ふむふむ」


    藤「率直に言うと……僕、その、胸のあたりが少し過敏になっていて。服に触れるだけでも、気になってしまうんです」


    顧問「なるほどね~あるあるネタなんだ(パラパラめくる)。触られる刺激が続くと、過敏になるし形も目立つようになる。医学的にもおかしくないね。でも、さっきの相談事と同じ解決策でよくないかい?要は刺激を完全に遮断できれば済む話だし」


    藤「それを完成するのを待てたらいいんですが……その、もっと簡単に……日常的に使える物が欲しくて」


    顧問「簡単、ね。貼るタイプとか、覆うだけの物じゃ足りないかい?この本だと絆創膏貼ってるみたいだけど」


    藤「あ~その…。それも試したんですが、落ち着かなくって…。シミュレーターとか微小特異点の戦闘で服が破れたり捲れたりした時に見られたら、他の人たちから5度見くらいされそうな気がする」


    顧問「まあ、分かる人には一発で分かるだろうね。余計な想像までセットで」


    藤「そんな目で見られるくらいなら、貼らない方がましです」


    顧問「まあこれは外からの刺激が原因だから、対処は簡単だよ。感覚を鈍らせる塗り薬でもいいし、さらしみたいに胸を固定するものでも不自然じゃない」


    藤「お願いします」


    顧問「それにしてもこんなエロ同人誌のようなお悩み相談されるとは思わなかったよ」


    藤「僕もこんなエロ同人誌のような相談をするとは思いませんでした」

  • 97125/12/24(水) 11:48:02

    ***余話(藤堂君・技術顧問)2***  ※引き続きちょっと要注意ネタを含む

    顧問「できたよ~!ほら、これ。感覚を少し鈍らせるタイプで即効性はあるし、匂いも残らないよ」

    藤「ありがとうございます。助かります。これなら、日常でも使えそうですね」

    ・・・
    (藤堂君→仲良くなったサーヴァントの面々)

    はい、これ。詳しい説明は省きますが、摩擦対策用です。いえ、質問は受け付けていません。必要そうだと思っただけなので。
    ……察していただけたなら、それで十分です。こっちは予備です。深い意味はありません。
    もし無くなった後に必要なったら、直接技術顧問に貰ってください。すぐ察してくれると思うので。

    ・・・
    (藤堂君・マスター)

    マ「最近、色んな人と話してるよね。この前もお茶会したって言ってたし」
    藤「うん。……皆、同じ立場なのに、今まで話せる相手がいなかったみたいで」
    マ「同じ立場?」
    藤「恋人がいて、相手が同性でしかも受け身同士、っていう状況。自分だけだと思ってたひとが多かったみたいだよ」

    マ「あ~この間の特異点で酔っ払ったメンバーのお相手の皆か。なるほどね。だから集まってるんだ」
    藤「ああ、色々話せる相手ができて、少し楽になったって。悩みとか、惚気とか……」
    マ「惚気?」
    藤「……結果的には。相手の良いところを語り合う流れになってたかな」

    マ「聞いてるだけで幸せになりそうだね」
    藤「皆、すごく嬉しそうだったよ。言うのは少し照れるけど」
    マ「(自分の事をなんて言ってるのか気になるけど絶対言わないだろうなという顔)」
    藤「(思い出し照れ)」

  • 98二次元好きの匿名さん25/12/24(水) 16:28:47

    保守

  • 99二次元好きの匿名さん25/12/24(水) 21:17:19

    保守

  • 100125/12/24(水) 23:17:25

    ~~~
    ○月〇日

    部屋に戻ると、満ちる雰囲気がいつもより静かで重い。理由はすぐに察しがついた。
    視線を向けた先に、藤堂君が第二再臨の姿でベッドに腰かけていた。ぼんやりとした眼差しが、部屋のどこにも焦点を結ばないまま留まっている。

    「今日はその姿なんだね」
    声をかけると、藤堂君は静かにこちらを見る。
    「うん。なんとなく、今日はこのままでいたくて」

    シミュレーターで戦闘訓練をするとは言っていたが、この姿とは聞いていなかった。
    他のサーヴァントは再臨によって使えるスキルが変わることもあるが、だいたいはその時の気分で決めているパターンが多い。

    彼の場合、普段の生活では決まって第一再臨の洋服を身にまとっている。戦闘の場では、第一再臨か第三再臨の姿になることが多かった。
    ただ、ごくまれに第二再臨の姿になることがある。
    本人にも正確な理由は分かっていないらしいが、心の調子を整えるためなのかもしれない。

    過去は受け入れているはずなのに、不意に残る激情が蘇る。その感情を鎮めるために、戦闘や訓練を選んでいるように見えた。
    まあ、戦闘中は発言に棘が出るが、そうでないときは特別な違和感もなく会話が成り立っている。
    たしか特異点で事件が解決した後も、第二再臨の姿で普通に会話しているのを見た気がするし。

    そっと彼の傍に近づいてみる。
    拒む気配はなかったので、少しだけ距離を残したまま、隣に腰を下ろした。

  • 101125/12/25(木) 05:37:45

    藤堂君は召喚されて間もない頃から、第二再臨の姿になると戦闘後すぐ部屋に引きこもっていた。
    理由は、聞かなくても察しがついた。だから無理に引き留めたことはない。
    こういう関係になった後も、しばらくは変わらなかった。
    彼は第二再臨になった後、必ず自分の部屋へ戻っていく。
    一人でいたいのだろうと分かっていても、その背中を見送るたび、胸の奥に小さな寂しさが残った。

    それでも、明らかに様子がおかしい日が続いたことがある。
    自虐的な言葉ばかりを口にし、表情もどこか追い詰められていて──さすがに放っておけなかった。

    彼の部屋を訪ね、「君は必要な存在だ」と、何度も何度も伝え続けた。それはもうしつこいくらいに。
    すると藤堂君は、強い口調でそれを拒んだかと思えば、次の瞬間には一転して必死に謝り始めた。感情が追いつかず、揺れ動いているのが痛いほど伝わってくる。
    そして、耐えきれない様子で吐き出した。
    この姿の自分は「見せてはいけない姿」。期待を裏切ってしまいそうな、失望させるだけの存在なのだと。

    きっと、ずっと押さえ込んできた本音だったのだろう。

    その言葉が発せられるたび、何度も何度も伝えた。
    「それでも君は必要な存在だよ」
    「その姿も含めて、ここにいてほしい」
    「期待を裏切るなんて思わなくていい」
    「藤堂君は、藤堂君のままでいい」

    毎回、返事はなかった。代わりに、自分の部屋に引きこもる時間が減った。拒むことも逃げることもせず、こちら側―――自分と藤堂君しか入れないこの部屋―――に居る時間が徐々に延びていく。
    それが、彼の精一杯の返答のようだった。

  • 102125/12/25(木) 05:47:21

    今、隣にいる彼へと視線を向ける。
    ぼんやりとしたその眼差しは、逆に言うとこの姿でも気を許してくれている証。
    警戒も拒絶もない。ただ、静かにここにいるだけ。
    それが、どれほど特別なことなのかをもう知っている。

    そのうち落ち着いたら第一再臨の姿に戻すのだろう。けれど、まだこの姿のままでいるということは…。

    脅かさないよう、ゆっくりと手を伸ばす。
    そっと右手を取ると、藤堂君は一瞬だけ指先を震わせ、それから抵抗もせずに静かに目を閉じた。
    包み込むようにその手を握り、もう片方の手で髪を撫でる。熱を分け合うように、何度もゆっくりと。

    最初はただ触れられるままだった身体が、次第に小さく揺れ始める。緊張がほどけるように肩が落ち、呼吸が深くなっていく。
    安心したように、うとうとと瞼が閉じていった。
    やはり戦闘訓練でそれなりに疲れていたらしい。

    その小さな揺れを支えながら、そっとこちらへ引き寄せる。
    膝の上に頭を乗せると、藤堂君は小さく身じろぎしてから逃げることなく落ち着いた。
    すうすうと、穏やかな吐息。
    何も言わなくても、ここが安全だと信じてくれている。

  • 103125/12/25(木) 06:17:38

    第二再臨の姿になることが多かったのは、もしかすると彼なりの試し行為だったのかもしれない。
    この姿でも、どこまで許されるのか。
    どこまで受け入れてもらえるのか。

    それを意識していたのか、無意識だったのか──あるいは、彼自身が気付かないまま確かめていたのかは分からない。
    ただ、その姿の自分もまた自分でしかなくて、切り離すこともなかったことにもできない一部だということを、彼は嫌というほど分かっていた。
    だからこそ、そのすべてを抱えたままそばにいていいのかを、不安に思っていたのだけは確かだ。

    その不安が溶けきるまで、安心していいのだと覚えてしまうまで、何も言わずにこうして受け止める。
    包み込むように添えた手も、髪を撫でる指先も、すべては同じ意図だった。
    ここにいていい。それだけを、触れるたびに伝える。

    藤堂君は眠っている。
    けれど、完全に無防備というわけではない。
    わずかに力の入った指先や、浅く揺れる呼吸が、まだ意識の端に留まっていることを教えてくれる。
    何かあればすぐに覚醒して離れていってしまうだろう。

    膝の上の重みを受け止めながら、そっと撫で続ける。
    愛されているのだからここにいていいのだと、身体が先に覚えてしまうまで。

    ~~~

  • 104二次元好きの匿名さん25/12/25(木) 12:27:47

    このレスは削除されています

  • 105二次元好きの匿名さん25/12/25(木) 20:42:02

    猫のような…試し行為的?な物を感じる

  • 106二次元好きの匿名さん25/12/25(木) 20:57:55

    ○月〇日(並行世界なので謎丸のようにクリスマスがある)

    藤堂君視点
    ~~~

    クリスマス当日。
    いつもより少し豪華な食事と、あちこちから聞こえてくる笑い声に包まれた時間が、ようやくひと段落した。
    パーティーの賑わいを背に、二人で部屋に戻る。廊下の明かりは柔らかく、賑やかな気配は嘘のように遠のいた。

    部屋まで来ると、ドアノブに小さな紙袋が掛かっていた。
    「?」
    と二人して顔を見合わせる。
    マスターが手に取ったのを一緒に見てみると、中には丁寧に包装された箱が入っていた。

    部屋に入り、ささやかな明かりの下で、箱を机の上に置いた。
    そっと蓋を開け、中を覗き込む。
    六粒入りのチョコレートと、短いメモが一枚。
    『任務お疲れ様。ささやかですが贈り物です。二人で分け合うと、より楽しめます』
    差出人の名前は書かれていない。

    「誰からだろうね。わざわざ部屋まで持ってきてくれたみたいだし…居なかったから置いて行ったのかな」

    そう言って、マスターは特に気にした様子もなく箱を手に取った。
    「——分け合う、か。……僕みたいなのと、楽しめるものでもないと思うけど」
    「そんなことないよ。チョコレートは藤堂君が好きなのを知ってるからだろうし。一緒に食べよう」

  • 107125/12/25(木) 21:34:26

    マスターはお湯を沸かして飲み物の準備をし始めた。
    机の上に置かれた箱を横目に見ながら、ひとまず腰を下ろす。

    「寝るまで、少しのんびりしようか」

    何気ない口調で告げられる。
    きっと、ただ話をして、静かに時間を過ごすつもりなのだろう。
    まだ外には、賑やかで楽しげな場所がある。それでも僕と一緒に過ごす時間を選んでくれた。
    この静かな夜を共有できることが、素直に嬉しかった。
    僕は小さく息を吐いて、口元にかすかな笑みが浮かぶのを感じる。

    あ、そういえば、とカップを持ってきたマスターが呟く。
    「少し前に聞かれたんだよね。クリスマスにお詫びも兼ねた贈り物をするから、何が欲しい? って」
    箱を眺めながら、思い出したようにそう言う。
    「そのとき、甘いものがいいって答えた気がする」
    「へえ、誰に?」
    「最近、藤堂君がよく話してる面々。『恋人がご迷惑をかけたお詫びに』って言ってたけど」
    「ああ…だから『二人で分け合うと』って書いてあったんだ」
    「明日お礼に行くよ」

    飲み物をゆっくりと口に運びながら、取り留めのない話を続ける。
    隣に座るマスターとの距離は近く、触れ合うほどの体温が心地よかった。

  • 108125/12/25(木) 22:02:29

    箱の中には、六粒のチョコレートが並んでいた。

    三粒は、濃いビターチョコレートの色をした丸い形。
    もう三粒は、やわらかなミルクチョコレート色のハート型。

    ハートを食べるのはなんとなく気恥ずかしくて、丸いビターチョコのほうを一粒口に入れた。
    口の中で噛んだ途端、液体があふれ強い香りが一気に広がる。
    「……んっ」
    チョコレートの中からあふれたのは、はっきりとした強めの洋酒の風味だった。口の中が完全にお酒の味で満たされる。
    予想外の刺激に、思わず目を瞬いた。
    むぐむぐと口の中で溶かして飲みこみ、同じチョコを手に取ろうとしたマスターを止めた。

    「その丸いの、お酒入りだった」
    「え、そうなの?」

    お酒が飲めないマスターは手を引っ込める。
    サーヴァントの皆の国はお酒を飲む年齢もバラバラだから、マスターの年齢も気にしなかったんだろう。

    「じゃあこっちのハート型食べよう」と少しかじってから中を見ていた。
    「あ、こっちは中に何も入ってない。美味しい」
    と味わって食べている。

    僕も二つ目のビターチョコを口に運ぶ。
    寝る前のおやつを楽しみながら、すぐ隣でマスターと取り留めのない話をして、ゆっくりと時間を過ごすだけのつもりだった。

  • 109125/12/25(木) 23:44:19

    二つ目のチョコを食べ終えた頃だった。
    隣からかすかに聞こえる吐息が何かおかしい。それは会話の切れ目に気づく程度の、ほんのわずかな変化だった。

    「……マスター?」

    名前を呼ぶと、返事はすぐに返ってくる。

    「うん?」

    声の調子は変わらない。それなのに、呼吸だけが妙に耳に残った。
    視線を向けた先で、マスターはいつも通り穏やかな顔をしている。
    ただ、目が少し潤んで見えた。焦点が合っていないわけじゃないけど、こちらを見る視線がほんの少しだけ熱を帯びている。

    「どうかした?もう眠い?」

    そう聞くと、マスターは一瞬だけ瞬きをして、それから小さく笑った。

    「んー……ちょっと、暑いかも」

    そう言って、マスターはその場に座ったまま、ゆっくりと息を吐いた。
    いつもより、少しだけ呼吸が熱っぽい。
    心配になりじっと様子を伺うと、頬にうっすらと熱が差していて、目元がどこか柔らかく緩んでいる。
    「……本当に大丈夫?」
    体調が悪くなったのなら早めに休まないと。そう考えてマスターの肩に手を伸ばした。
    触れた途端、マスターが小さく息を詰める。

    「……っ」

    それは、触れられて驚いたというより、触れられたこと自体に反応した声だった。
    僕は、ようやく確信する。——これは、ただの体調不良じゃない。

  • 110125/12/26(金) 00:09:59

    マスターは自分の肩に残る感覚を、確かめるように指でなぞった。
    「……変だ。なんで、触られただけで……」言い切れず、言葉が途切れて顔を伏せた。さっきよりも息が荒い。

    ——急に熱っぽくなって、呼吸が乱れて、触れられただけで反応する。さっきまで、そんな兆しはなかった。
    思い当たるものは、一つしかない。
    「ちょっと、待ってて」
    僕は立ち上がり、机の上に置いたままのチョコレートの箱に手を伸ばした。
    箱や紙袋の中を念入りに調べていくと、メッセージカードの裏側に説明文が印刷されていることに気付く。

    【・ハート型:媚薬入り
     ・丸型:洋酒入り

     ※効果は一粒につき一時間程度です
     ※洋酒は媚薬の作用を和らげます。
      少しだけ効果を楽しみたい場合は、両方をお召し上がりください。】

    「……はあ!?」
    思わず、苛立った声がでてしまった。

    マスターが口にしたのは、ハート型―――つまり媚薬入りのものだけ。
    見るとすべてなくなっていた。3個とも食べてしまったらしい。
    僕が引き受けたはずの丸いチョコは、まだ机の上に1つ残っている。

    カードを握りしめて振り返ると、マスターは所在なさそうに座っていた。
    触れもせず、ただ身体の熱を持て余している。
    ——まずいな。
    僕は意識的に冷静さを取り戻す。これは、僕が対処すべき問題だ。

  • 111125/12/26(金) 00:55:46

    「これ、チョコの説明があった」
    そう言ってカードの裏を見せると、マスターはちらりと目を向ける。「……うん」と小さく呟いたきりだった。
    どうやら、読む余裕はないらしい。
    今のマスターにも分かりやすいように、僕は言葉を選んで静かに続けた。

    「ハート型のチョコには、媚薬が入ってた。洋酒入りは効果を和らげるって。あと…本当は一粒ずつ食べる前提だったみたい」

    言い終えた瞬間、マスターの目がゆっくりと見開かれる。
    「……それっ、て」
    遅れて声が出る。驚きと理解が、ようやく噛み合った表情だった。
    でもそれから動かない。いよいよ媚薬の効果が強くなっているらしい。

    さいわい、洋酒入りのチョコがあと一粒だけ残っている。僕はそれを手に取り、マスターの口元へ運んだ。
    「これ、食べて。効果を和らげるやつだから」
    そう言っても、マスターは動かない。
    視線は合っているのに焦点が定まらず、ただ辛そうに見えた。
    洋酒入りのチョコを、そのまま食べさせるのは難しい。

    僕は一瞬だけ迷ってから、端を小さく噛んだ。そのまま自分の口の中に入れ、少しだけ溶かす。
    マスターの口元に顔を寄せると、拒む様子はなかった。反応もない。
    ただ、されるままに、静かに受け取ってくれた。でも自分で食べる余裕すらないようだ。

    唇を合わせ、マスターの口内にあるチョコを舌先で嬲って溶かしていく。
    なるべく余計なことを考えないようにして、僕は唇を合わせていた。
    チョコがまだあるものの、全ての洋酒が飲み込まれたと判断して唇を離す。

    そのとき、不意に背中に腕が回る。後頭部も掴まれ引き寄せられた。
    一度距離が空いた口が、すぐにまた合わさる。
    介抱の延長ではない。マスターは、はっきりとこちらを求めていた。

  • 112二次元好きの匿名さん25/12/26(金) 06:35:08

    保守

  • 113125/12/26(金) 09:59:35

    後頭部を掴まれたまま体勢を崩し、気づけば床に背中を預けていた。視界にマスターと天井が映る。
    ただ、身体が強く床に打ちつけられることはなかった。後頭部と背中を覆う手が僕の身体を丁寧に守っている。
    乱暴に見えた動きに、変わらない配慮があった。思わず安堵してしまう。
    逃げる選択肢は無い。
    呼吸が絡むたび、短く息が漏れる。荒くなる息のまま身を委ねていた。

    キスは途切れず続いていたが、マスターの動きがふと止まった。
    小さく首を振り、「……っ」と息を詰めるような仕草。
    直後、マスターが突然身体を引いて乱れた息のまま距離を取った。
    受け入れるつもりだった僕は思わず目を瞬かせる。
    状況が理解できないまま見上げていると、身体を起こしたマスターが唐突に両手で自分の頬を打つ。
    バンッと乾いた音が部屋に響いた。

    あまりに突然の音と行動に、床に倒れていた僕は言葉を失ったまま固まってしまった。
    「マ、マスター?どうかした?」
    と戸惑う声に返答は無い。
    マスターは僕の上から離れたものの、媚薬のせいか動きが鈍く、赤く上気した顔でふらついている。

    マスターは耐えがたい表情で僕の腕を取り、無理に立ち上がらせた。
    逆らう理由もなく、そのまま素直に従って歩き出す。
    …と、ベッドへ向かうのかと思った次の瞬間、進路が違うと気づく。誘導された先は、部屋のドアだった。
    「え、え?」
    混乱する僕の手をぐいぐいと引っ張り、ドア前まで連れてこられた。

    「……悪い、けど……今日は……」
    言葉が途中で切れ、マスターは一度息を吸う。
    「自分の……部屋に……戻って……」
    そう言ったきり、マスターは俯いた。
    荒い呼吸を押し殺すように肩が上下していて、顔を上げようとしない。

  • 114125/12/26(金) 14:38:04

    「僕は、ここにいてもいいんじゃないか」

    自分でも驚くほど、感情が滲んだ声だった。
    困惑と、焦りと、納得できない気持ち、そして怒りが混ざっている。
    「どうして、今になって僕を返すんだよ」
    それ以上は言葉にできず、唇を噛む。

    「だめ、だよ。藤堂君」
    きっぱりとした否定だった。
    マスターは顔を上げ、赤く火照った瞳で僕を見る。苦しげに眉を寄せながらも、視線だけは逸らさない。
    「藤堂君が、どんなことでも受け入れてしまうの、分かってるから。何をしても、拒まないだろうし……それが嫌なんだ」
    図星だった。否定しようとしても、言葉が見つからない。

    「この状態で一緒にいたら、自分の意思で……酷いことをしそうだし、手加減もできそうにない」
    短く息を吸い、言葉を選ぶように続ける。
    「それで藤堂君を傷つけたら、きっと後悔する」
    穏やかな口調のまま、拒絶ははっきりしていた。

    「今日は自分の部屋に戻って。……これは、命令」
    マスターは俯き、荒い呼吸を抑えるように拳を握りしめていた。

    拒絶というより、言い訳を探しているように見える。
    ――自分の不注意だ。
    そう思っているのが、痛いほど伝わってくる。
    不用心に口にしたチョコレート。その結果を、こちらに押し付けまいとしていた。

  • 115125/12/26(金) 17:18:22

    恋人なのだから、こんなに辛そうなマスターの激情を受けとめるのは当然だ、という責任感も確かにある。
    同時に、胸の奥で否定できない感情が脈打っている。
    あの熱のこもった視線が、理性を必死に保とうとする仕草が、すべて自分だけに向けられている。それがどうしようもなく嬉しい。

    「戻らない」

    自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
    マスターの手首を取り、抵抗される前に一歩距離を詰める。

    「受けとめるって言ってる。恋人なんだから、それでいいだろ」

    言い切ると、マスターの肩がわずかに揺れる。
    振りほどかれないことを確かめてから、手を離さないまま歩き出す。
    多少は抵抗された。けれど、はっきり言って力の差は歴然としている。
    踏ん張ろうとしているのだろうが、足元にはろくに力が入っていないようで、歩くたびにもつれそうになっている。
    確認するようにちらりと振り返ると、視線が絡んだ。
    本当に限界そうだ。

    部屋の奥へと導く手に迷いはなく、そのままベッドのそばまで連れていった。
    腰を下ろさせようとしたところで、手を掴まれて動きを止められる。
    何かを言おうとしたマスターの口からは言葉の代わりに荒い呼吸が零れ、視線だけが縋るように向けられた。

    すっと腕を回し、逃げ場を無くす強さでギュッと抱きついた。一瞬、彼の身体が強張るのを服の上からでも感じる。
    これ以上耐えて欲しくない。
    そう思い、軽く触れるだけの口づけをしたあとに、反応を待たず深く重ねた。
    次の瞬間、息を奪うように応じられ、流れはあっさり逆転した。

  • 116125/12/26(金) 19:46:20

    ・・・・・・

    ―――その後のことは、朧げだ。
    思考は早々に置き去りになり、与えられる感覚だけを必死に受け止めた。
    応える余裕はすぐに無くなり、ただ身を委ねることしかできない。
    時間の感覚は曖昧で、夜がどこで終わったのか覚えていない。
    それでも、嫌だった記憶はどこにもない。

    ・・・・・・

    ―――その後のことは、曖昧だ。
    理性はすぐに置き去りになり、止まれなかった。
    乱暴さが混じっても、彼は何ひとつ拒まなかった。
    夜は長く、いつ終わったのか分からない。
    普段は見せない彼の表情が、声が、感触が、脳裏に焼き付いている。

    ・・・・・・

  • 117125/12/26(金) 20:38:42

    意識が浮上する。部屋の中に動く気配があった。
    重い目を開け、周囲を確認する。
    部屋を見回せば、マスターが静かに身支度をしながら、こちらの様子を気にしているのが分かった。
    視線の先の時計は、予想よりもずっと遅い時間を指している。

    起き上がろうとして、思うように身体が動かないことに気づいた。
    肘をついて身体を起こそうとすると、慌てて支える手が伸びてくる。
    「無理しないで、今日はゆっくりして」
    枕やクッションの位置、飲み物、体調の確認。過剰なほどの気遣いに、責任を感じているのが分かった。
    改めてマスターが口を開く。
    「昨日は」
    謝罪の言葉が零れそうになる前に、彼の口を手の平で覆った。


    チョコを贈った相手は責任がないので、何も言わないらしい。
    ちゃんと確認せずに食べてしまった自分の不注意だから、と。

    その代わり、僕には律儀に謝ってくる。
    でも、媚薬のせいとはいえ、必死に求められたのが嬉しかったのも事実だった。
    その感情は隠したまま、代わりにいつも通りの態度で返す。
    それだけで、マスターの表情が和らいだ。

    心から安堵した様子で、ぽつりと零れた独り言が耳に届く。
    「本当に藤堂君が食べなくて良かったよ」
    ……一瞬だけ、”もしも”の想像が頭をよぎる。
    少しだけ興味が湧いたのは事実だが、それは胸の内にしまっておいた。

    ~~~

  • 118二次元好きの匿名さん25/12/27(土) 00:38:29

    もしもが凄く気になる~~~
    ぐだ、普通に藤堂くん抱き潰せるんですね

  • 119125/12/27(土) 06:18:56

    ※途中まで※

    まだ長くなりそうなので途中までアップ

    媚薬の対処をする二人 >>116 の場面


    Writeningwritening.net

    ※パスは1に明記

  • 120二次元好きの匿名さん25/12/27(土) 12:29:28

    このレスは削除されています

  • 121二次元好きの匿名さん25/12/27(土) 20:10:35

    普段理性的な人が抑えが効かなくなるの、とても癖です

  • 122二次元好きの匿名さん25/12/28(日) 00:56:04

    お疲れ様です保守

  • 123125/12/28(日) 06:42:29
    Writeningwritening.net

    薬の対処をする二人 >>116 の場面

    ※パスは1に明記


    >>119

    の続きを合わせた完成版。媚薬ネタなので全編それだけになりました

  • 124二次元好きの匿名さん25/12/28(日) 14:34:19

    待ってました!
    うわ~ぐだが性的なスパダリ(?)だ!
    藤堂くんが顔を隠すのを許さないのが独占欲的なものを感じてたまらんです

  • 125二次元好きの匿名さん25/12/28(日) 19:54:56

    やっったとってもすけべ!ありがとうございます
    2時間じっくりすけべしたんだね…かわいいね…

  • 126二次元好きの匿名さん25/12/28(日) 23:49:57

    ここの藤堂くんは本当にぐだの事が好きだというのが伝わってきてとてもハオ…

  • 127125/12/29(月) 03:49:26
    Writeningwritening.net

    薬の対処をする二人 >>116 のマスター視点。

    ※パスは1に明記


    *ダイジェストなので場面がバラバラ

    *後半は媚薬の影響でマスターが多少S気味

  • 128二次元好きの匿名さん25/12/29(月) 12:04:01

    愛のあるちょっとだけ強引なぐだめっちゃいい…

  • 129二次元好きの匿名さん25/12/29(月) 19:25:00

    このレスは削除されています

  • 130125/12/29(月) 21:41:16

    〇月△日

    藤堂君視点
    ~~~

    部屋は静かで、淡い光が落ちている。ソファで転寝しているマスターの寝息は穏やかで、無防備そのものだ。

    (……風邪、引くよな)

    僕は小さく息を吐き、畳んであったブランケットを手に取った。そっと近づいて様子を伺う。顔は横を向いていてよく見えないけど、胸元は規則正しく上下している。ゆっくりとブランケットを広げて身体にかけようと前屈みになった、その瞬間。

    「……ん…」
    「あ」

    僕が動いた気配で目が覚めてしまったのか、ぱち、と半分だけ開いた瞳。焦点の合わないまま、ゆっくりと瞬きをしたあとにこちらを見た。もう一度眠るならブランケットをかけようかな―――と思った次の瞬間、手首を掴まれる。

    「え、ちょっ―――」

    引き寄せられ、体勢を崩した僕はそのままソファに押し倒される。
    下になった僕の背中にはソファの感触。両手は顔の横で、その手首をマスターが上から押さえつけていた。
    間近で見えるマスターの顔は、焦点が合っていない。完全に起きてはいない、夢の続きみたいな目だ。

    「んん……?…」
    数秒の沈黙のあと、寝ぼけたままのマスターがぽつりと呟いた声が耳に届いた。

    「……あ、間違えた」

    「………………は?」

    僕は半眼のまま、思わず声を返していた。自分でも驚くほど低く、腹の底から出た声だった。

  • 131125/12/29(月) 23:06:33

    僕の冷たい声を聞いた瞬間、マスターの瞳がはっきりと見開かれた。
    さっきまでの寝ぼけた表情が消えていく。一気に覚醒したのが見ていて分かった。

    マスターは視線を泳がせ、はっきりとした動揺が表情に浮かぶ。
    状況を理解した途端に戸惑いが滲み、言い訳を探しているのが見て取れた。ますます怪しい。

    「なにをどう間違えたのか、説明してくれるだろ」
    「えっと……その……」
    マスターは視線を彷徨わせ、僕の顔を見てまた逸らす。

    「……」
    沈黙が長くなるほど、僕の目はどんどん冷えていく。

    「……浮気?」
    「えっ」

    ぱちっと目が見開かれた。

    「違うよ!? 違う違う、そういうのじゃないから!」
    「じゃあ何?」
    「それは……」

    言い淀むマスターを見て、僕は小さく息を吐いた。
    「……とりあえず、上からどいて欲しいんだけど」
    「あ……ゴメン」

    タイミングさえ違えば、どいて欲しいなんて言わなかったと思う。
    けれど今は、それどころじゃない。まずは、はっきりさせるのが先だ。

  • 132125/12/29(月) 23:32:45

    「ほんとに浮気とかじゃないからね。寝ぼけてたとはいえ、藤堂君の手を押さえつけるみたいなことして……本当にごめん」
    本当に申し訳なさそうにマスターが謝罪をする。

    「もういいよ、僕もちょっと言い過ぎた。本気で浮気だと思ったわけじゃないし」
    その一言でマスターの緊張が一気に解け、分かりやすく安堵した顔になる。
    「……よかった。藤堂君に嫌われたかと思った」
    冗談めかしているけれど、本音っぽい響きを感じた。



    「夢?」
    「うん」
    僕はソファに座り、隣のマスターからぼつりぼつりと話を聞いた。

    「その夢に出てきた“誰か”と、僕を間違えた?」
    核心を突かれて、マスターは困ったように笑った。
    「……相手も、藤堂君だったんだけど」
    「え?」
    「さっきの行動も、それ前提っていうか…」

    一瞬。思考が止まり、それからじわじわと意味を理解する。

    「……怒ってる?」
    「怒ってる、というか……」

    僕は視線を逸らし、赤くなった耳を両手で塞ぐように頭を抱えた。

    「……夢の中の僕と、現実の僕を間違えないでほしい」
    「それは本当にごめん」
    「まったく」

  • 133125/12/30(火) 00:08:08

    照れを隠すように立ち上がり、ブランケットをマスターに渡した。
    「寝ぼけてるなら、ちゃんと寝て」
    「うん……」
    マスターは素直にまた横になり、目を閉じる。
    その顔を見下ろしながら、僕は小さく息を吐いた。
    「……夢の中の僕で済ませるくらいなら、最初から現実の僕にすればいいのに」
    それが届いたかどうかは、分からない。

    ・・・

    (言えない、よな。あれは……)
    ソファの上でうとうとしながら、さっきまで見ていた夢を思い出す。

    (夢の藤堂君は、確かに同じだった。でも…)
    夢の中で押し倒そうとした相手は、藤堂君だった。それは間違いない。
    だから目を覚ました瞬間、そこにいた藤堂君をそのまま夢の続きみたいに見てしまった。

    同じ顔で、同じ声で、同じ恋人。夢の中でもそれは変わらない。大切で、間違えるはずがない相手だ。
    それでも、同じだと感じるのに、夢の中の藤堂君は現実とは少しだけ違っていた。

    現実の藤堂君は、恋人同士の触れ合う行為には不器用で慎重だった。
    一歩踏み出すまでに時間がかかって、考えすぎて、空回りしていた事を今でも覚えている。

    でも夢の中の藤堂君は違った。
    性に対して驚くほど素直で、それを隠そうともしていなかった。受け入れるために、無理のない範囲でちゃんと自分で準備していて驚いた。
    その健気さと愛おしさに夢の中の自分は思考が追いつかず―――
    現実でも気づいた時には押し倒していた。

    夢でも現実でも、惹かれた相手は同じだった。それだけだけど…もし夢の世界があるとしたら、その世界の自分は大変だろうな、と思った。

  • 134二次元好きの匿名さん25/12/30(火) 07:31:17

    if√でもくっついてるマス藤…ってこと!?
    藤堂くんがこれ以上積極的になっちゃう的な

  • 13525/12/30(火) 12:15:03

    〇月△日

    ~~~

    「マスター、マスター!起きて」

    肩を揺すられて意識が浮上する。
    目を開けた瞬間、至近距離にあったのは藤堂くんの顔だった。

    「……大丈夫?」

    藤堂くんは、心配そうに眉を寄せている。
    体の湿った感触に、遅れて気づく。どうやら、かなり汗をかいていたらしい。
    手は胸元の服をギュッと握りしめていた。

    「なんだか呼んでも反応なくて……息、荒かったし。何か変な夢でも見てた?苦しそうっていうより……なんて言えばいいのかな。落ち着かない感だった」
    「あ…いや、……なんだっけ、覚えてない」
    少し早い呼吸。焦りを隠そうとしても隠しきれていない声音になってしまった。

    「覚えてないなら、いいけど」
    藤堂くんはそう言って、わずかに間を置く。その沈黙に、言葉にならない違和感が滲んでいた。
    それ以上踏み込んでこない。気づいていないふりを、あえて選んでいるのだと伝わってくる。

    「ソファで寝るほど疲れてた?」
    「ちょっと寝落ちただけ。もう起きるよ」
    「じゃあ、そろそろ夕食にしよう。食堂、混む前に行けそうだし」

    何事もなかったように続けられた言葉に、肯定の返事を返す。今はどうしても顔をまともに見られない。
    藤堂くんは、何度かこちらの顔を確かめるように見る。
    不思議そうに首を傾げながらも、どこか納得していない表情だった。

  • 13625/12/30(火) 14:05:59

    夢の中で、藤堂くんは抵抗しなかった。
    組み伏せられ逃げ場を塞がれているというのに、見上げてくる目は熱を帯びている。

    両手首を押さえられても、身体は力を抜いたまま。
    息を詰めることもせず、ゆっくりと、熱を含んだ吐息を零していた。
    拒まない。悦びが、そのまま表情に滲んでいるのを隠そうともしていない。

    状況を飲み込めないまま、距離を取ろうとわずかに身を引いた。
    その瞬間、下にある藤堂くんの顔が耐えるように歪んだ。目を細め、唇が震える。

    驚いて反射的に身体を近づけると、藤堂くんは耐えきれないように顔を仰け反らせ、喉元を晒した。
    押さえ込んでいる両手が震えた瞬間、それに呼応するように腰のあたりが小さく揺れた。
    息を呑む音と一緒に、抑えきれない声が零れ落ちる。視線は定まらず、焦点を失ったまま揺れている。

    どう動くのが正解なのか分からない。離れることも進むこともできずに身体が固まってしまった。
    止まった動きに気づいたのか、藤堂くんは、ただこちらを見上げてくる。
    焦りと熱を含みながらも、拒まずに続きを待つ目だった。しばらく耐えるように眉を寄せたまま。口は閉じず、唇をわずかに開いている。

    藤堂くんが、何かを言おうとした。その口元から、細い唾液が一筋伝い落ちるのが見えて、思わず喉が鳴る。
    続きをねだる言葉だと、直感的に分かってしまった。その瞬間――  
    「マスター、マスター!起きて」
    現実の彼の声に呼ばれて、意識が引き戻された。

    ただの夢だ。
    そう言い聞かせようとしても、あまりにも生々しすぎた。彼の顔がまともに見られない。

    付き合ってはいるけど、性的な事はまだキスくらいしかしていないのに。
    でも、藤堂くんが先に進むための何かをしていることだけは、なんとなく察している。
    …あれは、本当にただの夢だったんだろうか…。
    ~~~

  • 137125/12/30(火) 16:20:43

    △月✕日

    ~~~
    この前見た夢のせいで、変に意識してしまう。
    藤堂くんが近くに来ると、心臓が早くなる。嫌なわけじゃない。けれど、肌に触れた瞬間に夢の中の彼を思い出す。
    組み伏せられたまま見上げてくる表情と、熱を持った声。こちらの動きに連動する彼の反応。

    部屋で二人でいる何気ない時も、返事は普通にできるし笑いも返せる。
    でも、肩が触れそうになった瞬間だけ反応が遅れてしまった。
    鍛錬している藤堂くんの呼吸の乱れや喉元の動き、汗で上気した顔を見てしまうと、余計なことまで思い出す。

    今までなら、特に意識しなくても大丈夫な距離だった。
    藤堂くんが隣に立つのも肩が触れそうになるのも、日常や任務の中では当たり前で、何も思わなかったのに。
    今は変な意味を見つけてしまって困っていた。

    それなのに、こちらのぎこちない態度を藤堂くんは見逃さない。
    何も言わず視線だけで確かめるようにこちらを見て、次の瞬間には何事もなかったみたいに距離を詰め直す。
    「大丈夫?」と穏やかに聞きながら、手はためらわず伸びてくる。眉がわずかに寄っているのに、声だけはいつも通りだ。
    人前では一定の距離感を保つのに、部屋で二人きりだと肩や手に当然みたいに触れてくる。
    夢を見る前より、むしろ積極的になってきている気さえする。

    …いや、付き合ってるんだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。
    でもまだそこまでの関係じゃないっていうか…キスの先を現実にするのは、まだ想像が追いつかない。

    ただそう思っているのは自分だけで、彼の方はむしろ関係を進めたがっているのは薄々気付いていた。
    こちらが迷っている間に、もう少し先を準備している気配がある。

    ・・・
    *135から前スレifルート/見た夢は媚薬の二人

  • 138125/12/30(火) 19:15:33

    日を追うごとに、胸のざわつきが薄れていった。
    藤堂くんが隣に立っても、肩が触れそうでも、普段通りに受け止められる。
    鍛錬のあと、汗で上気した顔を見ても、余計な想像に引きずられず「お疲れさま」と返せるようになった。

    でも逆に、藤堂くんの態度が少しずつ変わってきた気がする。何かを決めかねているみたいに。
    二人きりの時に距離感が近いのは相変わらずでも、一瞬沈黙することが増えた。
    視線が合いそうになると、言葉の続きを飲み込むように瞬きをして、触れてくる指先だけがわずかに強張る。

    以前は彼の自室で過ごすことも多かったけど、段々頻度が減っていった。
    彼曰く「マスターの部屋の方が二人きりになれるから落ち着く」だそうだけど…。

    そういえば、と思い出す。
    藤堂くんの様子があからさまに変な時があった。

    朝、食堂に行くため廊下を歩いていて、たまたま前を歩いている彼を見かけて挨拶をした時だ。
    こちらの顔を見るなり、藤堂くんは一瞬だけ息を詰めて「ごめん、用事があった!」と逃げるように走り去った。
    顔どころか耳も首も真っ赤で、熱でもあるのかと思うほど。
    サーヴァントだから普通の風邪とかじゃないと思うけど、もしかしたら何か不調があるのかもしれない、と心配になって彼の自室を訪ねた。
    でも返ってきたのは扉越しの「大丈夫だから」という短い声だけ。

    後で何があったのかと聞いても、「本当に大丈夫」としか言わなかった。
    それでも「顔が真っ赤だった。心配だから」と重ねると、一瞬だけこちらを見てすぐ視線を落とす。
    藤堂くんは気まずそうに黙り込んだあと、
    「……なんでか分からないけど、変な夢っぽいものを見ただけ。でも気のせいだと思う、きっと」
    と絞り出すように呟いた。頬がまた赤くなり、視線が彷徨う。
    サーヴァントは本来、夢を見ない…はず。考えられるとしたら、”こちらが見た夢”を見てしまったか、もしくは同調した、くらいしか考えられない。そして夢で思い出すのは、以前見た藤堂くんを押し倒していた生々しい夢。
    どちらにせよ、藤堂くんが変に意識してしまうのは望んだ形じゃない。だからこそ、気にしないふりができなかった。

  • 139125/12/30(火) 21:03:40

    △月✕日

    ”藤堂くん”視点
    ~~~

    マスターが変だ。この前、ソファで起きたあとから奇妙な態度が続いている。
    何が変って、近いのに遠い。触れそうで触れない。
    呼ばれたら振り向いてくれるのに、視線が合う直前に少しだけ逸らされる。触れると一瞬身体が強張る。
    そんな小さなことが、積み重なっていく。

    自分に自信がないせいで、余計に考えてしまう。
    もしかして嫌われた?それとも飽きられた?
    ……違う。
    今までと変わらずにマスターの声は優しい。距離を取っているわけでもない。ただ困っているだけだ。
    でも理由が分からない。

    マスターがぎこちないのは分かってる。触れそうになると、反射みたいに動きが止まる。
    でも、そのままにしておきたくない。だから、こちらから少しだけ押す。
    二人きりなら距離を詰めたい。肩に触れてから距離を詰めて逃げ道を消す。
    「大丈夫?」じゃなくて、「遠慮しないで」と言いたくなるのを飲み込んで、視線だけで伝える。

    待ってるのは答えじゃない。マスターの手のほうだ。
    だから、こっそり頑張っている。マスターが奥手なら、僕が勇気を出す。
    前から準備はしてたけど、ペースを速めた。少しずつ身体を慣らしている。
    こんな中途半端な自分でも好きだと言ってくれる人だから、ちゃんと全部受け止めたい。

  • 140125/12/30(火) 22:13:38

    ぎこちなかったマスターの態度が少しずつ元に戻ってきて、ようやくほっとした。
    と思っていたそんな矢先、変な“夢”を見た。サーヴァントは夢なんて見ないはずなのに。
    映画を見ているような見え方ではなく、”夢”の中の自分の視点だったから余計に不思議だった。


    視界いっぱいにマスターの顔。
    髪が揺れて、額の汗が僕の頬にぽたりと落ちる。それで彼を見上げているのだと分かった。
    動けないのを不思議に思って理由を探し、ようやく両手首がマスターに抑え込まれているのだと気付く。
    抵抗はしようと思えば簡単にできる。僕の方が力も体術も強いし。
    でも、こちらを覗き込む顔が必死で余裕がなくて、焦りと熱で揺れているのを見ると、逃げる気持ちは全然湧かなかった。

    その”夢”の中の僕は、マスターがそうなっている理由も知っていたようだ。
    どうしてそんなことが分かるのかは考える余裕もない。

    マスターが少しだけ身体を浮かせて離れた瞬間、見えない場所からビリビリと痺れるような感覚が起こる。
    その時に腰から下が半ば浮いているような状態だと理解してしまう。
    逆に近づかれた途端、腰の奥まで響く感覚が走った。そこを起点に足の指先から身体の奥深くを通り、全身を快感が巡ったような錯覚を起こす。
    押さえられている手が震えて、勝手に喉をのけぞらせるように頭が動いてしまう。

    気付くとマスターの動きが止まってしまった。
    なんで?と疑問を持ち、思わずじっと見つめる。焦りと熱が混じったまま、続きを待ってしまう。
    やがて手首を押さえる圧がほどけて、指が絡み、握り込まれる形に変わっていった。
    マスターの行動を促すために『好きにして』と伝えようとした。甘く噛み砕くみたいに、全部を奪ってほしい。


    そこで目が覚めた。

  • 141二次元好きの匿名さん25/12/30(火) 22:41:17

    何か行為自体はあっさりとした描写なのにすごくえっちに感じました…!
    これは処女なのに快感だけ知っちゃう的なシチュエーション???

  • 142125/12/31(水) 01:20:41

    目が覚めて、思った。
    この夢はもしかして……マスターが見たもの?

    サーヴァントは夢を見ない。それは、召喚された瞬間から僕が理解している事実だ。
    それでもこうして鮮明に残る感覚がある以上、マスターの夢と同調したとしか考えられない。

    あれは、彼が見たもの。あるいは、彼が“見たかった”もの。
    彼が無意識に抱いていた願望を、僕が覗いてしまった…というのはあるんだろうか。
    あれが願望だとしたら、僕はそれを受け取ってしまったことになる。…いや、それは僕には分不相応な考えかも…。

    夢の原因はともかく、マスターがあの夢を見ていたとしたら、辻褄は合う。
    そう思った途端、以前のマスターのぎこちない態度の理由が、ひとつひとつ繋がっていく。態度の変化も、距離の取り方も。
    それが戸惑いや照れならいいけど、逆に失望や嫌悪だったら…と考えて怖くなった。

    夢の中のマスターの表情は現実よりも直情的で、迷いも欲も隠していなかった。
    そんな事をとりとめもなく考えながら食堂へ向かっていると、マスターに背後から呼び止められた。
    振り返って挨拶をしようとした――その一瞬で、マスターの顔が夢の中の顔と重なり、あの光景とも重なった。表情も感触も、与えられた熱も。
    だめだ。今は、ちゃんと顔を見られない。
    悪いと思ったけど、適当に理由をつけて逃げるように立ち去った。

    そうしているうちに案の定というべきか、心配したマスターが部屋を訪ねてきた。
    他愛ない用件を装いながらも、視線はずっと僕から離れない。これは、理由を聞くまで帰らないやつだ。
    苦しかったけど何とか誤魔化した。下手な言い訳だったのは分かっているはずなのに、それでも心配してくれているのが、痛いほど伝わってきた。

    もしあれ夢や願望ではなかったとしたら、と考える。
    別の可能性。イフの世界。別の並行世界の、僕たち。
    そう考えれば、あの距離の近さも、ためらいのなさも説明がつく…かもしれない。自分に都合のいい考えだけど。
    ~~~

  • 143125/12/31(水) 06:29:22

    △月△日

    ”マスター”視点
    ~~~

    あの夢は自分の願望じゃない。あれは別の自分だ。うん、そうに違いない。
    並行世界とか別のイフ世界とか、そういうの。じゃないと、いくらなんでも様子がおかしい。

    あの日の夢以来、同じような夢を見ることが増えた。
    いや、正確には同じ夢じゃない。舞台はいつも同じ部屋なのに、ベッド、床、ソファ、時にはバスルームだったりする。状況も、全部違う。
    なのに、どれも決まって藤堂くんが出てくる。逃げ場のない距離にいる。手首を取って傍から離さなかったり、膝の上から動かさなかったり。

    それでも藤堂君は眉一つひそめないし、嫌がらないし逃げない。…嫌がってたこともあるけど、夢の中の自分はそれが照れだと分かっているので無視している。
    静かに目を伏せて、全部を委ねるみたいな顔をする。完全な無防備の状態だった。
    それが優しさなのか信頼なのか、それとも期待だったりするのかが分からなくて、心臓に悪かった。

    問題なのはたまにおかしな内容がある事だった。少し……普通じゃない状況ばかり。
    もちろんそんなことしてない。
    目が覚めるたび、ベッドの中で顔を覆う。好きだから?それだけで、こんなに色々な夢を見るものなのか。
    目を塞いだり動けないように拘束したり…あと色々。あんな趣味は自分にはない。と思う。
    藤堂くんがちゃんと同意している…というかむしろ積極的だったのが救いだった。そうじゃなきゃ自分が最悪すぎる。

    目が覚めるたび、熱だけが残る。
    あれは自分とは切り離して考えるべきものだとそう割り切って、現実の藤堂くんとは重ねないようにした。
    態度も、普段どおりでおかしくないはずだ。

    ただ…現実の藤堂くんも、自分との距離をもう一歩進めたいと思っていることは知っている。
    それを分かっていながらこちらから何もしないでいるのは、返って失礼なんじゃないかと思い始めた。

    ~~~

  • 144二次元好きの匿名さん25/12/31(水) 14:31:25

    待機保守

  • 145125/12/31(水) 21:28:06

    △月△日

    ”藤堂くん”視点
    ~~~

    サーヴァントは、本来夢を見ない。それは知識としても感覚としても分かっている。

    それなのに、あれから何度も”夢”を見ている。
    いつもマスターの部屋で触れ合っている。
    ただし状況は一定じゃない。ベッドの上だったり、床だったり、ソファだったり。
    時には一緒にバスルームで一緒に湯船につかっている事もあった。

    いつも、マスターから逃げられない距離にいる。手首を取られていたり、膝の上から動けなかったり、抱きしめられていたり。
    現実ではありえないほど近いのに、疑問も恐怖もなかった。
    動けなくても抵抗する気はなくて、ただマスターの行動に全てを委ねている。

    “夢”の中のマスターは迷わない。僕が戸惑っても、それを理解したうえで触れてくる。
    その確信めいた態度が、胸の奥を静かに熱くした。
    ”夢”の中の僕は、目を塞がれても身動きが取れなくなっても、ちっとも嫌だとは思わない。
    むしろ、そんな状況でも何の心配もなく委ねられることが、嬉しかった。

    最初は、マスターの願望が表れた夢だと思っていた。
    そうでなければ説明がつかないし、そうであってほしかった。
    ただ、夢にしては少しだけ引っかかる。
    触れ方も状況も、それを受け入れている僕の反応も、僕に都合がよすぎる。
    マスターはあんなに積極的じゃない…と思う。
    やっぱり、並行世界の別の僕たちの出来事だと思ったほうが、まだ納得がいった。

  • 146125/12/31(水) 22:26:39

    ”夢”の中で触れるのはいつもマスターからで、僕はそれを受け入れる側だった。
    その関係がはっきりしていたせいか、目が覚めたあとも身体が引きずられる。
    最初は、手や肌の感触だけが残った。ほんのわずかな温もり。
    それが今では、身体の奥の重さや思い出しただけで息が浅くなるような刺激が、起きても消えてくれない。
    むしろ夢の中の刺激で目が覚めることさえあった。

    現実では、まだ何もされていないのに。

    “夢”の中のマスターは、迷いなく踏み込んでくる。僕が受け入れてしまうことを、最初から分かっている。
    現実のマスターは、いつも通り優しくて慎重だ。
    その違いがはっきりしているからこそ、優しさが少しだけ痛かった。

    僕は進みたい。
    ”夢”の再現じゃなくていい。
    ただ、マスターが僕を選んでくれたという実感が欲しい。

    現実の僕はひどく冷静に進めている。
    多分、上手くできていると思う。でも準備をしている時間も、感情は置き去り。
    ただ身体の反応を確認するように、機械的に手順を追っている。
    そこに熱はなく、高揚もしない。満たされる感覚もなかった。
    だからこそ、夢の中であんなふうに愛されて乱れていた自分が、残酷なほど羨ましかった。

    本当は分かってる。乱れる理由は、身体が準備できているからじゃない。
    マスターの愛情からくる行為を受けとめているからだ。

    ~~~

  • 147126/01/01(木) 01:01:30

    △月△日
    ”マスター”と”藤堂くん” (前スレifルート/マスター視点)
    ~~~
    「今日は、部屋に泊まってもいい?」

    そう言われたのは、もう夜も深くなってからだった。
    理由は聞かれなかったけれど、藤堂くんの様子でなんとなく察してしまう。
    それでも受け入れて部屋の鍵を閉めたのは、自分も同じように彼を求めていたことをもう誤魔化せなかったから。

    部屋に入るなり、藤堂くんは正面に立った。距離は近いのに触れない。逃げ道を塞ぐというより、覚悟を固めた立ち方だった。
    小さく息を吸い、吐く。それを二度繰り返してから、ようやく顔を上げた。

    「マスターに聞きたいことがあるんだ。最近…僕との夢、見てなかった?」
    探るような言い方だったけど、意味ははっきり分かった。
    「僕も見てたんだ。“夢みたいなの”としか言えないけど…。でも、マスターと同じものを見ていたんだと思う」
    一瞬、言葉を選ぶように間が空く。
    「その…多分、マスターとしてる内容」
    そこまで言って視線を外す。あからさまに紅潮した顔が明かりを抑えた部屋でも分かった。

    「最初は、何か自分が勘違いしてるのかもって思ったけど。でも、内容がどうしてもそれとしか思えなくて」
    思わず視線を逸らしそうになったけど、こらえてじっと見つめた。
    「やっぱり、藤堂くんも見てたんだ。あの夢」
    驚きはなかったけど、思わずそう零れていた。逆に藤堂くんの肩がわずかに揺れる。
    「マスターも気づいてた?」
    問いかけに否定せず、頷いた。
    同時期にお互いがぎこちなくなって、しかも夢の内容がお互いの乱れた姿だと、まあ大体予想はつく。
    全く同じ日に同じ夢、と言うわけではなさそうだけど、多少ずれてても同じ夢だと思う。

    「夢を見てからずっと、ああ、こんなふうにしてくれていいのに、って思ってたんだ」
    彼の言葉が続く。

  • 148126/01/01(木) 01:21:46

    藤堂くんは一歩近づいてきた。
    「マスターはずっと優しかった。大切にされてるのも分かってる。でも、夢を現実にしたいって思った。夢がきっかけで、こんなこと考えるのって……はしたないと思う?」

    問いかける声は震えていたけれど、目は逸らさなかった。
    答えを選ばせるというより、受け止められるかを確かめる目。

    「マスターに、抱いてほしい」
    言い切ったあと、喉が小さく鳴る。

    その一言が正直に言えば――嬉しかった。選ばれたことも、求められたことも、全部。

    けれど同時に、別の感情が遅れて押し寄せる。
    これまで手を出さずにいたことで、藤堂くんをどれだけ不安にさせていたのか。
    優しさだと思っていた距離が、こちらのためらいとして伝わっていたのだと、今になって気付いた。

    怖がらせたくなかった、大切だから、急ぎたくなかっただけだった、というのは言い訳になる。
    それが、彼を独りで覚悟させてしまった。嬉しさに浮かれる資格なんて、本当はないのかもしれないと思う。
    それでも、今ここで向き合わなければ同じ後悔を繰り返すだけだということも、はっきり分かっていた。

    返事はしなかった。代わりに、足を一歩前に出す。
    藤堂くんの視線が、ほんの少し揺れる。
    逃げるほどではないけれど、次に何が来るのかを測るみたいに瞬きが増えた。

    藤堂くんの手が胸元で迷うのを見て、ゆっくり手を伸ばした。
    一瞬の間のあと、肩に触れると、彼の身体が強張った。けれどこちらの顔を見てすぐに力が抜ける。
    そのまま腕を回し、逃げ場のない距離まで引き寄せた。
    額が自然と寄る。呼吸が落ち着いたのを感じてから、抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
    言葉より先に、選んでいると伝えるために。

  • 149126/01/01(木) 05:55:20

    「それで……」
    一瞬だけ間を置いてから、藤堂くんは言葉を選ぶように続けた。
    「自分の身体は、もう…そのつもりで、準備できてる、と思う」

    はっきりしない言い方だった。意味を測りかねて、思わず瞬きをする。
    何を指しているのか、確かめないまま受け取れる言葉じゃない。

    「準備って?」
    少し考えてから、続ける。
    「それ、どういう意味で言ってる?」
    頭に浮かんだのは、せいぜい身だしなみのことだった。シャワーを浴びたとか、そういう程度の。

    その問いかけに、藤堂くんは一瞬だけ言葉に詰まり、視線を伏せてから、静かに口を開いた。

    「未経験だと、マスターに余計な気を遣わせると思って。慣れておけば……マスターが、気を遣わずに済むだろ。
    そういう準備をしておけば……楽になると思って」
    視線を伏せたまま、言葉を選ぶように付け足す。

    『慣れておけば』

    そう言われた瞬間、胸の奥がざわついた。単なる身だしなみでも心構えの話でもない。

    思わず息を詰める。その『準備』が、どういうものなのか。
    ――いや、それを『誰』と、『どこ』まで。

    考えがそこまで及んでしまって、喉の奥がひりついた。
    まさか、と思う一方で、否定しきれない想像が、静かに広がっていく。
    思わず彼を抱きしめている腕に力が入った。

  • 150126/01/01(木) 06:42:57

    「藤堂くん」

    至近距離で呼ぶと、彼の肩がわずかに跳ねた。
    抱きしめる腕は解かないまま、低く続ける。
    善意だと分かっている。でも否定できない想像が、抱きしめた腕の内側で膨らんでいく。
    つい湧き出てくる黒い感情がそのまま口から出てしまった。声を荒らげないように、けれど逃げ場を与えない調子で。

    「その“準備した”って、それは、どうやって?」

    藤堂くんは、その質問の意図を“方法の話”だと受け取ったらしい。

    「どうやって、って……」
    なんでそんなことを聞かれるのか分からない、という戸惑いの表情を浮かべている。
    困ったように眉を寄せて、はっきり答えようとしない。小さく息を吐いてから、ぼそぼそと呟く。

    「細かいことまで、言う必要ある?あの、ちゃんと何回もしたよ。
    あ、でも、今までは見てた”夢”の僕のように気持ちよくなったことがなくて…でも、マスターが相手なら、きっと大丈夫」

    照れたように、困ったように言って、はっきりとは続けない。否定もしない。ただ、話題を濁そうとする。
    それ以上は語られなかった。肝心な部分だけが、意図的に伏せられている。

    抱きしめたまま、何も言えなくなる。確認する気には、もうなれなかった。
    ここで聞き返すのは、“知らなくていい答え”を確かめにいくことと同じだと思えた。

    思わず抱きしめていた腕を緩め、そのまま彼の手首を取って動く。
    彼が少し顔をしかめた。力が強かったかもしれない。

  • 151126/01/01(木) 07:05:03

    ・・・・・・

    腕を掴まれた瞬間、思考が一拍遅れた。

    「……っ」

    名前を呼ぶ間もなく身体が引かれて、腕を引かれたまま半歩遅れて歩かされる形になる。抱きしめられていたはずの距離がいつのまにか無くなった。
    強い力でも振りほどけないほどじゃない。だから余計に、どうしていいか分からなくなる。

    「マスター?」

    呼んでも、歩みは止まらない。視線を合わせようとしても顔は見えないまま、部屋の奥へと連れていかれた。

    急に態度が変わった―――今までの甘やかされるような雰囲気が無くなった理由が分からない。
    理由を聞くべきかどうか、判断がつかないまま進む。
    ベッドの縁に脚が当たる。
    次の瞬間、視界が一気に反転した。背中がシーツに沈む。

    マスターの顔を見上げる形になる。両手を取られて、頭の横に押さえつけられた。

    夢と、同じだ。

    位置も、距離も、触れられ方も。夢で見て憧れた光景と寸分違わないはずなのに。

    違う。
    視線が合った瞬間、そう思った。そこにある顔だけが、記憶の中のものと噛み合わない。
    夢の中ではこんな目をしていなかった。欲し求める熱はあっても、硬さや、冷たさや、押し殺した感情なんてなかった。
    今、見下ろしてくるその表情は、怒っているようにも責めているようにも見えて、何より怖い。

    同じ体勢のはずなのに、胸の奥に広がる感覚だけが、決定的に違っていた。

  • 152二次元好きの匿名さん26/01/01(木) 13:16:09

    拗れてる~…不安

  • 153二次元好きの匿名さん26/01/01(木) 20:34:24

    早めにほしゅ

  • 154126/01/01(木) 22:47:26

    もしかして、怒ってる?そう思った瞬間から、胸の奥がひやりと冷えた。
    見下ろしてくる視線が動かない。声もない。ただ距離だけが詰まっていく。
    何か言われるより、その沈黙の方が怖かった。

    顔が近づいてきて、次に何が来るのか分かってしまって、反射みたいに目を強く閉じた。
    ぎゅっと力を入れてしまったせいで、瞼の裏が少し痛い。

    怖がるはずがない。
    自分で望んだはずだ。夢を見てから何度も想像して、現実になればいいと思ったはずなのに。
    手も、脚も、気づけば小さく震え始めていた。止めようとしても止まらない。
    そのことに気づいた瞬間、情けなさが一気に押し寄せる。
    身体も、呼吸も、全部が言うことを聞かない。

    せっかく受け入れてくれたのに。
    なんで自分を受け入れてくれて一番信じている相手を、怖いなんて思ってるんだ。

    自己嫌悪で息が詰まりそうになったその時、唇ではなく額に柔らかい感触が落ちてきた。
    次は、こめかみ。首筋。触れるだけの、確かめるみたいな口づけはいつも以上に優しかった。

  • 155126/01/01(木) 22:53:22

    こちらの身体の震えを宥めるように唇が降ってくる。

    「……怖がらせてたら、本当にゴメン。藤堂くんが悪いわけじゃないよ。でも、上書きして消しておきたい」
    低くて、でもいつものマスターの声だった。

    そして返答に戸惑っている間に、重なっていた影がゆっくりとずれていく。
    視界の端から、マスターの顔が少しずつ下がっていくのが分かった。

    上書き?
    その言葉が、頭の中で引っかかる。何を消そうとしているんだろう。夢の事?

    ここでようやく理解した。
    マスターは、今の自分を見て、何か別の原因を想像している。
    そしてそれは、さっきの会話が原因で、自分が伝えたかったこととはきっと違う。

    自分の言い方が悪かったのかもしれない。そう思って、片手で体に触れようとしていたマスターに問いかける。
    「上書きって何を?」
    「それは…藤堂くんに触れた相手の全て、だけど」
    「ん、んん…?ちょっとマスター、それ誰の事?話がかみ合ってない気がするんだけど」

    そう言うと、マスターは顔を上げてこちらを見た。
    さっきまで感じていた張りつめた気配がなくて、いつも通りの、見慣れた表情だった。

  • 156126/01/02(金) 00:59:05

    ポカンとした顔のマスターが、そっと僕の身体から手を離した。
    そのまま体の下に手を滑り込ませて、乱暴にならないように、ひょいとベッドの上に起き上がらせてくれる。
    押し倒した状態ではちゃんと話せないと考えたんだろう。
    向かい合う形で腰を下ろすと、さっきまでの緊張が嘘みたいに静かな空気が戻ってきた。
    お互い黙ったまま見つめ合い、何から話せばいいのか分からずに、同じように言葉を探していた。

    「……さっきの話、なんだけど」

    自分の言い方が悪かったんだと思う。だから、ちゃんと説明しなきゃいけない。
    「慣れたとか、準備したっていうのは…誰かと経験した、って意味じゃない」

    少し間が空く。言いにくくて、喉が詰まる。

    「その……そういう道具、あるだろ。マスターの時代で言うアダルトグッズっていう…それ使って自分でしてたんだ。
    理由はさっき言ったとおりだよ。未経験だと手を出しにくいかなって…」
    語尾が曖昧になる。昔は張型っていう物で身体を慣らしていたそうだけど、今はそれ以外にもなんか色々あって…いやそれはともかく。
    それ以上は言葉にしなくても、伝わる気がして、続きを飲み込んだ。

    「マスター以外と、するわけない」
    小さく、でもはっきり言う。
    『誰かとした』という誤解をされるのだけは絶対に避けたかった。

    沈黙が落ちる。
    でも、それはさっきまでの重たい沈黙じゃなかった。

  • 157126/01/02(金) 01:29:43

    しばらくの沈黙のあと、マスターが小さく息を吐いた。自分に言い聞かせるみたいな声で謝罪を告げられる。
    「……完全に、勘違いしてた。ゴメン、藤堂くん。変な想像したし……それに」
    一度言葉を切って、そのまま頭を深く下げられた。
    「さっき、無理に押さえつけて怖がらせたことも」

    そこまでされて、さすがに慌てた。
    謝ってほしかったわけじゃない。ただ、誤解がとけたならそれでよかった。

    「別にいいよ。気にしてない」
    慌ててそう答える。本心だったし、何より――ちゃんと勘違いだったと理解してくれたことが、何より嬉しかった。
    でも、マスターはまだ納得してない顔で、視線を落としたまま続ける。

    「…もし藤堂くんが、他の誰かと先に経験してたんだって思ったら……頭が真っ白になってさ」
    マスターは言葉を探すように、少し間を置いた。
    「それで、我を忘れて押し倒した。…本当に最低だ」
    視線を落としたまま、続ける。
    「一番ダメだったのは、藤堂くんを怖がらせたことだよ」

    それを聞いて、思わず口から出る。

    「それってさ。嫉妬?」
    口にした瞬間、胸の奥がひやりとした。否定されたらどうしよう、という不安が先に浮かぶ。
    でもマスターは一瞬だけ目を瞬かせてから、きっぱりと即答した。

    「そうだよ」

    短い答えなのに、曖昧に濁す気も冗談にする気もない。本当に、僕のことを独占したかったんだ。
    そう理解した瞬間、胸の奥が熱くなる。顔も同じくらい赤くなっていると思う。
    「そ、そう…」
    思わず視線を逸らして、頬が熱くなるのを誤魔化だけで精いっぱいだった。

  • 158126/01/02(金) 07:14:08

    「マスター。続きしてくれる?」
    照れているまま勢いでそう声をかけると、マスターはすぐには答えなかった。
    それから、慎重に言葉を選ぶみたいに口を開く。
    「さっき藤堂くんさ。気持ちよくなったことがないって言ったの、覚えてる?」

    その一言で、マスターが何を考えていたのかが分かった。 誤解していた事とは別に、そこも心配だったのか。マスターは少しだけ間を置いてから、静かに続けた。
    「もし途中で嫌になったり、無理だって思ったら、ちゃんと拒否してほしい。殴っても蹴ってもいいからさ。何も言わず我慢するのだけは、やめて。お互い気持ちよくならないと意味が無いんだ」

    それから、僕の両手を取った。拘束ではなく、手のひらで僕の手を包む。
    「今日、最後までしなくてもいいし…そういう関係にならなくても、藤堂くんを好きな気持ちは変わらないよ」
    「うん、分かった。約束する」
    そう答えて、手を握り返した。嫌になる事だけは無いと断言できる。ただそれを言うと話が堂々巡りになりそうだったから、口には出さなかった。

    ”夢”の中の僕は、ただ安心していた。マスターを受けているという感覚の全てで満たされていた。
    でも、現実で玩具を使って身体を慣らしてみても、どんな感覚も快楽も一度も得られなかった。同じ場所に同じように触れているはずなのに。
    ”夢”の中の僕があれほど気持ちよさそうだった理由を、僕は一つしか思いつかない。

    もう一度ベッドに押し倒されて、”夢”と同じようにマスターを見上げる。さっきと同じはずなのに、もう怖さも不安も無い。

    そのまま、”夢”と同じように全てを委ねて―――


    …いや、夢よりもっと反応してしまった。あんなに玩具と違うなんて聞いてない。
    マスターは僕の様子を確かめながら、優しく容赦なく続けて、懇願しても結局最後までやめてくれなかった。
    後日そのことを言うと、マスターは『当然ですが?』という顔をして平然と答えた。
    「嫌とか無理だったらもちろん止めるけど、…気持ちよさそうだったしね」
    今まで見てきた”夢”の中の僕がマスターにどんなふうに扱われていたかを思い出してしまって、勝手に想像が膨らんでいく。
    あの続きが、これから現実で待っている。

    ~~~

  • 159126/01/02(金) 13:46:59

    いつもの二人のとある日の話


    Writeningwritening.net

    *パスは1に明記

    *色々要注意内容なので冒頭に注意書き


    前スレifルートの二人の話はさくっと終わる予定が予想外に長くなってしまったので、反動でいつもの二人の話のネタが書きたくなった結果、いつも以上にバカップルになりました

  • 160二次元好きの匿名さん26/01/02(金) 21:15:16

    やっぱりここの藤堂くんえっち!
    ちょっと強引に自分の要求を通しても嫌われない/許されると思って行動してるのがとても可愛い…

  • 161126/01/03(土) 00:10:05

    1月2日

    ~~~
    同じ部屋で、同じように何度も過ごしてきたはずなのに、今は少し違う感じがした。

    新しい年の最初の行為だからだろうか、空気まで柔らかく感じられる。
    触れる指先に力を込めると、藤堂君は小さく息を吸って身体を揺らした。

    名前を呼ぶと、彼の肩がわずかに揺れる。
    腕の中で息を荒くしている様子も、必死にこちらの背中にしがみつく腕も、いつも以上に全部愛おしい。

    動きを止めてじっと見つめる視線に気づいたのか、藤堂君は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
    マスターと呼ばれる声が低くて甘い。その声に、行為の再開をねだる気持ちが読み取れる。
    いつもよりも感情が滲んでいて、それが嬉しくてさらに身体を引き寄せた。

    ぐっ、と身体をさらに深くつなげた瞬間、藤堂君の身体がびくりと跳ねた。
    悲鳴めいた声が口から出たあと、背を反らせて小さく震え続ける。
    驚いたように息を詰めて、それから耐えるみたいに唇を噛みしめて耐えていた。

    新年最初に見る表情がこんなに快楽に浮かされた顔でいいのか。
    一瞬そんな考えがよぎるけれど、離す選択肢は最初からない。

    この時間が長く続けばいい。
    そんな願いを抱いたまま、ゆっくりと息を合わせていく。
    震える身体が落ち着くのを待って、小刻みに全身を揺らしはじめた。
    彼の口からは声が止まることなく零れ続けていく。

  • 162126/01/03(土) 01:41:48

    藤堂君視点
    ・・・

    体の力が抜けると、ようやく現実に戻った気がする。
    さっきまでの熱が嘘みたいに部屋は静かだった。
    仰向けになっているマスターの胸元に額を預けたまま呼吸を整えていると、さっきまでの熱がゆっくり引いていく。
    静かな部屋には、重なった鼓動だけが残っている。

    すでに触れ合いは終えているのに、言葉までは終わらせたくなくて、互いの温度を確かめるように何もせずゆったりと過ごしていた。

    マスターは何も変わらない顔で、すぐ傍にいる。
    それが少し不思議で、救いだった。

    こんな幸せな時間を過ごしていいのか。
    軽く伝えたつもりだったけど、内心を見抜かれていなかったか。
    ―――新年の始まりに、この気持ちは重すぎなかったか。
    僕はいつも、自分の価値を低く見積もってしまう。今日も同じだ。僕なんかでいいのだろうか、とそんな考えが浮かぶ。

    新しい年になり、皆と賑やかなお祝いムードが続く。今日は二人で部屋に戻って静かな時間を過ごしていた。
    何気なく過ごしていたはずなのに、今まで興味もなかったことがふと気になり始め、そのまま問いとして口にしてしまった。

    マスターは『姫初め』という行為を知っているか、と。

  • 163126/01/03(土) 01:50:22

    その単語を聞いた瞬間マスターが盛大にむせたので、答えは聞かなくても分かった。
    正確には旧暦の1月2日だったり、『その年最初の行動』全般だったらしいけど、今の時代はほぼ性行為を示すらしい。

    その話題を出すまでは『もう休もうか』という雰囲気だったけど…意図してそういう雰囲気に持っていった。
    それからはマスターにされるがまま、全てに応えた。

    今の状況がいつまで続くかも分からない。気持ちはいつ離れてしまうかもしれない。
    だから形が欲しかった。今年も一緒にいると、確かめられる何か。
    姫初めは慣習で、特別じゃない行為かもしれない。それでも、その相手に僕を選んでくれたなら。

    ぐるぐると考えすぎていると、そっと髪を撫でられた。
    僕が身じろぎすると、マスターは自然に腕を回してそっと抱きしめられる。そのまま口調が曖昧になっていき、気付くとマスターの口から穏やかな寝息が聞こえてきた。
    僕は胸に耳を当てたまま、動けずにいた。マスターは僕を胸に抱きこんだまま眠るつもりらしい。

    触れ合った後の沈黙がこんなにも甘いなんて、生前も知らなかった。
    腕の中で身を預けながら、目を閉じる。
    この人のそばで年を越せたことが、今はただ嬉しかった。

    僕はきっと、また迷う。
    それでもマスターは、何度でも隣にいてくれる。
    そう思えたことが、今は十分だった。

  • 164126/01/03(土) 09:50:07

    ~~~
    ▽月▽日

    藤「呼び出し?僕とマスターだけ?」
    マ「そう。微小特異点が発生した件らしいよ」


    顧問「この観測された微小特異点だけどね、規模は小さい。しかも危険性もほぼ無いことが分かってる」

    マ「危険がほぼ無い?じゃあサクッと行ってサクッと解決したら終わり?」
    藤「だから僕たち二人だけで行くんですか?でもさすがにそれは…万が一ってことがあるし危険なんじゃ…」

    顧問「ん~実はね、適性があるサーヴァントが藤堂君一人なんだよ。他のメンバーは無理」

    藤「え、そうなんですか!?」
    マ「まあ危険が無いなら…いいか…?う~ん、藤堂君の負担にならないなら」

    顧問「そしてこれが一番重要なんだけど。
      特異点の中の時間の流れとこっちの時間はズレてるみたいなんだよね。
      今の所の観測では、向こうでの10日間がこっちでは1日くらい?みたい」

    マ「あ~たまにあるやつかぁ。何週間も現地で過ごしてて、戻ってきたら数日間だった、っていう事」
    藤「夏のイベントではよくあるみたいな」

    顧問「そうそう。だから今回は、特異点解決っていうよりは二人でのんびりしてきなよ。リフレッシュ旅行だと思ってさ」

  • 165126/01/03(土) 13:03:54

    ***1日目*** 

    レイシフトの光が消えた瞬間、潮の匂いを含んだ生暖かい風が頬を撫でた。
    白い石畳の街路、整えられたヤシの木、その向こうに見えるショッピングモールと豪華なホテル――戦場とは程遠い、南国のリゾート地のような光景だった。

    「…ここが特異点?」
    思わずつぶやいたセリフに、藤堂君がゆっくりと周囲を見渡す。
    「見た感じは、危険そうじゃないな」

    人影は点在しているけど、明らかに通常の風景とは違うところがある。
    まれに輪郭が曖昧で、視線を向けても焦点が合わない存在があった。近くにいるはずなのに、どこか現実感が薄い。

    「藤堂君、あの人たち…」
    「うん。ぼやけて見える」

    一方で、大勢いる観光客と思われる人たち、現地人、動物のような存在やロボットのような姿の店員はハッキリと分かる。
    可愛い犬が人になったような店員が声をかけてきたが、その内容は問題なく理解できた。

    すると、次にぼやけた人影がスッと近づいてい来た。その存在が話しかけてきた瞬間、違和感が走る。
    声は確かに聞こえるのに、言葉の意味だけが抜け落ちていた。
    戸惑っているとその人影は立ち去ってしまう。横にいて、同じく人影見送っていた藤堂君に確かめた。

    「今の、何て言ってた?」
    「…分からない。聞こえたのに、意味が理解できなかった。外国語とも違う…何だろうこれ?」

  • 166126/01/03(土) 13:42:25

    とりあえず人目のない場所を探し、裏通りへと移動した。端末を操作し、カルデアへ通信を繋ぐ。
    『うーん、音声はつながるけどちょっと途切れ途切れで悪いなあ。映像は繋がらないね』と、技術顧問の声が返ってきた。

    「街の様子は見えないのか…」
    これからどうしようか。
    ホテルの方へ視線を向けて、顧問と藤堂君と相談をする。

    「とりあえず拠点を確保しよう。調査はそれからだ」
    「でも、あのホテルに泊まれるのかな…もしあそこが原因だったらマズいし」
    『今の所、目立った異常反応はないよ。行ってもいいと思うよ~』

    そんなやり取りの最中だった。

    「ッ!!!マスター、こっち!後ろへ!!!」
    藤堂君が即座に前へ出て、庇うように立ちはだかる。

    彼の肩越しに見えたのは、ぼやけた人影。いつの間に来たのか分からなかった。
    周囲には誰もいない。明らかにこちらを狙って近づいてきたと分かる。
    藤堂君は身構え、いつでも攻撃に移れる姿勢を取っていた。
    張り詰めた空気が、肌に刺さる。

    ―――と、人影はゆっくりと手を伸ばし、何かを差し出してきた。
    敵意は感じられない。不思議と、警戒心も湧いてこなかった。

    藤堂君の身体の横から、そっと手を伸ばす。
    「マスター!」と制止の声が聞こえたけど、この存在は信頼できる―――何故かそう確信していた。
    受け取った瞬間、人影は笑ったように見えた。
    踵を返して去っていくのを見送る。

  • 167126/01/03(土) 16:54:38

    人影が完全に見えなくなった瞬間、藤堂君が勢いよくこちらを振り返った。

    「マスター、警戒心なさすぎだろ!」

    強めの声に、思わず肩をすくめる。
    なだめるように言葉を返すと、藤堂君は納得いかない様子のまま、深く息を吐いた。

    「…次は、ちゃんと後ろに下がってくれ」
    「善処します」

    苦笑しながら、受け取った物を改めて確認する。
    それは封筒だった。封はされておらず、中には一通の手紙が入っている。
    ――内容を読み上げるにつれ、胸の奥に奇妙な感覚が広がっていく。

    【このリゾートで過ごす二人には、滞在中の宿泊費および買い物の制限はありません。
     滞在中には、いくつかの“出来事”が起こる可能性がありますが、
     それらに立ち向かう必要はありません。避けても、無視しても構いません。
     どの選択をしても、不利益や制限が生じることはありません。
     すべては二人の意思に委ねられています。
     なお、選択の結果が評価されることも、記録されることもありません。
     どう過ごすかは、ご自由に】

    封筒の中に、まだ何か入っている感触があった。
    指先で探り、取り出してみる。

    それはホテルのルームキーだった。
    鍵には、先ほど見上げたばかりの高級ホテルのロゴが刻まれていた。

  • 168126/01/03(土) 17:12:59

    「ホテルは自由に使えて、何かは起きる。でも、対応しなくてもいい……?」
    「文章だけ見ると、泊まるだけなら問題なさそうだけど」

    口に出しても、やはり腑に落ちない。
    危険はない。制限もない。選択は自由で、結果も問われない。
    (じゃあ、この特異点って…どうやって解決すればいいんだ?)
    そう思った瞬間、視線が自然と藤堂君に向く。彼も同じ疑問を抱いているようで、わずかに眉をひそめていた。

    手紙に、もう一度目を落とす。
    【選択の結果が評価されることも、記録されることもありません】
    安心させるための一文のはずなのに、なぜかそこだけが胸に残った。

    干渉も、報告も、観測もない。この特異点で起こることは、すべてここで完結する。
    そう受け取れる内容だった。

    視線を上げると、藤堂君がこちらを見ていた。
    特異点のルールは分からないまま。ただ、完全に外から切り離されている――そんな感覚。

    今の状態でいくら考えても、答えは出そうにない。

    「向こうの時間は、こっちとズレてるんだよね。
     こっちで少し時間がかかっても、戻ればそこまで影響は出ないはずだよ。
     だったら焦らず行こうか。リフレッシュ旅行だと思って、って言われてたし」

    そう言いながら、もう一度ホテルの方へ視線を向ける。
    藤堂君は一瞬考えるように視線を落とし、やがて小さく息を吐いた。

    「分かった。マスターがそう言うなら、無理に急ぐ必要はないか」

    答えの出ない違和感はいったん脇に置き、ひとまずホテルへ向かうことにした。

  • 169126/01/03(土) 17:55:05

    ホテルのエントランスに足を踏み入れた瞬間、外の喧騒が嘘のように遠ざかった。
    広く整えられたロビーには人の気配があるはずなのに、妙に静かだ。
    フロントでカードキーを提示すると、スタッフは迷いなく頷いた。
    「お待ちしていました。お部屋の準備は出来ています」

    名前も告げていないのに、当然のように通される。廊下もエレベーターも誰とも一緒にならなかった。

    部屋の扉を通ると、予想以上に大きな部屋だった。高級感のある内装に大きな窓。
    そして、部屋の中央に置かれたダブルベッド。

    「…ベッドが一つしかない…」
    藤堂君の声は低く、どこか困ったようだった。
    視線は一瞬ベッドに向かい、すぐに逸らす。照れを誤魔化すように、そのまま部屋のあちこちを見て回り始めた。

    自分はと言うと、何気なく視線を巡らせてベッド脇の洒落た収納に気づいた。
    引き出しを開けると、整然と収められた小物――潤滑油やコンドームといった、夜用のアイテムたちが目に入った。
    「……」
    何も言わず、そっと引き出しを閉める。頭の中は疑問で一杯だった。何、なんだこれ?

    気を取り直すように、部屋を出て館内を見て回った。
    高級そうなレストランや落ち着いたロビーラウンジは広さのわりに人が少ない。
    ただ、ここでもところどころに輪郭の曖昧な人影が見える。ぼやけてはいるが、どれも二人連れのようだった。
    並んで座り、距離が近く、どこか仲睦まじい雰囲気だけが伝わってくる。
    話しかけてくることはない。こちらに干渉する様子もない。

    結局、ホテルについては特に問題は見当たらなかった。
    念のため夕食はテイクアウトにして、部屋で一緒に食べる。
    広いバスルームを交代で使い、その夜は静かに眠りについた。

  • 170126/01/03(土) 19:34:44

    ***2日目***

    朝、目を覚ますと、部屋の中ですでに身支度を整えている藤堂君と目が合った。
    「おはようマスター」といつも通りの声に、少しだけ肩の力が抜ける。

    朝食はレストランへ向かうことにした。洋食が並ぶ中に、なぜか和食のコーナーもあり、思わず目を留める。
    どれも美味しくて、気づけば二人とも少し食べ過ぎてしまった。
    デザートまで美味しく頬張っていた藤堂君が、途中で「い、いいだろ別に」と拗ねてしまった事以外は特に問題ない。

    食後、カルデアと通信して情報を共有したけど、決定的な指針はまだ立てられない。
    結局、自分たちで調べるしかないと判断し、街を散策することにした。観光客向けの店が並ぶ通りを、注意深く歩きながら情報を拾っていく。

    「「え、新婚!?」」
    店員から告げられた言葉に、二人して発した驚きの声が重なった。

    ここは新婚向けのリゾート地で、仲の良い夫婦ほど特典が増えるらしい。宿泊費や買い物代が無料になったり、他にも色々。
    その代わり、関係を試すような“出来事”が起こることもあるという。
    無視してもいいし、挑戦してもいい。失敗してもペナルティはない。
    あくまで、楽しむためのものだから、挑戦してみては?とニコニコした笑顔ですすめられた。
    その”出来事”が”何時、何処で”というのはバラバラらしく、内容も人によって違うそう。ますます不安だ…。

    「あの。僕たちは新婚じゃないんですけど…」と困惑気味に尋ねる藤堂君に、
    「『新婚』は言葉の綾ですよ。恋人同士の方も多いですから」と返される。

    そういえば、バディリング。
    今回の任務はリフレッシュだと言われ、なんとなく持ってきていた。
    指には嵌めず、チェーンに通して身につけているのは、藤堂君も同じだ。

    照れからくる気まずさからか、並んで歩く間、藤堂君は少し口数が少なかった。
    ふと、仲睦まじく寄り添っていた、輪郭の曖昧な人影たちが脳裏をよぎる。もしかして、あれは全員、新婚なのかな。

  • 17126/01/03(土) 21:21:42

    ホテルに戻ると、フロントで「お部屋で出来事が発生しています」と告げられた。
    部屋で?と藤堂君と顔を見合わせる。外で起きるものだと思っていた。

    部屋に戻ると、壁の一部に昨日まではなかったはずのドア存在していた。入らなくてもいいと分かっているのに、視線が自然と引き寄せられる。
    藤堂君と目を合わせると、彼は一瞬迷ったあと、静かに頷いた。ペナルティは無いっていう話だから、挑戦してみようかと二人で決めていたのだ。

    ―――が、取っ手に触れてもドアはびくともしない。沈黙の中で、藤堂君が小さく呟く。
    「新婚っぽくならないといけない、とか?」
    そう言ってバディリングを身につけた瞬間、まるで待っていたかのようにドアが開いた。
    中はさらに豪奢な部屋で、柔らかな光に包まれている。自分もリングを身につけて、二人で中に入った。

    中を見回すと、壁に電子ディスプレイが表示されている。そこに浮かぶ無機質な文字。

    【新婚らしい振る舞いを行ってください】

    「「………」」思わず視線が絡み、言葉を失う。
    お互いを見つめたまま、どちらからともなく近づいて距離を縮めていく。相手の髪を撫でたり身体にすり寄ったり、ゆったりと触れ合ってみた。
    肩が触れ、ためらいがちな仕草で寄り添う。藤堂君は戸惑いながらも離れず、そのまま身を預けてきたので、こちらも抱きしめ返した。
    途中から”立ち向かう出来事”という事を忘れて、ただのんびりとした雰囲気になる。

    それだけで十分だったのか、【おめでとうございます。達成しましたので、景品が届きます】と変わり、虹色の光が一瞬走り、ディスプレイは静かに消えた。

    「なんだったんだ、あれ…」
    と呟きながらドアから出ていく藤堂君が、一点を見て固まった。元の部屋に戻ると、机の上には見覚えのない皿が置かれている。
    チョコアイスと―――前に食べてさんざんな目にあった、見覚えのある媚薬入りチョコレート。
    まるで「ご褒美にたべてください」とでも言いたげな景品だ。

    「…これ、この前の…」
    「もう食べないよ!?」
    藤堂君にチョコアイスを渡し、媚薬入りチョコレートはベッドわきの収納にしまい込んだ。

  • 17226/01/03(土) 23:33:18

    ***3日目***

    3日目の朝食を済ませてからカルデアと通信を繋ぎ、昨日の出来事を技術顧問に報告した。
    バディリングをつけたことで見知らぬ部屋に入れたこと、「新婚らしい振る舞い」を求められ、軽く触れ合っただけで解放されたことを伝えると、向こうは少し考え込む。

    『ふむふむ。やっぱり、今のところ危険性は見当たらないなぁ。想定通り、ゆる~く過ごしてきてくれていいよ』
    あまりにも軽い返答に、こちらの方が拍子抜けした。
    今日も街へ出ることにした。もう開き直ってショッピングも兼ねてしまおう。
    念のため、バディリングをつけたまま街中へ向かった。

    買い物中、ふと藤堂君との距離が空いた。何か気になる物があったらしく、真剣な表情で吟味している。
    こちらはこちらで店の商品を眺めていると、藤堂君が歩いて離れていくのが見えた。人ごみに紛れて見失いそうになり、慌てて追いかける。

    「藤堂君、どこへ―――」

    呼び止めながら追いつくと、藤堂君がこちらを振り返った。。
    ―――違う。
    顔も体も雰囲気も藤堂君そのものなのに、はっきりと「藤堂君ではない」と分かる。理屈ではなく、感覚で。
    言葉を失って立ち尽くすと、その藤堂君は一瞬だけ目を見開き、すぐに感情を隠すように真顔へ戻った。
    こちらを見て何かを判断したように、短く告げる。

    「ああ。僕は、おまえの『藤堂君』じゃないよ」

    その言葉の意味を問い返す前に、視界の端、通りの向こう側からぼやけた人影が近づいてきた。
    これまで輪郭すら掴めなかったはずの人影が、距離が縮むにつれて徐々に形を持ち始める。
    それは、自分だった。

    違う『藤堂君』と同じように、違う『自分』。
    姿や雰囲気は微妙に異なるのに、それでも――その『自分』が『藤堂君』のマスターであることだけは、はっきりと分かった。

  • 17326/01/04(日) 00:19:08

    いくつもの疑問が浮かび、それを口にしようとしたその瞬間だった。

    「マスター!何で急に外へ――」

    背後から聞き慣れた声がして、振り返る。
    追いかけてきた藤堂君は、こちらの前に立つ二人を見た途端、言葉を失った。
    視線が行き来する。自分と、目の前にいる別の”藤堂君”と”マスター”
    目の前の二人は特に何も言わずに立ち去ろうとする。慌てて声をかけた。

    「少しだけ、話をさせて!ここがどういうところなのか、何なのか」

    彼らは視線を交わし一瞬逡巡した。ふっと柔らかく微笑んだ別の藤堂君が頷く。
    「いいけど…外で話す内容でもないな。君たちも、あのホテルだろ?」
    その言葉で察した。彼らも同じホテルに泊まっている。

    ホテルに到着した後、自分たちの泊まっている部屋を案内した。
    部屋に移動し扉が閉まると、別の藤堂君が口を開く。

    「僕たちと君たちは、並行世界の存在だ」

    今まで一部の人がぼやけて見えなかった理由も、そこで語られた。
    この特異点に来てから、“新婚”や“恋人”らしいことをしていなかったから。
    バディリングを嵌めたことで『自分たちは新婚に近い』と意識が揃い、認識できるようになったんじゃないか?と言われた。
    「たぶん、これからはリングを外しても見えると思う。意識が一度向いたから」
    この特異点に来たばかりの頃、まだ互いを強く意識していない藤堂とマスターが『親密な二人の姿』をはっきり見てしまわないようにするための配慮だったらしい。

    「ちなみに、今までぼやけてる人物は全部、”藤堂”と”マスター”だよ」
    その一言に、藤堂君が息を呑んだ。
    「ここは、”藤堂”と”マスター”だけが入れる場所なんだと思う。簡単に言うと付き合ってる二人、かな。
     恋人持ちの他のサーヴァントには、それぞれ別の特異点があるんじゃないかと思ってる」

  • 17426/01/04(日) 06:31:14

    藤堂君は訳が分からない、という顔を隠そうともしていない。それは自分も同じだった。
    ここが藤堂君とマスターだけが入れる特異点だと言われても、宇宙猫のような顔をするしかない。

    「そんな特異点、聞いたことない…」
    藤堂君の呟きに、別の並行世界の『藤堂君』が困ったように苦笑した。

    別の藤堂君は、ぼやけて見えていた理由は一つだけではないとも付け加える。
    この特異点に集まる二人には、それぞれきちんとした個性があるのだという。
    中には嫉妬深い性格もいて、別世界の恋人とはいえ“別の自分”と仲良くしている姿を見るのを嫌がる場合もあるらしい。
    そうした性格の藤堂君もしくはマスターが、他の世界の自分達を安心して見られるようになるまで、無意識に視界を曖昧にしてしまうことがある。
    逆に、「他の僕に比べたら自分なんて……」と、強く自分を卑下する藤堂君もいるのだという。

    「…なぜ、そこまで分かるんだ?」
    藤堂君の問いに、別の藤堂君と別のマスターは顔を見合わせてから静かに答えた。

    “出来事”をいくつかクリアすると、この特異点についての情報が自然と手に入る。今までのぼやけた人物の件や、この特異点が二人しか入れない等。
    でもそれは必須ではなく、知らないまま過ごしても問題はない。自分たちが望みを叶えたら帰る。
    帰れる、ではなく、自由意志で帰る。それは自分たちで選ぶものなのだと、穏やかに告げられる。

    その言葉の意味を考えていると、別の藤堂君が軽い調子で付け加えた。

    「そこまで真剣に悩まなくてもいいって。望みも、宣言したりノルマがあるわけじゃない。やりたい事をやったら自然に戻るだけだし。僕らもこれで何度目かの来訪なんだよ。
     君たちも、もう帰りたいなら帰っても問題ないと思う。この特異点は、特に危険もないしね」

    「まあ、簡単に言うと――マスターと『藤堂』が、のんびり過ごすだけの特異点だよ」
    と最後に付け加えて、話はそれで終わった。
    彼らは自分たちの部屋番号を告げ、「もし何かあったら来ればいいよ」と穏やかに言う。
    立ち去る直前、別の藤堂君がこちらの藤堂君にそっと近づき、何事か囁いているのが視界に入った。

  • 175二次元好きの匿名さん26/01/04(日) 12:18:01

    俺得特異点…っ!
    壁になってずっと見てたいなあ

  • 176二次元好きの匿名さん26/01/04(日) 20:16:03

    このレスは削除されています

  • 17726/01/04(日) 21:54:33

    別の藤堂君たちが去ったあと、こちらの藤堂君はしばらくその場から動かなかった。
    何かを考えているのは分かるが、声をかけるタイミングが見つからない。
    黙ったままの背中を見ていると、部屋の中で小さな音がした。
    昨日部屋に出来たドアが開いていて、中の電子ディスプレイに何かの文字が表示されているのが見えた。

    文字を読みに行くと、藤堂君も後ろからついてくる。
    また何か”出来事”が起こるんだろうか。どちらかというと”出来事を起こす指示”だったけど。そう思いつつ内容を見てみた。

    【夜景の見える場所でデートしてください。】
    思わず二人で顔を見合わせた。この特異点に来てから、何度もこうして顔を見合わせている気がする。


    夜景の見える場所は、屋外のラウンジスペースだった。
    柔らかな照明と、低いソファ。遠くで波の音がかすかに聞こえる。
    二人で並んで腰を下ろすと、自然と肩が触れた。藤堂君は一瞬だけ身じろぎしたが、離れない。
    「こういうのも、デートって言うんだな」とぽつりとつぶやく。

    グラスに入った飲み物を手に、静かに夜景を眺めていた。テーブルの上に用意された軽食をつまみながら時々話をするけど、話題は特別なものじゃない。
    街の光が綺麗だとか、風が気持ちいいとか、そんな程度。
    それでも、藤堂君の声は次第に落ち着いていく。横顔を見ると、穏やかな優しい目で景色を見ていた。

    夜景が、余計な思考や疲れを洗い流してくれたらしい。ソファから立ち上がる頃には、藤堂君ははっきりと頷いた。
    「うん。満足した。マスターは?」
    「もちろん。ゆっくりできてよかった」

    二人で部屋に戻ると、電子ディスプレイには前と同じ
    【おめでとうございます。達成しましたので、景品が届きます】の文字。
    机の上には、いい香りの入浴剤と手触りの良いバスローブが二組分置いてあった。

  • 17826/01/04(日) 22:22:52

    ***4日目***

    この日、”出来事”が『まとめて片付けろ』と言わんばかりに次々と現れた。
    特異点の情報を集めるつもりだったので、出来そうなものはどんどんチャレンジしていった。

    【お互いに相手の服を選んで着せてください】
    「藤堂君のセンスにお任せしていい?」
    「任せて」
    選ぶほどの服は今持っていないため、二人で街中に買いに行った。色々な店を巡り、藤堂君が真剣な顔で選んでいる。
    好みの服をいくつかピックアップされ、お互いに選ぶ、とあったので、彼に似合うと思った服を選んだ。


    【お互いに愛の言葉をささやいてください】
    「『ささやく』かぁ…小声で言う必要があるのかな」
    藤堂君の腰に手を回し、耳に口を寄せて
    「好きだ」
    と囁く。
    一瞬の間のあと、藤堂君は耳まで赤くした。
    彼からも言ってもらう必要があったので、少し粘って、同じ言葉を囁いてもらった。


    【一緒にホラーゲームをしてください】
    「うう…苦手な部類だ」
    「ゾンビを攻撃するの、難しすぎる…!」
    あっという間にゲームオーバーになってしまったので、ゲームを変えることにした。
    「こっちにしようか。サウンドノベルっていうジャンルだから文章を読めばいいみたい」
    「読むゲームなのにバッドエンドがあるのか…」

    「怪異よりも人間が怖い…」
    「なんでホラーなのに宇宙人に攫われるんだこれ」

  • 17926/01/04(日) 23:38:02

    ***5日目***

    カルデアとの情報共有は、すでに雑談交じりになっている。
    今日は気分転換に屋台に朝食を食べに外出し、部屋に戻ると、昨日の報酬がまとめて置かれているのに気付いた。
    ラウンジで使える少し豪華な食事券に、安眠効果のあるお香。
    そして、部屋の中央にどんと置かれた、大きなふわふわクッションとブランケット。
    「昼寝しろってことかな。あ~~~気持ちいい…」
    藤堂君がそう言ってクッションにうつ伏せになり、抱え込むような体勢であごを乗せた。

    ”出来事”の内容を思い返すと、どれも二人で過ごす時間を増やすものばかりだった。
    試されているというより、二人の仲を深めるような、背中を押されているような感覚。

    ただ、全部の内容を実行してはいない。その日表示された”出来事”は、内容を見てスルーすることにした。
    二人で話し合い、キスやハグ以上の性的な“出来事”はしないと決めている。
    藤堂君は「指示されるのは癪に障るから」と言い、こちらは「特異点で何が起こるか分からないから」と話した。

    それを今後悔している。

    先にバスルームを使った藤堂君が部屋に戻ってきた。
    湯気を纏ったままの髪、少し上気した頬。濡れた唇が、無意識に光を反射する。
    ただ一緒に過ごしているだけなのに、本来向けるべきじゃない欲求が、形を持ちかけてしまう。
    「マスター?どうかした?」
    なんでもないよ、と伝えて、入れ替わりにバスルームへ向かった。

    多分、藤堂君は本当になんとも思ってない。もしくは思っていても意思の力で制御できる。
    一番最初に部屋に来た時だけはダブルベッドを意識していたけど、元々は公私をキッチリ分ける性格だ。
    一緒に眠っていても傍によりそっていても、それが色気を持つ展開にはなっていない。
    むしろ、自分の方が段々と意識するようになっていた。
    だって仕方ないと思う。特に問題も危険もなく、ただのんびり過ごして…合間に恋人同士のやりとりがあるんだから。

  • 18026/01/05(月) 00:48:19

    「そろそろ寝ようか」とソファからベッドに移動する。髪や身体を撫で、いつものようにお休みのキスをしようとした。
    いつもは頬か額に軽く触れるだけなのに、今日は唇に触れてしまった。
    一瞬、時間が止まる。

    藤堂君は驚いた顔をしたが、拒まなかった。角度を変え、もう一度。さらにもう一度。
    舌を滑り込ませ深くなったキスに、藤堂君の身体が小さく震える。指先だけでそっと腕にしがみついてきた。
    唇を離した瞬間、唐突に我に返る。このまま押し倒して、身体をつなげたい――そんな欲求が膨らんでしまった。
    でも、行為をしないと二人で決めた以上は…。そう悩んでいると、藤堂君が袖をくいっと引っ張ってくる。
    何も言わず、潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。その視線には抗えなかった。
    「ごめん。でも、抑えられない。…いい?」
    返事の代わりに、強く唇を塞がれた。今度は、藤堂君の方から舌が滑り込んできた。

    キスを繰り返すうちに、藤堂君がわずかに体重を預けてくる。それを受け止めきれず、背中からベッドに倒れ込んだ。
    彼が夢中になっている間、そっと体に腕を回して体勢を逆転させ、こちらが見下ろす形になる。
    彼が上の体勢でもいいんだけど。今日はこちらからたっぷり愛してあげたい。
    ただ受けとめてくれたらいいから、と告げると、「お手柔らかにおねがい」とか細い声で告げられた。


    しばらくして、部屋に静けさが戻ってくる。
    ブランケットに包まれた藤堂君は、すぐ隣で熱を孕む浅い呼吸を繰り返していた。
    「大丈夫?」
    そう声をかけると、少し遅れて頷く。
    「…うん。正直、驚いたけど…嬉しかった。マスターが、ちゃんと欲しがってくれたのが」

    その言葉に、胸の奥がようやく落ち着く。指先が触れる距離で、しばらく他愛のない話をした。
    特異点のこと、明日の予定、どうでもいいような話。
    やがて、どちらともなく眠りに落ちた。

  • 181二次元好きの匿名さん26/01/05(月) 07:25:33

    好きな相手だからこそ抑えが効かなくなる展開だーいすき
    ずっと二人でいちゃいちゃしろー

  • 182126/01/05(月) 14:00:26

    ***6日目***

    朝の光の中、テーブルに置かれている昨日の昼間にこなした”出来事”の景品たちを眺めていた。
    お酒、美味しそうなフレッシュジュース。そしてお揃いのレザーブレスレット。

    【相手の髪を整えてあげてください】では互いにブラシで髪を梳かした。藤堂君は気持ちよさそうに目を細め、そのままウトウトとし始めていた。

    【名前ではなく、特別な呼び方で呼んでください】は、「魁先生」以外が思いつかずに二人して悩んだ。
    そのうち藤堂君がぼそっと呟いた「ダーリン…?とか…?」というセリフは途中で消えるように小さくなり、その後我に返った彼がダッシュで部屋の外に逃げていった。

    そんな事を思い返しながら今日の過ごし方を話していると、また”出来事”が表示される。
    【お揃いの物を身に着け、恋人つなぎをして街中を散策し、二人で使う物を買ってください】

    ちょうどブレスレットを手に入れたばかりだ。たまたまなのかは分からないけど、ちょうどいい。
    ブレスレットを嵌め、指を絡めて街に出た。
    藤堂君は「恋人つなぎ」を知らずに普通に手をつなぐことだと思っていたらしく、指を絡めた途端に固まってしまう。
    店先のショーケースや棚を覗き込みながら、指を絡めたまま歩く。
    藤堂君は気になるものを見つけるたびに足を止め、こちらの反応を確かめるように視線を向けてきた。
    無邪気に周囲を見回す姿が微笑ましくて、少しでも楽しい記憶を残せたらいいと思った。

    ふとすれ違う相手を見ると、ぼやけていない人影が二人。
    3日目に出会って情報を色々教えてくれた、並行世界の藤堂君と自分だった。何故それが分かるのかは説明できない。
    ただ、相手もこちらをきちんと認識していた。軽く挨拶を交わし、相手の視線が絡めた指とブレスレットに向く。

    「ああ、【お揃いの物と恋人つなぎ】のやつ、君たちに当たったのか。これも縁かなあ。じゃあ使う物も買った?」

    と何気なく言われた。その内容が少し引っかかる。
    「『縁』?それ、どういう意味なんだ?」と横で藤堂君が怪訝そうに問い返すと、意外な返答が返ってきた。

    「だってそれ、僕らが書いた文だし」

  • 183126/01/05(月) 15:26:10

    予想外の事実に言葉を失う。
    別の藤堂君は、こちらの反応を見たあと「あ、まだそこまで進行してないのか」と独り言をつぶやいた。

    「今までの色々な”出来事”は、要はゲームでいうミニゲームとかスチル集めみたいなものだよ。必要ないけどしてもいい、みたいな。
     でもクリアしてくと景品以外のささやかな特典があってさ。
     クリアした回数や内容の難易度にもよるけど、ある程度進めたら”出来事”を自由に設定できるんだ」
    傍らに立つ、彼の”マスター”と腕を組む。もしかしたらそれが彼らが今取り組んでいる”出来事”かもしれない。

    「ただ、自分で自分の“出来事”を実行しても意味ないだろ?腕を組んで歩きたいなら、そんな指示がなくても普通にそうすればいい。
     だから“出来事”には、並行世界の別の僕たちが書いた内容がランダムで表示されるんだ。
     嬉しかったことや、叶えたかった夢、楽しんだこと…うまくいかなかったことも含めて」

    今まで提示されてきた数々の“出来事”を思い返す。多くは微笑ましい触れ合いや、恋人同士のやり取りばかりだった。
    時々、ヘンな内容や妙に生々しい指示もあったけど、それもきっと、楽しかった記憶か、冗談半分のいたずらだったのかもしれない。
    言葉の意味を咀嚼していると、ふいに彼の視線がこちらの藤堂君へ向けられた。

    「もう行った?『二人で使う物を買ってください』だからちょうどいいだろ」

    短い問いかけだったが、藤堂君は一瞬だけ言葉に詰まる。
    以前、この特異点の説明を受けた最後に、別の藤堂君がこちらの藤堂君にこっそり囁いていた内容と関係している気がした。
    「あ、いや…」と口ごもる藤堂君を見て、彼らは意味ありげな笑みを残して立ち去った。
    その背中が人混みに紛れるのを見届けたあと、しばらく沈黙が落ちる。

    やがて、藤堂君が小さく息を吸った。
    「行きたいところがあるんだけど」
    そう言って、意を決したようにこちらの手を引く。視線は合わないまま、歩幅だけが少し早い。
    賑やかな通りを外れ、静かな裏通りへ。観光地らしい明るさが薄れ、足音だけがやけに響く。

    やがて、藤堂君が足を止めた。視線の先にあるのは、ひっそりと佇む一軒の店。
    「会員制」と表示があったけど、ホテルのルームキーを見せるとすんなり入る事が出来た。

  • 184126/01/05(月) 19:41:03

    会員制のフロアに足を踏み入れた瞬間、落ち着いた照明と整った内装を見て、高級店だと一目で分かった。
    思っていたような猥雑さも下品さも一切なくて、用途を知らなければ意味を成さない小物や衣装が並んでいる。
    他に客の姿は見当たらない。どうやら同じ立場の者同士が鉢合わせしないよう、誰かが店内にいる間は、別の来訪者は入れないよう制御されているらしい。

    ―――正直なところ、性的な用具や衣装が並ぶ店だろう、という予想はしていた。
    昨日、こちらから藤堂君を求めたこと。それまで「しない」と言っていた境界が彼の中で解禁されたのだろうということも。

    藤堂君は、入ってからずっと落ち着かない様子で、視線をあちこちに泳がせては、時々こちらを気にするようにちらっと見る。
    何か欲しいものがあるんだろうか。
    特異点で買ったものは持ち帰れないから、滞在中だけで使える物なのは間違いないけど。

    「驚かないでほしいんだけど」
    小さな声で前置きしてから、藤堂君は続ける。
    「カルデアに戻っても、そういう用途の玩具は持ってるだろ」
    「うん、まあ」
    「でも、僕が欲しいのは…僕のための物じゃなくて」

    少し言い淀んでから、藤堂君は視線を逸らしたまま、続きを絞り出す。
    「その…マスターが使う物が欲しくて」

    具体的に何を指しているのか、すぐには分からなかった。
    準備用とか、ケア用品の類だろうか。
    たぶん、思っていた以上に間の抜けた顔をしていたと思う。

  • 185126/01/05(月) 20:34:56

    棚を見つめたまま、藤堂君がぽつりと口を開いた。
    「前にさ、別の自分に言われたんだ。
    『もしマスターと一線を越えてるなら、必要な物の会員制の店があるよ』って」

    指先で棚の縁をなぞりながら、少し間を置く。
    「それで…後からこっそりと、詳しく話を聞いたんだよ。どんな種類があるとか、どう使うとか」

    言いながら、藤堂君は一つ手に取って、こちらに差し出した。どこか気まずそうに、けれど隠す気はないらしい。
    「マスター用の物もあって、あの、あの二人も実際にこういうの使ったんだって。僕もマスターを、気持ちよくしてあげたくって…」
    ここまで言ってから慌てたように付け足す。
    「あ、でも、ダメならいいから。無理しなくても、その……」

    「いいよ」と軽く頷いた。
    「え」
    藤堂君が勢いよく顔を上げる。
    「そ、そんな簡単に了承していいのか? もっとこう…考えたりとか…」
    「だって、今まで藤堂君にはそういうグッズ使ってたし。自分は嫌とか言わないよ」
    そう言うと、藤堂君は一拍置いてから、「あ」とぽかんとした。

    数秒後、じわじわ理解が追いついたらしい。ほっとした顔をして、近くに寄ってきた。
    距離が縮まって、体温がはっきり伝わる。
    棚の前でしばらく迷いながら手触りや形の違いを確かめて、最終的に一つ選び、会計へ向かう。ここでも買い物は無料だった。

    「じゃあ、ホテルに戻ろうか? それともどこかで夕食を食べてからにする?」
    そう聞くと、藤堂君は一瞬考えるような素振りを見せてから、視線を逸らして小さく答える。
    「今日は、早く戻りたいかも」
    指を絡めると、さっきより少しだけ力がこもる。そのままホテルへ向かった。

  • 186126/01/05(月) 23:22:33

    ホテルの部屋に戻ると、外の賑やかさが嘘みたいに静かだった。
    窓の向こうでは夜の海がゆっくり揺れていて、室内の照明は落ち着いた暖色に変わっている。

    ベッドに腰を下ろした藤堂君が、紙袋の中身をそっと取り出した。
    中にあったのは、淡色の筒状の器具。外側はさらりとしていて、触れると吸い付くような柔らかさがあった。
    実際の挿入に近い刺激を得られるよう設計されているらしく、アレを入れる形状も感触もシンプルだけど、用途は明確だった。
    本当は自分一人で欲を発散する時に使う事が多いらしいけど。

    初めて手に取るものだから、つい感触を確かめてしまう。
    しかも、二人とも使ったこともなければ比較する経験もない。
    一緒に眺めたり、柔らかさを確かめたりしながら、どこかぎこちない時間が流れた。

    まあなんとかなるか、これに入れたらいいだけだし。と気楽に考え直して触れ合おうとしたところで、藤堂君が「あ、ちょっと待って」と動きを止める。
    ベッド脇の収納から小さな箱を取り出し、ためらいなく蓋を開けた。

    「それって」
    思わず声が出る。以前、誤って一気に食べてしまい、色々とややこしいことになった媚薬入りのチョコレートだ。

    「これ、ほんの少しだけ食べてみてもいいかな?」
    照れたように視線を逸らしながら、藤堂君は続ける。。
    「マスターは道具使うだろ?なら僕も、何か使ったほうが公平かなって」

    「でも、どんな影響が出るか分からないし」
    そう言うと、彼は思いきり顔を逸らして小さく付け足した。
    「一個丸ごとじゃなければ、そこまでひどくならないと思う。一口だけ、とか…。
    それに、本当はちょっと興味もあったから。ここなら試してもいいかなって…ダメか?」

    心配は消えないけれど、彼なりに考えた結果なのだということだけは、伝わってきた。
    それなら、自分が止める理由にはならない。

  • 187二次元好きの匿名さん26/01/06(火) 01:03:40

    このレスは削除されています

  • 188126/01/06(火) 08:39:42

    藤堂君がチョコを指でつまみ、口の中に入れようとした瞬間、部屋の中からドアが開く音がした。
    顔を見合わせてそちらの方を向く。音がした方向から、理由は分かっていた。
    一瞬だけ無視しようかとも思ったけど、このタイミングで部屋が開いたのはなにかの誘導かも…と思い、二人で向かう。
    開いたドアから”出来事”が提示されてたいつもの部屋に入ると、淡く点灯した電子ディスプレイに文字が浮かんでいた。

     【『お互いが満足するまで出られない部屋』をクリアしてください(実行しない場合、フロントに連絡すれば解除可能です)】

    お互いがハッとしたように「これはよくある『〇〇しないと出られない部屋』…!」と顔を見合わせてしまった。
    とはいえ、今いるこの部屋はドアが開いてるし、フロントに連絡云々という意味がよくわからない。
    部屋を見回し、特に今まで通りと変わりないな…とベッドのあるスペースに戻る。
    「あっ」という藤堂君の声につられて部屋そのものの入口ドアに行くと、そこは結界のような光で塞がれていた。
    電子ディスプレイそのものがドアになったようなそこの上部に『お互いが満足するまで出られない部屋』という文字が表示されている。
    もし、気が乗らなくてしたくないとか、元々そこまでの仲じゃない二人だったら、フロントに連絡して外からドアを開ければいいってことか。

    「…どうする?今日はやめておく?それか、フロントに一度連絡して開けてもらってから、指示と関係なくするとか…」
    『満足』がどういう意味か分からない。
    けど、藤堂君が媚薬入りチョコを食べたら普段よりも負担になる可能性があった。
    彼の意志に合わせるつもりで確認すると

    「いや、いい。今この部屋になっただけでする事自体は変わりないし。っていうより、なんか挑戦されてるみたいだから攻略してやる…!」
    そういえば、彼は意外と負けず嫌いだった。
    艶めいた甘い空気感から健全なやる気に満ちた雰囲気になったけど、それもまたいいか。

    藤堂君は、ためらいなく──でもきっちり一口分だけチョコをかじり、舌先でゆっくり溶かしている。
    その仕草に、無意識に視線が留まる。

    「効きすぎたら、笑って」
    「大丈夫。ちゃんと最後まで面倒みるよ」
    慣れ親しんだ触れ合いの中に、今夜だけの熱が混ざっていく。

  • 189126/01/06(火) 10:46:35

    ***7日目***

    朝の光はやわらかく、カーテン越しに白く滲んでいた。
    隣では藤堂君が深く眠っている。呼吸は穏やかだが、完全に力を抜ききった姿は、昨夜の名残をはっきりと残していた。起こす気にはなれない。

    昨日の、特異点での六日目の夜。
    『二人で使う物』の流れで買った、疑似的な挿入をする性的な用具。
    藤堂君が「マスターを気持ちよくさせてあげたいから」という理由で購入した物だった。
    そこまではよかった。
    普通のそれなら、使った側が気持ちよくなって終わるだけだったはずなのに、あれは違った。入れた側の感覚が、なぜか恋人―――藤堂君へと流れ込む仕組みだった。
    自分も藤堂君も、そのことを知らなかった。
    彼は理由も分からないまま、こちらの反応に引きずられるように、波にさらわれるように翻弄されていく。
    その状態で、少量はいえ媚薬入りチョコを食べていたのだから、どんどん追い詰められていっていた。
    でも自分からしたいと言った手前、途中でやめるという発想が藤堂君の中にはなかったのだと思う。
    しかも媚薬の効果が抜けるまでは『お互いが満足するまで出られない部屋』の条件クリアにはならなかったので…ちょっと無茶をさせてしまった。
    朝になって動けなくなるのも無理はない。

    今日は外出せずにのんびりしていようと決める。
    しばらくして、藤堂君が小さく身じろぎした。
    目は開いているが、まだ完全には覚めていない様子で、視線が定まらない。

    「おはよう」
    声をかけると、少し遅れて反応が返ってくる。
    「……おはよ……。あー……無理……」

    起き上がろうとしてまたベッドに沈む。力の抜けた声に、思わず苦笑する。
    また上体を起こそうとするのを制し、ふわふわの大きなクッションとブランケットを持ってきた。
    位置を整えてやると、藤堂君は素直に身を預けてくる。その重みが、昨夜の無茶を静かに実感させた。

  • 190126/01/06(火) 10:56:27

    「今日はずっと部屋で休もう。朝食も買ってくるよ」
    「……それ、助かる……」
    声もかすれてダルそうだ。完全に疲れきっている。
    水を用意してゆっくり飲ませると、藤堂君は少しだけ表情を緩めた。ブランケットをかけ直し、背中を撫でる。

    「今日は……何もしない?」
    「何もしない。看病しかしない」
    「……じゃあ……任せる……」
    そのまま、再び目を閉じたのを確認してから、テーブルに置かれていた絵本を手に取った。昨夜のクリア報酬だ。
    『きょうも あしたも いっしょ』。題名にはそう書かれている。

    開いてみると、特異点の成り立ちが、驚くほどやさしい文体で綴られている。
    始まりは、この特異点に来た最初のマスターと藤堂が「ここでもっと一緒に居たかった」と思ったこと。ただそれだけだった。
    聖杯は願いを叶えるための装置としてここに残され、誰か一人が管理しているのではない。
    この特異点に滞在するマスターと藤堂たち全員で、少しずつ使われる共有型の維持装置になっているらしい。

    一緒に居たい。離れたくない。
    たったそれだけの感情が、このリゾート地を維持し、時間の流れを歪め、同じ存在を何度も呼び寄せてきた。
    けれどそれは、危険な願いではなく恋人同士が手を離せなかった結果として、微笑ましく描かれている。

    要点をまとめて、カルデアに報告した。
    特異点も聖杯も安定していて、多数の”マスター”と”藤堂”の感情が核になっているので、一組の意志では変わらないこと。
    藤堂君と話し合って、あと数日で戻る予定だと伝えて通信を切った。ベッドへ戻ると、藤堂君が薄く目を開けた。

    「……ちゃんと、反省してる?」
    「してる。今日は一日、藤堂君優先」
    「……なら、許す……」

    その寝顔を見ながら、朝食を買いに行くために部屋を出た。今日はただ隣にいよう。

  • 191126/01/06(火) 11:27:23

    『きょうも あしたも いっしょ』

    むかしむかし、海がきらきら光り、風がやさしく吹くリゾート地に、ある二人がたどりつきました。
    そこは、とある悪い悪魔が作った世界でしたが、二人はその悪い悪魔をやっつけました。

    もとの世界では、その二人は決してなかよしとは言えない関係でした。
    言葉はすれちがい、気持ちは伝わらないまま、この世界にいっしょに来るときも不安でいっぱいでした。
    けれど心の奥では、いつもお互いのことを考えていました。

    この場所で、波の音を聞きながら並んで歩くうちに、二人は少しずつ気づいていきます。
    ほんとうは、なかよくなりたかったこと。
    一緒にいる時間を、ずっと大切に思っていたことを。

    「まだ、かえりたくないね」
    「もうすこしだけ、いっしょにいよう」

    その小さな願いを聞いた聖杯は、この場所の時間を、すこしだけゆっくり流しました。

    やがて、二人はなかよくなりました。満足して、もとの世界へと帰っていきます。
    でもその前に、別の世界のよく似た二人が、この場所を見つけてやって来ていました。また次の日に別の二人も。
    世界がひきよせたのか、最初の二人の想いにひきよせられたのかは分かりません。

    ここには、同じ二人がたくさんいます。
    来て、過ごして、想いを知って、帰っていく。そしてまた、ちがう世界の二人が、同じようにこの場所に立つのです。

    この世界を支えているのは、だれかひとりの力ではありません。
    ここに来た、すべての二人の「いっしょにいたい」という気持ちが少しずつ重なって、ちょっぴり聖杯が力を貸して、この場所をつづけています。

    きょうも、あしたも、二人がとなりにいるかぎり。

  • 192126/01/06(火) 12:34:05

    ***とあるマスターと藤堂君たち***

    ●まだ仲の悪い二人
    「(き、気まずい…なんで自分と同じ顔がいっぱいいて、しかも手をつないだり仲良くしてるんだ…!?)」
    「(…あんなに素直な自分もいるのか…)」

    ●全く無自覚な二人
    「何、何だあれ。なんで僕がマスターとあんなに近い距離で??しかも手をつないで???………ッ!?」
    「あっ藤堂くん、どこへ行… 猛スピードでどっか行っちゃったな。何か見てたけど。……うわ」
    (物陰で口づけをする別の二人を目撃)

    ●両片思いでまだくっついていない二人
    「(…なんで並行世界?の自分たちが沢山いるんだ。いやそれはまだいい、それよりも距離感おかしくないか?)」
    「(あんなに甘えてる自分もいるのか…強そうだし、きっと、今の僕より頼りにされてるんだろうな…)」

    ●くっついてる自虐的な藤堂の二人
    「ああいう素直な僕のほうがいいだろ?こんなに面倒な僕じゃなくて、そっち選べよ」
    「あ~はいはい、まだ納得してもらえなったかぁ。ちょうどいいや、時間はたっぷりあるし部屋に戻ろうか」
    「?外に調査に行かなくていいのか、おい手を引っ張るな」

    ●くっついてない自虐的な藤堂の二人
    「……僕、ハズレだよな」
    「急に何!?どうかした?」
    「だって、ああいう頼りにされてる僕がいるなら…この僕は…」
    「それはない!頼りにしてるよ」

    ●運営より●
    この特異点に来た”マスター”と”藤堂”の性格や立場によって、他の自分達を見ることで問題が発生することがあります。
    そのため、最初は”他の自分たち”が見えないようにします。自分たちの関係を自覚し、自信を持つなどして、他の二人に惑わされなくなった時に姿が見えるようになります。

  • 193126/01/06(火) 13:39:58

    ●年季の入った二人とくっつきたての二人
    「なんか急に人影がぼやけなくなったな…新婚じゃないのに」
    「あ、『大事なのは、自分たちの関係を自覚する事と、他の存在に惑わされない事』だって」
    「自覚はともかく、他のマスターに惑わされるわけないだろ」

    「(堂々と惚気る藤堂くんがいる……珍しい光景だ…)」
    「(他の自分の発言が恥ずかしくて顔を覆う)」

    ●初々しいくっつきたての二人
    「最初はさ、特に”指示”とか”出来事”とか何もなかったらしいよ。」
    「ただのリゾートで、本当に二人でのんびりするだけ?…逆にどうしたらいいか分からないぞ、それ」
    「だからじゃない?特に平助君って真面目だから、他の平助君も”何かしないと”って思ったんだろ。今は日々のスパイス的な感じだね」

    ●イチャつきに照れが無い二人と照れて進めない二人
    「あの別の僕ら、もうちょっと何かこう…!」「分かる、手をつなぐだけであんなに時間がかかるなら、これから先大丈夫かって思う」

    「今この特異点にいる”別のマスターと僕”の意見なら、遠慮なくできるんじゃないかって話になって」「これとかは?【3分間ハグする】」

    「いやあの…ハグはちょっとハードルが高いかな…」「せめて1分でお願いします!心臓が持たない!」

    ●元の世界では秘密な関係の二人とオープンな二人
    「いいね、このシステム。他の世界の僕らの歴史を見てるみたいだ」
    「これ自分達がしたことだけ書くの?やりたい事でもいい?元の世界では関係を秘密にしてて…」

    「何でも書いていいみたいだぞ。自動的に文章が変わるらしい。『お揃いのアクセサリーを買った』って書いたら『お揃いの物を買ってください』ていう指示になった」
    「もちろん他の自分達にやってほしい事でもいいよ!『勇気を出して一線を越えてください』って書いたから、君たちに当たると良いな」

    「「えっ」」 
    「マスター、手加減してやってくれ」

  • 194126/01/06(火) 14:11:18

    ***8日目***

    ベッドから起き上がった藤堂君は、まだ本調子ではないものの、顔色はだいぶ戻っている。
    昨日は午前中から昼過ぎまでずっとベッドで横になっていた。
    夕方からは多少動いていたものの、食事や入浴以外は、ほとんど隣で過ごしていた。

    「もう大丈夫そう?」
    「うん、もう平気」
    苦笑しながらそう言って、ゆっくりと身支度を整える。

    八日目の“出来事”は、これまでとは少し違っていた。

    【新しく来た存在に、ホテルへの招待状を渡してください】

    ホテルのフロントに向かうと、見覚えのある封筒を渡された。そして、渡す相手の場所が分かる小さなデバイスも。

    ホテル近くの公園で見かけた二人組は、この特異点へ来て、とりあえずの拠点としてホテルを選んだのだろう。
    相手の姿は分かる。別の自分と別の藤堂君。多少周りがぼんやりしているけど、ちゃんと判断できる。
    近寄ると、その藤堂君が警戒するように前に出た。案の定、こちらと相手の視線が微妙に合わない。たぶん、向こうから見た自分達は“ぼやけた人影”なのだろう。

    招待状を差し出すと、相手は一瞬迷ってから受け取った。その様子を見て、隣の藤堂君が小さく笑う。
    「懐かしいな」
    「どの辺が?」
    「全部」

    こちらの話の内容までは分からないようで、警戒を解かないまま相手が立ち去る。
    これからホテルに向かい、自分たちと同じように日々を過ごしていくんだろう。

  • 195126/01/06(火) 14:30:33

    別の自分達が見えなくなったところで、自分たちもホテルの自室に戻った。
    部屋に足を踏み入れると、いつものように置かれている景品は見当たらなかった。
    物が置かれているわけではなく、電子ディスプレイに淡い光で”クリア特典”と文字が浮かんでいた。
    一定の基準をクリアしたご褒美として、特典の内容が表示されている。

    【“出来事”を自由に書けます。お好きなだけどうぞ】

    ディスプレイに直接入力ができるようになっていた。特に個数制限も期限もないし、思いついた時に、いつでも追加できるらしい。
    日々を記録する日記のようで、七夕の短冊のようで、誰かの未来にそっと触れるためのもの。

    「何でも、書いていいっていう話だったな」
    「うん。やりたい事でも、してほしかった事でも」

    藤堂君はしばらく考え込んでから、短い言葉をいくつか打ち込んだ。
    「最初は『無理しなくていい』って書こうかな」
    「いいと思う。じゃあ『一日のんびり過ごしてください』っていうのも書こう」
    誰に当たるかは分からない。けれど、きっと似た二人が読む気がする。
    そのことを思うと、自然と慎重になった。
    まあ、多少は触れ合う内容でもいいかな…いや、どうだろう。悩む。

    書き終えた画面を眺めながら、ふと公園で手紙を渡した二人のことを思い出した。
    こちらが迎えた側になったように、いつかまた、見送る側になるのだろう。

    「この特異点、出入りがあるってことはさ」
    「うん」
    「そのうち、帰る人も出るよな」
    「そうだね。何回か来てるっていう話もあったけど…」
    入れ替わりがあるなら、今いる存在とまた出会えるかどうかは分からない。
    それを思うと、少しだけ寂しくなった。

  • 196二次元好きの匿名さん26/01/06(火) 14:54:24

    >>189

    前スレの188です!!!ありがとうございます!!!藤堂くんが起き上がれないくらいしたんですねえっち(鳴き声)!!!

    …ひどいリクエストしてすみませんでした…

  • 197126/01/06(火) 14:58:32

    ***9日目***

    朝の空気は、どこか落ち着いている。
    朝食を食べたあと、そろそろ帰る準備を考えようと部屋で過ごしていると、ノックの音がした。

    ドアの向こうに立っていたのは、3日目に街中で会った別の藤堂君とそのマスターだった。
    こちらの藤堂君に『会員制のお店』を紹介していたことを思い出す。

    「今日、帰ることにしたんだ」

    そう告げられて、一瞬驚いたものの、すぐに納得した。最初に会ったときより、二人の距離がはっきりと近い。
    言葉にしなくても、それだけで分かる。満足した、という言葉の意味も今なら理解できた。

    テイクアウトのフルーツジュースと美味しそうなチョコクッキーの手土産を貰ったので、皆で食べようと部屋に招く。
    皆で美味しく頂きながら、何気なく二人の話を聞いた。

    今でこそ仲がよさそうな”並行世界のマスターと藤堂君”だけど、
    この特異点へ一番最初に来た時は、誇張なく本当に仲が悪かったらしい。

    「最初はさ、ここに来てもずっとギスギスしてたんだよ。
    『なんでこんな変な特異点に僕らが!?』って。”出来事”も半分以上スルーしてたし。
     何故か知らないけど、僕らには帰る手段が提示されなくて。それで、とにかく早く元の世界に戻ることばかり考えてたんだけど……」

    別の藤堂君の方が、少し照れたように視線を逸らす。

    「でも、気づいたら一緒にやってて。…まあ、逃げ場がなかったのもあるけど」
    それでも、と静かに続けた。
    「ここでじゃなきゃ、無理だったと思う」
    色々とね、と付け加えて、横にいる彼のマスターを見た。その「色々」に心当たりがあったのか、彼のマスターが気まずそうに目を泳がせた。

  • 198126/01/06(火) 15:23:08

    「まあ、今回も来た時はケンカしてたんだけどね」
    と笑いながら言った。この二人は結構頻繁に喧嘩をするらしく、実は最初に街中で会った時も喧嘩の真っ最中だったらしい。
    そういえば、最初はこの別世界の藤堂君一人と会って、その後に彼のマスターが駆け寄ってきたっけ。
    もしかして、”自分の恋人”が”他のマスター”と二人で会っているように見えて、慌てていたのかもしれない。
    「でもまあ、うん。ちゃんと満足したから」

    そう言って立ち上がり、部屋を後にしようとした。藤堂君が何とも言えない顔で、並行世界の二人を見ていた。

    「そんな顔しなくてもいいだろ。入れ替わりがある場所なんだしさ」
    「縁があったら、またここで会えるよ」

    そう言って、二人は部屋を後にした。
    廊下の向こうへ歩いていく背中は、来たときよりもずっと自然で、並んでいた。

    ドアが閉まったあと、しばらく言葉が出なかった。
    「行っちゃったな」
    「うん」

    けれど、不思議と重すぎる別れではない。誰かが帰って、また誰かが来る。その循環の中に、自分たちもいる。

    「満足して帰れるの、いいことだと思うよ」
    「そうだな」
    そう答えた藤堂君の声は、静かで穏やかだった。

  • 199126/01/06(火) 15:24:27

    ***10日目***

    朝の支度は、これまでで一番静かだった。
    荷物と呼べるものはほとんどなく、部屋は来た時と同じように、静かに整っている。

    藤堂君は窓の外を一度だけ眺め、ゆっくり振り返る。名残惜しさはあっても、迷いはない。
    満足して帰る、という意味を二人とも理解していた。

    帰り方については、もう分かっている。
    三日目に会った、あの別の藤堂君から聞いていたし、絵本の最後のページにもサラッと書かれていた。
    フロントでも、同じ情報をあっさりと伝えられていた。

    ――来た時、最初に立っていた場所で待っていればいい。

    「なんだか、全然『終わった』って感じがしないな」
    「まあ…何かを解決したとか、そういうのは無いしね」

    確かに、この特異点は誰かが帰っても消えない。また誰かが来て、過ごして、満足して帰る。そんな循環の中に、自分たちもいた。

    最初に立っていた場所に戻ると、足元に、ゆっくりと光が広がっていった。
    藤堂君が周りに視線を巡らせながらつぶやいた。

    「また来ること、あるかな」
    「さあ…でも、また一緒に来ることが出来たらいいな」

    光が強くなる。最後にもう一度だけ、ホテルの建物を振り返った。
    この場所は、きょうも、あしたも続いている。
    ***

  • 200126/01/06(火) 15:31:26

    >>196

    いえいえ、楽しいアイデアありがとうございました!


    「魔法の~」と色々デートは前スレからアイデアをお借りしました。


    今回のスレもお付き合いありがとうございました!

    正直、毎日スレの削除をするかどうか悩んでいたのですが、ハートとコメント、保守の協力に助けられました。

    感謝いたします。



    Writeningwritening.net

    最後にパスワードのページだけアップしておきます。内容は今日の夜以降に更新するのでまだ空白です。

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