江戸時代に大阪で生まれた日本を代表する伝統芸能の1つ「文楽」。語り手、ドラマチックな三味線の演奏、人間顔負けの感情表現を醸し出す人形が三位一体となって織り成す独特な世界に引き込まれるファンも少なくありません。
とはいえ、文楽に興味はあるものの「実際に観劇に行くとなると二の足を踏んでしまう・・・」という方も多いのではないでしょうか。私は中学生から高校生にかけて、母に誘われ大阪で文楽を数回観たことがありますが、今回、子どもや初心者にも文楽の魅力を分かりやすく紹介する「親子劇場」が開催されていることを知り、小学生の娘と参加してきました。敷居が高そうな文楽ですが、実際そんなことはなく、とても楽しい1日を過ごしてきました。今回は、大阪出身の私が、娘とともに体験してきた文楽の魅力をご紹介していきます。
- 文楽とは?
- 語り、三味線、人形遣いが織り成す三位一体の伝統芸能
- 古典芸能好きの娘に文楽を見せてあげたい
- 文楽を理解させるため、まずは動画で予習
- まずは国立文楽劇場の雰囲気を味わう
- オブジェ、お土産、展示資料で早速気分が盛り上がる
- 公演に向け解説用イヤホン、いすの高さを調整するクッションも準備
- 公演が始まり、夢中になる娘と私
- 演目①「かみなり太鼓」 かみなりの子どもと太鼓屋一家の織り成す物語
- 分かりやすく、新しい発見もあった文楽解説と質問タイム
- 演目②「西遊記」 孫悟空が大活躍するアクション満載の物語
- 「来年もまた見たい!」と大喜びだった娘
- 「雰囲気」、「内容」などさまざまな面から文楽を楽しむ
- 大阪の町を巡りながら文楽を楽しもう
文楽とは?
文楽という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、実際どのようなものなのでしょうか?文楽は、一言でいうと三味線を用いた語りによる人形芝居です。
日本では、古くから琵琶法師たちが音と節を付け、さまざまな物語を語ってきました。江戸時代には、竹本義太夫という語り手が大阪の道頓堀に開いた人形浄瑠璃の芝居小屋「竹本座」が大人気を博し、有名な近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)の作品が生まれました。しかし明治時代には、興行師・植村文楽軒(うえむらぶんらくけん)が開いた「文楽座」のみが残ったため、ここから人形浄瑠璃を「文楽」と呼ぶようになりました。
文楽は1955年に国の重要無形文化財に指定され、2003年には、ユネスコにより「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」と認められました。さらに、2008年に「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載されました。現在、文楽は常設の劇場である東京の国立劇場と大阪の国立文楽劇場のほか、地方公演などで鑑賞できます。各地域で伝承されてきた人形浄瑠璃が重要無形文化財となり、独自の公演を行っているケースもあります。
語り、三味線、人形遣いが織り成す三位一体の伝統芸能
文楽といえば、人形のこまやかな動き。人間顔負けの感情表現には驚きます。この人形一体を3人で操ります。頭・顔と右手を操作する「主遣い」、左手を操作する「左遣い」、足を動かす「足遣い」の3人がぴったり息をあわさなければ、ちぐはぐな動きになるため熟練の技が求められます。
語り手は「太夫」と呼ばれ、登場人物のせりふを含め場面の説明・ナレーションまでをすべて一人で語ります。そして太夫を盛り上げるのが三味線の演奏。文楽では、日本舞踊や歌舞伎よりも太い棹の三味線を用い、低音の響きを活かしたドラマチックな演奏で芝居を彩ります。
文楽の作品は、大きく分けて、江戸時代より前の歴史上の人物や事件をもとに物語を描いた「時代物(じだいもの)、江戸時代の庶民の生活をもとに描いた「世話物(せわもの)」、踊り中心の「景事(けいごと・けいじ)」の3種類があります。歌舞伎と文楽の両方で上演される演目も多いので、見比べるのも楽しいです。
古典芸能好きの娘に文楽を見せてあげたい
私の文楽好きの影響で、小学校2年生の娘も歌舞伎などの古典芸能に興味を持っています。とはいえ、これまで文楽には連れて行ったことがありません。ぜひ一度、見せてあげたいと思っていたところ、ちょうど夏休み期間中に国立文楽劇場(大阪)で特別公演「親子劇場」が開催されていること知りました。演目は「かみなり太鼓」、「西遊記」の2本と、解説「文楽ってなあに?」。子どもが興味を持ちそうな内容です。娘に聞いてみると「行ってみたい」とのことでしたので、オンラインでチケットを購入しました。
親子劇場とは、子どもや初めて文楽を観る人のために企画された公演です。毎夏、国立文楽劇場で2~3週間、昼間の時間帯に実施されます。親子セットのチケットなら、大人は4,000円(通常4,800円)、子ども1,500円(同1,900円)とお得に購入できます。8歳以下には解説が聞けるイヤホンを無料で貸してくれたり、オリジナルのお土産もついています。通常の文楽は計4時間近くかかりますが、今回の演目は親子劇場ということで、時間も短く、小学校低学年も理解して楽しめるよう工夫されているようでした。
文楽を理解させるため、まずは動画で予習
チケットを購入してみたものの、唯一の心配は「本当に小学2年生が文楽についていけるのか・・・」。
そこで親子劇場に行く前に、“文楽って何?”を知るために、解説動画を見せることにしました。すると娘は「人形遣いの人がいても気にせず人形を見ること」、「人形を扱う黒子(黒い布を被った人)もいないものとする」、「太夫(せりふやナレーションを担当)や、三味線を弾く人がいる」、「人形の着物や小物は、人と同じように丁寧に作られている」ということなどを理解したようです。事前の勉強で娘の興味もさらに高まり、あとは公演当日も待つばかりです。
まずは国立文楽劇場の雰囲気を味わう
猛暑が続く2023年8月、Osaka Metroの日本橋駅(堺筋線・千日前線)で降り、国立文楽劇場(大阪)に向かいました。日本橋駅から劇場までつながる地下道には、文楽の登場人物の装飾などが施されていて、この時点から気分が盛り上がります。
オブジェ、お土産、展示資料で早速気分が盛り上がる
開演30分前に到着したので、まずは館内を探索。
お土産物
1階ロビーのお土産物屋さんをぶらぶら。文楽にちなんだお菓子がたくさんある中から、目をひいたのは「文楽せんべい」。その名も「菓匠文楽」という会社の商品です。文楽人形の首(かしら)の焼印入り玉子せんべいで1枚ずつ絵柄が違い、10枚(絵柄は8種類)入りで700円。お友達に配ろうと購入しました。
記念撮影スポットになっている巨大オブジェ
1階には、巨大な人形の首(かしら)のオブジェがあり、その前で記念撮影する人がたくさん並んでいます。
ロビーに並ぶ多言語のパンフレット
私の前に並んでいた家族は観光客らしく、中国語を話していました。よく観察してみると、ロビーには英語、韓国語、中国語、スペイン語、フランス語に翻訳された文楽の説明パンフレットが置かれていました。
文楽の歴史や人形の仕組みが分かる資料展示室
まだ開演まで少し時間があるので、1階奥の資料展示室へ。
ここまではチケットを持たなくても入れます。文楽の歴史から、人形や着物の仕組み、舞台装置の模型などが展示されており、開演前に見るとちょうどよい予習になります。ここで娘は、人形の首が動く仕組みや表情の作り方に興味を持ったようです。
公演に向け解説用イヤホン、いすの高さを調整するクッションも準備
開演時間が近づいたので2階の劇場入口へ。
古典芸能の劇場では、解説イヤホンの有料貸し出しが行われていますが、今回は親子劇場のため子ども分は無料でした。後から娘に尋ねると、子ども向けの説明のため解説は分かりやすかったそうです。子ども用のクッションも貸し出されていたので併せて利用しました。
公演が始まり、夢中になる娘と私
いよいよ公演のスタートです。今回は目の前に通路がある10列目中央の席だったので見やすかったです。
親子劇場とあって、子どもがたくさん。親子割引チケットは子ども1人に対して大人6人分まで割引価格で購入できるので、祖父母を誘って3代で来ている家庭もちらほら。お盆のため8割近くの席が埋まってていました。
演目①「かみなり太鼓」 かみなりの子どもと太鼓屋一家の織り成す物語
この日の演目は「かみなり太鼓」と「西遊記」(閻魔王宮より釜煮の段)の2本立て。この2本の間に文楽の解説と質問タイムがありました。
江戸時代が舞台の「かみなり太鼓」は、太鼓練習中のかみなりの子どもトロ吉が、太鼓屋を営む一家の庭に落ちてきた話。トロ吉と、太鼓屋の子どものかわいらしいやりとりに親近感がもてます。おそらく幼児くらいの年齢設定ですが、今まで文楽に子どもが出てくるイメージがなかったので新鮮でした。
全般、ユーモアたっぷりの物語です。かみなり小僧が空から落ちてきたり、最後に雲の上に戻るシーンは、ドロドロという効果音や光の演出、人形が宙を舞ったりと大変迫力がありました。行水の後、裸で逃げ回る男の子の様子に「分かる、分かる!」と客席から笑いが。娘は飽きずに最後まで見ていました。
分かりやすく、新しい発見もあった文楽解説と質問タイム
その後の解説では、人形遣いの方が人形をあやつりながら動かし方を実演してくれました。女性の人形には足がないと知り、客席はびっくり。旅などで歩くときは別として、昔は女性が足を見せるのはあまりよくないと思われていたからだそうです。
続いて子どもたちからの質問タイムでは、娘も手をあげて「人形の髪は、何でできているのですか?」と質問。「人毛を使う場合もありますが、量が多くなると人毛では重たくなるので他の材料を組み合わせるなど工夫をしています」とのこと。最後は小さな女の子から「どうして文楽の人になろうと思ったのですか?」と質問があり、文楽を担う人材育成の話になりました。
演目②「西遊記」 孫悟空が大活躍するアクション満載の物語
後半の「西遊記」は30分程度の演目でした。孫悟空が、宮廷の庭の食べてはいけない桃を食べたことから、追いかけられて宙を舞って大暴れ。捕らえられ、釜ゆでにされたはずが、客席の後ろから宙を伝って再登場。歌舞伎では見たことがありますが、文楽でもワイヤーを使っての宙乗りがあるとは思いませんでした。もちろん人形遣いの人も宙乗りします。文楽だからこその大胆で素早い舞台転換、人形の派手なアクションが面白かったです。
「来年もまた見たい!」と大喜びだった娘
今回の親子劇場は、娘にとって楽しい思い出になりました。かみなり小僧や孫悟空は親しみを感じられるキャラクターなので、そのかわいらしさや大きな動きに多くの子どもたちが声をあげて笑ったり、指さして驚いたりしている様子がほほえましかったです。
娘は特に、太棹(ふとざお)三味線の低音や途中で二胡が使われたことに興味津々。音声解説イヤホンで説明が聞けたので、理解が深まったとのこと。「来年もまた見たい!」と。質問タイムで直接質問できたのも良い思い出で、最後にオリジナルの文楽自由帳をもらえて大変喜んでいました。
「雰囲気」、「内容」などさまざまな面から文楽を楽しむ
文楽の良さは、人形による表現、太夫の語りなどいろいろあります。しかし、古い大阪弁で語られることが多いので、理解しづらい部分もあるでしょう。大阪出身の私でさえ怪しい時がありました。しかし、理解できなくても、ついていけない部分があってもいいと思います。それよりも、三味線のドラマチックな響き、太夫の心の叫びのような表現などを感じながら「雰囲気」を味わえばいいのではないでしょうか。ちなみに、せりふが聞き取れなくても全ての公演で舞台上部に字幕が流れますのでご安心ください。
江戸時代の話が多いので、義理や見栄の価値観が現代とは異なり、「なんでこんなことで死のうとするの?」「そこが怒るポイント?」と驚くときもあります。そんな中でも、笑いのツボは私たちと共通だったりして、温かい気持ちになります。自分で心の中で何度もツッコミながら見るのも面白いです。あらすじや登場人物についてウェブなどで予習しておくと、より理解が深まります。
大阪の町を巡りながら文楽を楽しもう
大阪の伝統文化として愛されてきた文楽。町を歩けば文楽のモチーフが見つかります。有名なところでは、「曽根崎心中」(近松門左衛門作)の舞台となった「露天神社(つゆのてんじんしゃ)」、通称・お初天神には今も縁結びを願う参拝客が絶えません。
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文楽鑑賞の前後に、作品の舞台めぐりをするのも楽しいですね。大阪を歩きながら、歴史や文化に思いをはせていただければと思います。
国立文楽劇場 https://www.ntj.jac.go.jp/bunraku.html