子どもを大人や社会の考える型に押し込めるのではなく、
子ども自身が感じ考えていることに添いながら、
子どもが生きる力を自らつけ、
自分の歩む道を見出すことを手助けするということにおいて、
精神分析的アプローチは最良のものであると、
私は確信しています。
理事長
NPO法人設立のアイデアは、発案者である私の英国体験にあります。私は子どもの精神分析的心理療法を学ぶため英国に留学しました。
そこでは、心の問題を抱えている子どもたちが無料で心理療法を受けられる制度が確立しており、経済的にも社会的にも不利な立場にある多くの子どもがその恩恵を受けていました。
私たちの国はどうでしょうか。確かに、心理療法を行う機関は存在します。しかし日本においては、子どものニーズや援助者の熱意よりも、機関そのものの論理が優先されてしまうところがあるように思います。
私が『子どもの心理療法支援会』というNPO法人の設立を考えたのは、NPO法人という形態でこそ、子どものニーズに応え、援助者の熱意を活かすことができるだろう、と考えたからです。
なぜ精神分析的心理療法なのか?
心理療法には多くの形態があります。
精神分析的心理療法はそのうちの1つに過ぎません。
他のアプローチに比べれば、時間がかかる、などのデメリットもあります。
しかし、子どもを大人や社会の考える型に押し込めるのではなく、子ども自身が感じ考えていることに添いながら、子どもが生きる力を自らつけ、自分の歩む道を見出すことを手助けする、ということにおいて、精神分析的アプローチは最良のものであると、私は確信しています。
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- 子どもの心理療法支援会 サポチルはどのような経緯で設立したのでしょうか?
- 傷ついたお子さんや発達障害などのハンディキャップを持つお子さんを援助する心理療法は決して簡単な仕事ではなく、高度な専門性を要する難しい仕事です。サポチル設立前の2005年の時点では、そうした認識は社会ではあまりなく、専門性の高い心理療法実践が行える土壌はあまりありませんでした。そうした中で、専門家が「こういう実践が子どもたちに本当に役に立つ」と実感している実践を普及させていく必要性から、志を同じくする専門家が集まり、サポチル設立に至りました。
- NPO法人という形態で活動を始めたのはどうしてでしょうか?
- 子どもたちを心理的に援助する実践を普及するという目的は、社会の公益活動を旨とするNPOという形態が最もふさわしいと判断しました。また、この形態は、営利目的やその他の目的に左右されることなく、専門家が子どもたちのためになると判断する活動を自律的に展開していく上でも望ましいと考えました。
- サポチルはどのような子どもたち、大人の方々を対象に活動をされているのでしょうか?
- サポチルが支援の対象にしている実践は、児童福祉領域の子どもたちとその養育者の方々、そして発達障害を持つ子どもたちとその養育者の方々です。児童福祉領域の子どもたちには、虐待などを受けて児童養護施設に入所している子どもたち、母子自立支援施設の子どもたち、経済的に恵まれない家庭の子どもたちなどです。発達障害には、自閉スペクトラム症などが含まれています。
- 心理療法というのがどんなものか想像しにくいです。
また、精神分析的心理療法と聞くとすごく難しいものと思ってしまうのですが、
精神分析的心理療法はどのような援助なのでしょうか?
- どの子どもさんたちも本来は自分自身の心の問題を捉えて解決していく力、つまり自己治癒力を持っています。しかし、虐待や発達障害など、様々な理由で自己治癒力を発揮できなくなっているばあいに、役に立ちうるのが精神分析的心理療法です。子どもの精神分析的心理療法は、子どもさんが心の中で何を感じているか、何を考えているか、ありのままを自由に表現できるような場を作り出します。それは具体的には、プレイセラピーという、子どもが自由に遊べるような枠組みで行われます。子どもは、遊びを通じて、言葉にならない様々な思いを表現できるようにし、私たちセラピストは訓練を通じて培った専門的知識や技量によってそれを理解するように努めます。こうしたセラピストとのやりとりを通じて子どもが本来持っている自己治癒力や成長への力が育まれることが期待されます。
- 時代の変化とともに子どもたちやその親御さんの悩みは変わってきているでしょうか?
- 確かに、時代とともに子どもたちや親御さんの悩みは変わっていっているように思います。特にこの10年ほどは激変していると多くの臨床家は感じているのではないでしょうか。その主な要因は、インターネットの普及ではないかと思います。実際、育児のやり方もスマホ育児なども珍しくなくなり、母子関係もかつてと比べれば全体として希薄になっていると言えるかもしれません。子どもたち、そして若者たちの多くはこうした希薄な人間関係の中で育ってきており、つながりの弱さが主要な悩みや問題の焦点になっているように思います。
- サポチルは「子どもの精神分析的心理療法士」という資格を設けています。
この資格は、臨床心理士や公認心理師といった資格とはどのように違うのでしょうか?
- 臨床心理士は公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が出している資格ですし、公認心理師は厚生労働省と文部科学省が共管している国家資格です。それぞれ性格は若干異なりますが、心理相談や心理テストなどができる比較的幅広い心理臨床の専門性を持っているとされる心理学の資格です。それに対して、サポチルの「子どもの精神分析的心理療法士」資格は、こうした臨床心理士の資格を有する専門家が、さらに子どもの心のケアについて専門的に訓練を受けて取得できる、より高度な専門性を持つと認定される資格です。サポチルが支援する心理療法実践は、すべてこの資格をすでに有するか、それを取得する訓練過程にある専門家による実践に限っています。
- 研修プログラムの理念に「アトリエ・システム」というものが採用されています。
この発想はどこから得られたのでしょうか?
また、この理念で研修を続けられ、どのような手応えを感じられますか?
- アトリエ・システムの考えは、ドナルド・メルツアーという英国の精神分析家の考えに由来しています。彼は、硬直した訓練システムは、訓練を受ける専門家の創造性や独創性を奪うと考え、それぞれの専門家が各自の訓練のニーズや関心に応じて必要なセミナーなどの研修を受けるという方式を推奨しました。それは、画家がアトリエを共有して、各自の創作意欲に応じてそれを利用するアトリエにたとえ、アトリエ・システムと呼んでいます。
この方式は、訓練や研修を受ける人の自主性を大切にするという点で優れていると私は考えます。しかし、自由さはしばしば方向性のなさを意味しがちですし、また訓練過程につきものの困難を乗り越えるために必要な「抱えてくれる」枠組みを欠いているのが欠点です。それらを補うために、今年(2018年)4月から訓練コースを設け始動しています。
- サポチルの今後の目標、こういった活動をしていきたいということがあれば教えてください。
- サポチルの心理療法支援事業は、昨年度(2016−17年度)実績で300万円を初めて超えました。今年はそれをさらに上回る見通しです。経済的に困窮している一人親家庭の子どもさんたち、DVや虐待の被害者の子どもたち、発達障害を持つ子どもたちへの心理療法のニーズはますます高まっています。今後さらに心理療法支援事業は拡大しうると思われますが、それを支える資金繰りが今後の大きな課題となります。現在のところ、寄付金は伸び悩んでいますが、今後は私たちの活動の意義をより多くの方に知っていただき、寄付金収入を大幅に伸ばしていくことで、こうした社会のニーズに応えていくことを目指したいと思います。