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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第六章 西への旅
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6-3 山の裾野にて在野妖怪を倒しただけ

 襲ってきたはずの妖怪から逆に水筒を奪うとはなかなかに蛮族な思考なのだが、確かに喉は乾いていた。

 俺や黒曜はレベルやスキルで脱水症状に強くなっているが、それでも喉の渇きは覚え、長期的に脱水が続くと『魔』の自然回復が停止する。村人のクゥについては毎日飲まねばすぐにミイラだ。

 妖怪にとっても水分補給は大切だ。黄昏世界の気候を生きるために必ず飲み物を所持していた。


「おい、徒人ただびとごときが無視していないで答えろ。どいつが救世主職だ?」


 前の壁村でギョクス――最後の方は顔を見なかった。という事は頭が爆発した犠牲者の一人になってしまったのだろう。黒い海での冥福を祈る――が言っていた通り、救世主職の存在が妖怪の間で噂になっているというのは真実のようだ。山を越えた隣の州の妖怪が知っているとなれば、かなり広範囲に噂は広まっているのだろう。

 しらばっくれるのは不可能だ。黄昏世界の人間は壁村の外にほとんど出ない。外を歩いている人間を発見したなら、救世主職の嫌疑がかかってしまう。


「このブタ顔のユウタロウが救世主職だ。ほら、救世主に相応ふさわしきたくましい肉体だろう」


 まあ、パーティーメンバーの誰が救世主職なのかまでは分かるまい。心苦しいが、トリアージの結果、ユウタロウを俺は指差した。


「どう見ても妖怪じゃねえかッ。というか、妖怪の癖に徒人と一緒だと。恥を知れ!」

「ふん、魔族を妖怪ごときと一緒にするな」


 白シカ妖怪はユウタロウを除く三人の顔を見まわした。俺、クゥ、黒曜の中では黒曜が当たりだ。外見のみで判断したとしても黒曜が選ばれるだろう。



「……仮面野郎。お前が一番美味そうだな」


==========

“『味上昇』、生贄いけにえなれば味ぐらい上等であるべきというスキル。


 肉質が上昇し、どの種族からも美味そうという意味合いで好感を持たれる。

 強制スキルであるため解除不可”

==========



 お、俺を選びやがったぞ。趣味が悪い妖怪め。


「まあ、誰だろうと構わねえ。全員、喰っちまうんだからな」

在野のら妖怪がたった一匹で現れて大口を叩く」


 周囲の気配を探っても白シカ以外の妖怪を発見できなかった。うまく隠れているとすればかなり優秀だ。言葉ではあおりながらも、妖怪は他人をだます事に長けているので気を決して抜かない。

 妖怪との戦いの基本戦術は言葉を信用しない事。ただし、これは一番の方法ではない。



「救世主職と言っても所詮、徒人。妖怪の敵じゃねえ――」

「――そう勝手に思いながら、死んでいろ」



 一番の方法は言葉を聞かない事だ。オレオレ詐欺の対策と基本的に変わらない。

 黒曜が実践した方法、話している最中の白シカの背後へと『暗影』で移動し、驚きながら振り向いた妖怪の腹をナイフで裂くという方法は短慮なような気がしないでもないが。

 臓物をはみ出しながら倒れていく白シカ妖怪。

 本当にたった一体だけだったのか、仲間に見捨てられたのか。待っても他の妖怪は現れなかったので真実は分からない。


「黒曜。もう少し話を聞いてやっても。街の方角くらい聞けたかもしれないぞ」

「パパ。妖怪は情報源にならない。何も信じるな」


 俺と別れた単独行動中に苦労したのだろう。ナイフの血を妖怪の服でぬぐいながら黒曜は吐き捨てるように返事をした。


「水筒、水筒っと」


 そして、嬉々としてモンスタードロップをあさるクゥ。竹筒のような水筒と、ついでに金品らしき小さな金属も奪っている。街は妖怪、壁村は物々交換が基本の貧しい人間。拾っても使う機会はほとんどないと思うのだが。


「ちぃ、シケた妖怪ね。身なりが良いからもう少し持っているかと思ったのに」

「クゥがどんどんすさんでいく。俺と出会った頃の君はまだ残っていますか? 職業に山賊とか追い剥ぎとかが増えていない?」

「こんな場所に捨てておく方が勿体もったいないでしょ」


 ちょっと恥ずかしくなったのかクゥは妖怪の懐をまさぐるのをめた。人に道徳を説く程に俺も正しい人間ではない。いつも変人変人と言われているので少し言い返しただけである。

 妖怪が現れたのであれば、補給地点になる壁村、もしかすると街が近くにあるはずだ。

 俺達は妖怪の死体を放置して、旅を再開する。





 御影一行が過ぎ去った山の裾野すその

 腹を裂かれた妖怪の死体が一つ転がっているだけの見どころのない風景。一日経過するまでもなく死体は妖魔に喰われてなくなり、ただの乾いた風景となる場所である。



「――まったく、ひでぇ、ひでぇ。容赦がない……っと。在野妖怪の真似はこれまで」



 けれども、少しばかりその場所が特別なのは、腹を裂かれて死んだはずの妖怪が息を吹き返した異常事態にある。


「妖術“覆水逆流”がある限り、この身は不死身。騙されない気でいる者を騙すとはなんとも痛快至極」


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“『嘘成功率上昇』、あやしげなる存在の姑息なるスキル。


 嘘の成功確率が上昇する。言葉巧みささえ不要となる。

 本スキルを突破するならば、確信を持って打ち破るほかない”

==========


 動画を逆再生するかのように、はみ出していた臓器が白シカ妖怪の腹の中に戻っていく。

 傷跡は綺麗になくなり、白シカ妖怪は何事もなかったかのように立ち上がる。


「偵察は上々。されど、救世主職と正面から戦うのは悪手。妖怪らしくからめ手を用いるべし。……義兄弟に早期連絡」


 高度な妖術を使う白シカ妖怪が在野妖怪であるはずがなかった。

 その名は、鹿力大仙ろくりきたいせん。五十年前の昔、義兄弟三人で救世主職を下した実績を有する実力派の妖怪である。


「久々の救世主狩り。実に愉快、痛快」


 鹿力大仙ろくりきたいせんは体を細かな虫へと変化させてその場を去る。この妖術も目を見張る程に高度なものだが、三大仙と称えられる程の仙人職ならば造作もない事であった。


==========

鹿力大仙ろくりきたいせん

==========

“●レベル:122”


“ステータス詳細

 ●力:91 + 100(捕食ボーナス)

 ●守:88 + 100(捕食ボーナス)

 ●速:101 + 100(捕食ボーナス)

 ●魔:664/514 + 150(捕食ボーナス)

 ●運:0

 ●陽:102”


“スキル詳細

 ●仙人固有スキル『不老』

 ×仙人固有スキル『仙術』(無効化)

 ●仙人固有スキル『魔・優成長』

 ●仙人固有スキル『術研究速度上昇』

 ●妖怪固有スキル『擬態(怪)』

 ●妖怪固有スキル『妖術』

 ●妖怪固有スキル『嘘成功率上昇』

 ●妖怪固有スキル『魔回復(嘘成功)』

 ●妖怪固有スキル『斉東野語』

 ×実績達成スキル『雨乞い』(無効化)

 ●実績達成スキル『救世主捕食』”


“職業詳細

 ●仙人(Cランク)

 ●妖怪(Aランク)”

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[一言] 三大仙でCランクは低すぎない 選手層薄すぎて マイナー競技の優勝争いを彷彿とさせる 一回戦敗退でも3位みたいや
[一言] ただの山賊かと思いきやまさかの大物でしたか パラメーターの捕食ボーナスが凄まじいですね スキルだと雨乞いはともかく、仙術が無効化されてるのが気になります 初めてのAランク妖怪ということで固…
感想一覧
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