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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第五章 妖怪の街へ
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5-11 同意により起爆する呪い

 痛む頬をさすりながら、親友暴行罪の犯人たるユウタロウに尋問する。


「どうして殴った。せっかくにおいが爆発原因だと考えがまとまりかけ――」


 意識がシェイクされて考えが吹き飛んだ。

 俺の頭が爆発したのかと思ったらどうも違う。同じ側の頬を再びぶたれたらしい。


「――二度も殴った!? 優太郎にも殴られた事がないのに!」

「状況を作り上げる事にけた老体を俺は知っている。奴ほどではないから、今の状況に不自然さが目立つがな」


 ただ暴行されただけなら黙っていられないが、ユウタロウの不機嫌な顔付きを見るに違うらしい。

 州軍が壁村へとせまる恐怖。

 頭が爆発するという怪奇。

 二つのプレッシャーが視野をせまくしているとユウタロウは言う。


「考える事はいい。だが、誘導された状況から安易に結論を導くな」

「俺の思考が妖怪に誘導されていると言いたいのか?」

「臭いで人間族の頭を爆発させるなど馬鹿馬鹿しいとは思わないか? 人間族の村一つを満たせる程に臭気を作れるのならば、毒を使った方がまだ確実だろう。そこに強い違和感を覚える」


 壁村の中では爆発が散発的に発生している。逆に言えばまだ村人は全滅していないという事だ。妖怪共が風上で毒を焚いていた方がより多く、そして、より早く被害が出ていたのは間違いない。

 ユウタロウが指摘した違和感は俺も覚えていた。ただ、ここが異世界で敵が妖怪だからと疑念を棚上げにしたのである。


「毒を使ったら、妖怪が後で遺体を食べられないからじゃない?」


 クゥはユウタロウの指摘に見解を述べた。妖怪の生態を知る現地民らしい意見だろう。


「人間族が死ぬ程度の毒を恐れるとは思えんな。仮に妖怪共が喰う事を第一として考えているなら、肉量の減る爆発を攻撃手段として選ぶとは思えん」


 対するユウタロウの考察も適切だ。まるで人間を喰った事でもあるみたいな視点で物事を考えている。


「だったら、この爆発の原因を教えてくれ。ユウタロウ」

「爆発と考えるから悪い。異常な死に方が異常なルールに従い発生していると考えればどうだ。そういうものを一まとまりにできる好都合な言葉があるだろう」

「……妖術とか呪いと言いたいのか? 地球で言ったら正気を疑われるだろうな」

「主様をペテン染みた方法で呪殺した男が言うか?」


 妖術が存在する黄昏世界なのだから、真っ先に妖術を疑うのがセオリーである。理解できない現象をすべて呪いと定義していた前時代に舞い戻ったような考え方になってしまうのは皮肉である。

 けれども、実際の呪いは万能ではない。魔法の類似品なのできちんと法則も存在する。いや、本来は方向性の定まっていない怨念を武器として転用するのだから、むしろ複雑な法則があってしかるべきだ――んっ、俺の場合はどうだろうな。


「特に相手の頭を一方的に爆発、即死させる程の呪いとなれば相手が人間族であろうとも制約が厳しくなり実用性はほぼなくなる。だというのに人間族が爆発するとなれば……呪いを掛けられる側も呪いに同意している、と考えるしかないな」


 ユウタロウが核心にせまる事を言った。


「呪いに同意って、そんな覚えはないぞ?」

「同意した途端に爆発するのだから当たり前だ。俺が殴らなければ、お前も呪いが発動していた。レベルやステータスの関係もあるだろうが、頭の中からの攻撃に耐える自信はあったか?」


 殴れられた頬をさする。まだヒリヒリと痛む。それでも、脳を起爆されるよりは全然マシである。



「術者が設定した呪いの発動条件と、呪われた側が直観した呪いの発動条件、この二つが一致する事で一種の契約が成されたと見なされる。俺の読み通りなら設定されている発動条件は、相手が臭いが原因で頭が爆発すると信じる事。臭い自体は無害だろう」



 香の臭いを吸い込めば頭が爆発する。こう自分が信じたのだ。呪いは人体の抵抗値を完全に無視して発動し、自分が信じる通りに頭を起爆させるだろう。

 ユウタロウはかなり自説を押している。どうしてだとたずねれば「臭いを吸い続けている俺の頭は爆発していない」と答え、どうして呪いに詳しいのかと訊ねれば「オークにもシャーマンくらいはいる」と答えた――どうしてオーク?


「いちおう指摘させてもらう。この呪いの第一被害者はどうするんだ。誰かが臭いを吸って爆発しない限り、誰もそう思わない」

「初期段階では呪いとは別の手段で爆発させる必要があるだろうな。既に爆発しているから確かめようはないが」


 死人に口なしとは言ったものである。誰よりも先に爆死させるのであれば、後から偽者だったか否かを調べる手立てはない。


「……俺でなければな」


 真実を確かめるべく、仮面の裏側へと目を向ける。




 水平線まで真っ黒い海が広がっていた。

 底なし沼よりも深い黒い海が広がっていた。

 ぼとぼと音がする箇所に注目すれば、頭のはじけた奇妙な人々が黒い海へと沈んでいってしまっている。その内、幾人かが失った目玉より無念の涙を流して沈没にあらがっていた。



“――脳を生きたまま吸われた”

“――代わりに火薬を頭に詰め込まれた”

“――従わなければ起爆すると脅されて、仕方がなかった”



 そうだよな。無念だろうて。

 残虐な子供遊びみたいに頭に花火を詰められて、そのまま導火線に火を点けられたなんてあんまりで死に切れないよな。

 どうすれば気持ちが浮かばれるだろうかと考えて、真っ先に考え付くのは仕返しならぬ呪詛返し。頭を爆発させられたのならば、同じように、妖怪共の頭も爆発させてしまえばいい。

 壁村の近くに布陣している妖怪の中から間抜けな奴を捕虜にした後、炸裂玉を口に詰め込んでから仲間の元へと戻す。そのタイミングで爆発させる復讐を数度繰り返せば妖怪共の中でも連鎖爆発が起きるかもしれない。呪いの良いところは敵味方の区別がないところなので、妖怪共も派手に脳漿を吹き飛ばすに違いない。

 実に良い案だ。

 さっそく、実行に移すために仮面を外そう……あれ、仮面が顔からがれないぞ。おかしいな。




「――御影君。歯を食いしばって!」


 ふと、頬で乾いた音がした。

 ダメージにならない程度の軽い村娘の一撃だったので普段なら気付かなかったかもしれない。

 ただ、ユウタロウに殴られたばかりの頬だったので多少は痛かった。今日はよく頬を殴られる日である。


「くだらない事を考えていないで、早く動くっ。壁村の徒人達が爆死する前に動く!」

「あ、はい。いや、でも救うにしても今回は仮面を外さないと難しいかな、と」

「仕方がない。私が取ってあげるから、ほらっ」


 クゥは俺を殴った手で仮面を外す。取れなかった気がしたのは気のせいだろうか。

 顔の穴が開き、悪霊の自由使役が可能となった。先程、心が悪霊側へと引きずられてグーパンで跳ね返ったばかりなので、心情変化はほとんど起こらない。

 助言はしてやったから後はお手並み拝見だ、とばかりにユウタロウは腕組みして俺が誰を呼び出すのかを観察している。


「州軍を撃退するか。あそこに術者もいるだろう」

「いや、その前に……誰かある。臭気をあおぎ散らす時間だぞ」


 呼び寄せたのは、壁村に満ちた臭いを吹き飛ばす事のできる悪霊だ。臭いに害はないとはいえ、臭いを切っ掛けに爆発が起きる。逆に言えば認識できないように散らしてしまえばこれ以上、死人が増える事はない。

 俺の影を広げて現れたのは胴体の長い悪霊だ。


「お前は、黄風怪こうふうかいか。そういえば風を操れる妖怪だったな、お前」


 最近死んで浅瀬にいた事もあってか黄風怪が登場する。死んだような虚ろな目で無表情をしており、俺の命令に対してもロボットのようにおうじる。


「風を起こせ。壁から臭いをすべて吹き飛ばしてしまえ!」

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[良い点] 成る程条件を絞ることで確殺出来ると何かしら条件があるとは思ってたけど絞りきれなかった。 [一言] ユウタロウは頼りなるなー(オメメグルグル)
[一言] 脳幹信管・爆雷符、声に出して読みたくなる語感のよさですね 宝具のタネに全く気付けませんでした… 読み返してみると確かに確信を持った直後にばかり爆発していますね 脳を啜って火薬を詰め込むと…
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