七十六話 実力
「おはようございます。上手くいきましたか」
「―お、おはよう。遅れてすまん、寝起きでな。上手くはいったが、上手くいきすぎてちょっと疲労感があるな。まあ、リーシアの反応も悪くなかったし、娼婦とか買うよりもなんというか達成感があるが」
「それはよかったです。何回戦したんですか?」
「七回だな。流石にキツい。俺も少しくらいは魔法を使えるし、疲労回復の魔導書でも買うかな」
「七回は凄いですね」
「避妊薬買うついでにそれなりの精力剤も買ったからな」
「なるほど。疲労回復と精力剤をコンボで使うと、多分凄いお腹減ると思いますから気をつけてくださいね」
「そうなのか。ちょうど手持ちに疲労回復ポーションあるから使ってみるわ」
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「確かにスゲェ腹減るな。こっちは今まで娼婦相手だと使ったことが無かったから知らなかったわ」
「朝ご飯終わったらアリシアさんの店に行きましょう。魔法がそんなに得意じゃない人用の疲労回復や精力増強の魔導書も売ってるらしいです」
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アリシアさんとヴィンスさんを連れて魔導書店に向かう。リーシアちゃんは朝食の後、まだ宿で寝かせておく事にしたそうだ。
魔導書店に入り、受付の女性にアリシアさんが話をすると、しばらくして二冊の魔導書が運ばれてきた。
ヴィンスさんが代金を払い魔導書を使う。疲労回復の方は無事使えたそうだ。精力増強は今発動したら不味いから後で試すそうだが。
それからヴィンスさんはギルドで近場の依頼を覗いてくるというので、一旦別れた。
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ヴィンスさんはしばらくはソロでイースタスの近辺で魔物を狩ったり、採取したりして過ごすらしい。たまに臨時でパーティを組むのもアリだな、とも言っていた。
一応南にギザンが出た事を伝えておくと、そちらは把握している様子だった。といっても前に護衛依頼中に倒した事があるらしく、耐盲目の解呪のスクロールを用意しておけばそれほど脅威ではないらしい。影から影の移動も、発動前に影が揺らめくのを見ていれば対処できるとか。
ヴィンスさんは頑強や身体強化なんかも自分に対してはある程度使えるので、素でのステータスと併せればギリギリ倒せなくもないらしい。どうやらヴィンスさんはプラチナ級だが、実力的にはミスリル級ぐらいには強いようだ。
プラチナ級の魔物相手でもかなり稼げはするので、今までミスリルランクのいるパーティに入ったりしてミスリル級を相手にする依頼を受けた事はないそうだが。それでプラチナ級止まりらしい。
ちなみにヴィンスさんはクレイモアのような両手剣を使う。身につけている革鎧と合わせてそれなりの品だそうだ。
そこでいずれは部下になるんだし、という事で、新しく武器と防具を用意してあげる事にした。材料持ち込みでポランコさんとイザークさんに作ってもらう。
武器は大量に残っているインゴットを使ってイザークさん達に作ってもらう。加工費はまだいらないらしい。代わりにまた色々と差し入れをしておいた。
防具は革鎧の下に着るネイアの糸でできた長袖、長裾のインナーである。リーシアちゃんのものと合わせて肌着なんかも用意してあげた。加工費は余った糸で支払う。こちらにも差し入れをしておいた。
今回はケバブやらひよこ豆のコロッケのファラフェルやら、ペイルーンのつまみも差し入れしてある。自分用に大量に買ってあったものだ。出来立てを買ってあるので安心である。
シールちゃんは甘いものがいいと言っていたのでアイスクリームをあげておいたら喜んでいた。女の子だなぁ、と思ったら、ブランデーをかけて食べるらしい。そこはドワーフなんだなと思った。
ヴィンスさんはこれほどの事をしてもらえるとは思っていなかったようで、しきりに感謝していた。
だっててっきりプラチナ級らしいのでそれなりに強いのかな、ぐらいに思っていたのに、ギザンをソロで狩れなくもないと言うから勿体無く思ったのだ。
それだけ強いなら普通に他の貴族のところでも働けたのでは?と聞くと、雇われというのが基本的に嫌らしい。護衛ぐらいなら慣れてるそうだが。俺の場合は普通に雇われるより楽しそうだったから選んだそうだ。まあいろんな地域に連れてけるし、色んなものを持って来られるから刺激があるかもだが。
せっかくなので、装備ができたら各国の地図埋めの際に護衛として着いてきてもらう事にした。今はヴィンスさんの実力を把握しているし、普通に戦力になりそうだと思ったからだ。
それとリーシアちゃんはアリシアさんが調べたところ魔法の才能があるらしかったので、たまに魔術師ギルドで講習を受けさせる事にした。修行を積んでもレベルは上がるし、どうせなら二人とも長生きできた方が良いだろうからな。
それ以外の間は春の湊亭でお手伝いをするらしい。どうやら看板娘もこの前からたまに魔術師ギルドで講習を受けるようになっていて、おばちゃんが人手が欲しかったらしい。色々ちょうど良かったな。宿で待ってるだけだと本を読むぐらいで暇だろうし。
ちなみにネイアは俺達がいない間は、たまに使用人さんと散歩したり買い物に行ったり、遊んだりなんかしている。簡単なやつだが本も読み始めたな。後はカレーを食べて糸巻き巻きである。
散歩や買い物の時は使用人さんが伯爵のところから騎士をレンタルして護衛にしているそうだ。まあ色々刺激が強いだろうからな。一応既にネイアの事は都市中の知るところなので、問題等は起きていないようだったが。
◆
ヴィンスさんの武具ができたので魔法もありで皆と軽く模擬戦してもらうと、ヴィンスさんは皆と遜色ない強さだった。ヒラリヒラリと動き回りながら、武器を振り回す軽戦士スタイルである。タルトには少し劣勢だったが。まあタルトはな。
直撃しそうになった魔法を、剣に魔力を通して切り払ったり、魔法の発動をすぐに察知したりと対魔法でもそれなりだ。魔法の切り払いはリアナとシーラが習っていた。アリシアさんは少しできるらしい。
結論、軽量化と生命力吸収が付与されたアダマンタイトやミスリルの合金のクレイモアに、各種耐性付与や強化がされたインナーを着たヴィンスさんは結構な戦力となった。
たまに空中で猫みたいに身を捻って剣を繰り出したりもしてたな。かなりアクロバティックな戦い方ができるらしい。
準備ができたので脳内地図の穴埋めの再開である。何処に行こうかな。
◆
「美味しい〜」
マギーがさくらんぼを大量に使ったチェリータルトのような菓子を食べて喜んでいる。
今はベタンクールを回っているところで、皆でカフェで休憩中である。ヴィンスさんは手早く軽食を食べ、コーヒーを飲みながら辺りを警戒していた。
「一応敵意感知に反応は無いですよ」
「こういうのは習慣づけが大事だからな。魔法があっても不安はあるぞ。俺も街中での護衛は久々だから、慣らし運転をしていると思ってくれ」
「街中での護衛なんてのもあるんですか」
「治安が悪い地域だとな。短期間だがオークションなんかが開かれるところで、出品物の警護をした事もある。ちなみに出品物は奴隷も含むぞ」
「なるほど」
「ベタンクールは治安がいいから、さほど気にする事ないかもしれんが、前に言った通りウルスラや他の国がお前を嗅ぎつけている可能性もあるからな。お前も何か魔法に反応があったらすぐ知らせてくれ」
「分かりました」
俺もチェリータルトを食べる。確かに美味しいな。ここの郷土料理らしい。
「ん?」
「どうした?」
「なんか変な反応が」
「何?」
ヴィンスさんが立ち上がり、背中の武器に手をかけながら辺りを警戒する。
が、しばらくするとため息を吐いて席に座った。
「多分あそこの男だな。特に戦士風にも魔術師風にも、隠密風にも見えない。さっきからお前の連れにチラチラ目を向けていたから、多分嫉妬したんだろう。俺が立ち上がったら怯えていたしな」
「あ、今までもたまにあったけど、今回みたいなのってそれだったのか。明確な敵意とか、何かしてやるって感じじゃないからよく分からない反応になった訳か。なるほど」
「そんな感じのノイズは排除できるように改造してみたらどうだ? うっとうしいだろ」
「そうですね。試してみます」
魔法の設定を変更するイメージを行う。
「またお前を見ていたが、反応はあったか?」
「ないですね。上手くいったみたいです」
「ノイズが減らせたのは収穫だったな。礼に見せつけてやれ」
「えぇ…じゃあ…マギー、俺の分も食べるか?」
「食べるわ!」
俺のフォークに刺したタルトを、そのままマギーがパクついた。
「お、効いてる効いてる」
「なんか悪趣味だなぁ」
「普通は優越感を覚えるだろ? 確かに悪趣味ではあるが」
「俺は多分運が良かっただけですからね」
「謙虚なやつだな。俺なら連れとキスしてやるが」
すると隣で話を聞いていたアリシアさんが顔を近づけてきたのでキスをする。舌を絡めるディープなやつだ。顔を離すといたずらっ娘のような顔を浮かべていた。聞くと恋愛小説なんかでよくあるシーンだからやりたかったらしい。
皆もそれに反応したので、リアナやシーラやマギーやナイトメアともキスすることになった。マギーは俺のほっぺにキスでナイトメアは俺がおでこにキスだったが。
「反応はあるか」
「なんか爆死しろ、みたいに念じてるのは分かりますね。魔法の才能があったらなにかしら発動していたかもしれません」
「魔法の暴発の危険性があったか。そこまでは気が回らなかった。じゃあノイズがないのも良し悪しだな」
「そうかもですね。魔法耐性も普段からかけてありますが他の客もいますし」
その後はさっさと撤収した。なんか悪い事したな。向こうにも良い相手が見つかるように祈っておこう。