6-16 来訪する破局
何か策はないものか。このままでは妖怪軍団に蹂躙されてしまう。
「御影君! 村人の私が持っただけでもすごい力が出るコレ、御影君が持ったらもっとすごくならない?」
俺は思いつかなかったが、クゥは策を閃いた様子だ。危機を打開するために考えた結果を手渡してくる。
異質な黒い球体だ。透過度が皆無のため宝石というよりは真珠に近い。吸い込まれて落ちていきそうな黒色をしており、触れるのに勇気を必要とする。だからといって不気味さだけを感じる訳でもない。
「早く。ほら、噛みついたりしないからっ」
「あ、ああ」
クゥに急かされて右手で掴み取った。
黒い炎を発する割に熱くはない。少し温かさがある程度か。クゥが持っていた時よりも炎は噴出量を減らして、手に絡みつくくらいに落ち着いている。
「どう?」
「どうと言われても、これ、どうやって使うモノなんだ?」
==========
▼御影(分身体)
==========
“ステータス詳細
●力:28 ●守:13 ●速:43
●魔:2/12
●運:13”
==========
特に向上しないパラメーターを網膜に浮かび上がらせながら、クゥに使い方を訊ねる。
「……気合?」
不確定要素を気合と呼ぶ風習は黄昏世界にも存在するようだ。
「もう少し何かないのか?」
「うーん、困った時の御母様頼み? 願ってみたらどう」
俺、初詣には寺に行って、夏祭りでは神社に行って、クリスマスではコンビニでケーキを買って、親戚のパスタ婚に出席した事もあるが、黄昏世界の神様は崇めていない。
そんな俺の願いを聞き届けてくれるとは思えないものの、願うだけならタダなので願ってみる。
俺達の窮地をどうぞお救いください。
「……何も起きないな」
「おい、何かするつもりなら早くしろ! 何もしないのなら俺が一戒追加するぞ」
「願い方に具体性が足りないんじゃない?」
具体的にか。
物理攻撃で倒せない数千の敵を倒すのであれば、魔法攻撃が有効だ。魔法攻撃と言っても『三節呪文』や『四節呪文』では足りない、『五節呪文』の広範囲攻撃でなければ鹿力大仙の分身体を殲滅できない。
『五節呪文』を行使するには魔法使い職をSランクに上げる必要がある。魔法使い職の本場であったウィズ・アニッシュ・ワールドにもどれだけいただろう。
だが、そんなレアなSランク魔法使い職を何人も俺は知っている。歴戦の彼女達がここにいたなら、周囲全体を吹き飛ばして殲滅してくれただろう。目の前の妖怪は、蟲星から進出してきた雑魚と比較すれば量も質も明らかに劣る。火力極降りの魔法使い職にとってはカモでしかないだろう。
……まあ、叶わない妄想である。
前衛アサシン職、後衛魔法使い職多数の変則パーティー。即行で敵を倒さなければ反撃で撃滅されるしかない短期決戦特化のイケイケ戦闘集団は黄昏世界に存在しない――。
“――たった今、救援信号が届いたわ。『異世界渡りの禁術』を妨げる障壁が一時的に弱まっている。先着一名で向こう側に送れるわ。さあ、私の愛する世界の子供達、誰が行きたいかしら?”
“――はいッ、私が行く!!”
“――兄さんが呼んでいるのは私”
“――救援内容は火力重視のようね。今、ここにいる中で最も適切な子は――”
ふと、黒い球体の炎の噴出量が増した。
噴いた炎が二つに分離してから、上空で交差する。黒い炎に縁取りされた空間が燃え落ちて穴が開く異常現象が続いて起きる。
穴の中は人間の視覚野では認識不能の群青色の異次元だ。距離は測れず、どこに通じているのかも分からない。科学はもちろん魔法でも解析困難な世界の外側だと直感した。
世界に開いた穴を通じて、何かがやってくる。
かなりの実力を有している。『魔』の気配は俺の本体以上。二千年生きている森の種族、しかも救世主職な黒曜の717には届かないかもしれないが、人間であれば規格外な気配が来訪しようとしている。
「何か、来るぞッ?!」
「来ているのは妖怪も!」
壁のごとく、隙間なく迫る鹿力大仙の集団も目の前だ。
妖怪の武器が四方八方より突いてくる。
……その剣先が、熱量によってドロっと液体化した。
「――遮断、業火、隔絶、絶炎絶壁――」
大気を歪ませる程の熱量が、俺達を守るように展開されていく。完成前でありながらこの熱気。火属性の魔法に相当長けていなければ実現できない。
「まさか、この呪文はっ?!」
「何が起きて??」
「背中が疼く」
敵の接近を許さない火属性の魔法防御。妖術でも実現できるかもしれないが、この呪文は彼女が使う『五節呪文』で間違いない。
「――その壁は何人たりとも通さず通せず近寄りし悪漢は燃え尽きるであろう!」
空間の穴を通じて聞こえた彼女の声が魔法を完成させる。
ほぼ同時に、大正ロマンを想起させるハイカラな赤い服が現れたではないか。
「ふ、ふふっ、ふははは! この私を最初に呼ぶのは当然として、他の有象無象の女共に勝ったのは気分が良いわね!! 御影!」
「や、やっぱり。さ、皐月ぃっ!?」
「炎の魔法使い、皐月。参る!」
天竜川の炎の魔法使いに代々伝わりし、紅色の袴の皐月が俺の隣に降り立った。どうやって現れたのか分からない。本人だとすれば信じられないが、『五節呪文』を使ったので、妖怪の『擬態(怪)』ではなく本物の皐月で間違いないだろう。
話を聞きたいのに、切迫した状況がそれを許さない。
殺到する妖怪共をどうにかする必要がある。
「何が何やらだが、皐月。『五節呪文』で殲滅を頼む」
「ちょっと数が多い。五節だと取りこぼしが多そうね」
「皐月でも無理なのか」
「無理だなんて、ね。御影がいない間、私が他の女共を謀殺しようとしていただけと思ってもらっては困るわね」
「い、いや、謀殺もしていないよな?」
皐月は口の端をニヤりと曲げた後、詠唱に入った。現実の事象変換が始まり、火の粉が彼女の周囲を舞い始める。
「三節、任せます師匠」
“任された、弟子。――崩壊、その終末は炎熱となりて、噴火――”
「――大地の行く末、灼熱、見渡す限りは赤い終局。……重唱六節呪文“破局噴火”発動せよ!」
皐月と皐月以外の声が重なる。
皐月の体に透明な別人の誰かの体が重なる。
詠唱が重なり一つの魔法となって発動した時、周囲一帯に灼熱色の亀裂が走った。そして、景色すべてが地面からの大爆発に吹き飛ぶ。何もかもが火山灰の煙で上書きされる。直下型地震の縦揺れも激しいはずであるが、灰一色でよく分からない。
爆音に耐え切れなかった聴覚は高音域の耳鳴りで固定される。
「うーん、フラストレーション。威力的には七節相当だから、かなり手加減しろって注意されているのよね」
灰色と耳鳴りの単調な世界が少しずつ晴れていくと……見えてきたのは溶岩の波がうねる破壊し尽くされた大地である。地盤が吹き飛んでいるため、俺達がいる場所を頂点に一帯が沈んでしまっている。異世界というよりも異星、蟲星本国を思い出させる。
鹿力大仙の分身体はたった一体だろうと居残っていない。復活できないくらいに微塵となって全滅してしまっている。
頭……威力のおかしい魔法だった。皐月は手加減したとか言っているが、破壊範囲は一キロ以上五キロ未満。妖怪の街の正門も消滅しているぞ。
==========
▼皐月
==========
“●レベル:115”
“ステータス詳細
●力:41 守:42 速:38
●魔:373/478
●運:51”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●魔法使い固有スキル『五節呪文』
●魔導師固有スキル『魔・消費半減』
●実績達成ボーナススキル『火魔法趣向』
●実績達成ボーナススキル『ファイターズ・ハイ』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
×実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(無効化)
●実績達成ボーナススキル『火の鳥』
●実績達成ボーナススキル『重唱呪文』”
“職業詳細
●魔導師(初心者)”
==========