ミタマタケハヤ ─ 玄慈霊域伝 ─

夢河蕾花

壱ノ幕 樹洞より出ずるは龍の子

壱ノ章 旅立ち、共に

はじまりに曰く

   一


 ──はじまりに曰く、混沌の大渦ありけり。


 大渦神「深王」より生じたのは、原初の神の一ついくさ猛疾之たけはやの大命おおみこと

 古今比類なき最強の戦神イクサガミは三千世界からの因果干渉を断ち切り、あるいは穢れの流入を祓い続けた。

 その剣戟の白光からは陽之慧儺鬼尼天ひのえだきにてんが、血潮の黒闇からは宵纏常闇之毘売よいのまといとこやみひめが生じた。


 この原初の三ツ神は楽園となる星を創出する。

 陽之慧儺鬼尼天は右目抉り出し、宵纏常闇之毘売は左の大腿骨の一部を、そして戦猛疾之大命は六本ある腕の二本を落とし、星の礎とした。


 深王の胎に生じた真玄たる慈愛の星球……「玄慈球げんじきゅう」──それが、この神々の星となった。


 陽之慧儺鬼尼天と宵纏常闇之毘売からそれぞれに生じた子──天穹龍アマツタツヒコと地底龍ダイヂタツヒメが交わることで、七つの神龍が産み落とされた。

 それらが玄慈球を彩るモノを作り、整え、維持していったのである。


 それが、遠い遠い創世の時代のこと。

 気が遠くなるような長い時間をかけて、神の子らは野に下り、妖となり、化獣ばけものとなり、そしてヒトとなった。


 ──玄慈球は未だ、カミとヒトとが分たれず、アヤカシとケモノが息吹く、そういう星であった。




 樹洞じゅどうが浅葱色に輝いている。

 山に住んでいる獣狩ししがりの女がそれに気づいて、木のうろに近づいていった。

 獣狩の名は、常葉ときわという。

 彼女は大弓を背負って木に近づいた。周囲にはまだ化獣がいたが、皆いずれも、慄くように、あるいはその輝きに平伏するようにして一歩二歩と退いてゆく。


 樹齢千数百年はあろう龍神木──桜の木のうろの中に、赤子がいた。うろの中に巡っている木の根が、そして繊維が、血管のように絡み付いているその子。

 木の管は赤子に何かを送り込むように脈動していた。

 さながら木から……神から授けられた子のようであった。


 鉄藍色の髪。瞳が開かれると、澄んだ浅葱色の目が、常盤を見返す。

 まるでこの「玄慈げんじの星」から生まれ落ちたような輝き。


 ゆえに。

 女はこの子に玄吉げんきち、という幼名をつけることとしたのだった──。

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