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「トランプ氏は騎兵隊?」ウクライナ前外相の考察

「トランプ大統領は騎兵隊のように非常に速いスピードで相手と対決し譲歩させようとします。しかし、ウクライナもロシアも譲歩せず、結果的にそのペースは遅くなると思います」

こう話すのは、去年9月まで戦時下のウクライナで外相を務めたドミトロ・クレバ氏です。

対ロシア外交の最前線にいたクレバ氏は、大きく動き始めたウクライナ情勢をどうみているのか。ことし1月から教べんをとっているフランスの名門、パリ政治学院で話を聞きました。

(ヨーロッパ総局記者 向井麻里)

戦時下のウクライナ外相 クレバ氏とは

外交官などとしてキャリアを積んだ後、ロシアによる侵攻前の2020年から去年9月まで、ウクライナの外相をつとめたドミトロ・クレバ氏。

ロシアがウクライナへの侵攻を開始した2022年2月以降、世界各国をまわってウクライナの立場を説明し、兵器の供与や資金面での支援などを訴えてきました。

各国メディアの取材に応じるクレバ氏(ブリュッセル 2024年8月)

そのクレバ氏が今、教べんをとっているのがマクロン大統領をはじめ多くの政治家を輩出してきたフランス・パリ中心部にあるパリ政治学院です。

去年9月に外相を辞任したあと、非常勤で「戦時下の外交」について教えています。

外交の現場では厳しい表情で各国と向き合っていたクレバ氏ですが、教室では学生たちを相手に柔らかな表情で議論していました。

講義をするクレバ氏(パリ政治学院 2月)

なぜパリ政治学院で教べんを?

クレバ氏が招かれたのは、現在の学長がフランス外相の首席補佐官だったときに親交があったためでした。

どうして外交の世界から学問の世界へ身を移したのか。そう尋ねると、クレバ氏は次のように答えました。

クレバ氏
「すべての政策は学問から生まれています。学生はジャーナリストや専門家、外交官などになります。大学で学んだことや考えたことが彼らによって政策となるのです。
ウクライナに関する現在の知見は、ソビエトやロシアの見方に基づいていて、その状況を変えたいと思いました。
学生と話すのは楽しいです。学生が議論をふっかけてくることもあって、外交の場で相手国のカウンターパートとやりあっているときよりも楽しいと感じることもあるくらいです」

トランプ外交うまくいく?

早期の停戦実現を目指すアメリカのトランプ大統領の誕生によって、ウクライナ情勢は大きく動いています。

しかし、クレバ氏は「トランプ大統領が考えているほど簡単にこの戦闘が終わるとは考えられない」と話します。

「戦争を終わらせるのがなぜこれほど難しいのか。それはプーチン大統領が勝利に向けて順調に勝ち進んでいると確信しているからです。
プーチン氏はウクライナ全体を手に入れることができると信じているのです。彼がウクライナの一部を獲得することで満足できるわけがありません」

「トランプ大統領は騎兵隊の攻撃のようなものを仕掛けています。非常に速いスピードで相手と対決し、押しつぶして譲歩させようとします。
しかしウクライナもロシアも押しつぶされないでしょうし、譲歩もしないでしょう。結局、さまざまなことが試みられることによって、よりそのペースは遅くなると思います」

ジョー・バイデンという政治家

クレバ氏は外相として各国に武器の供与などの支援を求め協力を引き出してきましたが、アメリカのバイデン前政権はウクライナが強く求めてきた射程の長いミサイルの供与には慎重な姿勢を崩さず、2023年秋まで供与することはありませんでした。

「バイデン氏はウクライナを勝たせたかったのかどうか?」

クレバ氏はこの問いを「答えるのがとてもつらい質問だ」として、「バイデン氏はウクライナを負けさせたくなかったというのが私の答えだ」と言います。

ゼレンスキー大統領と会談するバイデン前大統領

「バイデン氏はウクライナにとても強い思いを持っていたし、きずなもありました。しかし、バイデン氏は冷戦時代にその地位を確立した政治家です。
その政策の根底にあったのは『ウクライナを支援する。ただしロシアとの直接対決は避ける』というものでした。これをロシアに巧みに利用されました。
バイデン氏は(武器の供与など)多くの決定を下しましたが、すべての決定に時間がかかりすぎ、ロシアが戦闘で優位に立つことを可能にしてしまいました。
バイデン氏には冷戦時代の米ロの対立の記憶が強く残っているのです」

ヨーロッパのやるべきことは?

一方、ヨーロッパについては、危機への備えが不十分だったと指摘。

ウクライナ、そしてヨーロッパの安全保障への関与に消極的なトランプ政権の誕生を受けて「ヨーロッパはもっと安全保障のための支出を増やすべきだ」と強調します。

「ヨーロッパのすべての国がウクライナのために力になろうと武器を送り兵士を訓練し、医療支援を行いました。問題はすべてに時間がかかりすぎたことです。
さらに、ウクライナへの侵攻が始まったとき、ヨーロッパは自分たちで武器をほとんどつくっていませんでした。ですからウクライナに送ろうと思っても必要な量を送るすべがなかったのです」

ポーランドで訓練を受けるウクライナ軍の兵士(2024年)

「ヨーロッパには非常に大きな軍事産業があり、各国政府はウクライナのためだけでなく、自分たちのために武器の生産への投資を行うべきです。
ソビエト連邦の崩壊後、ヨーロッパは戦争の時代は終わったと判断しました。1991年から2000年代初めにかけて、ヨーロッパは武器の生産には投資してきませんでした。
その後ロシアは変わったのにヨーロッパはそれを無視してきたのです。
ヨーロッパは武装解除された状態です。もしプーチン大統領が今、ヨーロッパを攻撃するだけの能力があったとすれば、それに対抗する力はまったくないでしょう」

ウクライナ情勢 今後どうなる?

侵攻から3年がたち、各地で攻勢を強めるロシア。

トランプ政権の誕生、各国に広がる支援疲れなど状況が大きく変化するなか、クレバ氏はウクライナの外交は正念場を迎えていると指摘しました。

「バイデン氏は政権を去る前、ウクライナへの支援を残していきました。それに加えヨーロッパからの支援、そしてウクライナで生産される武器などを合わせれば私の見積もりでは夏の終わりまでは持ちこたえられると思います。
問題はその後です。対処しなければいけない多くの課題が出てくるでしょう」

「ウクライナほど平和を望んでいる国はありません。しかしそれは真の平和でなくてはなりません。現実的で永続的な真の勝利について考えるのなら、ロシアが帝国主義的な思想をあきらめるところまで打ち負かさなければならないのです。
勝利はどんなものなのか、達成にはどれくらい時間がかかるのか、それは外交の腕の見せどころなのです。最も不利な状況のなかで国のために最もよいディールを得ることなのです」

真の外交官になるには?

「講義の内容を友人間でシェアするのはいいが、SNSに投稿しないように」

学生たちにこうくぎを刺しつつ、講義では実体験に基づいた外交の最前線でのエピソード、みずからの経験を具体的に詳しく伝えているクレバ氏。

その中で、ロシアによる侵攻後、それまでウクライナとは深い関係はなかったアフリカの14か国を訪れて支援を求めたときのことを話しました。

「相手から言われたのは『君に同情する、戦争では多くの命が失われる。でもウクライナの味方は憎むべき植民地支配をした側(欧米)だ』『アフリカはロシアが何をしたとしても背を向けない。ロシアは私たちには何も悪いことをしていないのだから』といったことでした」

ザンビアを訪問したクレバ氏(2024年8月)

そして学生たちにこうアドバイスしました。

「外交官になったら価値観の異なる国に行くことを勧めます。ワシントン、ブリュッセル、パリ、ロンドンなどに行って難しい会話をすることは簡単なことです。
でも考え方がまったく異なる場所で行う会話とは比べものになりません。快適な場所を離れ、まったく違う考えの人たちと話すことで強くなれます。
そういう経験を得てこそ、真の外交官になれるのです」

あるロシア人学生の質問

この取材のあと、パリ政治学院で開かれたクレバ氏の講演会に参加する機会がありました。会場はフランスだけではなくヨーロッパ各国からの学生などで満席でした。

クレバ氏は今のウクライナ情勢について語り、聴衆からの質問にも丁寧に答えていましたが、その表情が変わった瞬間がありました。

それはロシア人の学生からの質問でした。緊張していたのか、少し声が震えていました。

「私はロシア人です。不適切な質問かもしれませんが…ウクライナがロシアと再び通常の外交関係を築くとしたら、その条件はどのようなものでしょうか」

「謝罪です」

クレバ氏は間髪入れず、語気を強めてそう答えました。

「ロシアの、何という名前の大統領であろうと、ウクライナに来て、ひざをつき、そして謝ることです」

会場からは大きな拍手がおきましたが、クレバ氏ははっとした様子でした。そして少し表情をやわらげ、その学生に対し次のように語りかけました。

「あなたの気持ちはわかります。気持ちを強く持って。その機会はくるはずです。
この会場にいるヨーロッパの人たちは何世紀にもわたって互いに戦い続けてきたのに今は平和に暮らしているのですから」

祖国であるウクライナへの思いと同時に、ロシアに対する怒り、そしてその怒りを一瞬でも1人の学生にぶつけてしまったことへの複雑な感情をかいま見た気がしました。

トランプ流の「ディール」によって大きな動きが起きているウクライナ情勢。

その大きなうねりのなかでクレバ氏がこだわる「外交の力」はどう働いていくのか。そしてどうやって動かしていくのか。ウクライナだけでなく、各国の姿勢が改めて問われていると感じます。

(2月17日国際報道2025で放送)

ヨーロッパ総局記者
向井 麻里
1998年入局 国際部やシドニー支局、ロンドン支局長を経て現所属
フランスやスペインなどを中心にヨーロッパを取材

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