医薬品ONS(エンシュア・ラコール・イノラスなど)が処方できなくなります。経管栄養と術後以外はダメとのこと。
これは大問題だと思います。
①低栄養は「疾患」です。
低栄養はICDに収載されるれっきとした「疾患」です。この疾患に対して、ONSの有用性は国際的なガイドラインに治療介入として明記されていますし、医薬品ONSはアドヒアランスとアウトカムの両面で食品ONSよりも優れることが明らかにされています。処方ができなくなると低栄養に対する治療アクセスが悪化します。
②なぜ「低栄養」は治療が必要なのか。
低栄養は入院・死亡のリスクを高めます。
低栄養はサルコペニア(筋量減少)そしてフレイルと相互に深く関連、誤嚥性肺炎や転倒・骨折、心不全や呼吸不全の増悪・死亡を増やし、がんの予後を悪化させます。
低栄養・低体重の有無だけでそれぞれ死亡率が2倍になることが明らかになっています。
(エビデンスは無数にあるのでネットで検索してください)
③「栄養治療」を知ってほしい。
食事が足りないからエンシュアを処方する?
何を言っているんだ、食事を増やせばいいじゃないか。そんな議論が聞こえてきそうですが、事は単純ではないのです。
低栄養が進行すれば、食事をすること自体が難しくなります。食事だけでは必要なエネルギーを摂取することができなくなっているのです。
だからこそ栄養が高濃度・高密度に濃縮された医薬品ONSの存在意義があります。
少量のONSでエネルギーや栄養素の「下駄をはかせる」ことで、少ない食事量でも体重を維持できる、体重や体力を回復できる、そして徐々に食事量を回復し、自力で必要な食事を摂取できるようになっていく。
knowledge.nurse-senka.jp/217069/
これが「栄養治療」です。
食事の代わりにずっと飲み続けるわけではないのです。
④自己負担100%になれば、栄養治療ができない患者が増える。
低栄養の患者さんは、経管栄養の患者さんとは違い、医薬品ONSだけで生きているわけではありません。食事を(する努力を)しています。そして食べやすいように加工するなど、多くは手間とお金をかけて準備されます。
ここにONSの分が全額自費になると、そうでなくても厳しい食事の予算は簡単にオーバーしてしまいます。
そして栄養治療が断念されれば、低栄養が進行してしまいます。
⑤栄養治療は医療費を削減する。
医薬品ONSの年間売り上げは390億円。
48兆円の医療費総額から見れば決して大きくはありません。
一方、低栄養患者が10%増えると医療費は1000億円増えるという試算があります。すでに低栄養による超過医療費が少なくとも1.05兆円!生じているという報告もあります。
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31537120/
僕の患者さんでBMIが13しかない90歳の男性がいました。
喫食量も少なく、るい痩が進行していましたが、医薬品ONSによって体重を回復させ、2か月に1回繰り返していた誤嚥性肺炎が生じなくなり、寝たきりからトイレ歩行ができるまで回復し、常食で全量摂取できるようになり、ONSを卒業しました。
このようなケースは少なくありません。
390億円をケチって、救急搬送・入院・死亡が増加し、医療費も増加する。何をやりたいのかわかりません。
栄養治療は患者QOLと社会保障費の適正利用化(重症化予防)を両立できる、合理的かつコストパフォーマンスの高い治療介入です。
いまやるべきは、ONSへのアクセスの制限ではなく、より多くの低栄養患者に栄養治療を届ける努力です。
⑥成立したばかりの改正医療法の「附帯決議」を読んでください。
附帯決議は法律そのものではありませんが、国会から政府への政治的・道義的拘束力の強いメッセージ。
そこには「低栄養や筋量の低下を背景として、入院する原疾患が肺炎や骨折などに変化していくことや、高齢者によっては入院がリスクになることも踏まえ、入院しないで済むように在宅医療を強化すること・・・高齢者に対する食事についてはペースト食や低栄養・サルコペニアに対する治療に資する食事が普及するよう、診療報酬上加算の評価を含め検討すること」と明記されています。
mhlw.go.jp/content/108010
医薬品ONSを保険適応外にすることは、この附帯決議とは真逆です。国会の意思は国民の意思。改めてよく読んでください。
⑦厚労省自身も「攻めの予防医療」に言及していますよね。
令和8年度厚生労働省予算案は「『攻めの予防医療』の推進等」を明記、「歯科保健医療・栄養対策・リハビリテーションの推進」と栄養ケアの重要性に言及されています。
mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan
実際、病院でも介護保険でも「三位一体のアプローチ」としてリハ+口腔+栄養のセットでの介入も推進されてきました。
mhlw.go.jp/content/123000
この栄養対策における唯一の介入手段が医薬品ONS。推進しておきながらアクセスを制限する。明らかに矛盾しています。
