2章XVI 『誘惑』
「サバイバルって言ってもな〜。何からすればいいんだろう」
「まずは木の枝集めからだよ。あすみ、拾いに行こ」
「ち、ちょっと待つにゃ。今この島にある木って全部ずぶ濡れなんじゃないかにゃ?そんな木の枝何に使うんだにゃ?」
さっきの騒動の後だ。ホテルが全壊したせいで住む場所がないってんだから、当然そこら辺に生えている気なんて折れて倒れているか、ずぶ濡れで燃料にすらならないようなものばかりしかない。
「そういうことなら、僕に任せてほしい。一応建築の心得はあるんだ。軽い寝床くらいなら木の幹とツタを使えば作れると思うよ」
「天才かにゃ!?じゃあ私も手伝うにゃ!といっても、私は葵っちのそばにいないといけないんにゃけどね」
「そうだね。僕のためとはいえ無理はしなくてもいいよ。実際左腕を使わない時だったら、言ってもらえばきちんと解除するから言ってほしい」
「にゃにゃ!把握にゃ!」
なんだか住居造りはこの2人に任せておけば大丈夫そう。さすれば次にやることといえば…
「衣と食。あすみはどっちをとる?」
「どう考えても食でしょう…。服は今私たち着てるじゃん」
「どうかな。こんなずぶ濡れの服。来ていたら絶対に風邪をひく。それに、これから汗をかいたらお風呂も必要。ホテルのお風呂は崩壊してる」
「た、確かに…。でも、やっぱり先に食べ物じゃない?特に飲料水とかがないと活動できないし」
衣も言われてみれば大事だけど、そこまで急を要するようなものでもない。サバイバル生活で大事なのは食べ物だ。
「分かった。じゃああすみ、釣り行くよ。早く来て」
「え、う、うん!」
つ、釣り?釣竿もないのに?それにここってお魚釣れるようなもんなの?
「よし、着いたね。ここら辺で魚を捕まえようか。あすみはこの砂浜付近で貝とか蟹とか、食べられそうなものが合ったら採取しといてよ」
「う、うん。それは分かったけど沙那は…………って沙那!???」
びっくら仰天、沙那の方を見ると服を脱ぎ始めていた。またたく間に沙那の体は全裸になっていき、綺麗な形の胸が顕になる。下の方も……って何考えてるの私!
「沙那!?急にどうしたの?」
「どうしたって、素潜りだよ素潜り。なんか捕まえてこようかなって。服着てたら泳ぎにくいでしょ?」
「いやうーん。まぁ確かにそうだけどなんか危ないような気が…二重の意味で」
誰かに見られたらまずいし、それに変な生き物とかに刺されたりしないか心配。
「別に大丈夫でしょ。あすみもやる?」
「え、いやその。わ、私はべつに…」
沙那の華奢な体を見てるとなんだか体が変な気分になってきた、、いや!別に決してそんな気は無いんだけどね!?ただ、そこに宝石とか美しいものがあったら誰でも見とれてしまうでしょう?そういう感情であって…!
「ふーん。満更でもなさそうじゃん。脱いだら意外と気持ちいいよ。潮風が普段は当たらない肌に直接当たる感じ。ちょっといいかも」
「へ、変な癖になったりしないでよ!?………でも、そこまで言うならちょっと脱いでみようかな…」
私は恐る恐る自分の服に手をかける。ずぶ濡れの服のボタンに指を当て、上から順番にそれを外していく。起きたばっかりだったのでこの下はもう既に下着だ。そうして、上半身は下着だけになる。
「は、恥ずかしいって!誰に見られてるかも分からないし!」
「私に見られるのは別にいいんだ。こういうのは勢いが大事なんだって。手伝ってあげる」
「ち、ちょっ!?沙那!?」
一瞬で沙那に背後を取られてしまい、そのままブラのホックを外されてしまう。私の陳腐な胸が外気に晒されてしまった。
「へ、変態!!ばか!」
「減るもんじゃないしいいじゃん。ほら、早く潜ろ。私は先に行ってるよ」
沙那は一足先にって感じで素っ裸で海に潜っていき、姿が見えなくなった。
それにしても、この胸に潮風が直接当たる感じ、確かにちょっと気持ちいいかも…。ってまてまて、そんな快感覚えたら私はただの露出魔になってしまう!
「ええい!こうなりゃヤケだ!」
私は勢いのまま下半身の衣服を脱ぎ捨て、そのまま海へ飛び込む。海水は意外と適温で、まだ春だからか20℃くらいはありそう。それにしても体温よりは低いからちょっと冷たいんだけどね。
うわぁ…綺麗。
海に潜り、目を開いてみると、そこには荒れ果てた島の様子とは打って変わって、幻想的な海中の様子が広がっていた。
さっきまで馬鹿みたいに海面上昇してて、海もめちゃくちゃになってるもんだと思ってたんだけど、意外とそうじゃないらしい。あの『天使』の子が泣くのをやめた途端、急に水が消えてしまったように、あの子によって直接もたらされた災害──今回で言うと高潮や津波は元に戻るってことなのかな。ただ、それによってなぎ倒された木みたいな二次災害は復元されないみたいだけど。
あ、沙那がいる。
海中で沙那を探していると、どうやら、3mほど潜った所にある岩場で何かを採ろうとしていた。
あれは…タイかな?いや私も魚とかにめちゃくちゃ詳しい!みたいな人間じゃないからよく知らないんだけど、ああいう形の魚は食べたことがある。多分鯛だよタイ!
え、あれどうやって取るつもりなんだろう…銛とか持ってるわけじゃないし…。いや腕を伸ばしてるけどまさか素手なんてことは…。え、本当に素手…?あれは…タイの体を腕が貫通してる…。『透過』してるのかな。でもそっからどうやって…。
突如、タイの口から血が吹き出て、その魚の生命活動がおよそ終わりを告げる。
「うぇ!?ほがほげ!!ぐば!」
私は意味のわからん狩りの仕方に動揺してしまい、口の中に貯めてた空気を一気に吐き出してしまった。胃の中に大量の海水が流れ込む。まずい、呼吸ができない。な、なにか掴めるもの!!なんだこれ…変なぐにゃっとしてるけど…ぎゃぁぁぁ視界が真っ暗に!!!
「あばばばばばばばば」
✦︎
「はぁ、あすみやっと目覚ました。良かった。」
「さ、沙那。何これ…」
目を覚ますと、沙那が私の上で馬乗りになって座っていた。右手には多分捕まえたんであろう鯛と、左手にはサザエみたいな貝も持っている。
わたしは…な、なんだこれ。左手でタコを握りしめてるじゃん!まさかさっき視界が暗くなったのってこのタコ墨のせいだったんじゃ。
「もう、後ろから波が暴れてる気配がすると思ったら、あすみが溺れてるんだもん。まさか、私の狩りを見て驚くとは思わなかった。ただエラを潰しただけなのに」
「なんの武器も使わずに魚を取ってたら普通誰でも驚くと思うんだよね…。エラ潰すってそんなバイオレンスな」
「まぁ『透過』して体を貫通してる時って視界に入っていなければ相手に感覚は無いからね。余裕よ。それよりあすみを海から引き上げる方が大変だった」
「あ、はは。ごめん。しっかしよく私生きてたな。あの溺れ具合はちょっと一瞬三途の川が見えたよ」
「一応私にも救命の心得はあるからね。人工呼吸とか心臓マッサージとか、出来るよ」
「そっか、それなら安心」
あんしんあんしん………。ってえ!?
「さ、ささささ沙那!?今人工呼吸とか言わなかった!?」
「言ったけど、そりゃそうでしょ、結構水飲んで息してなかったし、酸素を送り込まないと」
「え!いや?嘘!?」
私は慌てて唇を指先で触る。いや、触っても別に何かが分かるってわけじゃないんだけどさ。
「なに、そんなに嫌だった?それなら謝るけど」
「べ、別に嫌とかそういうのじゃないけど。いや、その私こういう唇っていうか、き、キスなんて初めてだったし。やっぱその初めてって大事って言うかさ。もっと大切な人とするべきって思想が心の奥底にはあって」
早口で沙那をまくしたてている。いや本当に責めているわけじゃないんだけど、これは別に私の自分勝手な話であって、実際人工呼吸してなかったら助かってないわけだし。それに今キスしたいと思ってる相手なんて別に居ないんだけど…。
「そう、あすみにとっては初めてが大事だったんだね」
「そ、そう!そういうこと!やっぱ初めてのキスって思い出に残った方がいいじゃない?忘れられないキスっていうか。そういうのがロマンチックでいいな〜って思っちゃったりするというか」
「そう、それなら」
「んぐ!?!?」
え!?なになになに!?再び(再びなのかどうかは分からないけれど)いきなり沙那が私の唇へ唇を重ねてきた。どゆこと!?え、本当にどうゆうこと!?頭が混乱して何も考えることが出来ない。
「んぁぅっ…」
舌が入ってくる。沙那の舌が私の唇や歯を押しのけ、私の口腔へと侵入してくる。私の体はそれにあっさりと負けてしまい、沙那の舌使いに流されるまま身を委ねる形になってしまう。
「えぅ…はぁ…」
口の中を舐め回され、もう既に体の自由は沙那のものとなってしまっている。そういえば私たち裸だったな。こんな素っ裸の状態で私は今沙那に馬乗りにされながら互いの唾液を交換している。ダメだ…これ頭がおかしくなる!!
「ぷはぁ…」
ようやく解放される。肺へ入ってくる空気の二酸化炭素濃度が明らかに減ったのを感じる。
「さ、沙那!!いきなり何するのさ!」
「ふふ、これを忘れられないファーストキスってことにしよ?」
沙那は私が初めて見るような、妖艶な視線で私に答えた。上から見下ろされているのに、上目遣いを使われているような、そんな目だ。
「こ、これを初めてって…だからそういうことじゃ」
「でも、嫌じゃないでしょ?ファーストキスが私なの」
「う、………うん」
その沙那の答えを否定する理由や術を私は持っていなかった。だって、この私が生きてきた人生の中で最も私に触れてきたのは親を除けばそりゃ沙那なわけだ。なんなら親よりも触れているかもしれない。確かに沙那は私の大切だ。何も間違ってない…。いいの!?いいのかな!?いいんだよねこれで
「私も、沙那で良かったかもしれない」
「ふふ、嬉しい」
バサッ
急に横から枝などの荷物が音を立てて落ちる音が聞こえてきた。
「あ、あすみちゃん…沙那ちゃん…これは…」
「ち、ちょっ、白石さん。これは見無かったことにするやつだよ〜。先生は何も見なかった〜、他だから生徒会長も何も見なかった〜ってことにしてさぁUターンしよ〜」
白石会長と姫野先生の姿が横の林の中に見えた。2人とも素っ裸、かなり濃いめのキス、私の腕にはタコ。ま、まずい…役満だ!!!
「ち、違うんです!白石会長!姫野先生!」
「分かってる分かってるよ。私は生徒会長として君たちを止めるつもりは無い。ただ時と場所というのをね」
「ほら白石さん〜こういうのは2人きりにしてあげるのが道理ってやつだよ〜。帰るよ〜。」
「は、はい先生」
「違うんです!別にこれは…。いや、何も違くないような…。いやでも本当に違くて!」
へ、変な誤解が広まっちゃう!でも事実として全然誤解じゃないよ!!どうしよう。
すると、先生と会長は振り返って同じ言葉を同時に発した。
「「お幸せに〜」」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
この後、クラスメイト中に私と沙那が砂浜で裸で抱き合いキスしてたニュースが爆速で広まった。あの人たち許さねーー。お陰でたまちゃんと葵ちゃんにはずっといじられてるよ〜。