4chanの“終焉”と、インターネットに息づくその負の遺産

4chanのようなネット掲示板が、もう再び現れることはないかもしれない。だがXやYouTube、そして世界の政治までもが、その亡霊に取り憑かれているように感じられる──。インターネットカルチャーの取材を続ける米ジャーナリストが綴る。
4chanの“終焉”と、インターネットに息づくその負の遺産

わたしの4chanにまつわる最初の記憶は、夜遅くまで起きてブラウザにURLを打ち込み、当時まだ登場したばかりだった「LOLcat」という猫ミームのスレッドを、スクロールしていたときのものだ。

当時、「I can has cheezburger(チーズバーガーたべていいの? )」というセリフを言う猫のPhotoshop画像や、「ORLY? (へぇ、本当? )」と言うフクロウの画像は、14歳だったわたしにとって、この世で最もおもしろいものだった。あまりに笑いすぎて父を起こしてしまい、午前2時に猫の画像を見ていたことを説明するはめになった。わたしはその後、このサイトが抱える、はるかに邪悪な側面を知ることになる。

文化の震源地から、過激思想の温床へ

先週、ライバルの掲示板を拠点とするハッカーたちによって完全にインターネット上から消し去られたとされる4chanを、いま振り返るのは不思議な気分だ。20年以上の歴史をもつこのサイトは、さまざまな顔をもっていた。インターネット文化の中心地として、また匿名性に基づいた自由な表現の場としてスタートしたこのサイトは、次第に銃乱射大量殺人犯のファンクラブへと変貌し、女性嫌悪的なオンライン上のハラスメント運動「ゲーマーゲート」の中枢となり、世界中に広がる極右思想の震源地となった──その影響は、日常的に使うスラングから、投票する政治家にまで及ぶ。だが、サイト自体はジョージ・W・ブッシュ政権時代から変化することなく、時代に取り残されていた。

4chanのようなサイトが再び現れることは、おそらくもうないだろう──それはおそらく、とてもいいことだ。だが、4chanは本質的な目的をすでに果たしていた。世界を噛み砕き、自らの姿に変えて吐き出すという目的を。いまやXからFacebookYouTubeに至るまで、あらゆるものがどこか4chanのように感じられる。そう考えると、このサイトがなぜいまだに存在し続ける必要があったのか、不思議に思えてくる。

「ショックやグロテスクに特化したウェブサイトの“新しさ”や、そこに内在する反骨精神は、その意見が世界のトップ5ほどの富豪や米国政府の公式な方針になった時点で死ぬのです」。『The Onion』の最高経営責任者(CEO)で、かつて過激主義について取材をしていたベン・コリンズは『WIRED』にこう語る。「一見ニヒリズムに基づく文化現象も、それ自体が“権力”になった瞬間に、必然的に終わるのです」

無邪気なミームから一転、有害に

猫ミームに夢中になって夜更かししていたあの夜から数年後、わたしは4chanのより有害な側面を初めて体験した。大学時代のことだった。わたしはTumblrの熱心なユーザーで、友人たちもみんなそこにいた。プラットフォームの自分たちの一角は、まるで自宅で開くパーティーの延長のような、居心地のいい場所だった。その穏やかな空気は、大学4年に進級する直前の夏、わたしが「ドックス(個人情報の晒し)」を受けたことで一気に崩れ去る。誰かがわたしに対する「ヘイトブログ」を立ち上げ、匿名の他人によるデジタルな怒りを初めて真正面から感じた。そして、わたしの電話番号が4chanに投稿されたのだった。

当時、4chanでは「バトルトードの罠」と呼ばれる悪ふざけが流行していた。スレッドに、この電話番号は激レアなゲーム「バトルトード」が手に入るゲームストップの店だと書き込まれたのだ。結果、わたしのところには48時間で250件以上の電話がかかってきた。

「バトルトード攻撃」の真っ只中、4chanのユーザーの多くはわたしに留守言を残していた。わたしはそれらをすべて聞いた。すると、すぐにあるパターンが浮かび上がった──明らかにメッセージを残すことにさえ緊張している若い男性たちが、ただ面白半分に見知らぬ人間に嫌がらせをしようとしていたのだ。ジャーナリストとして4chanを取材し続けて15年になるが、あのときの留守電の声はいまも頭から離れない。

わたしは、あの内気だった若者たちが、暴力的で怒りに満ちたインターネットの暗部へと変貌していく過程を、まさに最前列で見ていた。反動的憎悪の鼓動するエンジンと化したユーザーたちは、あらゆるものや人に憎しみをぶつけた。それが、唯一語ることのできる言語だったからだ。

2010年代、わたしは世界を巡りながら、4chanが民主主義に及ぼす影響を追った。フランス、ドイツ、日本、ブラジル──4chanのユーザーたちは、差別的なミームや極右ポピュリズム、ネットいじめを通じて世界を支配できると本気で信じるようになっていた。そして、ある意味でそれは現実となった。だが、4chan文化が広く浸透したことは、皮肉にもこのサイトにとって“勝って負けた”ような結果でもあった。

コリンズもわたしと同様、2010年代にインターネットの辺境であった4chanが、トランプ政権の非公式プロパガンダ機関へと変貌していく過程を、間近で見てきた。彼の見立てでは、2022年にイーロン・マスクTwitterを買収した時点で、4chanの存在意義はほとんどなくなったという。億万長者が、あの手の過激な投稿を実名ですることを許し、しかも報酬まで支払ってくれるというのに、なぜ匿名性の陰に隠れる必要があるのだろうか?

「(4chanの)ユーザー層は、より大きな舞台へと移り、即座に米国の生活や政策に影響を与え始めたのです」とコリンズは語る。「Twitterは4chanになり、そして4chan化したTwitterが米国政府そのものになった。文化戦争における弾薬庫としての4chanの価値は、もはや薄れてしまいました。なぜなら、以前は4chanでしか聞けなかったような発言が、いまでは毎日のようにTwitterで見られ、半年後には政府高官の口からも出てくるようになったからです」

4chanが「ネットの怪物」になるまで

しかし、4chanが猫ミームの宝庫から「インターネットの怪物」へと変貌した背景を理解するには、サイトの仕組みそのものを知る必要がある。政治への影響力ばかりが注目されがちだが、わたしはむしろサイトの機能が同じくらい、あるいはそれ以上に重要だったと考えている。

4chanは、当時15歳だったクリストファー・“ムート”・プールによって設立された。彼は、やや穏健なユーモア掲示板「Something Awful」の常連ユーザーで、同サイト内の「Anime Death Tentacle Rape Whorehouse」という板から派生する形で、自らの掲示板を立ち上げた。日本の掲示板「ふたば☆ちゃんねる」のファンだったプールは、欧米のアニメファンに向けた同様の掲示板をつくりたいと考えた。彼は同サイトのコードを使い、つたない翻訳もし、「Something Awful」のアニメコミュニティに向けて4chanを宣伝した。

4chanのユーザーは匿名で、スレッドは永続的ではなく、一定時間が経過すると「404」エラーとなって消えてしまう。そして投稿先として数十ものサブボードが用意されていた。この「儚さ」「匿名性」「組織化された混沌」という独特の組み合わせは、強烈な化学反応を生み、ウェブ上のどこにも存在しなかったような、底なしのスラム文化を即座に形成した。それは、インターネットを築いたテクノユートピア主義の、暗黒の終着点でもあった。4chanでは誰もが「名無し」であり、何をしても意味はなかった──誰かに気づかれ、スクリーンショットを撮られるほど衝撃的で、嫌悪感を催させ、憎悪に満ちたものでない限りは、その言動はデジタルの彼方へと消え去っていったのだ。

「4chan発のミームが有名になったのは、誰かがわざわざ時間を費やして保存してくれたからなんです。どの投稿が保存され、どれが消えていったのかは、誰にも予測できなかったし、コントロールもできなかった。その事実が、本当に、心底興味深いと思います」と、Tumblrの元編集責任者であるケイツ・ホルダネスは『WIRED』に語る。

とはいえ、4chanは単純なサイトではなかった。コミックスや料理、ゲーム、そしてもちろんポルノまで、さまざまなサブカテゴリが存在していた。ホルダネスは、新型コロナウイルスのパンデミック中に4chanの料理板でパンの作り方を学んだという(2012年に彼女に4chanを紹介したのはわたしだ)。

「サワードウに挑戦し始めたとき、すごくいいアドバイスがもらえました」と彼女は語る。

カオスのなかにあった“人間らしさ”

ホルダネスは、4chanをインターネットの“西部開拓時代”と呼び、その終焉が今月訪れたことについて、ある意味ふさわしい感じがすると言う。かつての4chanにあったカオス──いいものと最悪なものが混在すること──は、いまではアルゴリズムに支配された企業プラットフォームによって上書きされてしまった。

いまやわたしたちのフィードには、アルゴリズムによって自動的にコンテンツが届けられる。新しい猫ミームか、あるいは新たな政策公約か──かつてのように、どちらが出てくるかを確かめるために画面を更新し続ける必要はない。あの時代のウェブに漂っていた「人間らしさ」は、4chanが消えたいま、もう戻ってこないだろう。それがいいことなのか、悪いことなのかは、これから明らかになる。

「わたしたちがいまもっている4chanの断片的な記憶──それらはすべて歪んでいるんです」とホルダネスは言う。「4chanが何だったのかを正確に記録したアーカイブは存在しないし、これからも存在しようがないからです」

(Originally published on wired.com, Translated by Eimi Yamamitsu, edited by Mamiko Nakano)

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