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第39話 新スキルの性能確認は危険がいっぱい(後)

 一番好き勝手動ける魔獣形態になって一時間ほど暴れただろうか。

 もう手当たり次第にモンスターへと襲い掛かり、引き裂き、嚙み千切り、意味もなく遠吠えをしまくった。


 少しずつ冷静になってきた気はするけれど、身体の芯には暴れたくなるような熱が籠ったままだ。居ても立っても居られなくなるようなそれが僕の本能を揺さぶる。


 少しでも気を抜いたら理性なんて月の彼方まで吹っ飛んでしまいそうだった。


 ……これ、もしかして《《発散》》しないと治らないんじゃなかろうか。


 さすがNINJA、ある意味強力な――そして出鱈目なスキルである。


 問題はその発散が何を指すか、である。

 ひとりで良いなら今すぐ家に帰ればギリギリ道中は耐えられる気がする。

 でも、もしも《《相手がいないと駄目》》とかだったとしたら、むしろそれがトドメになって理性のネジがはじけ飛ぶだろう。

 そうしてある意味危険な獣が街中に解き放たれることになるのだけは避けたい。


『わふっ! わうんっ!』


 じりじりと追い詰められていく僕を、バルトが導いてくれる。

 ……もしかして動物的な本能とか、フェンリル的なサムシングで解決方法が分かってるんじゃなかろうか。


 一縷(いちる)の望みをかけた僕は、バルトの導きに従って駆け出した。




 ……んだけども。

 バルトが向かったのは《《よく見知ったマンションのベランダ》》だった。


 無理だって!!

 こんな状態で刹那さんにリクエストされたら本当に我慢なんて出来ないから!!


『わふぅ……』


 何呆れてるんだよ!?

 あっ、コラ! 身体の主導権を奪おうとするなっ!


 ベランダの手すり――コンクリ製で、なんとなく厚みのあるそこで必死に抵抗をする僕だけれど、刹那さんを襲うという最悪の事態はなんとか避けることができた。


 何故かそこで張り込みをしていた《《千華ちゃんに拾い上げられた》》から。


「ろろろっ、ローくんっ!? ローくんだよね!?」

「わっ、わふぅっ!?」

「あはっ! 小っちゃくなってるけどローくんだぁ♡」


 お腹にほっぺを当ててグリグリしないでぇぇぇぇぇぇっ!!


「セツ姉が変だったから様子を見ようかなって思ったんだけど、こんなところで会えると思わなかったよー! 今すぐお家に連れてったげる♡ お風呂はいろーよ♡」


 ……不発弾が炸裂しないよう心の中で必死に般若心経を唱えていた僕は、まったく抵抗もできずにドナドナされることとなった。

 なーむー……。


***


「おねーちゃん! みてみて!」

「あらー!? シロちゃんじゃないー! どーしたの?」

「私に会いに来たんだよー!」


 酷い決めつけで僕の意思が捏造されたけれど、僕の状態を見たはづきさんは険しい顔になって千華ちゃんからさっと僕を取り上げた。


「千華、よく聞いて。この仔、ちょっと具合が悪そうなの」

「えっ!? じゃ、じゃあ私に助けを求めて……?」

「そうね。今から言うものを買ってきてくれる? その間におねーちゃんが助ける準備するから」

「うんっ!」


 至極真面目な表情のはづきさんだけれど、千華ちゃんに変なものを頼み始めた。


「コンニャク、大根、ニンジンに、長ネギ、ブタモツ一キロ……新鮮なマグロの柵と、牛乳とジュース……あとは、えっと」

「薬局で包帯と、ホームセンターで首輪ね。マグロは『魚一』さんなら売ってるし、ブタモツも『肉のよしたけ』なら売ってるはずよ。後は八百屋さんかスーパーね」


 ……何の治療をするんだコレ。

 包帯はともかくとして、他のものはただの夕飯の材料では……?

 お刺身とモツ煮を作ろうとしてるとしか思えなかった。


 何も疑わずに千華ちゃんが飛び出したのを見送ると、はづきさんはにっこりと微笑み、僕の鼻先にちょんと口づけた。


「さて……あのラインナップなら千華もしばらくは帰ってこれないでしょうし、その間にお風呂に入りましょうねぇ」

「わうっ!?」


 はづきさんはさっさと家の中――立派な一軒家だ――に入ると、そのまま脱衣所に向かった。


 僕を抱っこしたまま、器用にシャツを脱ぐと背中に手を回す。

 ホックが外れると同時、ミルクのようなまろやかな香りが僕の鼻腔内へと流れ込んできた。


 匂いだけで口の中に練乳のような濃厚な甘味を感じ、思わずその大元に視線を向けてしまう。


 ばるんっっっ!


 僕の理性を揺さぶるとんでもない振動とともに、戒めを解かれた二つのスイカが揺れていた。


 もはや暴力といっても過言ではない大迫力に理性を押され、思わず舌が伸びてしまう。


「ンぁっ……甘えん坊さんなのね……ママだと思って甘えて良いからねぇ♡」


 ぬああああああああ!

 何やってるんだ僕は!!

 むしゃぶりつきたいのを必死に堪えるが、僕の理性はもうメルトダウン寸前だった。


 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、はづきさんは恥ずかしげもなくスカートをすとん、と落とした。

透け感たっぷりの花柄レースがあしらわれたショーツに手を掛け、下ろしていく。


 見るまいと必死に身を(よじ)ると、肩越しに張りのある形の良いお尻が見えてしまった。


 だめだ……何をしてもどこを見ても僕のエネルギーが充填されていく……!


 見る間にエネルギーは100%中の100%に達し、いつ滅びのバーストストリームが暴発してもおかしくない状況だった。


 からりとお風呂に向かったはづきさんも、すぐさまそれに気付いたらしい。


「あらぁ……? モンスターだと普通のワンちゃんと違うのかしら」


 首を傾げながらも、はづきさんは深刻そうな表情で考え込む。

 手を前で交差させているだけなのにスイカがむちっと潰れてすごいことになっていた。


「……でもこれで誰かを襲ったりしたら、飼い主の責任よね……」


 そして、何かを思い付いたのか、僕に向かってにっこりと微笑んだ。


「おいで〜♡ ママが良い仔良い仔してあげるぅ〜」


 不穏な発言と共に《《手が伸ばされた》》。

 しなやかで華奢な指先が、優しく、撫でるようになぞる。

 同時に僕の身体を、雷に打たれたかのような衝撃が走り抜ける。いても立ってもいられなくなり、崩れようとしたところで腰から持ち上げられてしまった。


「ママが気持ち良〜くしてあげまちゅからねぇ」


 あっ、ダメ、本当に駄目……駄目ですぅぅぅぅぅ!!!!!!!


「いつでもしてあげるから、してほしくなったらすぐママのところに来てねぇ〜♡」

「くぅぅぅん……!」

「逃げちゃ駄目でちゅよ〜……男の仔ならみ〜んなしてるからねぇ……怖くない、怖くな〜い」


 ……

 …………

 ………………


※滅びのバーストストリーム

遊☆戯☆王デュエルモンスターズの看板(?)モンスター『青眼の白龍ブルーアイズホワイトドラゴン』の必殺技。漢字で書くなら爆裂疾風弾。

 攻撃力3000の白い奔流が全てを消し飛ばす。発射時の擬音は各自で補完してください。


 ………………

 …………

 ……


「気持ち良かったでちゅね〜」

「きゅぅぅん……」

「かっこよかったわよぉ〜。あんなにできるなんて、おっきくなったらお嫁さんがいっぱいできちゃうかもね〜♡」


 僕は湯船の《《上》》ではづきさんにされるがままになっていた。

 ……状態異常は解除されたものの、僕の尊厳はシャワーで《《汚れ》》と一緒に流れてしまったようだった。


 湯船が暑すぎることもあって、ぷかりと湯船に浮かぶスイカの上に避難させてもらっているが、もうなんの感情も出てこない。


 悟りの境地である。


 荒行を終えた修験者のような気持ちで虚空を見つめていると、湯船を突き抜けて現れたバルトが鼻を鳴らす。


『わふっ……』


 バルトよ。我は解脱(げだつ)への道を拓いたのだ……もはや多少のことでは心は動かぬ。


 ふっ……我を動揺させたくばもっとこう、何か魂を根幹から揺さぶるようなものを持ってくるが良い。そう、たとえば純粋な芸術のみが内包する究極の美し――……

 

 バンッ!


「おねーちゃん! なんでローくんとお風呂入ってるの!?」

「わふぅっ!?!?」

「千華、おちついて。前くらい隠しなさい?」

「誤魔化さないで! ローくんとは私がお風呂入るって決めてたのにー!」


 眼前に、熟れる前の香り立つような裸体が晒された。一切の無駄がなく、清冽(せいれつ)なまでの美しさと誘うような(あで)やかさが矛盾なく内包されたそれ、まさに究極の美しさだった。


 でもね、千華ちゃん……!

 さすがにちょっとその、あの、見えすぎです……!!


 このあと、千華ちゃんに洗われたり抱っこされたりした僕は、感情のジェットコースターを乗り切ってなんとか理性を完全に取り戻すことに成功した。


 悪いのは千華ちゃんの凶悪なスキルであって、僕じゃない……僕じゃないんだよ……。


『わふんっ』


 ……バルト、僕もう疲れたよ……。



※100%中の100%

 幽☆遊☆白書より戸愚呂弟が限界を越えてマッシブになった状態。長くは続かないらしい。


※……バルト、僕もう疲れたよ……

 フランダースの犬。本来の台詞は「パトラッシュ、疲れたろ……僕も疲れたよ」なんだけど相手はパトラッシュじゃなくてバルトだし良いよね。

 目撃したのが千華ちゃんの裸体じゃなくルーベンスの絵画だったら危なかったかもしれない。

 いやもう昇天はした後なんだけどね。


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